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無銘の騎士は幽明に躍ル  作者: Prayer3
塗れた目覚め
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4:

 部屋中を漁り回り、自身の肉体に関する情報は無いかと探す。何せ、一ヶ月も部屋に引き篭もって寝込んでいたというのだ。それも、部屋中に大量の血を撒き散らせて。ただの人間でないという事は確かだが、それ故にこの肉体について知識を得ておかなければまずいような気がする。

 しかし、どの棚も中身は空っぽで、情報どころか生活感すら全く感じ取れない。

「...ん?」

 半ば諦めかけていると、うっすらと床に残る血痕が、突然途切れている箇所がある。木製の床に少しの隙間が空いており、指を突っ込めそうだ。

「よっ...と」

 思い切って床板を持ち上げると、人一人がやっと通れそうな通路が現れた。冷たい地下へと伸びていく暗闇に、思わず固唾を呑む。

 迷っていても仕方がないと決心し、少しの先も見えない闇の中へと、身を投じた。



*****



 狭い通路をなんとか進み、開けた空間に出る。この暗闇でどうしたものかと壁に手を着くと、ぽつぽつと部屋中のランタンがひとりでに灯り、薄明るくその空間を照らした。

「おお...」

 分厚い本が詰め込まれた本棚、およそ人間のものではないであろう生物の残骸の山、明らかに堅牢な錠のかけられた重厚な箱、こじんまりした机と椅子には、古びた筆記用具とくたびれた紙束とノートが積まれている。この肉体の持ち主は、研究者か何かであったのだろうか。

「...それはないか」

 ひときわ明るく照らされた机の横には、使い古された剣が、鞘に収まったまま立てかけられている。手に取り、鞘から少し抜いてみると、どす黒い血に塗れた刀身が姿を見せた。

「......」

 ゆっくりと鞘に納め、そっと元あった場所に戻す。

 ふと目に止まった、机の上の皮袋。掴み上げてみると、予想外に重い。口を緩め、中を覗くと、所狭しと金貨が詰まっていた。恐らくこの世界の通貨だろうが、一体どれ程の金額なのだろうか。量と重さで言えばとんでもない規模である。生唾を飲み込みながら、一応懐にしまっておく。

 散らかった机の上を指でつつ、となぞっていると、一冊だけ開かれたままのノートがある事に気がつく。手に取り、最初のページの内容に目を通してみる。

「.............?」

 見たことも無い文字列だが、不思議と何が書いてあるかは理解できた。感覚と認識の齟齬に違和感を覚えつつ、ぺらぺらとページを繰る。


 「依頼」 「竜」  「3」 「10」


  「なし」



「依頼」   「狼」 「30」  「3」


 1ページ毎に、規則性のある謎の文面と、「なし」の一言が、崩れた字体で不規則に記されている。ぺらぺらとページを捲っていくと、ただでさえ崩れていた文字はもはや読めない程にぐしゃぐしゃになっていき、ある意味狂気さえ感じてくる。

 そして、最後のページ。そこにはなんとか読める文字で、


  「あす」   「さいご」


とだけ記されていた。

 残りのページは白紙、これがこの肉体の持ち主の最期の記録であるようだ。

 少しずつ正常さを失っていく文字列、自身の最期を分かっていたかのような最後の記録。結局、この日記から肉体についての情報は殆ど得られなかった。

 ただ、この肉体は生前、どこか外の場所で交流があったようだ。「依頼」の文字から何かを請け負い、仕事にしていた事が分かるし、一ヶ月もの間この肉体が放置されていた事を考えると、何者かがこの家まで依頼に来ていたという訳でもないだろう。

「よし...」

 当面の目標は、「依頼」を受けていた場所を見つけ、そこでこの肉体に関する情報を得る事だ。とりあえず外に出て、情報収集といこう。

「...と」

 踵を返した所で、ふと机に立て掛けられた剣に目が向かう。外出する事になる訳だし、何か危険な事があったらたまった物ではない。

「うええ...」

 その刀身に血を浸らせた剣を摘むようにして携え、暗い通路へと戻っていく。不意に振り返ると、ひとりでに灯ったランタン達は、再びひとりでに消えていっていた。

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