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金属音を響かせながら、自らの体をまじまじと見つめる。身体に異常は感じず、寧ろすこぶる調子が良い様だった。
重厚な雰囲気を醸し出している全身の鎧は、見た目に反して特に重さを感じる事はなく、自身の一部であるかの様に軽々しく動かすことができた。
「...」
ただ、頭から足の先まで金属に包まれていると、視界は殆どが遮られ、何となく息苦しくなってくる。せめて頭だけでもと、兜を外そうと引っ張ったが、どれだけ力を込めても一向に外れる気配が無い。
この身体の前の持ち主は、一体何故この様な格好で眠っていたのだろうか。ベッドの上、という事は、戦いの真っ只中で命を落とした訳でもなかっただろうに。
「...騎士...様?」
思案を巡らせていると、部屋のドアが優しく開き、少女がゆっくりと顔を出した。
「お...おはよう、ございます?」
まさか家族がいるとは思いもしなかったもので、咄嗟に仕草を取り繕い、無難な挨拶を返す。
「良かった...もう、大丈夫なんですね...!」
そう言いながら、少女は突進とも言える勢いで抱きついてきた。
「おお...だ、大丈夫...です」
「...騎士様?」
顔を上げた少女が、不思議そうな顔でこちらを見上げてくる。ここでこちらの正体が露呈してしまうと面倒なことになるかもしれない。
「いや...大丈夫、だ」
「...はい」
なんとか、この口調で大丈夫な様子だ。少女は両手をこちらの体から離し、ごしごしと目元を擦った後、こちらを見て微笑んだ。
「調子がよろしいのでしたら、鎧と、お体を洗いましょう。準備しておくので、用意ができたら外まで来てください」
軽やかな足取りで、少女は元来た扉へと戻っていく。
「それと、お部屋の掃除もしておきます。まだ眠りたいのでしたら後でお布団を敷くので、言って下さいね」
ばりばり、ねちゃり、と。
部屋中に張り付いた夥しい血溜まりの上を歩く音を立てながら、少女は扉の先へと姿を消した。