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頑張ってね、小林君!  作者: もう無理だよ
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6_俺と優斗と初詣


俺の名前は小林匡宏。25歳、男、独身、彼女なし。




年が明け、広瀬と浅ノ草寺に来ている。

混雑しているが、参拝者の列は動いているので、それほど待たずに参拝することができた。


(今年はトレジャーバトルのチームを作れるよう頑張ります)



参拝の後はおみくじだよな、と広瀬に確認する。


「そうですね、おみくじ引きましょう!」


ダッフルコートに白いマフラーが良く似合う高校生は元気よく返事をする。


はぐれないように気をつけながら移動し、長蛇の列を並び、やっとおみくじが引けた。


おみくじを見た瞬間、俺は固まる。


「…小林さん、凶ですか?」


広瀬は俺の引いた紙を横から覗き込む。


今年一年大丈夫だろうか…心配になっている横で「僕、吉です」と嬉しそうだ。


「…俺、引いたおみくじは結んで帰る。広瀬はどうする?」


「僕は持って帰ります」


「分かった。結んだら屋台で何か食べる?」


「そうですね…」


話していると、結び所を発見する。


「待っている間、屋台マップを見てきます」


広瀬の視線の先にマップの看板が立っていて、タッタッタ、と足取り軽く見に行ってしまった。


(なに食べたいって言うだろう…?)


広瀬の様子を見つつ、俺は何を食べようかと考えながらおみくじを結ぶ。




じゃり…じゃり…じゃり…


砂利道を軽快に進みながら俺に向かって伸びる影が視界に入る。


(この革靴…嫌な予感がする…)


顔を上げられない俺に容赦なく靴だけ視界に入れてくる。ドグダーマーチンの皮靴。


「やぁ…奇遇だね」


(まさか…そんな…)


「匡宏も初詣…?」


ゆっくりと顔をあげる。新年から見たくない人が笑顔で立っていた。


「芹沢さん…」


『ドッグタグ』のチームリーダー、芹沢さんだった。


なんとか顔を上げたが、目が合った瞬間、固まって動けなくなってしまった。


(なんでここに…?)


「交流会…全然来てないけど、今月は来るんだよね?」


ゆっくりとした口調で、ゆっくり俺の周りを歩き出す。その行動だけで鳥肌が立ち、背中や額に嫌な汗が流れる。


「……ッ」


何か言おうとは思うけど、言葉にならない。


「あぁ、そうか!君はチームを抜けたいんだっけね…。それで…いつ僕に勝つのかな?」


芹沢さんは愉しそうに目を光らせる。


(呼吸が詰まる…息ができなくて苦しい…)




「あの…」


「…ん、君は誰かな?」


屋台マップを真剣に見ていたはずの広瀬が、いつの間にか俺の隣にいた。


芹沢さんが広瀬を見つめる。


(やばい、目をつけられるぞ…)


「僕はひ…」


俺は強引に二人の間に割って入り、広瀬を背中に隠すようにした。


「コッ、コイツは…俺の弟です」


「弟…?」


芹沢さんは、首を傾けながら俺の背中越しを気にしている。


「…ユウ、ちょっとこっちに来い」


この状況をどうにかしたくて、広瀬の細い右腕を掴むと、細い左腕が俺の腕をグイッと掴み、大丈夫です、とアイコンタクトを送ってくる。




広瀬は優等生キャラを演じるように挨拶する。


「…兄がいつもお世話になっています。ドッグタグのセリザワさんですか?」


「そうだけど…何か用かな?」


急にカヤの外にいるような気分の俺。汗だけは異常なまま…。


広瀬は相変わらず優等生キャラのまま、いきなり爆弾発言をした。


「僕がトレジャーバトルであなたに勝ったら、兄さんをチームから抜けさせてくれますか?」


その爆弾で俺の心は一瞬止まる。


(やめてくれ…!俺の問題なのにお前を巻き込みたくないんだ…!)


「…面白ことを言うね」


(やめろ、新しいオモチャを発見したような目で見るな)


俺は血の気が引いて震えていた。寒くてじゃない、恐ろしくて…。


「う~ん、どうしようかな…?」


美形同士のにらみ合い…と震えている俺。


「…僕に負けるのが怖いんですか?」


なおも優等生キャラのまま、笑顔で相手を挑発する。


「フフフ、面白いね、いいよ、その勝負受けてあげよう…ユウ君」


ご機嫌でキラキラ光る目を今度は俺に向ける。


「次の交流会の時が楽しみだね、匡宏」


金髪の髪を耳にかけ直し、「あぁ、そうだ」と口を動かす。


「来週、新年会があるから…来なきゃダメだよ?」


俺の気分をめちゃくちゃにして、芹沢さんはどこかへ行ってしまった。




姿が完全に見えなくなると、俺は軽い貧血を起こして立っていられなくなった。


「だ、大丈夫ですか?」


その場でしゃがみこむ俺を心配そうに広瀬は見つめる。


「…少し待ってくれ」


背中をさすってくれるが、どんどんと気分が悪くなってくる。


「飲み物…買ってきましょうか?」


頼む、と言うと広瀬は自動販売機に走って行った。




スーッ、ハァー、無理して深呼吸を繰り返すが、頭がくらくらする。


(なんだ、何が起こったんだ…?楽しく初詣に来ていただけなのに…)


働かない頭で考える。


(おみくじで凶だったからか…?)


チラッと先ほど、おみくじを結んだ場所に目を向ける。


(おみくじを引き直すか…?それでまた凶だったら目も当てらないか…フゥー落ち着け…平常心だ…フゥー)



しばらくして広瀬が戻ってきた。


「買ってきました」


リクエストした水を買って来てくれた。サンキュと言って飲む。


「…大丈夫ですか?」


立ち上がれない俺を気遣ってくれる。


「広瀬…さっきは巻き込んでしまって、すまないな。気持ちだけ受け取って…」


「小林さん」


俺の言葉を遮りながら力強くはっきりと断言する。


「僕、トレジャーバトルなら自信があります!」


確信をもった目を見ていると本当に広瀬が勝ってくれるんじゃないかと思う。


「勝ちますよ、僕」


俺の気持ちに答えるような言葉。不思議だ。モヤモヤが晴れていく。


「そうか…ありがとう…」


「お礼は勝った後にしてください」


「…そうだな」




まだ少し体調が悪く頭がクラクラするが、なんとか動くことができそうだ。


「もう帰りましょう。人も多いですし…」


広瀬はずっと心配してくれている。


「悪いな…」


「大丈夫です」


ちらりと見れば途切れることなく色とりどりの店が連なる。


「屋台…食べたかったよな?」


それぞれのお店から漂う匂いに、高校生ならお腹も反応するだろう。


「いえ、気にしないでください」


二人でゆっくりと歩く。


「また来るか、来年…」


広瀬が驚いて立ち止まる。


「い、嫌ならいいんだぞ…?」


広瀬は何も話さず、ジィーとこちらを見るだけだ。


いや、何か言おうとしているのかもしれない。言葉を探している感じだ。


「どうした…?」


俺が覗き込むと、いえ、と頭を振る。


「来年は…お好みロールが食べたいです」


「はしまきか、分かった」


笑みがこぼれる。


来年も広瀬と一緒だといいな、なんてな。





胸のもやもやも多少すっきりしてきた。


「おしるこなら食べられそうだけど、今から行くか?」


「いいですねっ!」


元気いっぱい笑顔が返ってきた。




2007年、いい一年になりますように…




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