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頑張ってね、小林君!  作者: もう無理だよ
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2_僕と兄さんとトレジャーバトル


僕の名前は広瀬優斗。15歳、男、彼女なし。



僕の家族は父さんだけ、母さんは家にいない。

仕事のことしか考えていない父さんに愛想をつかせて出て行ったのだろう。



父さんは「トレジャーバトル」というアーケードゲームの開発をしている。たまに帰ってくるときは、いつも同じセリフを放つ。


「何か問題はないか?」


「ないよ…」


「今月の生活費、置いておくから」



僕の成長と共に痩せていく父さん。

一心不乱に仕事しているように見えるのに、生活は一向に豊かにならない。



何故だろう、疑問に思う。

けれど、父さんに迷惑をかけてはいけない、邪魔をしてはいけない、そう思ってずっと我慢していた。



『今月の生活費を渡したいから、会社まで取りに来てくれないか?』


仕事が忙しく家に帰れないときは、父さんからメールが届く。


「いいよ」と返事して、父さんが働いている会社にお金を受け取りに行く。


だけど、受け取った帰りはいつも無性に気が立って…息抜きのためゲームセンターに寄るというのが一連の流れになっていた。



今月も同じだったから、近くのゲームセンターに立ち寄る。


ガヤガヤしている店内、トレジャーバトルの台がある。いつものように一人でゲームをしていると、サラリーマンに声をかけられた。


「勝負しないか?」


いかにも仕事帰りという風貌…。

きっちりスーツを着て、きっちり髪をセットした無表情の人…。


無言で了承する。


「チャーリー」VS「シャーク」


(人と対戦するの久しぶりだな…いつもNPCだし…)


なんだか楽しくて、印象に残るゲームとなった。


(変に絡まれたら怖い…さっさと帰ろう…)


夜も遅い時間だったので、逃げるようにして帰った。





月日が流れても現状は相変わらず…父さんとは生活費のことだけを会話する。


いつものように会社に呼び出され、生活費を受け取った帰り、路地裏を歩いたのが失敗だった。


「君、何しているの?一人?高校生?」


二人組の警察官に呼びとめられる。今は夏休み中で、警察官の見回りが増えているのかもしれない。


「離してください、一人じゃないんです。大人と来てるんです」


荷物のチェックをされたら困る。まとまった額のお金を見たら不審がるはずだ。


(父さんに迷惑をかけてしまう…!!)


「…あの、すみません!」


パッと声をする方を見る。


「俺がその大人です。成人しています。この子の兄です…」


知らない人が助けてくれた。

その人はブランドのポロシャツにパンツという清潔な印象だが顔は無表情だった。




「ありがとうございました」


助けてくれたお礼を述べると、無表情の男性が自分のことを覚えているかと聞いてくる。


(変な人かも…)


「あっ、怪しい者じゃないんだ。名刺…」


お財布から名刺を取り出す。受け取ると小林匡宏と書かれていた。


「半年くらい前にトレジャーバトルで対戦して…もう一度、君に会いたいと思っていたんだ…」


(えっ…?)


無表情で少し眉間にシワを寄せる男性をジィーと見つめる。


(僕に…?会いたかった…?)


混乱する頭で考える。


(この無表情な顔…覚えてる…たしか…半年前……そうっ!)


「チャーリー…でプレーしてましたよね…覚えてます!」


無表情がパッと明るくなり、その後、必死の形相で僕と話がしたいという。



まっすぐ家に帰りたくない気分だったから、この人、小林さんについていくことにした。




青い建物の喫茶店に入り、飲み物や食べ物について質問される。


「席で待っててくれ」


返事をしてテラス席に腰を落ち着ける。


(テラス席なら何かあった時、逃げられる…)


念のため、逃走経路を確認しながら待っていた。




「どうぞ」


アイスコーヒー2個とホットドッグが置かれる。


(わぁ…美味しそう…)


対面ではアイスコーヒーを無表情で飲みながら、小林さんは何やら考え込んでいる。そして、ゆっくり言葉を選ぶように話し始めた。


「俺はこの辺で働いているし成人しているから、君がこの辺で遊びたくなったら俺を呼んでくれれば……いいんじゃないだろうか?」


食べる手が止まる。


(どうしてこんなに親切にしてくれるんだろう…。初対面に近いじゃないか…)


僕のトレジャーバトルのプレーが忘れられなくて、もう一度プレーを見たいと言葉を選びながら話してくれる。


そんな理由で僕を探していたらしい…春からずっと…。


(ホットドッグ食べてる場合じゃないかも…)




メガネの奥に表情を隠す人が、少しずつ自分の気持ちを整理しながら話してくれることに胸の奥が熱くなってくる。


実際、汗も出てきた。暑いとかじゃなくて、この人の言葉に体温が上昇して…。



そんな小林さんは、固い表情を少し緩めながら僕の口周りをナプキンでぬぐい取ると、急にガタっと立ち上がった。


今度はなにっ、と僕は警戒態勢を取る。


「悪い、夏なのにテラス席とか…暑いよな?」


「えっ…?」


吹き出しそうになって我慢する。


(大丈夫、この人、絶対いい人だ)


「僕、広瀬優斗です。新宿に来る時は連絡します」



2006年、夏――僕は無表情の兄(小林さん)に助けてもらう





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