155_僕と父さんの退院とサンタVer.サリエル
僕の名前は広瀬優斗18歳、男、彼女なし。アルバイトは雑誌モデル。高校3年生
12月21日――
トレバト冬季本選大会の帰り、小林さんと一緒に電車に乗っていた。
「ライア君が吉川さんに勝ってドッグタグのレギュラーになっていたのは驚きだったな。決勝戦は惜しかったけど、まだまだ強くなると思わない?」
「…ハァ」
小林さんは、この前の僕とライアさんの対戦を見て以来、一段とライアさんに興味を持つようになってしまった。
(僕に夢中の兄さんが、徐々にライアさんに夢中になってきているような…?)
「優斗から見てライア君の成長とか、どうなの…?」
「…どうでしょう?分かりません」
これ以上、ライアさんの話しはしたくなかったから、話題を変える。今日はこの後、父さんのお見舞いに行こうと考えていた。そのことを告げると小林さんは鞄から袋を取り出す。
「それじゃあさ…これ…広瀬さんに渡してほしいんだけど…」
中を見ると、山梨で撮った僕の写真だった。富士山の写真立てに入っている。
「朝焼けの写真…キレイに撮れてるだろう…?」
僕が小林さんに笑いかけている横向きの写真、浴衣姿も違和感ない。
「…いいですね」
僕は写真をリュックにしまう。
「広瀬さんは元気…?退院は明日だよな?」
「はい、そうです。良かったら今から一緒に行きませんか?」
「えっ…いいの?」
「はい、父さんも会いたがってましたし…時間があればですけど…」
「うん…それじゃあ少しだけご挨拶に行こうかな…?」
小林さんと一緒に病室に入る。父さんは青白い顔で頬がげっそりしていたが、体調は良さそうだと感じる。
「小林君…来たばかりなのにもう帰るの…?」
「はい、元気そうなお顔が見れて良かったです。それじゃ、失礼します」
「気をつけてね…。写真、ありがとう」
小林さんは本当に挨拶だけして帰ってしまった。僕は丸椅子に座って写真の説明をする。
「それ…山梨に行った時、小林さんに撮ってもらった写真で…」
「一泊旅行に行ったんだろう…?泊まりで遊ぶ時は必ず小林君から連絡来るよ」
「…そうなの?」
「うん…小林君に迷惑かけてない?」
「かけてないよ」
即答するけど…迷惑かけているかもしれないとも思う。
「今日はトレバトの大会を見に行って来たんだろう?どうだった?」
「う~ん…大会は見てて楽しかったけど、やっぱり出場したいなって思った…あとは…やっぱり…もっと強くなりたい」
「強くなりたい…?」
「そう…もっと…もっと…強いプレイヤーになりたい」
(兄さんの関心がちゃんと僕に向いてるように…もっと強くなりたいな…)
「明後日から冬休みだし、トレバトの練習を少し頑張ろうかなって思う」
「そうか…その練習だけど…お父さんも手伝おうか…?」
「…えっ?」
予想外の返答だった。
「優斗は知らないかもしれないけど…トレバトに関しては誰よりも強い自信があるんだ…」
父さんは自信満々だ。一応、トレバトの開発責任者だし本当に強いのかもしれない。
「じゃあ…強くなるまで付き合ってほしい」
「いいよ、一緒にトレバトしよう」
病院の閉館時間まで他愛もない話しを続けた。
翌日――
学校が終わって、僕は宮永紗希さんのクラスに足を運ぶ。
「優斗さんっ!?」
予告もなしにホームルーム終わりに立ち寄ったので、宮永さんは驚いている。
「どうしたんですか?」
「いや…あの…一緒に下校しようと思って…でも騒ぎが大きくなって…」
なんだか大勢の人に見られている。
「広瀬先輩、学校のアイドルなんですから目立ちますよー」
(学校のアイドル…?それって僕のこと…?いつから僕はアイドルになったんだろう…?)
「紗希のこと、よろしくお願いしまーす!」
沖林奈々さんが僕を茶化しながら、紗希さんの背中を押す。
「はい…それじゃ…帰ろうか?」
「はいっ!!」
今日も元気いっぱいだ。
「お父さんはいつごろ帰って来るんですか?」
父さんが今日、退院することを紗希さんは知っている。
「18時だよ。本社に行って挨拶してくるって話です」
「そうですか!あの…今から退院祝いの準備ですよね?良かったら、お部屋も飾りつけしませんか?」
「えっ…?」
「料理以外に家の飾りつけもして、お父さんを驚かせましょうよ?」
「そうだね…いいかもしれない、やってみようか?」
「はいっ!!」
「あと…それと…今日は紗希さんの誕生日って大輔君に聞いたんだ」
「大輔に…?」
「うん…だから父さんの退院祝いと紗希さんの誕生日会、一緒に祝いたいんだけど…どうかな?」
「もちろんですよ!嬉しいです」
紗希さんはその場で飛び跳ねて喜んでいる。
その後、沖林さんと大輔君も呼ぶことになり、父さんの仕事仲間であり、友人でもある人達も来て皆でご飯を食べた。
次の日――
今日は明地さんが製作した「サリエル」の衣装を着て撮影する日だった。
待ち合わせ場所は駐車場で、明地さんの車が停めてある。明地さんと小林さんはすでに到着していた。
「優斗君、大きくなったね!背も伸びた?半年見ない間に大人っぽくなったね」
「そうですか…?自分ではあまり気づかないですが…」
4月から計測してないので、身長が伸びたか分からない。だが、久しぶりに会う人に大人っぽくなったっと言われることが増えた自覚はある。
「優斗君のサイズに合うように作ってたんだけど、やっぱり心配で、ちょくちょく小林君に聞いてたの。だけど測り方間違ってるんじゃないかと思ってたわ」
明地さんが隣にいる小林さんの背中をバシバシ叩く。
「…ほらっ、俺の言うとおりだったでしょ?」
「そうね、疑ってごめん!さぁ、優斗君、着替えて、着替えて~」
「はい、それじゃあ…」
僕が車に乗り込むとサリエルの衣装が用意してある。車の中はカーテンがしてあって着替えても外から見られる心配はない。
「優斗…着替え、手伝うよ」
「あっ…お願いします」
小林さんは助手席に座って僕が脱いだセーターやズボンを畳む。
「あの…小林さん…僕のサイズ…いつ測ったんですか?」
「いや…それはさ…目視で…適当に…」
「…ウソですよね?」
「はい、嘘つきました。優斗が俺の家に泊まった日にメジャーを使って測りました、ごめんなさい」
小林さんは僕の手にグローブをはめる。
「…起きてる時に測れば良かったじゃないですか…」
「そうなんだけど…明地さんにサイズを頼まれてた時…気軽に「測定していい?」なんて言える雰囲気じゃなくて…ごにょごにょ…」
サリエルの衣装はぴったりだった。
「すごく似合ってる…俺もカメラの準備してくる」
小林さんは助手席から飛び出して行った。逃げたなと思ったが、小林さんはこの撮影のために会社の備品庫から選びぬいたカメラを借りてきた、と笑っていた。
僕は金髪のウイッグを付けて鏡で確認する。
(よしっ、大丈夫そう…!)
ガラガラッー
車から降りて明地さんの前に立つ。
「サリエル~!!!もぅ~完璧なんだけど…!!!!」
隣で小林さんも頷いている。
今回のサリエルはサンタクロースバージョンのようだ。ウイッグの上からサンタ用の帽子をかぶる。
「めちゃめちゃ可愛い~!!もぅ~~昨日から興奮して眠れなかったんだよ~」
明地さんはゆるふわな髪の毛を縛って脚立とカメラバッグを持つ。
「さぁ…狩りに行きますか!!」
「行きましょう!」
二人の掛け声から、やる気が感じられる。
僕は明地さんと小林さんの後ろを歩くけど、通行人にチラチラ見られて恥ずかしかった。
2008年12月23日、明地さんと小林さんの指示は細かくて、要望に答えるのが難しかったけど、どんなポーズをしても過剰に喜んでくれた
お昼ごはん中――
「そういえば…小林さんの会社で行われた写真コンテスト…今年は入賞できませんでしたか?」
「ゲホッ、ゴホッ…」
「あぁ…紫陽花と優斗君が写ってるのでしょ?あれは小林君のミスでね…」
「小林さんの…ミス…?」
「そう~タイトルがね…『紫陽花より可憐な弟』っていうタイトルで…タイトルの話題で持ち切りになって…写真がメインじゃなくなってね…」
「…そのタイトルはやめて下さいって言ったじゃないですか」
「ごめんな…」
「写真も優斗君も紫陽花も良かったけど…タイトルがちょっと…社内報に載せるわけだしさ、少し考えれば分かることなのにねぇ?ブラコンがダメとかじゃなくて…今は言葉に気をつけないと…」
「…はい…でも…弟は紫陽花より可憐でしたよね?」
「まぁね!それは言えてる!!」
「…………」




