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最近マイブームな古代ローマ皇帝のクラウディウス陛下について2~miserable,tragic,disfavor,want,wineを添えて~

 エッセイはつらつらと書けば良い。ゆえに小説よりもハードルが低い。

 なんて偏見を抱いていた俺は愚かでした。


 書こう思えば書ける。だけどそれが面白いかは別の話。

 ここら辺は小説と同じっすね。

 エッセイも小説も面白いのを書ける人ってのは、なんてチートなんだろうと思います。


 例えば三浦しをんさん。しおんさんと書き間違えそうになりますが、しをんさんです。

 あの方のエッセイは本当に面白いし、くすっと笑っちゃうし、小説は描写が濃厚で圧倒されます。

 くすっと笑えるエッセイ。描写が濃厚な小説。どれも好きですが、自分で作るとなると難しいですね。

 でも俺の場合は衰退した脳の機能を精一杯使ってるので、これで許して欲しいと切に願っています。

 誰に許して欲しいかって?


 それは……。


 以前のようなものを書けない自分を責める、自分自身に。


 ああ。冒頭から暗い。でも、大丈夫。

 クラウディウス陛下よりも悲惨な感じではない。

 まあ、比べるのもはばかられるんですけどね。

 あのお方は悲劇的な方の悲惨、つまりtragicで、俺を含む一般庶民は大体、miserableの方が適応されるんじゃないかな。

 miserableって経済的困窮の意味もあるし。

 ヴィクトル・ユーゴーなんか、まんまレミゼラブルのタイトルに使ってますからね。

 あれは名作中の名作なんですが、邦題では『ああ無情』なんですね。経済的困窮でも悲惨、でもないんですね。経済的困窮でパンを盗んで何年間も刑務所に入っちゃった人の話なので、そのまんまなんですが……。

 直訳しちゃうと身もふたもなかったんだろうなあ。

 翻訳本の売り上げも悲惨、miserableになりそうなので、かっこよく『ああ無情』にしたのかな、と妄想。こういう改題は映画とかでよくありますね。

awakening、目覚めをレナードの朝とか。


 日本の話でもこういった例はあります。

 川端康成の『雪国』は、元々は『徒労』というお題だったそうです。

 徒労と雪国。雪国の方が名作感ありますね。はい。個人的な感想でした。


 で、miserableの語源はおなじみのラテン語です。

 miser(みじめな)ia(こと)で、miseria.

 これが長い時間で変化してmiserableになりました。

 経済的困窮って、本当に惨めというか、あれです。息苦しいし、足に重りついているみたいな感じだし、結局経済力って行動力ですからね。貯金の残高が増えると、フットワークにバフがかかる気がします。


 で、tragicな生き方をしたクラウディウス陛下。

 tragicには『悲惨な』の他にも、悲壮なとか、痛ましいとかいう意味があります。

 元々の語源は古代ギリシャ語です。tragoidia.

 tragos(雄やぎ)+oide(歌).

 雄山羊の歌。半神半人の山羊の神様と言えばパーンが有名ですが、あそことも関係があります。

 古代ギリシャでは悲喜劇と言えば雄山羊の神様の話が定番。

 つまり欠かせない。もう代名詞だったから、演劇みたいに悲惨な、劇的に悲惨なという意味で、tragicが生まれたんですね。


 クラウディウス陛下はローマ皇帝ですから、経済的には全然miserableではなかった。

 ただ、劇的にtragicな人生だった。


 有能だったんですけどね。皇帝になる前は歴史家でしたし。

 歴史の教訓をちゃんと執政に生かしたし。演説にだって歴史家の言葉の重みというものがあったし。

 でも……家庭環境に、本当に恵まれない人でした。


『人の形をした怪物』


 これがクラウディウス陛下の母親が、息子に下した評価でした。

 一説には脳性麻痺と言われていますが、足が不自由だったそうです。

 吃音があり、話そうとすると口のはしからよだれが垂れた。

 肉体美こそが至高という社会背景もあって、なまじっか名門令嬢なお母さんだっただけに、認めたくなかったのでしょうね。

 でも、息子を怪物呼ばわりは……ひどい。


 頭脳は明晰だったのに。見かけで判断とか、遅れてるぜ、ローマ帝国。

 でもまあ古代ですから。さもありなん。


 そんなクラウディウス陛下は4回結婚しました。貴族ですから。いわゆる政略結婚はつきものです。

 4回のうち2回は妻から離婚されました。


 3回目のメッサリアさん。

 この人と結婚したのはクラウディウス陛下がアラフィフ。

 一方のメッサリアさんは18歳。

 結婚から数年たって、クラウディウス陛下は歴史家から皇帝に擁立されます。

 前皇帝だった甥がやらかしまくって、つまり無駄な公共事業で帝国に莫大な負債を残して、他にも民族問題とか色々ありすぎな帝国を、擁立時に引き継ぐんですが、この時は

『殺されるのか? 私も?』

 とびびっていたそうです。擁立というより連行に近い形ですね。前皇帝を暗殺した軍が権力を奪う形でクラウディウス陛下をたてて、後見人としてにらみをきかせる。

 そんな形です。

 

 でも……羨ましい人もいるのかな。

 ひびが入っているとはいえ、回ってきた御鉢は唯一無二。地中海世界の最高権力者。

 やりがいという意味でもやっぱり無二。

 実際、クラウディウス陛下は帝国の財政を立てなおしましたからね。

 民族問題も解決。秘書官制度を取り入れて、皇帝の統治システムを強化。

 身分や権力ではなく、才能を基準に意見を取り入れる人だったそうです。

 有能な将軍を南イングランドに派遣、占領した一方で、領土拡大政策には一線を引いた。

 名君でした。


 けれど残念ながら……古代ローマの価値観は肉体美こそ至高。

 奥さん、妃であるメッサリアさんは旦那さんとの生活に満足していなかったんですね。

 若かったから? 

 いいえ。違います。そうかもしれないけれど、若い人が全員若気の至りに走るわけではない。

 そもそもメッサリアさんは走る走らないの次元ではなかった。


 浮気をしまくる。

 

 まあ、よしとしましょう。アラフィフのクラウディウス陛下は仕事人間でしたから。

 でも、『俳優の誰誰があたしの誘惑にのらなかったのです。陛下。のるように命令して下さい』

 こんなお願いはしちゃだめでしょう。


 皇帝だけど旦那さんなのに。

 いや、旦那さんだけど皇帝なんだから。


 ……両方かな。まあ、応じちゃうクラウディウス陛下もクラウディウス陛下なんですけどね。

 で、メッサリアさんは一晩一人相手の浮気に満足せず、偽名を使って売春宿で客をとります。性欲モンスターですかね。まさしく女性の形をした怪物。

 もちろんローマ市民はよく思いません。だから陰口もたたきます。どこどこの売春宿であの人を見た、みたいな噂が立ちます。

 そして、メッサリナさんは立てた人を調べ上げて、処刑します。


 冷酷無慈悲。

 ちなみに冷酷はdisfavor.

 語源はdis(否定)+favor(好意、お気に入り)。好意の反対。それは冷酷。

 disfavorには冷遇、嫌うこと、不人気という意味もあります。

 全部好意という感情の対岸の概念ですね。


 冷酷無慈悲な痴情狂い。本能に素直に生きていると言えばまだ聞こえは良いのですが、残念。

 メッサリナさんはクラウディウス陛下と真逆の人でした。

 そう。肉体美には溢れているけれど、頭が致命的に悪いのです。

 彼女はたくさんの愛人を作り、そしてその1人と結婚をしました。

 結婚。妃なのに結婚。しかも、です。クラウディウス陛下の暗殺までくわだてました。

 冷酷、disfavorを地でいく人ですから、不思議ではないかもしれない。

 でもその冷酷が許されていたのは、旦那の威光があってこそ、だったんですが……。

 何年間ものやりたい放題で、正常な判断ができなくなってたんでしょうね。


 暗殺計画はばれて、とうとうクラウディウス陛下は重い腰をあげました。

 メッサリナさんの愛人連中はみな処刑。

 首謀者本人は自死を命令されました。ローマの価値観では処刑よりも自死の方が名誉が保たれるようです。これはクラウディウス陛下の温情なのかな。

 この期に及んでも奥さんに甘い陛下。悲しみ。


 で、メッサリナさんは、皇帝の使者に、

『陛下は何でも私のお願いをきいてくださいました。まず、陛下に会わせて下さい。そうすれば……』


 グサッ。


 擬音で省略するくらいの、グサッ。

 クラウディウス陛下の使者は暗殺首謀者の嘆願などに聞く耳をもたず、剣を突き刺して、死刑執行。

 この報告を聞いた時、クラウディウス陛下は食事中だったそうです。

 そして、こう、一言だけ発したのです。


『もっとワインが欲しい』


 I want more wine.


 wantの語源は古代ノルド語。vanta.

珍しくラテン語ではありませんね。ノルドは北ヨーロッパ。世界史ではヴァイキングの人達がノルドから南下して地中海世界を征服。王国をうちたてます。


 で、vantaの意味は『欠けている』.


 欠けている。だから欲しい。渇望が適当なのかな。

 クラウディウス陛下はラテン世界の人だけど、悪妻の死を知った時、やっぱり欠けていたのかな。

 ノルドの人々と同じように。だからワインを渇望した。

 

 He wanted more wine.


 彼はさらにワインを欲した。

 やりきれない時に男が頼る何かは人それぞれですが。

 俺は療養生活に入る前は焼肉でしたが。


 クラウディウス陛下の場合はwineだったのでしょう。

 ちなみにwineの語源は安定のラテン語、vinumです。

 意味は葡萄酒。そのまんまですね。ヴァイナムとワイン。

 発音的にも似ています。ちなみに勝利の象徴、シャンパンは英語でChampagne.

 フランスのシャンパーニュ地方の発泡酒。しゅわしゅわワインですな。

 お酒と歴史文化の関係も中々楽しいものが多いので、そのうち話題として取り上げたいです。


 こんなことを書いている今も、世界の津々浦々には、


 I want more wine.


 とぼおっとした顔でつぶやく人がいるんだろうなあ。切ないですね。

 でもそれも人生。


 では今回の復習です。


 miserable:悲惨な。惨めな。経済的困窮。

 tragic:悲壮な。悲惨な。痛ましい。もう劇的に悲惨な感じです。語源にギリシャ悲劇が関わるくらいの悲惨さです。

 disfavor:冷酷な。冷淡な。不人気な。favorの対極。英語では好きの反対は無関心、ではなくて、冷淡、冷酷なんですね。ちょっと怖い。

 want:欲しい。元々の語源はノルド語。vanta.欠けているという意味。これはでも、心理学的に正しいと思う。だって、欠けているからこそ、人は何かを欲するのだし。孤独だからこそ、誰かといたいと思うのだし。クラウディウス陛下は……現実を忘れさせてくれる何かが足りなかったのでしょうね。切ない。

 wine:ワイン。語源はラテン語の葡萄酒。そのまんまですね。


 クラウディウス陛下については今回で終わりです。

 古代ローマの偉人はあの世で何をしてるのかなあ。確か文化的にあの世って概念があるはずだし、幸薄い偉人だったので、神々に迎え入れられて楽しくやってるのかな。

 幸せなwineを飲んでいて欲しいものですね。


 ちなみにクラウディウス陛下の最期は好物のキノコによる食あたりでした。

 一説によるとメッサリナさんの次の奥さん、つまり4番目による毒殺らしいです。

 この奥さんは悪名高きネロ皇帝、まあ俺は好きですけどね、のお母さんで、ネロを皇帝にするために旦那を毒殺したみたいな……真実は分かりません。

 

 が、教訓は1つ。

 食あたりには気をつけましょう。

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