第5話 虐殺開始
俺は三途の川のほとりに連れて行かれた。
そこでは小さな子供たちが、石を何個も積み重ねている。
「ここは親より早く死んだ者達の地獄だ。お前には石で仏塔を築いてもらう。完成すれば、天国に行けるぞ」
「なんだ、随分簡単じゃないか。これでやっと天国に行けるのか……」
「へへっ! 精々励むんだな!」
鬼はニヤニヤと笑いながら去って行った。
しかし、周囲にはまだ何人もの見張りの鬼が立っている。
「ここは妙に鬼が多いな……何故だろう?」
気にはなるが、とりあえず俺は石を積み始める。
「なんだその歪んだ塔は! やり直しだ!」
俺の隣にいた、6歳くらいの女の子が積み上げていた石を、鬼が金棒で崩した。
女の子は涙を流しながら、再び石を積み上げ始める。
よく見ると、他の子供達も皆泣きながら石を積んでいた。
手から血が滲んでおり、途方もない時間、この作業をさせられているのが分かる。
どうやら仏塔作りは、かなりのクオリティを要求されるようだ。
「駄目だ駄目だ! そんなんで功徳になるか!」
鬼が俺の仏塔を崩した。――思わずピクッとなる。
「……一度手本を見せてくれないか?」
「断る!」
見本を見せてもらわないと、どう作っていいのか分からないのだが……。
俺はため息をつき、他の子供達にアドバイスを求めた。
「僕もよく分かんない……」
「色んなパターンを試してみたけど、全部駄目って言われちゃうの……」
みんなどうしたら良いのか分からないようだ。
俺はアドバイスを諦め、子供達の身の上話を聞く事にした。
善良であるかを確認する為に、初対面の人には必ずこれをやる事にしている。
地獄にいる人のほとんどは善人だ。俺はそういう人を気の力で助けたいのだ。
ちなみに悪人は完全放置である。
「酷い話だ……一体何が罪だと言うのか……」
戦争で死んだ子、病気で死んだ子、餓死した子、口減らしで殺された子、みんな気の毒な死に方をした子供ばかりだ。
何故、この子達が罪を背負わなくてはいけないのか。怒りが込み上げてくる。
「――おい鬼! 閻魔大王にも言ったが、この子達が罪人とされるのはおかしいぞ」
「何だと!? 親を悲しませたという立派な罪があるだろう!」
「馬鹿かお前は? この子は口減らしで、その実の親に殺されているんだぞ? それでも親を悲しませたとほざくのか?」
「うるせえ! 死人が鬼様に楯突くんじゃねえ!」
鬼は金棒で何度も俺を打ち付ける。
一撃で潰されると思ったが、ノーダメージのようだ。
「はあはあはあ……クソ! なんで無傷なんだ!?」
「もしかしてお前達って、ゴブリン程度の強さしかないのか?」
気の力を会得した事により、俺はそこそこ強くなっているだろう。
おそらくシェイマス戦士長と同等くらいにはなっているはずだ。――いや、さすがにそれはうぬぼれ過ぎか?
とはいえ、人間というのは弱い生物なのだ。
気を張っているとはいえ、金棒で叩かれ無傷というのは、よほど鬼の筋力が低いという事になる。
奴等のムキムキの筋肉は、どうやら張りぼてのようだ。
「鬼が、ゴ、ゴブリンと同等だと!? 許さんぞおおおお!!」
「殺せえええええええ!」
「叩き潰して挽肉にしてくれるわ!」
ブチギレた鬼達が、何度も金棒で俺を叩く。
しかし、まったくダメージを食らわない。やはりこいつらは弱いようだ。
「ど、どうなってやがるんだ!?」
「お前達の筋力って、俺と同じ1なのか?」
「ふざけるな! 俺達鬼の平均筋力は900! あのミノタウロスの3倍はあるんだぞ!?」
「900だと!? はははは! 冗談はよせ!」
筋力の目安は、一般的な成人男性で10から15。一流の戦士で50から70といったところだ。
本当に900も筋力があれば、小指一本で俺を殺せるはずだ。面白い事を言う。
「クソが! クソがクソがクソがあああああ!」
鬼は金棒を振り回し、子供たちが積んだ石を崩す。
俺をボコれないから、子供達に八つ当たりしたのだ。本当どうしようもない奴である。
「おいやめろ、大人げないぞ。理由もなく石を崩すなよ」
「うるせえ! 元々理由なんてねえんだ! 永久に石を積ませる為の方便だ! 馬鹿野郎!」
「なんだと……? お前達は、まったく非の無い子供達を罪人に仕立て上げた挙句、永遠に地獄に縛り付けているのか……?」
「だから、親を悲しませた罪だって言ってんだろうがよおおおお! こいつ等は立派な罪人なんだよ! このボケがあああああ!」
「あぅっ!」
鬼は近くにいた、4歳くらいの女の子を蹴り飛ばした。
俺の中で何かがブチッと切れる。
「……今すぐその子に謝罪をし、俺を閻魔大王のところまで連れて行け。さもなければお前を殺す」
「ぎゃははははは! この俺様を殺すだと!? 笑わせん――」
ブチュッ!
鬼の頭が爆ぜる。
俺が握りつぶしたのだ。
「気の力を殺しには使いたくはなかった。――だが、お前達のような外道を屠る為ならば躊躇う事はせぬ! ――カァッ!!!!」
俺の咆哮によって、周囲にいた鬼が吹き飛び、岩に叩きつけられる。
「う……ぐお……反乱だ! ルシフェルが反乱を起こしたぞおおおおお!」
1人の鬼が大声で叫ぶ。援軍を呼んだようだ。
「ふん。ゴブリン如きが何人来ようと、我が気の前には無力よ」
「この野郎……! このゴミを殺せええええええ!」
鬼達が金棒を振り上げて襲い掛かって来る。
「遅すぎる……」
目に気を集中させると、相手の動きがスローで見える。
俺はゆったりと鬼の背後に回った。
ブチュッ! ビチョッ! バチュッ!
俺は3人の鬼の頭を潰す。
「ははは! ゴブリン以下だなこれは!」
「ひ、ひいいいいいい!」
鬼が金棒を放り投げ、どこかへと逃げ出そうとしたので、俺は真一文に手刀を放つ。
真空の刃が、鬼の首を切断した。
「いたぞ! あそこだ!」
「叩き潰せ!」
数十人の鬼どもが、賽の河原へと駆けつけてくる。
俺は斬り落とした鬼の首をつかみ、奴等の足元に放り投げる。
「――ひいっ!」
「そうなりたくなかったら、俺を閻魔大王の元へ案内しろ」
「人間如き、それも無能な奴が調子に乗ってんじゃねえ!」
鬼どもが俺に向かってきた。
「はあ……無駄な殺生はしたくなかったんだがな……」
俺は正拳突きの構えをとった。
今ここに、地獄の大虐殺が始まったのだ。
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