第20話 農業
ミョルスの街には畑が無い。
食料は、2つの村で生産された物と、他の街から仕入れた物でまかなっていたからだ。
これは珍しい事では無い。
街は、魔物の脅威から守る為、城壁で囲む造りとなる。
その為どうしても狭くなり、畑を街中に作るだけの土地などない。
畑は街の外、つまり農村にしかないのが一般的なのだ。
その農村の周りを囲むのは、貧弱な木の柵。
つまり農業とは、常に魔物の脅威にさらされる命懸けの仕事なのである。
冒険者達の仕事は、農村を荒らす魔物を排除する事がほとんどだ。
ルシフェル邪神王国として独立した今、村から食料を提供される事はなくなり、他の街から食料を買いつけるだけの金もない。
俺達は、自給自足しなくてはいけなくなったのだ。
「――この辺りは良い土ですね」
「左様か」
俺は辺り一帯を見回す。
何が良いのか、さっぱり分からん。
地獄で100万年は過ごしたが、真の武を目指すばかりで、他の事はまったく学んでこなかった。
もっと色々勉強しておくべきだったか……。
「まあ、良い。――さっそく開墾を始めようぞ」
「はっ!」
男達がクワで土を耕し始める。
俺はしばらくそれを眺めていた。やり方が分からないからだ。
(なるほど……ああやって、土をフカフカにすればいいのだな)
俺はクワを手に取ったが、すぐに元の場所に置いた。
「手でやった方が早そうだ。――ライライライライライライライライライッ!」
俺は超速で、辺り一帯の土を耕し終えた。
「うおおおおおおお! さすが邪神王陛下! 1か月はかかりそうな作業を、1時間かからずして終えてしまわれるとは!」
そうなのか。もしかして俺は農業の才能があるのだろうか? だとしたら、中々に嬉しい。
「ふふっ、そうか。もっと早くに農家を目指していれば良かったな」
「邪神王陛下が、我等農家を認めて下さった! 感激です! うううう……!」
「おいおい、どうした……?」
男達が泣き止むのを待ってから、話を聞いてみる。
どうやら農家とは農奴とも呼ばれ、立場的には奴隷とほとんど変わらないらしい。
つまり、世間から蔑まれる仕事なのだ。
(15歳にもなって、そんな世間一般の常識も知らなかったとは……うーむ、つくづく俺は無能だな……)
12歳までは裕福な伯爵家で過ごしていたので、貧しい人達の事など知る由もない。
この街に来てからは、その日その日を生きるのに必死で、他の事など気にしている余裕など無かった。言い訳としては、そんな感じだ。
「しかし、農家が蔑まれる理由が分からぬな。――実に立派な仕事ではないか? 人々の暮らしを支えているのだぞ?」
「うおおおおおおおおおおおおん!」
再び男達が泣き出してしまう。
ちなみに彼等は、現在新米冒険者だ。
農家の三男や四男は、継げる畑が無いので他の仕事に就くしかない。
学の無い彼等にできる仕事は、冒険者くらいしかないのだ。俺と一緒である。
「泣くな泣くな。さあ、小麦の種をまこうではないか」
「はっ!」
俺達はせっせっせっせっと種をまく。
これは力尽くではできないので、時間がかかる。
「うーむ、やはり種まきはマンパワーが必要だな。――鳥! 蠅!」
俺は森の方に向かって叫ぶ。
ブゥゥゥゥゥゥゥン!
腕組した鳥を抱えた蠅が、こちらへと飛んで来た。
あいつは人間形態でも飛べるのだ。
「御屋形様、何か御用ですかぶぶー?」
「種まきをさっさと終わらせたい」
「では、私の子供達に手伝わせますぶぶー」
「拙者は小鳥たちを呼びますんこ」
鳥と蠅は、小鳥と蠅の群れを呼び寄せた。
「小鳥たちはいいとして、その蠅どもの手は汚いんじゃないか?」
「ぶぶ! この子達にも手洗いは徹底させてます! ばっちくありません!」
蠅がちょっと怒る。――しょうがないだろ……お前らよくウンコの上にとまってるんだから……。
「まあいい。ではよろしく頼む」
「御意んこ!」
「仰せのままにぶぶー」
小鳥が土にくちばしを突っ込んで穴を掘り、蠅がそこに種を植える。
見事な連携プレイだ。
「――よし、終わったな!」
「はい、これで来年の7月には収穫できます。……しかし、それまではどうしたら良いでしょうか? 近くの川で魚は釣れますが、全員を養っていけるほどの量はとれません……」
男達は浮かない顔をする。
「心配するでない。気の力とは生命エネルギー。それはつまり……ハァッ!」
俺は畑に気を込めた。
一気に種から芽が出て、グングンと育つ。そしてすぐに立派な穂を実らせた。
「うおおおおおおおおおお! 邪神様すげええええええ! もう収穫できちゃうよおおおおおおお!」
「さあ、収穫するぞ」
「はっ!」
俺は両手を真一文字に振るう。
俺の手から放たれた真空の刃が、小麦を一気に刈り取った。
「リャマ・ムームー!」
畑の上空に次元の門が出現し、刈り取った小麦を吸い込んでいく。
この小麦は、ドスケベが畑の近くに建てた大きな穀物庫に転送される。
「よし、収穫完了!」
「もう終わっちゃのおおおおおおおお!?」
まったく、いちいちうるさい奴等だ。
俺達は確認の為、穀物庫の中に入る。
そこには、小麦の巨大な山ができていた。
「す、すごい! 我々だけでは、1年掛けても食べ切れない量です! それをたった数時間で……!」
「ほう……それ程の量なのか? では、他の街に売って、金にすることができるのでは?」
世の中、何かと金が要る。
食料は用意できたが、生きていくには様々な物が必要なのだ。稼いでおいた方が良いだろう。
「はい邪神王陛下。しかし、このままでは売れません。最低でも脱穀しないと。できれば製粉して、小麦の状態で売りたいところです。その方が高値で売れますので」
「脱穀と製粉か……お前達の村ではどうおこなっていた?」
「脱穀は手作業で、製粉は村にある水車を用いた製粉機でおこなっておりました。ちなみに脱穀を機械でおこなう村もあります」
この作業は、俺の気や弟子たちの魔法でも無理だな……。
「この街には脱穀機と製粉機はあるのか?」
「いえ、ありません。――ですので、脱穀は手作業でもできますが、製粉はサレメかタブナスの村で製粉機を使わしてもらうしかないかと……」
「うーむ、我等に貸してくれるとは思えぬな」
「はい、恐らくは。……しかも、製粉機はルーベンス卿の所有物ですので、使用には税がかかります。これだけの小麦を粉にするとなれば、相当な金額になるかと」
小麦を食べるには、小麦粉にしないといけない。
少量であれば、人力で石臼を使って粉にできる。
しかし、3百人近くの人数を養うとなれば、小麦を売る売らないにかかわらず、製粉機の設置は必須という事だ。
「ドスケベ!」
俺は街の方に向かって叫んだ。
しばらく待つと――
「――お呼びしましたかしら?」
ドスケベがぴょこっと顔をのぞかせた。
「忙しいところ呼んですまんな。何の作業をしていたのだ?」
「今、公衆浴場を建てておりますのよ」
「浴場? まだ住居を建て終えていないはずだが?」
「ええ、家よりお風呂の方が重要ですもの。うひひ……」
「そうか? まあ良い。ドスケベよ、水車は作れるか?」
「もちろんできますわ! ハケ水車を作った事がありますの!」
ハケ水車? なんだそれ? まあ、どうでもいいか。
「では、水車を動力とした製粉機を作ってくれ」
「お任せ下さいましー」
ドスケベは、川の方へと駆けて行った。
しばらくすると、ドスケベから完成したと報告があったので、見に行く。
「こ、これは凄い!」
男達が驚く。
川岸には立派な製粉所が建っていた。
特に驚くべきは、その水車の数だ。
「おほほほほ! 見て下さいまし、16連水車でございますのよ! これによって、同時処理能力を劇的に向上させましたわ! しかも、使う石臼によって挽き具合を変えられますの! あと、ついでに脱穀もできるようにしておきましたわ!」
「うおおおお! これ程の製粉機は、見た事も聞いた事もないですよ!」
「ほほう、大したものだなドスケベよ。――ん、あの水車はなんだ?」
一番奥にある水車の水受けには、いくつものハケが取り付けられていた。
その両脇には台座があり、水車の上に跨れるようになっている。
「あれがハケ水車でございますの! 先程早速試してみましたが、最高でしたわ! ああん!」
「一体どう使う物なのだ? 見せてくれないか?」
「いやーん! 恥ずかしいですわー! ……でも、見せちゃう!」
ドスケベは顔を両手で覆いながら台座に登り、跨った。
そして大股開きで、股間をハケに近付ける。
「待て! 何となく分かった!」
「もう! せっかくいいところでしたのに!」
ドスケベは頬をぷくーっとさせて、台座から下りた。
本当、どうしようもないエロ女だ。
だがこれで、小麦の問題は解決である。
「よし、では家を建てるぞ!」
「おおー!」
俺達は拳を天に向けて突き上げた。
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