第19話 建国記念日
ミョルヒの街は小城以外、完全に崩壊していたので、人はもう住めない状態だった。これを何とか復興せねばならない。
ゴブリンを撃退した翌日の朝、俺はシェイマス戦士長と町長と共に、復興計画について話し合う事にする。
――が、丁度その時、ルーベンス伯爵の騎士1名が俺達の元へとやって来た。
ルーベンス伯爵は、ゴブリン達が全滅した事を知っているようだ。
おそらく斥候を放っていたのだろう。
「ルーベンス卿より伝令! ミョルヒの街の再建は不可能と判断! 町民は、サレメかタブナスの村へ向かうようにとの事!」
ルーベンス伯爵は、ミョルヒの街の他にも小さな村を2つ持っている。
しかし、本当に小規模な農村なので、3百人近い人数を受け入れられるとは思えないが?
「我々の住居はあるのですか?」
町長が尋ねる。
「いや、無い。しばらくは野営をして暮らす事になるだろう」
「食料は!?」
「仕事は!?」
他の町民が矢継ぎ早にまくし立てる。
「黙れ! ルーベンス卿のご命令なのだ! 黙って従え!」
そう言うと、騎士は馬をひるがえし、去って行った。
「一体どうすれば……」
町長が青ざめた表情を見せる。
伯爵の命に従っても、まともに生活できるとは思えない。
しかし、かといって他の街へ逃げれば罪になる。
領民は領主の資産とされるので、領主の許可なく引っ越す事はできないのだ。
「……邪神様はどうされるおつもりで?」
皆が当たり前のように俺を邪神と呼ぶので、諦めて受け入れる事にした。
「俺はここで本当の邪神を討つので、この街に残る」
シェイマス戦士長と町長は、互いに顔を見合わせてうなずいた。
「――邪神様、しばしお待ち下され」
2人はみんなが集まっている場所に向かい、話し合いを始めた。
それからしばらくすると、全員が俺の元に集まって来る。
「――我等、邪神王陛下の民となりまする!」
「……は?」
その後は、とんとん拍子で話が進む。
勝手に俺を邪神王と祭り上げ、国の名前まで考え出した。
当然俺は、話し合いには参加していない。奴等で勝手に盛り上がっているのだ。
弟子達が町人達の前に立ち、息臭太郎が一歩前に出る。
「人間どもよ、聞くが良い! この時を持って、この地に『ルシフェル邪神王国』を建国する!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「邪神王陛下、ばんざあああああああああい!」
小城は熱狂的な空気に包まれた。
「おいおい勘弁してくれよ……俺が国王だと? て言うか、俺の名前を国名にするなよ……自己主張の強すぎる痛い奴だと思われるじゃないか……」
俺のつぶやきは誰も聞いてくれない。
轟く万歳の声に、完全にかき消されているのだ。
「なお、この地を首都とし、邪神王国に相応しい名に変更する! その名も『イビルヘイム』だ!」
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
「イビルヘイム、ばんざああああああああああい!」
どう見ても、悪の化身が住まう土地の名じゃねえか!
「では早速、この地を閣下に相応しいものとしようではないか! 復興開始だ!」
「うおおおおおおおおおおおお!」
「復興だああああああああああ!」
弟子達と町民は、ヤバい目つきで瓦礫だらけの街へと下りて行った。
3百人にも満たない人数で街を復興させるなど、本来無理な話だ。
遺体の処理と、瓦礫の撤去だけで冬が来てしまいそうである。
弟子達は復興の時だけでいいので、魔法の使用を許可して欲しいと言ってきた。その方が手っ取り早いのだそうだ。
まあ、弟子たちは努力こそが真の武である事は完全に理解しているので、今更スキルや魔法に溺れる事はないだろう。
むしろ今一度、魔法やスキルを使ってみる事で、これ等がいかに軟弱なものであるか、さらに理解を深める事ができるかもしれん。
俺は、弟子たちのスキルと魔法の使用を解禁した。
その結果、何の役にも立たないだろうと思っていた弟子達が、予想を裏切るような活躍を見せたのだ。
「オオオ……オオ……」
骨の死霊術で操られた町人の死体が、街の外れに集まって行く。
そこでは、息臭太郎が待ち受けていた。
「獄炎!」
地獄の炎で、死体が火葬される。
これで遺体の処理は終了だ。30分もかからずに終了となる。
遺族達も「丁重に弔っていただき、ありがたき幸せ」と涙を流している。――いや、これ丁重か?
――ウィン。
街の中央に次元の門が開いた。
瓦礫が次々に吸い寄せられていく。
「おお! リャマ・ムームー様のおかげで、瓦礫が一瞬でなくなったぞ!」
倒壊していた建物は全て消滅した。
後に残るのは、道や井戸だけである。
ブゥゥゥゥゥゥゥン!
おびただしほどの蠅の群れが、森から丸太を運んでくる。
森では、鳥が手刀で木を伐採しているのだ。
「ドスケベ様! 見事な腕前ですね!」
「おほほほ! わたくし、銭湯を建てる為に大工の修業をしましてよ!」
恐ろしい早さでカンナ掛けをするドスケベを見て、街の大工が感嘆の声を上げる。
「相変わらず器用な奴だな……よし、行くぞ」
「はっ! 邪神王陛下!」
俺は元農家の男達を連れ、街の外へと向かう。
今から畑を作りに行くのだ。
初めての農業体験……実に楽しみである。
ここまで読んでくれた読者の皆様、そしてブクマと評価をしてくれた読者の皆さま、ありがとうございます!
少しでも面白い、続きが早く読みたい!と思いましたら、
↓にある☆☆☆☆☆から「評価」と「ブックマーク」をよろしくお願いします。
ブックマークはブラウザではなく↓からしていただけると、ポイントが入りますので作者がとても喜びます。
評価とブクマは作者の励みになりますので、お手数かとは思いますが、よろしくお願いします。




