第12話 神殺しの剣
次の階層は魔法生物がはびこっていた。
ゴーレムやガーゴイル、リビングアーマーといった連中だ。
地獄の魔法生物は強力な魔法で造られているので、現世のものとは異次元の強さだと弟子たちが言っていたのだが、まったくそんな事はなかった。
壁を破壊しているうちに、いつの間にか倒してしまっていたのだ。
「滅茶苦茶弱かったぞ……? お前達は、いちいち大袈裟に言わないと死ぬのか?」
「い、いえ……そんな事はないのですが……」
全員顔を伏せている。何か言いにくい事があるのだろうか?
――いや。もしかしたら、本当にそのような呪いを受けているのかもしれない。
大抵そういった類の呪いは口にすることができない。それでこのような態度をとってしまうのだろう。これ以上追及するのは可哀そうだ。やめておこう。
俺は弟子たちの大袈裟な言葉を気にしない事とする。
「お前達にも色々と事情があるようだ。この件は金輪際触れないようにしよう」
「ありがとうございます!」
弟子たちは、ほっとした表情を見せると、深々と頭を下げた。
地下300階に到達した俺達は重厚な扉を開け、階層守護者の待ち受ける間へと踏み入る。
「――む、大剣が浮かんでいるな」
「はっ! あれは魔剣カオスブリンガー! 奴はあらゆる物質、あらゆる存在を切り裂く事ができる『絶対断』の力を持っています! 神を殺す事ができる唯一の剣です!」
俺はカオスブリンガーを見る。――やはり、クソザコだ。
早速息臭太郎の大袈裟病が出てしまったが、もう叱りはすまい。
「奴と戦いたい者はいるか?」
弟子達はぶんぶんと首を横に振った。――そんなに恐ろしいのか?
恐らくカオスブリンガーの性能は、銅の剣と同等といったところだろう。
確かに斬られれば血は結構出る。クソザコの弟子達では無理があったか?
「――仕方ない。俺がゆくとしよう」
「おおっ! 閣下の本気の戦いが見られるぞ!」
弟子たちは熱い眼差しで俺を見つめる。
本気? 本気で戦った事など一度もないのだが?
地獄の魔物は、現世に比べて弱すぎるのだ。
ミョルヒの街を襲ったのが地獄の連中なら、シェイマス戦士長1人で撃退できただろう。
俺は弟子たちの未熟さに肩を落としながら、カオスブリンガーの前に立つ。
奴から紫色のオーラが噴き出した。
どうやら臨戦態勢に入ったようだが、俺の目の判定はやはりクソザコのまま。
「一応『絶対断』の力とやらを受けてみるか……」
「御師様! 奴の攻撃を受けてはなりませんこ!」
「主様! お願いですから回避を!」
弟子たちが悲痛な面持ちで叫ぶが、シカトだ。
カオスブリンガーは俺に向かって突っ込んでくると、真一文字に己を振るった。
「え……?」
カオスブリンガーが間抜けな声を発する。――こいつ喋れたのだな。
奴の刃は仁王立ちしている俺の脇腹に当たり、そこでピタリと止まっていた。
「えええええええええええ!?」
弟子たちが素っ頓狂な声を上げる。
もう長い付き合いだ。俺に銅の剣の斬撃など効かない事は、理解しているだろうに。
「何故、絶対断が効かない!?」
「答えは簡単だ。そんな力など存在しないからだ。――フンッ!」
俺は手刀でカオスブリンガーを叩き落とす。
全てを切り裂くなんていう都合の良い力が存在する訳が無い。
そもそもその設定は、俺が13才の頃に考案した「ぼくの考えたさいきょうの剣」と一緒なのだ。
「参りました。降参です。貴方様を主と認めます。どうか、わたくしめをお使いください」
「いや、いらん」
「――え?」
カオスブリンガーと弟子たちがハモる。
「剣なんてものは使っているうちに壊れる。そんなものは役に立たん。頼れるのは己の拳だけだ。――さあ、いくぞお前達」
「え、あ、はい……」
弟子たちは困惑した表情で俺の元へ駆け寄って来た。
「お前達に一つ言っておく。気の道は魔法、スキルだけでなく武器防具の使用も禁ずる。――良いな?」
「は、はい!」
俺は満足気にうなずくと、地下301階へと続く階段を降り始めた。
「あのー! 私、かなり良い剣なんですけどー!」
カオスブリンガーの声が、虚しく響いた。
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