8話 怨みの強さ
「みぞおちにドーン!」
「!?」
ジュリアは拳でみぞおちを一発殴り、ローズの動きを止める。ローズはみぞおちを押さえて動けずにいる。苦しさのあまり下を向き息を整えようとしているとジュリアの声が聞こえ始めた。
「今がチャンスだね」
右足を前に出して中腰になり、血伐剣を腰の横に納め唱える。
「血伐流線 剣 」
ジュリアは自分の指を少し刃で切ると刃の部分が黒色であった血伐剣が赤く染め上る。
「一血閃 」
血伐剣は唱えた瞬間にローズを遥かに凌ぐ速さでローズの懐に入り剣を横振りする。ローズは腹から血が吹き出し倒れこんだ。ローズは血を止めようと腹を必死に押さえるが血はどんどん流れている。
「な、なんなんだ……。お前らは人間が……俺たちより強いはずがない。銀の剣も持っていない…小娘が!」
「ハァー。小娘って言い方ムカつくなー。私より弱い生き物に言われるのはムカつくんだよね。お仕置きが必要だね」
そう言うとジュリアはローズの足に血伐剣を指しグリグリする。ローズは激痛に襲われ悶えている。その様子を見たジャンはジュリアに止めるよう言う。
「どうした?!ジュリア。いつものお前じゃない!もう勝負はついたんだ!」
「えっ……。なんでそんなこと言うの?」
ジャンのほうを振り向いたジュリアの目は瞳孔が開き冷酷な殺人鬼に見えた。
「最初の一振でこいつには俺たちの血が体に回ってるはずだ!もうじき死ぬ!」
「なんでそんなこと言うの!分からないじゃん!初めて吸血鬼に血伐剣を刺したんだから。死ぬまで油断できないから動けないようにしてるんだよ。見てよ。もう30秒くらい経つのに生きてるよこいつ」
「何もしゃべられないくらい苦しんでるんだぞ」
「そうかなー。ねえ吸血鬼、苦しいの?……質問に答えてよ。苦しいの、それと何級なの?」
吸血鬼は答えるどころかほぼ反応がなくなっている。ジャンはジュリアの言葉と行動に動揺した。いつもは明るく元気なジュリアが冷酷な異常者になっている気がした。
(ジュリアのことが分からない。家族なのに)
ジャンは色々と頭で考えすぎて回りが見えなくなっていたが、次のジュリアの一言で我に返った。
「あ、死んだ」
ジュリアは血伐剣の血を振り払うとしゃがみこんでローズの顔をじっと見る。
「聞きたいことたくさんあったのに。残念」
ジュリアはジャンのほうを向く。ジャンの表情を確認したかったからだ。ジャンの表情は硬直していて少し引いていると感じた。
「ジャン、なに引いてるの?私たちはこれからこうやって吸血鬼を殺し続けるんだよ」
「……。殺すことは何も思わないと思う。だけどもう死ぬ吸血鬼に追い討ちは良くないぞジュリア」
「まだ、本当の姿を見せてないねジャン。言ったでしょ、私は本当のジャンを知っているって。本当のジャンはこの光景を見たら嬉しいって思うはずだよ」
「嬉しいはずがないだろ!」
「……呆れた」
「はぁ?」
ジュリアは冷めた表情でジャンを見て近付いていく。ジャンの目の前に立つとジャンの襟元を握りしめ顔を近付ける。
「呆れたって言ったのよ、ジャン!そんな甘いこと言ってたら殺されるよ!吸血鬼に油断は禁物!それにこれから拷問だってするかもしれないのにそんなこと言わないでよ!」
ローズを横振りで刺した後に見せた冷酷な表情を見せるジュリア。その表情を見て最初はひきつっていたジャンだが数秒経つと無理やり笑顔を見せる。
「ジュリアにそんな顔は似合わないよ。いつもの明るいジュリアに戻ってくれ。お願いだ」
「それが甘いんだよ!誓ってよ、私が今度同じことをしても止めないって」
まだ冷酷な表情のジュリア。
「誓わないよ。殺すまではお互いに覚悟した戦いだけどその後の行為は自分自身を傷つける行為だ。相手を傷つける度に自分の心もそうなってると思ったほうがいいよ」
無理やりな笑顔をやめて真剣な表情で話すジャン。また、ジュリアの表情も普段と変わらない表情に戻ってきた。
しかし、すぅーと涙が流れた。
「だって憎くて怨んでた吸血鬼を殺したんだよ。あれくらいやってもいいじゃん!ジャンも嬉しいと思ってると思ったのに顔を見たら全然そうじゃなかった。私が変なのって思った。ジャンも同じ気持ちになってほしかったの!」
「ごめん。気持ちを気づいてやれなくて……兄妹なのに。俺決めたよ。ジュリアが笑顔だけ見せる世界を早く見せられるように頑張るから」
ジャンはジュリアを抱き締めていた。
「私もがんばる。ジャンが横で笑ってる未来に」
ジャンはジュリアが泣き止むまで抱き締めていた。