7話 宣戦布告
ジャンが孤児院でメーリから妹がいると言われて8年が過ぎた。
今日は1705年の7月31日、血伐隊入隊選抜試験日前日の夜である。21時を回り辺りが真っ暗になった山奥の古びた木造住宅からジャンと妹のジュリアが現れた。2人の顔はよく似ている。身長や体格は男女の差はあるが。
「ジャン。ついにこの日が来たね。8年間待ちわびた日が」
ジュリアは赤黒く細い剣を杖のように使い歩いていた。赤黒い剣は自分の血が練り込まれた剣。通称「血伐剣」といいサーベルのような形である。刃側が黒色で棟側が赤色でできている。2人の父であるレイが吸血鬼の母ジャリネットに教えてもらった武器のひとつでもある。
「宣戦布告の日。俺とジュリアが吸血鬼を一体殺して世界に衝撃を与える日。出来ればA級の吸血鬼がいいけど」
ジャンは剣を鞘にいれて腰に装着している。
「どうして?何級でもよくない?」
「吸血鬼側にA級が殺されたと恐怖を与えるんだ。そうすればつまらない王女争奪戦の犠牲になる人間は減るはずだからね」
「そっかー。そこまで考えてなかったよ。私なんてただ吸血鬼を殺すことしか考えてなかった」
「ジュリアは猪突猛進と言う言葉が似合う女子だよ」
「そういうジャンは表向きはいい奴で誰とも接するけど、私は本当のジャンを知ってるから。安心して」
「本当の俺?」
「そう!兄妹だから分かることだよ!」
ジャンの背中を2回ぽんぽんと叩くジュリア。
「まぁ、俺は兄妹がいてうれしいよ。いや、家族ができて嬉しいのかな」
ジャンの顔は穏やかで今から吸血鬼を殺しにいく兄妹には見えなかった。その時、森のなかに風が吹き、静けさのなかに緊張がはしる。
「今さらそんなこと言って。あっ、やっと来くるよ。血が飲みたいという変態さんが」
2人の前にスーツを来た吸血鬼がやってきた。吸血鬼は2人に右腕をお腹に当ててお辞儀をする。
「私の名前はローズ。お二人さん夜の散歩は良くないですよ。私たちがいることを知らないんですか。銀の剣に良く似たものを装備されてますがあなた方は血伐隊ではないですよね?」
「違うよ変態さん。私たちは明日血伐隊になるのよ。それはどうでもいいとしてあなたは何級の吸血鬼なの?」
ジュリアの言葉に驚くローズ。
「何でお前たちが級のことを知っている? お前たちは吸血鬼? いやそれはない。それとも誘拐された人間? それもない。誰なんだお前たちは? ……いやそんなことはどうでもいいか。殺してしまうのだから」
「ごちゃごちゃ何言ってんだ」
「いやいや、失礼した。動揺してね。今、殺してあげるから2人で最期の会話をしなさい」
ジャンとジュリアは剣を抜いて戦闘状態になる。
「ジャン!ここは私1人に任せてよ」
ジュリアの目は血走っている。それを見たジャンは任せたと言い剣を納めた。
「お前たちはやはりおかしいですね。吸血鬼の私を見ても怖がらないし逃げようともしない。むしろ嬉しがっているようです」
「正解だよ。吸血鬼!今日は私たち人間が吸血鬼に宣戦布告する日なの。悪いけどあんたには晒し者、いや晒し吸血鬼になってもらうかね!」
「意味が分からないが殺しますよ」
吸血鬼は爪を伸ばして戦うのが特徴である。ローズは人差し指1本の爪を伸ばす。細いがその殺傷能力は剣より鋭い。また、長さを調整できるため、人間側からすると間合いも取りづらい。その特性を生かしてローズはジュリア目掛けて走る。その早さは常人には目で追うのが精一杯。体は動かせず噛まれるだけなのだかジュリアはローズの動きを完璧に読み取り攻撃をかわしていく。ジャンも自身の目が8年前より成長しているのが分かった。そして、心に思ったことがある。
(こいつになら簡単には勝てる!そうだろジュリア!技を決めてやれ!)
「意外と遅いんだね。吸血鬼は!一発で仕留めるよ」
「何を言っているガキが!」
ジュリアが技を仕掛ける!