4話 美しい城だった
日記の最初には10年前の出来事を予想していたことが書かれていた。
1687年4月17日の深夜
俺は王城で死ぬ。
人々の心の支えであった王城が血で染まる前に死ぬんだ。
吸血鬼が王城に大群で攻め混み、王族を含め王城で働く全ての人々を一人残らず殺す。王の血筋は絶え人々は悲しみに暮れる。
俺は悲しみの感情がでる前に死ぬ。
この時、人々は吸血鬼の恐ろしさを改めて実感するだろう。
俺は恐ろしさよりも希望を持って死ぬ道を選んだ卑怯な男だ。
俺の息子ジャンが救世主となり吸血鬼をせん滅する未来を想像して。
死ぬ前に息子ジャンに俺と母親の出会いについて教えようと思う。子供のお前に分かりやすいようにお物語風に書いてやるからな。
俺の名前はフォン・レン(28)
王城で働き、血伐隊の若き隊長でもある。
ある日俺は王に提案をした。
「王、私にエイル島に潜入捜査をさせてください」
「ダメだ。危険すぎる。何度言ったら分かるんだ。お前のしつこさにはいつも困惑させられるな」
エイル島とは吸血鬼たちが住んでいる島の名前である。ハンプ島に近く小型の船でも行き来できる。王がそんな島に潜入させるのはダメだというのは当然であった。しかし、俺にはどうしてもいきたい理由もあった。得意のしつこさでしがみつく。
「王、私は自分達の代で吸血鬼の時代を終わらせたいのです!」
俺は通る声をしている。力強く言うとなぜか説得力が出るんだ。言葉は本心である。本当に終わらせたいんだ。英雄になりたいわけではない。
「そうは言ってもなレン……」
「私たちは吸血鬼のことをなにも分かってないんです。もし潜入して弱点の1つでも見つけられれば私はこの命惜しくはありません」
王はいい顔をしなかったがその後も俺は話を続けて許可をもらった。許可をもらえた理由は俺が強いからと独身であるからであろう。家族を大事にする王なら俺に家族がいたら行かせないはずだ。後で思ったのだが弟子のメーリには申し訳ないな。その後俺は一ヶ月の間、潜入に向けて作戦を練ったり、体調を整えたりした。
一ヶ月後の日差しが強い真昼に俺はエイル島に渡る小さな船に乗った。そこには弟子のメーリが来なくてもいいのにいる。話し掛けるでもなく、ただ見ていた。
「行ってくる」
「はい、お気をつけて」
会話はそれだけであった。俺は小型の船を漕いでいるときに今回の任務の目的を考えていた。俺は無茶をするタイプだから目的以上のことはしないように頭の中に叩き込むようにしている。今回の目的は吸血鬼の生態調査だ。今わかっていることは3つ。
・夜にしか活動しない
・家にはなぜか入ってこない
・男の吸血鬼しか襲ってこない
これでは対策のしようがない。どうにかして吸血鬼の生態を調べる必要がある。調べ方は決めていて、吸血鬼を一人とらえて拷問するやり方が一番だと考えている。どうやって捕らえるかだが、俺の格闘術で捕まえようと思っている。吸血鬼は人間より強くて生命力が高いことは、これまでの血伐隊隊員の戦いで分かっている。だが、絶対に勝てないということはない。これまでも相手が一体のとき、複数人で戦ったら捕えかけたことがあった。その時はもう一体吸血鬼が現れ、捕えることはできなかったが。その吸血鬼がどのくらいの強さかは分からないが俺は勝手にAランクと決めた。そう考えなければ未来がないからだ。
数分後、エイル島についた。大昔はここでキャンプをしたりして、観光業も盛り上がっていたと聞くが現状を見ると疑いたくもなる。俺は足跡が付かないように岩場から潜入しているがそこから浜辺が見える。漂流物や人骨と思われる骨などが落ちていた。それにカラスたちが群がっている。
ここで吸血鬼たちは景色を楽しむようなことはしない。そして掃除もしないという情報を得た。役に立つかは分からないが。
岩場を登ると草木が生い茂り、その草木で足場も見えない景色が画面の下には広がっていた。潜入の俺には好都合であり、ゆっくりと身を屈めながら進んでいくと、古く朽ちた小屋を複数発見した。本当に昔は観光地だったんだとわかった。吸血鬼たちが使っている形跡はなく、ここを拠点にして調査をすることにした。
小屋に食料などを置き、椅子があったので腰を掛けると一気に疲れが出た。相当、緊張していたんだと思った。今日の行動はこれまでにして明日からの事を整理する。
次の日、少しずつ行動範囲を広げるために真昼間から探索を始めることにした。まずは発見されにくい森の中を探検する。
数時間後、俺は森を抜けた。そこには美しい世界が広がっていた。鮮やかな緑色の草原、アクセントとなっている色取り取りの花。鮮やかな花たちを区切る道はなく続いている。もうひとつ驚くことがあった。吸血鬼たちが住みかにしているであろう城を俺は見つけた。発見は嬉しさよりも見とれてしまう感情のほうが勝っていた。一言に美しいとこぼれてしまうほどに白く輝く大きな城だった。だが、この感情はすぐに捨てなければならなかった。吸血鬼は憎い存在で一刻も早くせん滅し俺たちの島の平和をもたらせなくてはならない。憎悪の感情を抱きながら俺は小屋に戻った。
次の日の朝 俺は起きると寝ぼけながらも何か重さを感じた。
「なんだ?」
「起きたか。人間」
息が止まり、体が固まった。
「おまえは誰だ!」
その人物は俺の目をずっと見ながらこう言った。
「私は吸血鬼であなたをずっと見ていた。フォン・レイ」
この時、自分がどんな感情だったかは覚えていない。