20話 いざ、エイル島へ!
ジュリアからの恐喝で無理やりエイル島に行く事になったクレインは沈んでいる気持ちが上がることなく小さな小舟に乗っていた。
「天気は眩しいほど雲一つない晴れなのに僕の気持ちはどしゃ降りだよ」
ため息をつきながらオールを漕ぐクレイン。そんなクレインの話を読書しながら聞いているジュリア。
「あんた文句は言うけど雑魚だから指示には従うよね。扱いやすいわー」
その言い方にムッとするクレイン。
「相変わらず口が悪いね。その口の悪さがなかったらいい友達になれるのに」
「あんたねー、私みたいに正直に話してくれる人は貴重よ。あんたみたいにすぐに落ち込んでるようじゃ生き残れないよ」
「弓使いはネガティブのほうが生き残るの。これからエイル島に行くって時に本を読めるほどポジティブにはなれないよ」
「バカね、私がタダで本を読むわけないじゃない。この本はエイル島のことが書かれているのよ」
小説をパンパンと手で叩き説明するジュリア。
「へー、だから読んでいるのか。ジュリアは読書するタイプではないと思ってたから合点がいったよ」
「バカって言いたいわけ?あんたもナチュラルに口が悪いよ」
「ジュリアのが移ったんだ。これはジュリア病だよ」
「くっそつまらない答えね。もう口答えせずに漕ぎなさい!」
この後もクレインがオールを漕ぎエイル島の岩場に到着した。
エイル島の陸地に繋がる岩場に船を止めて2人は上陸する。船には船底に穴を空けられるように細工してあり海のなかに船を沈めて2人は岩場を歩き始めた。
「本にはこう書いている。数分後、エイル島についた。大昔はここでキャンプをしたりして、観光業も盛り上がっていたと聞くが現状を見ると疑いたくもなる。俺は足跡が付かないように岩場から潜入しているがそこから浜辺が見える。漂流物や人骨と思われる骨などが落ちていた。それにカラスたちが群がっている。ってね」
クレインが浜辺をみると19年たった今でも人骨が溢れていた。
「死んだ人はここで死んだのかな。怖かっただろうな……」
その表情は優しさに溢れているとジュリアは感じてなにも言わずに肩を擦り前に進もうと目で訴えた。2人は歩き始めジュリアは小説の文を音読しながら前に進む。
「岩場を登ると草木が生い茂り、その草木で足場も見えない景色が一面に広がっていた。潜入の俺には好都合であり、ゆっくりと身を屈かがめながら進んでいくと、古く朽ちた小屋を複数発見した。本当に昔は観光地だったんだとわかった。吸血鬼たちが使っている形跡はなく、ここを拠点にして調査をすることにした」
「その小屋がここってことか?そうだろジュリア」と小屋に指を指すクレイン
「そうみたいね(ここがお父さんとお母さんがであった場所なんだ)」
ジュリアは感慨深そうに小屋をじっと眺めていた。その顔をみてクレインは不思議に思ったが追求はせずにジュリアが言葉を発するまで待つことにした。数十秒後にジュリアは小屋の扉を開けた。
「窓から光がはいってホコリが凄いな。ゲホゲホ」
部屋には19年分のホコリが膜のようにテーブルや廊下に積もっていた。クレインは入るのも躊躇ったがジュリアが入るので仕方なくそろっと入っていく。部屋のなかは一言で言うと質素であった。中央に2人が向かい合って食事を出来るくらいのテーブルと椅子。窓のある方のすみには一人用のベッドがあり反対には2人用の食器やナイフが戸棚に入っていた。
「2人で食事をしてあの小さいベッドで寝てたのね。いい暮らしだったのかな?」
「えっ?誰が暮らしてたの?」
「ここは私のお母さんとお父さんが短い期間だけど暮らしていたところだよ」
「へーそうなんだ」
「なにその興味ない返事は」
「だって、他人の両親の出会いに興味ある方がおかしいよ。そうでしょ」
「確かにそうね。私もあんたの両親の出会いなんて興味ないし」
「そう言われると腹が立つけど僕も同じ。僕が知りたいのはこの島でどうやって吸血鬼を一体殺すかってこと。その話なら耳を傾けるよ」
「なら教えてあげる。いい相手がいるわよ」
小説をクレインに見せつけるジュリア。
「……まさかその本の続きに書いてあるのか!その相手のことが!」
「正解!今からそれを読んであげる」
ジュリアは小説の朗読を始めた。