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16話 人間は道具なんだ

説明会かも……。

 ジャンとジュリアはクレインを連れてメーリと長年住んでいる家に帰ってきた。


「メーリさん、ただいま」


「うわ、お酒臭い」


 メーリは昼間っからビンを片手にお酒を飲んでいた。顔を見ると結構酔っぱらっている。


「この人は本当に血伐隊の隊員なのか?」


 クレインは不安がってジャンに問う。


「本当さ。まぁー、俺たちの師匠は普段はこんな感じだけど剣術はすごいから。帰らないでね」


「帰りたくなったけど、僕は約束を守るタイプだから」


「それは良かった。まぁ、テーブルに腰をかけてよ。疲れただろ」


「君は気が利くタイプで嬉しいよ。そういう心遣いが社会に出て大事だとじいちゃんが言ってた」


 お酒を飲んでいるメーリの横にジャンが座り、メーリの正面にジュリア、ジュリアの隣にクレインが座った。クレインは座ると部屋のあちこちに目線をやる。そのクレインを見てジャンは話しかける。


「クレイン。君が思っていることを当ててやろう。外観は木造住宅でボロいけど、家の中は木造ではなくてなぜかコンクリートの二重構造だ。血伐隊の家だな……だろ?」


「う、うん。吸血鬼の用のカモフラージュ家屋は初めてだよ。まあそうか、血伐隊員がいるから金は腐るほどあるのか」


 テーブルにはお花の入った花瓶。今は枯れているが理由はメーリを見て察しているクレイン。食器も3人分以上ありどれも綺麗だ。野菜もたくさんある。


「クレインの家はどんな感じなの?」


「まあ、普通かな。俺は多分全て普通の家族だよ。普通を思い浮かべてくれ」


 その言葉を聞きメーリは首を横に何度かって答える。


「それは無理な話さ。……クレイン。こいつらは普通を知らない。何せ家族は2人だけで親というものも知らないし実家も知らない」


「……。そうですか、じゃあ、ここまで育てたのメーリさんですか?大変でしたよね」


 お酒をグビッと飲んでうなずきなが答える。


「お金はあるから楽勝と思ったけどそうでもなかったね。ジャンだけだったら良かったけどジュリアは難しい子ね。今もだけど」


「うーわ!傷ついた!悪かったですね。でも、この性格はあなたを見て育ったのが原因だから。そこは分かってくださいよ!」


 ジャンは2人のいつもの喧嘩が始まりそうだと感じて間にはいる。クレインもそれを感じたのか前に進める発言をする。


「僕はここに女の喧嘩を見に来たんじゃないですよ。吸血鬼の王女争奪戦とは何か聞きに来たんです!」


 メーリの視線はジュリアからクレインに移る。


「なんだ、まだ話してなかったのかい?」


「落ち着いて話した方がいいと思いまして。何せ僕たちはA級吸血鬼の死体を背負って帰ってきたんですから」


 それを聞くとビールを飲んでいたコップを勢いよくテーブルに置き、ジャンに向かって顔を近付けて大声で話す。


「それを早く言わんかバカもの!そっちのほうがそこのもやしより重要ではないか!」


「もやしって。ひ、ひどい」


 クレインのリアクションには誰も気づかない。


 メーリはそのまま立ち上がり吸血鬼の死体がある倉庫に走っていった。数秒間、無言の時間が流れた後にジャンは女王争奪戦について話しを始めようする。しかし、クレインが落ち込んでいることに気付き、フォローするがクレインの心には響かなかった。それでも話さないといけないので構うことなく話し始めた。


「クレイン、まず始めに何で吸血鬼が人間を襲うか分かるか?」


「うーん、そんなの人間の血があいつらにとって必要(食料)だからでしょ?」


「それもあるんだか、あいつらは別に人間の血を飲まなくても生きてはいけるんだ。俺たちと普通の食事をしてね」


「そうそう、あなたがしてる狩りと一緒よ。動物を殺さなくても私たちは生きていけるのとね」


「狩りとは一緒にしてほしくないよ。僕は動物に感謝してるし肉を食べてそのまま放置することなんてないから」


「ふーん、そう。どうでもいいけど」


「と言うことは、人間を殺すことが王女争奪戦に必要なのか?」


「そう言うこと。あいつらは18年に一度、選ばれた5人のA級吸血鬼達で人間を殺し、その数が多い吸血鬼が王女と結婚することが出来る戦いを開催するんだ」


「そんな勝手な戦いに僕たちを巻き込むなんて。でもさ、毎年というか毎日人は襲われてるけど」


「それは本当に遊びなんだ。たが今年は18年に一度の争奪戦が始まる。いや、始まってるんだ。クレインがまだ経験していない殺人が始まり、銀の剣を持つ者はほとんど殺されてしまう。銀の剣はあいつらにとって分かりやすいターゲットさ」


「ターゲット……。銀の剣は吸血鬼狩りの象徴なのに」


「象徴は嘘だ。象徴といっておけば人間はそれにすがり戦いをやめないと分かっている吸血鬼のね」


「それじゃ、僕が持っている弓も目印なんだね。貰ったときは嬉しかったのに……。ジャクソン家、いや国は血伐隊を生け贄として考えてるのか?」


「そうじゃない。銀の剣を人間に持たせるように言ったのは吸血鬼側でそれをジャクソン家が自分達の考えであると思わせてるだけだ」


「……そー言えば吸血鬼も弓のことを言っていた。何で知ってるのか疑問に思っていたんだ。と言うことはジャクソン家は吸血鬼の仲間なのか?」


「仲間ではない。脅されてるだけだ。それにジャクソン家は王族と吸血鬼の関係を受け継いだだけだ」


「全滅した王族と吸血鬼が繋がっていた?そうだとしたら俺たちは何で戦っているんだ?全滅した王族の(かたき)を打ちたいと志願しているものを多いのに」


「王族を悪く言う必要はない。王族のおかげ、今はジャクソン家のおかげで多くの命が救われている。でないとハンプ島なんてとっくに滅んでいるんだ。言っとくけど弓舞隊は吸血鬼からの要請で作られた組織だ。王女争奪戦というエンターテイメントを盛り上げるための。言わば生け贄さ」


 ジャンの話をクレインは重く受け止めている。前のめりに聞いていた話だか数時間前に入隊した血伐隊にそんな事情があったと聞いて、心に穴が空いた様子のクレイン。


 椅子に深く座り冷静な口調で話し始めた。


「そうなのか。血伐隊に入って吸血鬼を倒すと志している人間達にとって聞きたくない話だな」


 冷静な口調だが声に悲しみの感情があると感じたジャン。


「言わない方が良かったか?」


「いや、そうでもないよ。より吸血鬼を倒したくなった。エンターテイメントは面白くしてやろうとも思ったね。王女争奪戦に参加しているA級吸血鬼を倒して盛り上げてやろうってね」


 クレインは意外と切り替えは早い。それは落ち込んでいたら獲物に逃げられるからだ。反省は一人になったらと父に言われて育っていた。クレインの眼差しには強い意思が感じられた。


「よし、それならこれからの事を話そう」

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