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1話 少年の素振り

 10年前の1687年4月17日の深夜


 人々の心の支えであった王城が血で染まった。


 ()()()()()が大群で王城に攻め混み、王族を含む働く全ての人々を一人残らず惨殺した。この日、王の血筋は絶え人々は悲しみに暮れた。


「希望とはなんだ……」


「そんな言葉は……ない……」


 この時、人々は吸血鬼の恐ろしさを改めて実感した。


 時は進み10年たった現在ー1697年の春ー


 街の中心部から少し離れ、田園が広がる自然豊かな所に孤児院がある。静かな場所に外で遊ぶ孤児たちの元気な声が響き渡る。その響き渡る声の奥に進み部屋の中を覗くと、一人の少年が木刀を持ち素振りをしていた。


「491!492!493!」


 彼の名前はフォン・ジャン。10才である。


「ジャン、今日も素振り頑張ってるね」


 その言葉にジャンは笑顔でハキハキと答える。


「メーリさん、こんにちは」


 彼女はカー・メーリ(30)。孤児院の責任者でジャンを見つけ孤児院に入所させた女性である。ジャンはメーリを命の恩人であり、また武の師匠とも思っている。


「こんにちは、ジャン。今日は新しいお友だちを連れてきたのよ。仲良くしてやってね!キコ君挨拶しなさい」


 扉からヒョコっと頭を出したキコが不安そうな顔でジャンを見て、小さい声で挨拶した。


「こ、こんにちは。キコ6さいです。よろしく……おねがいします」


「こんにちは!キコ。まずは握手しよう!」


 ジャンはキコに近づき握手をした。手を握ったまま部屋の中に引き入れて、椅子に座わらせ話をするジャン。その様子を見たメーリはクスッと笑い部屋から出ていった。ジャンは子供たちのリーダーであり、新しく家族となった子供に一番に話しかけて緊張を解かせる役割もメーリから与えられていた。


「ジャンくん、どうかしたの……ですか?」


「いいよ、ジャンで。ここの子供はみんな兄弟だから敬語もなくていいよ、キコ」


「う、うん。わかった。ジャ、ジャン…」


「よし、それでいい。お互いを知るにはまずはここに来た理由だな。俺は孤児院の前にバスタオルにくるんだ状態で寝ていたらしい。キコお前は?」


「ぼくは母ちゃんが病気になって父ちゃんと暮らしてたけど、その父ちゃんが死んじゃってここにきたんだ」


「なんで死んだんだ?」


「父ちゃんは血伐隊(ちばつたい)だったんだ」


 その言葉を聞いて椅子から飛び上がりびっくりするジャン。


「すごいじゃないか!俺は血伐隊に入るために剣術を習ってるんだ!」


 その言葉を聞いてキコはいい顔をしなかった。理由は血伐隊という隊を快く思っていないからである。


 血伐隊とは吸血鬼を滅ぼすために誕生した隊であり、隊員は上限100人である。毎年70名は命を落としている危険な職業である。


「やめといたほうがいいよ。こんな天気の日に部屋のなか、で一人で遊んでる子はなれないって父ちゃんがいってたもん」


「……。俺も遊びたいけど今日は日差しが強い。日に当たりすぎるとすぐに熱中症になるんだ」


「……吸血鬼みたいだね」


 ジャンは椅子に座り直すと真剣な表情でキコを見て話す。


「うーん、どう言われても俺は世界を救いたいから血伐隊に入るさ。ここハンプ島の吸血鬼を討伐して、夜でも安心して過ごせる島にしたいんだ。そして海を渡り外の世界も見てみたい」


 吸血鬼はなぜかジャンの住んでいるハンプ島の人間を殺している。そのためハンプ島には誰も寄り付かず、国には見捨てられ他の国からは100年前の文明の島と呼ばれている。その歴史をジャンはメーリから聞いていた。


「ぼくはハンプ島の夜の道を散歩してみたいな」


「ハハァ!任せとけ!それに吸血鬼がいなくなったらお前に吸血鬼みたいだねなんて言われなくなるからな。ハハハ!」


 ニカッと笑ってジャンはキコを見る。


「ジャンなら僕のもう一つの夢を叶えてくれるかもね。あ、でもそれは母ちゃんが叶えてくれるからいいか」


「母ちゃん病気なんだろ?」


「もうすぐ治るからそれまではここにいろって母ちゃんがいってた」


「そうか、楽しみだな。外で遊んできなよ。外は気持ちいいぜ!」


「うん、そうするよ」と言い、キコは部屋を出ていき遊びにいく。


 数分後、メーリが再びジャンの所を訪れた。


「ジャン、キコ君に何かいいアドバイスでもしたの」


「いいや、別にしてないですよ。でも将来の約束をしました。楽しみです」


「そう、よかったわね。私はキコ君に話したいことあるから外に行ってくるわね」


「‥‥‥メーリさん」


「何?」


「どこか怪我をされてるんですか?少しだけですけど血の臭いがするから」


「‥‥‥ジャン、そういうことは女性に言わないほうがいいわよ」


 ジャンはよく分からなかったが「はい」と返事をした。


 夜9時 国の人々は家の中で過ごしている。家の中にいれば吸血鬼に襲われることはないからである。ジャンとキコも同様で6人部屋の隣同士、ベッドでろうそくの火を間に灯しながら小さな声で話していた。


「キコ、そういえばお前のもう一つの夢ってなんなんだ?」


「言えないけど、すごくいい夢だよ。こわいけど」


 その発言にジャンは首をかしげ、その後も話しかけるがキコはこれ以上のことは言わずに疲れていたのか眠ってしまった。


 数時間後の深夜、ジャンは物音を感じて目が覚めた。小さな物音でも起きられるトレーニングをメーリとしていた。仰向けになりながら周囲を見渡すと入り口の扉が開いていた。変だなと思い起き上がると暗闇に目が慣れてキコがいなくなってることに気づいた。


「‥‥‥キコはトイレか。トイレの扉が怖くて開けられないかもしれないから見に行ってみるか」


 ジャンはお節介な一面もあり、自分が関われば解決できると思っている節もある。


 トイレはジャンのいる部屋から左に四部屋進んだところにあり玄関扉のすぐ近くにある。トイレの扉を開けると月明かりに照らされてキコの姿が見えた。


「キコ、何してる。寝ぼけてるのか」


 キコはトイレの窓を見ていたが名前を呼ばれてジャンの方を向く。その顔には涙を浮かべていた。


「ジャン、ぼくは窓を開けるんだ。ぼくは父ちゃんの所にいくよ。これがぼくのもう一つの夢だよ」


「なにを言って‥‥‥」


 キコは勢い良く窓を開けるとジャンは一気に、威圧された寒さを感じた。


「さぁ、吸血鬼さん。ぼくを噛んで殺してくれ」


「ありがとうキコ。子供の血を飲むのは久しぶりだ」


 吸血鬼がキコの目の前に現れた。

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