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注文の多いねこレス  作者: 担当職員R
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注文の多いねこレス 前

 男は、飢えていた。

その男は財団に就職し、勤務先のサイト■■にて業務に励みながら日々の生活を充実させていた。何か特別な役職についている訳でもなかったが、男は人一倍の努力をする職員であり、その上優れたコミュニケーション能力を持ち合わせている。使い捨てであるDクラス職員とでさえ打ち解け、仲睦まじく会話をする程だ。彼の信頼は厚く、周りには常に自然と人が集まっていた。これから先もこんな日常が続くだろうと男は思っていた。が、しかしそんな彼に神は非情な現実を突きつけた。

 サイト■■で収容違反が起こったのは数日前の事である。あるオブジェクトが実験中のミスにより収容違反を起こし、サイトを破壊。その事象によりほかのオブジェクトまでもが収容違反を起こすという負の連鎖が起こり、サイト■■は人員、施設共に壊滅的な被害を与えた。男はその現場に居合わせたものの、命からがらサイトを脱出。だが、たった一人で。死傷者は不明、後にサイト■■は封鎖された。

 あれから数日が立った。男はもうどこかも分からない道をひたすら歩いていた。脱出に使った車両の中にあった食糧は底を尽き、水も残り僅かになっていた。

「・・・あぁ、クソっ。このままだとぶっ倒れちまいそうな勢いだ。水ももう無くなる。死んじまう。…あそこでみんなと一緒に死んどきゃ良かったか。俺は一体何のために歩いてるんだ。」

男は考えるたびに分からなくなった。既に視界はぼやけて見えている。

「眼を閉じちまえば簡単に逝けそうだな、こりゃ。」

男がそんなことをぼやいていると、道が突然開けたのだった。

「何だ、ここ」

そこは何かの施設のようだった。所々に未使用のコンテナが無造作に置かれている。

「他のサイトにでもついたのか...?」

男が周囲を見回していると、コンテナ群の中に一際目立つ何かが建っていた。その見た目は西洋のレストランを彷彿とさせるようなものだった。男は最初は不思議に思ったが「もしかしたら、ここで何か食べさせてくれるのかも知れない」と思い、その怪しげな建物へと入っていった。




 男が店の中に入る。その中は無造作にコンテナが建っているだけの外とは違い、レンガ造りの壁や煌びやかなランプなどまるで別世界にでも来たかのように錯覚させるほどだった。

「まさかこんなところにこんなに洒落た店があったなんて...。」

男は辺りを見渡しながら歩いていた。豪華な装飾に圧倒されていると、男はある看板を発見する。そこには、

「どなたも遠慮せずにお入りください」と書かれていた。少し違和感を覚えたものの、飢えた体と脳で考えている暇はなかった。男は先を進んだ。

男は、ある場所に辿り着き、その足を止めた。そこにはまたしても小さな看板と、何やら高そうなスーツが綺麗に整えられて置かれていた。看板には小さな文字でこう記されていた。

「さぞお疲れのことでしょう。どうぞ、シャワーを浴びていってください。着替えも用意してあります」

ふと右のほうを見るとそこにはシャワー室があった。最初は不思議に思ったが、そんな考えはすぐに遠く彼方に消えていった。数日間ろくにシャワーも浴びることのできなかった男にとってはまさに救いだった。男は数日ぶりのシャワーをただただ感謝して浴びた。

シャワーを浴び終えると元々来ていた衣服がどこかに消えていたのだった。とりあえずスーツに着替えて先に進むことにしたのだった。男は衣服の行方の事ばかりを考えて歩き進めていった。

少し長めの廊下を歩き続けていくとまた同じように看板があった。

「香水をつけ、髪を整えてください」

随分と身だしなみを気にするのだなと男は思ったが、高級店なのだろうと思い香水を吹きかけ、備えてあったくしで髪をセットした。

香水からは仄かに柑橘の香りがした。

男はその長い廊下を歩きながらずっと考えていた。

「何か...何かがおかしい。一体何なんだ。この感覚の正体は…」

男がそう考えながら歩いていると、また目の前に看板が現れた。そしてそこに書かれていた内容を見て、謎の感覚の正体を掴んだ。

「クリームを塗って進んでください」

既視感だ。男は背筋が凍りつくような思いだった。

「今俺が体験していること。今の俺の状況と全く同じ話を聞いたことがある。そして、この先には…」

男はだんだん怖くなってきた。逃げ出したかった。先に進むのが怖かった。


......男は先を進んだ。



「料理はもうすぐできます。」

男は死を覚悟した。あのサイトで死んでいった仲間たちの元へ行こう。そう思ったのだ。扉の向こうにはいったい何があるのか、何が待ち構えているのかはわからない。ただ、この先に行けば待っているのは…。

男は家族の事を思い浮かべた。父母、兄弟、祖母...。

「あぁ、ごめんな、俺、何にもできなかったよ。親不孝者でごめんな」

死ぬのは怖い。だが、覚悟を決めた以上後退は許されない。今までだってそうだった。

男は、様々な思いが交差する中で、向こうへと繋がる大きな扉を開けたのだった......。



「今からそっちへ行くぞ、みんな」









パーンパーン。

どこからともなく鳴り響いたその音に男は驚いた。音のしたほうを向くと、そこには既に空になって口から煙を出しているクラッカーを持って立っているギャルソン姿の「彼女」の姿があった。

そして彼女は男にこう言った。


「ようこそ、ねこのSCPレストランへ。そして、おめでとうございます。あなたが当レストランの記念すべき百人目のお客様です」


男はそんな言葉を聞いて、緊張が解けた。そして、安堵した。


「っハハッ。なんだ、あなたの店だったのか。久しぶりだな、ねこさん。」

                                                  

続く

お久しぶりです。ねこさんが小説用のタグを作ってくださったので、新ストーリーを前後2編でお送りいたします。拙い文章ですが読んでいただけると幸いです。

 今回はどこかで聞いたことがあるようなお話の構成をパクリスペクト(おい)しました。


※この小説はSCP財団のSCP-040-JP(http://scp-jp.wikidot.com/scp-040-jp)を中心としたSCP二次創作SSになります。

この作品は、SCP-040-JP「ねこですよろしくおねがいします」に対して独自の解釈が有ります。

このコンテンツは、クリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンス(http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/deed.ja)の元で利用可能です。


またこの小説は、YouTubeチャンネル「ねこのSCPレストラン」の応援小説です。

「ねこのSCPレストラン」に対しての独自の解釈が多く含まれています。

「ねこのSCPレストラン」チャンネル

https://www.youtube.com/channel/UCsUE9GXFRsb1ISA2PE0q96A

「ねこのSCPレストラン」Twitter

@040_jp_resto ‬

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