ルイスのトレーニング法
「さあ、起きなさい。アシェル!」
そんなルイスの声が聞こえた瞬間、毛布を剥ぎ取られた。
「も、もう……?」
僕は今にも瞑ってしまいそうな目を擦りながら訊いた。
「当たり前でしょ。時間が必要なんだから。早く準備よ」
「わ、分かったよ」
昨日言われた通り朝は早かった。
まだ完璧に日が登っていないくらいの時間帯だ。
でもルイスにあそこまで言われたらちゃんと準備するしかなかった。
「で、どんなトレーニングするの?」
準備をして外に出た僕は、腕を組んでいるルイスに訊いた。
「まずは筋肉をつけるのと、体力をつけるために走り込みと、筋肉トレーニングね」
「そ、そんな、もっと他にないの……?」
ドラゴンが考えるトレーニングは少し気になってた。でもありきたりなことばかりだったため落胆してしまった。
「文句言わない! これが一番いい方法よ。アシェルは私が言うトレーニングの内容が完璧にやれるまで、これをやってもらうからね」
「わ、分かったよ……」
ルイスはそう言って紙を渡してきた。僕は渋々返事して、練習内容が書いているであろう紙を受け取った。
『一つ目。宿屋からギルドまでを五往復……』
一つ目の内容だけで、見るのをやめたくなるレベルだった。
ここからギルドまでは、歩いたら片道15分くらいの距離だ。そこまで遠くはないけど五往復もなんて……。
「これ、しんどすぎないかな?」
「これくらい序の口よ。——さ、最初は走り込みよ」
「う、うん」
ルイスの強引さに気後れして控えめの返事になってしまった。しかし、ルイスの言っていることは信じれるので、ついていくことにした。
「はぁ……はぁ……。もう……無理……」
三往復目が終わったくらいのタイミングで、僕は宿屋の前で倒れた。
「ちょっと流石に早いわよ! 基礎能力がスキルで上がってるってのに」 「早すぎるよ……」
ルイスは驚いていたが、仕方がないと思う。
僕は一言だけで小さく返して、顔を地面にくっつけた。口の中に土が入ってくるけど、もう気にならない。
「早すぎるってそれは無いわよ。往復で七分は切りなさいよ」
「そんなこと……言われても……」
普通に歩いたら一往復で三十分もかかる距離だ。七分どころか十分も切れるか分からないよ。
「まぁ、しょうがないわね。じゃあ次は筋肉トレーニングよ」
僕の姿を見たルイスは、妥協するようにそう言った。
「ま、まだあるの……」
「大丈夫。休憩入れるから」
「どれくらい?」
「そうねー。……五分くらい?」
「…………」
僕はもう呟くことすらできなくなっていった。
その後もきついかったがなんとか乗り切り、その日のトレーニングは終わりになった。
「もう動けないよ……」
僕はご飯を食べながらそう呟いた。今日初めてのご飯だけど、フォークを使う手すらもまともに動かないから、食べるスピードがゆっくりになる。
「何よ。情けないわね。——って言いたいところだけど」
僕の弱気な発言に怒るかと思いきや、違ったみたいだった。
「一日目でここまでできたら充分ね」
なんとルイスは褒めてくれた。
「そうなの?」
嬉しかったが疑問の方が大きく、思わず訊いてしまった。
「ええ。ここまで出来るとは思ってなかったし」
「でも情けないとか色々言ってた気がするけど」
「ああやって言ったらもっとやるでしょ。だからよ」
「なるほどね」
ルイスは色々考えて厳しくやってたみたいだった。
「明日もまたあるんだしゆっくり休んでなさい。今日は私が稼いでおくから」
「そんな! 悪いよ。それにルイスも同じことやってたんだし疲れてるでしょ」
疲れているのは本当だが、ルイスも疲れてるだろうし一人で仕事を行かせるわけにはいかない。
「大丈夫よ。これくらいでバテる程ヤワじゃ無いし」
「じゃあせめて僕もついて行くよ。1人で行かせるのは悪いし」
「そんなバテバテで何が出来るの?」
「そ、それは……」
確かに、ついて行ったらルイスの足手まといになるかもしれない。
「それに今、この宿屋に住んだり、今このご飯を食べたり出来てるのはアシェルのお金のお陰だし」
ルイスはそう言ってオムレツを口の中に放り込んでいた。
「それは……否定しないけど」
僕はそう言ってパンをかじる。
「でしょ? だから今日一日は私一人で、ね?」
「わ、分かったよ。でも明日からは」
「分かってるわよ」
「じゃあ、しょうがないね。ルイスは頑固だし」
ルイスもこう言ってるし休ませてもらおう。実を言うと、見栄を張ってただけで、仕事に行ける気力なんてほとんどないし。
「頑固さならアシェルには負けるわよ」
「そうかな?」
「そうよ」
ルイスは聞き返した僕に即答した後、最後のパンを口の中に入れて
「それじゃあ、今日はゆっくりするのよ?」
「うん」
僕に忠告をした後、宿屋を出て行った。
「ふう。じゃあ、今日は休むか」
ルイスを見送った後、ご飯を早々に切り上げ部屋で休むことにした。
部屋に戻ると倒れ込むようにベットに入り、そのまま目蓋を閉じた。
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