エドルと決闘とギルドマスター
長めです!
勝負の内容は普通に決闘ということになった。そのためギルドの近くにある決闘場に行く事になった。
どっちかが降参するか、気を失うかで勝敗を決めるらしい。
「じゃあ、行くぞアシェル!」
エドルはそう言って鞘から剣を取り出してこちらへ向かってきた。
焦ったが勝負の前にルイスに言われた事をずっと頭の中に入っていた。
それのおかげで落ち着くことができた。
「うおおー!」
エドルがそんな雄叫びをあげながらこっちへ向かってくる。
「うわっ」
僕はそれをビビりながも避ける事に成功した。
***
「時間がないから簡単に説明するわね」
「うん」
決闘の前ルイスがアドバイスをしてくれるとこになった。
「【神器召喚】の今唯一使える一つの効果は自身の基礎能力と魔力量の底上げよ。これだけでも十分戦えるレベルにはなるわ」
「へー」
「まあ、アシェルは元が強くないから少し苦戦するかもだけど」
「ははは……」
***
そんな事を言われていたのだ。【神器召喚】というスキルの名前でなんで基礎能力とかが上がるかは分からないけど、助かった。
「くそっ! なんで当たらねえ」
そう言いながらやけくそに攻撃してくるエドル。
最初は剣にビビりながらだったけど、次第に慣れてきたので反撃する事にした。
エドルが振るってくる剣を避けて拳が届く距離まで近づいて一発のパンチを入れた。
「はああー!」
「グヘッ!」
その一発でエドルは気を失ってしまった。
「えっ……」
一発で気絶させて、思わず自分の拳を見て呆然と突っ立っていた。
しかし、すぐに現実を受け入れることができた。エドルに勝った。
「やった、やったー!」
「まぁ当たり前よね」
僕が喜んでいるところに、ルイスが自慢げな顔をしながらこちらへ歩いてきた。
「ルイスのおかげだよ。ありがとー!」
嬉しさのあまり僕はルイスに飛びつこうとした。しかし
「だから大袈裟よ」
ルイスはそう言って「ヒョイ」と横に移動して、簡単に避けてしまった。
「あはは。でも感謝してるのは本当だよ」
「もういいわ……。——それよりこれってもうギルドに戻っていいの?」
ルイスは少し下を向いて呆れていた。しかしすぐに元通りになってそう訊いてきた。
「いや、倒れた方に回復魔法をかけてもらうのを待たないと」
「面倒ね。私がかけたらダメなの?」
「別にいいけど。いいの?」
あんなに嫌ってた相手に回復魔法をかけるなんていいのかな、と思ったけど
「別にいいわよ。あんな奴に時間を消耗されたくないし」
回復魔法をかけるくらいは何も思わないらしい。
ルイスはそう言ってエドルの方へ近づいた。僕もそれに付いて行った。
ルイスは何も呟く事なく、手をかざすだけで魔法を使っていた。
「無詠唱で使えるの?」
「簡単な魔法だけよ」
かっこいいな。僕もそんな風に魔法を使ってみたいな。
「うう……」
魔法が発動するとエドルが目を覚ました。
「これでいいのよね?」
「うん」
「じゃあ行くわよ」
「分かった!」
そう言ってエドルに背を向けた時だった。
「何終わった気になってんだよ!」
「えっ!」
エドルの反抗的な声が聞こえたため、後ろを振り返ると剣を持って向かってくるエドルがいた。
近くすぎて間に合わない、そう思って反射的に目を瞑り頭を手で守るように動いた。
……。
…………。
「あれ?」
どれだけ経っても攻撃が来ない。
不思議に思った僕が恐る恐る目を開けてみると、エドルは決闘場の端の方まで飛ばされていた。
そして横には「パンパン」と手をはたいているルイス。
「もしかして……」
「うん、どうかした?」
「ルイスがやったの?」
「ええ」
「…………」
あの短時間であんな所まで飛ばすなんて、凄すぎだ。
「ちょっとこっちに来てくれるか」
ルイスの強さに呆けていると誰かに話しかけられた。
「マヤさん。……とギ、ギルドマスター⁉︎」
なんと、マヤさんと、ギルドで一番偉い人だった。
***
僕たちはギルドマスターに呼ばれ、ギルドの二階にある客室の様なところに居た。
「な、なんの様でしょうか?」
僕は怖がりながらそう訊いた。ギルドマスターに呼ばれるなど、余程のことがない限り起きないからだ。
「そんなにかしこまるな。もっと普通でいいぞ」
僕の態度を見兼ねてか、ギルドマスターはそう言ってくれた。
「は、はい」
「じゃあ話すぞ」
「——その前に」
ギルドマスターが話そうとしているのにルイスは魔を差した
「薬草を引き取ってくれるかしら? 先に仕事を完了しておきたいし」
「う、うん……」
そう言って僕に薬草を出させる様に指示してきた。
僕は言われるがままに薬草を取り出した。
「分かった。マヤ。薬草を見てやれ」
「はい!」
そう言ってマヤさんはこの部屋から出て行った。
「これで良いか?」
「ええ」
「それでは始めるぞ」
そう言ってルイスは納得したらしく、ギルドマスターの話が始まった。
「まず自己紹介をしなくてはな。俺はリアム・カタルシスと言う」
「ぼ、僕はアシェル・ナーベラルと言います!」
「ルイスよ」
「ルイス……だと……」
ルイスの名前を聞いた瞬間、リアムさんは固まっていた。
「どうかした?」
「いや、なんでもない」
その後リアムさんは何かを呟いて話に戻った。
「まずアシェルはエドルに勝った。そのため、せめてEランクにはランクをあげようと思う」
「本当ですか!」
「ああ。Dランクの男に勝ったんだ。それで文句を言う奴はいないだろう」
「あ、ありがとうございます!」
冒険者になって五年。ようやく、ようやくFランクから抜け出せた……。
僕がその喜びに体を震わせていると
「それだけで呼んだんじゃないでしょ?」
と、ルイスがリアムさんに訊いていた。
「ああ、二つほど訊きたいことがあったのでな」
一瞬ルイスの方を見た後、僕の方を見て言ってきた。
いつまでも喜んでるわけにもいかないので、落ち着くため、一度大きく深呼吸をした後、話を聞いた。
「なんでしょう?」
「まず、ルイスとどこで会ったのだ。あり得ないほどの魔力を帯びている」
「それは……」
ガチャというものから出てきました! なんて言えるはずもなく、一度ルイスの方を見てみる。
すると、ルイスは胸に拳を当てて「私に任せなさい」的な事を伝えてきた。
「森で倒れてるところを介抱してもらったのよ」
「それだけか?」
「ええ。私もどこに行けば良いか分からなくなったし、アシェルについて来たの」
「なるほど……。分かった」
リアムさんは、納得いってなさそうな顔をしていたが、すぐに自分言いつける様にそう返事していた。
「もう一つ。アシェルについてだ」
「僕、ですか?」
「ああ。ギルド登録時はスキル無しと書いてあったが、あれはスキル無しの動きではなかろう」
「そうでしょうか?」
僕は笑うことしかできず、「ははは……」と不自然に笑いながら返した。
「スキルがあるなら今からでも書いてくれ」
「わ、分かりました」
そう言ってペンと紙を渡された。
「スキル【神器召喚】と」
僕がそうやって書くと、
「それは本当なのか⁉︎」
リアムさんは立ち上がり大きな声を上げた。
「え、ええ。まぁ」
ルイスといいリアムさんといいこの驚き方は尋常じゃないよな。
(絶対色々言われるよな。なんて説明しよう)
そう思っているとマヤさんがすごい勢いで戻って来た。
「すみません!」
「なんだ? 今大事な話をしているんだ」
リアムさんがそう言うと、マヤさんは乱れていた息を整えて言った。
「アシェルくんが持ってきた薬草の質が良すぎるんです! こんなに質のいいもの森の奥じゃないと」
そう言って薬草の一部をリアムさんに見せた。
「うーん……。確かにこれは質が良すぎる」
正しくはルイスが集めてきたんだけど、……まあいいか。
「これと一緒に、さっきの事も説明してもらおうか」
頭を捻らせて唸っていたリアムさんが問い詰める様に言ってきた。
「分かりました」
どうしようか迷ったが、話すことにした。もちろん、ガチャの事は内緒だけど。
「えっと……。薬草はルイスが見つけてくれたんです。介抱してくれたお礼にって」
「なるほどな。それなら納得だ」
リアムさんはそう言って頷いた。
「それじゃあスキルはどういう事だ?」
「スキルはですね……」
薬草は誤魔化せたけど、スキルの事に関しては何て説明したら良いか分からず言い詰まっていた。
「それって絶対に言わなきゃいけない事なの?」
悩んでいた僕の横からそんな声が聞こえた。その声はもちろんルイスの声だった。
「別に、絶対という訳では無いが……」
ルイスの言葉に対して、何故か素直に引き下がるリアムさん。
「それじゃあ、良いわよね!」
「あ、ああ……」
流されるがままスキルの話が終わった。
「もう訊きたいことはない?」
スキルの話を強引に終わらせたルイスが、そう訊いていた。
「ああ。今聞きたいことは聞けたぞ」
「なら、一個お願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「私を冒険者として登録させてくれないかしら。ランクは出来るだけアシェルと一緒がいいわね」
ルイスの注文は結構厳しいものだった。冒険者登録は簡単だけど、一個上からとなると話は別だ。
そのギルドのギルドマスターと闘って、力を見せなければならない。
そしてここのギルドマスターのリアムさんは、元々Aランク冒険者だったらしい。
そのため希望する人はまずいない。
「……ああ。分かった。アシェルと同じEランク冒険者として始めるのを認める。明日にまたギルドに来ると良い」
「「えっ……!」」
その場で声を出して驚いたのは僕とマヤさんだった。
こんな異例認めてもいいのか。そこに驚きを隠せなかった。
「そんな簡単にいいの?」
ルイスも少し驚いていたらしい。
「ルイスから溢れ出す魔力を見ればわかる。エドルは気づかなかったらしいが、これは人知を超えている」
そうやって承諾した理由を説明していった。そして説明が大体終わると「あと」と付け足してきた。
「アシェル。お前も魔力量が確実に多くなっている。それもあのスキルのおかげなのだろうな」
「は、はい! そうだと思います」
「これからの活躍を期待している」
「あ、ありがとうございます!」
なんとあのギルドマスターにこんな事を言われる日が来るなんて……。
「それじゃあそろそろ終わりかしら」
「そうだな。俺にも色々やらなくてはいけないことがあるしな」
「それでは失礼します」
別れの挨拶をして、部屋から出ようと扉を開けた。
「最後に一つだけ良いか」
部屋から出るタイミングでリアムさんにそんな事を言われた。目線の先はルイスだった。
「ルイス。お前のフルネームを教えてくれないか?」
「ルイス・ドーラよ」
「……! ……分かった。ありがとうではまた」
「ええ」
「はい!」
リアムさんは驚いていたが、すぐに取り戻し、別れを告げていた。僕らもそれに対して軽く返事をしてから部屋を出た。
***
リアムは二人が部屋から出て行った後、呟いていた。
「ルイス・ドーラ。間違いない。あいつは昔に居た天才の名前……」
「知ってるんですか?」
「知ってるさ。まだドラゴンが沢山居た時だ。ギルドに所属していて、100体ものドラゴンを討伐したとされている」
「ひゃっ……」
リアムの言葉を聞いたマヤは言葉を失っていた。
「でもなんでそんな昔の人物がここに現れたんでしょうか?」
「……それについてはまだ分からんな。とにかくだ。マヤ、あの二人の監視をしておいてもらえるか」
「は、はい!」
こうしてアシェルと、ルイスは意図せず目をつけられる事になってしまった。
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