ルイスと会話する
「じゃあ僕から聞いてもいい?」
「ええ」
「じゃあ、ルイスさん——」
「ルイスでいいわよ。さん付けは気持ち悪いし」
話を止めてルイスさん——いやルイスは自分の呼び方を変えるように言ってきた。
嫌がる呼び方をするのは良くないよね。そのため言い換えることにした。
「分かった。じゃあルイスはなんでこのカプセルから出てきたの?」
そう言って僕はルイスが出てきたカプセルを見せた。
「多分賢者様に閉じ込められたんじゃないかしら?」
「えっとその、賢者様って?」
「そこからなのね……」
僕の質問にルイスは「はぁ」とため息をついた。
「賢者様っていうのは……。説明が難しいわね。……まあとにかく凄い人よ……」
「なんだか苦しそうに話すね」
ルイスの話し方が気になった為思わず訊いた。
「それはしょうがないわよ。私賢者様に拷問紛いのことされてたし」
「ど、どうして……」
ルイスは変わらず平然と話すけど、結構重い話になってる気がする。
「それは私が村を襲ったからよ。そこに丁度賢者様がいたの」
「えっ! 人がドラゴンを倒したの!」
「ええ。それも一撃で」
「…………」
驚きすぎて言葉が出なかった。
「まぁ。とにかくそれで捕まって色々されたの。——あっ! エロいことはされてないわよ。賢者様は女の人だし」
「心配してる事はそんな事じゃ無いよ。……えっ! 賢者様って女の人だったの?」
「ええ。そうよ」
強いと拷問って二つの要素があったから、怖そうな男の人を想像していた。
「他に聞きたいことはある?」
話が脱線しそうになっていたところで、ルイス強引に戻してきた。
僕もそれに賛成するように次の質問をした。
「えっとこのガチャの事何か知ってる?」
「知らないと思うわ。いや……ちょっと待ってよ。何か言ってたような。……そう! 危険なスキルや生き物を閉じ込めるカプセルを作ったって言ってたわ」
「じゃあ、これがその危険なカプセルって事?」
「そうなんじゃないの」
へー。……ってことは!
「ルイスって危険な生き物認定されてたんだね」
「そ、それはしょうがないでしょ! 人里を襲ったんだし」
「じゃあずっと拷問されてたの?」
「いいや。途中からは賢者様のお手伝いをしてたわね」
それは良かったと少し安堵した。ずっと拷問なんかされてたら精神的に死んでしまいそうだし。
「それじゃあどうして出てきた時あんなに怯えてたの? 途中からは無くなったんでしょ?」
敢えて何がとは言わなかった。言いにくいこともあるだろうと思ったし、何より自分が言いたくなかったからだ。
「そうね。一番の要因はあんた——アシェルの魔力の質が全盛期の賢者様くらい良い物だからかな」
と、ルイスは言い放った。僕と、その賢者様の魔力の質が同じ……。そんな事本当にあるのだろうか。信じられなかった。
僕は無能力者なんだから。……あれ? 何か忘れてるような……。
「あ! そうだ。思い出した!」
「な、なによ」
どうして僕はこんな大切な事を忘れてたんだろう。
「多分僕の魔力の質がいいのはこのガチャで、出てきた【神器召喚】ってスキルのおかげだと思う。それまで無能力者だったから。それ以外に考えられない……と思う」
頭で整理する前に言葉にした為伝わっただろうか。
そう思ったのも束の間ルイスは驚いたようにこちらを見てきた。
「さっき【神器召喚】って言ったわよね!」
そしてこちらを向いたルイスは僕の肩をすごい勢いで揺らしながら、そう言ってきた。
「し、知ってるの?」
僕はびっくりして思わず返す声が小さくなってしまった。
「当たり前よ! 最強スキルの一つになるんだから」
「ええっ! そうなの!」
「そうよ。賢者様もそのスキルのお陰でここまで強くなれたんだから」
「少し詳しく教えて頂けると……」
「はぁ。しょうがないわね。でも——」
そう言ってルイスは指を上に伸ばしていた。そこを見てみると木々に囲まれた中少しだけ空が見えた。
「もう日も暮れそうだけど大丈夫なの?」
ルイスの言う通り空は赤くなっており太陽が沈みそうな事を表していた。
「確かに。話は後で出来るし、取り敢えずギルドに戻らないと。クエストが……って薬草まだ取ってない!」
薬草の存在について完璧に忘れていた。
「はぁ……? 薬草?」
「そう。持って帰らないとギルドから違約金が取られちゃうんだ」
「なるほどね。ま、それくらい楽勝ね」
そう言ったルイスはいつの間にかここにはいなかった。——と思ったらほんの数秒で戻ってきた。
「これで良いかしら」
たった数秒だったのに、手には溢れんばかりの薬草が盛られていた。
「すごいよルイス! どこからこんな量とってきたの?」
「そんなことより時間がないんでしょ」
「そうなんだけどもう一つお願いが……」
僕はそう言って頭を軽く下げた。
「なによ」
「ここがどこかわからないから、ルイス魔法とかで行けないかなって」
「……時間もないし突っ込まないわよ」
そう言ってルイスは何かを唱え始めた。
突っ込む要素あったかな。迷惑はかけてる自覚はあるけど。
そう思っているとルイスはドラゴンの姿に変身した。
「これで背中に乗れば着くでしょ」
「うわー! 乗っていいの?」
「そうじゃなきゃどうやって行くのよ。早くして」
「分かった!」
まさかドラゴンの背中に乗れる日が来るなんて思ってもなかった。
思った通り凄いスピードで飛んで行った。これなら直ぐに着く。
しかし、それでも少しはかかるので今のうちに少しでも訊きたい事を訊く事にした。
「ねぇ。ちょっとした疑問なんだけど、いいかな?」
「なに?」
「ドラゴンの時ってどうやって喋ってるのかなって」
いつもより大きな声で喋っている為、喋り方がゆっくりになる。
でもそのお陰でちゃんと聞こえてるみたいだ。
「どうやってって言われても……。魔法みたいな物なのかしらね。どうやって話せるようになったか覚えてないし」
「へー、そうなんだ」
ちょっとした疑問にルイスは普通に答えてくれる。聞かれちゃ駄目な事とかないのかな。
しかし聞きたい事は山ほどあった為、質問をどんどんしていった。
そして、街に近くなってきた頃ルイスにここから歩くように頼んだ。
ドラゴンが見えたら色々問題になりそうだし。
『ガサッ』
ルイスから降りて直ぐ、草むらの方から物音がした。
その途端ルイスの雰囲気が変わった。臨戦態勢に入ったのだろうと察した。
僕も気をつけようと思って物音がした方を見ていると、
「グエエー」
と、異様な雄叫びを上げてゴブリンが数匹出てきた。
僕は驚いて思わずルイスの後ろに隠れてしまった。
「ちょっと。ゴブリン如きで情けないわね」
「しょ、しょうがないじゃん! 僕ゴブリンですら勝てないんだから」
ゴブリンは魔物の中でも最弱と言われている。それにすら勝てないのに今まで良く冒険者を続けれたと、改めて思った。
「別にゴブリンくらい楽勝よ」
そう言ってルイスはゴブリンの方を睨んだ。その瞬間、ゴブリンは何かに怯えるように逃げていった。
「す、凄いね……」
僕は放心状態になりながらそうルイスを褒めた。
「これくらい楽勝よ。さ、早く行くわよ」
そう言ってルイスは僕を置いて行くような速さで歩いて行った。
「ちょっと待ってよー」
僕は置いていかれそうになったので急いでルイスの後を追いかけた。
それからは、ルイスと会話をしながら街を目指すことになった。
魔物が出てもルイスがいれば安心だという、男として情けない考えだけど……。
「ルイスは人間として振る舞って欲しいんだけどいいかな?」
「それくらい楽勝よ。賢者様といた時もそうしてたし」
そう言ってルイスは快く引き受けてくれた。
人間の僕なんかの言う事を「はいはい」聞くのはビックリした。賢者様って人はそんなに怖かったのかな。
ルイスの態度から賢者様のことをもっと知りたいと思うようになった。
そして街に着いた。
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