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<ホド編 第2章> 80.クム・クラーヴェ その2

<レヴルストラ以外の本話の登場人物>

【ニル・ゼント】:次期元老院最高議長と噂される人物で、謎多き存在。

【ザザナール】:ニル・ゼントの配下の剣士 昔は冒険者でレッドダイヤモンド級を超えるレベルだったが、その後殺戮への快楽に目覚め悪に堕ちた。その後ニル・ゼントに拾われ用心棒兼ゼントの護衛部隊の隊長を務めている。

【カヤク】:元三足烏(サンズウー)の分隊長だったが、エントワによって人生を変えられたことで改心し、現在はレヴルストラの見習いメンバーとして信用をえるために三足烏(サンズウー)に潜入し情報収集に努めている。

【ニトロ】:元三足烏(サンズウー)カヤク隊の隊員だったが、カヤクと共に改心しレヴルストラ見習いメンバーとしてカヤクと行動を共にしている。



80.クム・クラーヴェ その2


 ニル・ゼントはゆっくりと立ち上がり、深々と一礼した。

 その悠然たる姿に仮想空間の姿にも関わらずニルヴァーナの7人以外の評価者たちは畏まってしまった。

 さらにニル・ゼントから発せられる緊張感を漂わせるオーラで皆、彼から目を離せない状態となっていた。

 ゆっくりと丁寧に頭を上げていく所作は美しく、今度は皆、見惚れてしまう感覚に陥っていた。

 そして優しい笑みをみせつつゆっくりと落ち着いた口調で話し始めた。


 「皆様、ホド中央元老院議員のニル・ゼントでございます。此度はホド中央元老院最高議長候補者に選出頂き誠にありがとうございます。そして、この場を借りて前最高議長であられたガレム・アセドー様へのご冥福をお祈り申し上げたいと思います。短い間ではありましたが、前最高議長は私にニルヴァーナの理念や元老院の果たすべき役割をご教示頂いたのはもちろんのこと、元老院の運営と民衆にどのような指導力を発揮すれば元老院を支持してもらえるのかという帝王道にも近しい教育の機会を頂き、これまで切磋琢磨して参りました。ゆえに前最高議長には感謝しかございません。そのご意志を引き継ぎ、そしてさらに発展させることがホド中央元老院次期最高議長に求められる使命だと私は考えております」


 ニル・ゼントは身振り手振りを巧みに使い、そして話し方も緩急強弱といった抑揚をつけながら聞き手を惹きつける手法を使っていた。

 その姿は悠然たるものだった。


 「現在ホドは異界の魔王たちによって世界を大きく変えられ、危機的状況にあります。長年脅威であった巨大亀ロン・ギボールは突如その姿を変え、遥か上空に体を移し、ホドの海水を大きく吸い上げてしまいました。その結果、誰もが探し求めていた永劫の地、豊かな大地が姿を表す結果となりました。そして、このホドを掌握する力を得るためには突如出現した陸地を制圧する必要があります。他の世界では当たり前のように存在する陸地。土は植物を生やし、虫や昆虫が花を育て、植物を食べる動物、それを食らう動物や魔物たち。そして人類にとっては作物を育てられる場所でもあり、それを中心に生活の基盤、さらには大聖堂や様々な機能を有した街、要塞を築くことも可能です。ですが、今この瞬間を逃した場合、最悪のケースとしては魔王たちによって陸地が占領され、人類が支配される側に回る可能性があるということです。それ以外にもガルガンチュアやパンタグリュエルといった元老院に反抗的な巨大キュリアが元老院を抑え込むチャンスとばかりに土地を狙っている可能性もあるのです。私はこの身が朽ち果てるまで、それらの勢力と対峙し、前最高議長の築かれた元老院の影響範囲をさらに拡大したいと考えております。今この瞬間の選択を誤るとホドにおける元老院の未来が変わり、ニルヴァーナへの貢献が出来なくなります。判断力、行動力は当然のこと、ホドを知り尽くした者こそが、次期最高議長に相応しく、そしてそれに的確な人物となれば答えは既に皆さんのお心の中にあるのではないでしょうか? “陸地を制する者、ホドを制す”‥‥遥か昔から言われている言葉であり、この言葉に突き動かされ多くの者が永劫の地を求め旅立ち命を落としてきたのです。ですが今は違う。手の届くところに永劫の地が存在している。今こそホドを制する時だと私は考えております。皆様によってご英断がなされるものと信じております。私からは以上となります。ご清聴ありがとうございました」


 ニル・ゼントは話し終えるとふたたび美しい所作で深々を一礼し着席した。

 しばしの沈黙が流れる。

 皆、聞き惚れていたような表情でため息をついている。


 カンカン!


 ニルヴァーナの7人のうちのひとりがガベルを叩いて場の空気を変え話し始めた。


 「4人の候補者による決意表明は以上となる。これより1時間塾考の時間となり、その後投票となる。得票数が高い者が次期最高議長となるが、複数人が同数となる場合は、決選投票として、今度は武術試合を行うこととなる。最高議長とは言え、文武両道でなければならない。故ガレム・アセドーはかつて人類最強の魔導士とまで言われた強者であった。候補者選定における重要な要素として付け加えたが、それら武における詳細説明は配布した資料に記載があるので確認するように。尚、次期最高議長が決まると煙突より紫色の煙が排出される。その煙が消えた時、ニルヴァーナより最高議長の任命の儀を行う。以上だ」


 場内はざわつき始めた。

 それぞれが思うことを隣の者たちと話し始めた。


 ・・・・・


 ――2時間後――


 ドーム状の煙突から紫色の煙が立ち上った。

 これはクム・クラーヴェが終わりを迎えたことを意味する。

 つまり正式にホド元老院の最高議長が決まったということだ。

 蒼市(そうし)の者たちは誰もがこの紫色の煙の意味を理解していた。

 元老院に属する者にとっては暫く続いた最高議長不在の状態から抜け出せるとあり歓喜の声があがった。

 元老院の圧政を快く思っていない者たちはあまり関心がないようで、歓喜に沸く元老院に属する者たちを冷ややかな目で見ていた。

 それだけ希望が見出せない諦めの感情が根付いてしまっているのだった。


 ――とある建物の中の一室――


 シャ‥‥


 暗い部屋の中でほんの少しだけカーテンを開けて外を見ている者がいた。

 カーテンが少しだけ開いたことで部分的に光が差し込み、部屋の中にいるもう1人の顔が見えた。

 そこにいたのはカヤクとニトロだった。


 「終わったようですよ。紫の煙が出てます」

 「誰に決まったかはまだ分からねぇんだよなぁ?」

 「そうですね。じきに発表されるでしょうけど、結果は見えているんじゃないですか?」

 「確かにな。まぁ誰になるにしろ、やることは変わらないけどな。明日からだよな?大聖堂に警備は」

 「警備じゃなくて警護ですよ。カヤクさんの頑張りもあって、最高議長の警護にあたることになりましたからね」

 「ああ。しっかりと情報仕入れて早くスノウ達と合流したいんだがなぁ。それなりにお土産がないと信頼されねぇし」

 「とはいえ無理は禁物ですよ。警戒すべき相手は元老院ではなくニルヴァーナっていう組織だと分かったんですからね」

 「ニルヴァーナか‥‥一体どの世界に本拠地があるんだか‥‥。この世界だけじゃない異世界か‥‥。俺は見たことがねぇから分からないけど、異世界にも元老院みてぇな組織を持ってて、しかも三足烏(サンズウー)の上層部とも繋がってる。他にも軍があるかもしれねぇしさ。レヴルストラにとってどれだけの脅威になりうるか、しっかり調べねぇとなぁ」

 「はい」

 「ところでジライとネンドウについてはどうなんだ?」

 「ジライはあのニル・ゼントに接触を受けてて相変わらず何やら怪しい動きがありますね。どうもあのニル・ゼントって男、苦手なんすよね。なんていうか、細胞が嫌ってるというか拒絶反応示すように震えるんですよ」

 「お前、ただ単にびびってるだけじゃねぇのか?」

 「む!聞き捨てならない無神経な暴言。じゃぁ代わりましょうよ。ってやっぱりやめときます。ネンドウの方が苦手で。拒絶反応じゃなくて恐怖で全身に鳥肌が立つんですよ。皮膚もビリビリするし」

 「分かるぜそれ。俺もそうなんだよ。あいつはやばい。冗談抜きで細胞が恐怖で縮こまってしまってさぁ。あんな体験これまでなかったから正直面食らってんだよ。あのホウゲキさんにだって感じたことのない恐怖だぜ?」

 「やっぱりですか‥‥。命あってのモノダネですからあまり近づかないようにしましょう。命が幾つあっても足りませんよ。それだけの脅威だってことだでも伝えられれば対処はできますしね。犬死にしてスノウさん達に何も伝えられないのだけは避けないと」

 「そうなんだよ。そうなんだがなぁ。手ぶらじゃ格好つかんのよ」

 「見栄っ張りのカヤクさんらしいですね。くれぐれも気をつけて下さいよ?カヤクさんの死体処理とかやですからね?」

 「死ぬ前提か!まぁ俺もバカじゃねぇからさ。大丈夫だよ」

 「頼みますよ」


 ニトロは苦笑いしていた。


 丁度その頃、大聖堂の最上階ではニル・ゼントとザザナールがテラスで会話していた。


 「計画通りでしたね」

 「こういうのは計画とは言わないんですよザザナール。確定した事象です。ニルヴァーナの7人から、各重要人物に事前に呟きがありましたし、決意表明も他の候補者には大した情報が与えられていませんでしたからね。内容としても雲泥の差となりましたけど。そういう根回し抜きにしても大した候補者はいませんでしたから。ビナーからの候補者ジルグラス・ネーグ以外はね。彼は最高議長になる気がなかったようですね。私にはそれが視えましたよ。評判を落とさないようにしつつ最高議長に選ばれないように絶妙な表現で落選した優秀な人物です。それ以外はゴミでしたね。マルクトからの候補者のヨウシュア・バラバは欲深い守銭奴でしたし、もう一人の‥‥名前すら覚えられない候補者は知能レベルがノミ以下でしたから」

 「ははは!貴方が言うならそうなんでしょうね。しかし、兎を狩るのに全力を尽くす獅子のような万全を期す策士の貴方のことだから、また例のオーラ使われたんじゃないですか?」

 「まぁあれは私の個性でもありますからね」

 「仮想空間でも操れるオーラなんてチートですよ」

 「チート?」

 「あ、いえ、それよりあのじいさんを突き落とした場所で祝杯とは、折角の感動スピーチも台無しなのでは?いや寧ろ、この場所で祝杯をあげる方がより一層ワインが美味く感じると言った方がよいですかね?」

 「君も言うようになりましたね。その図々しさは嬉しいですよ。君でなければここから突き落としていますけどね」

 「ははは!そういうところに惚れ込んでいるんです俺は。なにせ本当に突き落とすんですから。兎に角、ホド中央元老院最高議長就任おめでとうございます」

 「まだ指名されただけで就任式前ですよ」

 「そうでしたね。そして計画の第一歩は踏み出せたわけですね」

 「ええ。これからも頼みますよザザナール」

 「勿論です、最高議長」

 「フフフ‥‥」


 ニル・ゼントとザザナールは手に持っているワインを飲み干した。


 ホド中央元老院最高議長に選出されたのはニル・ゼントだった。

 翌日、紫色の煙が消え、厳かに最高議長就任式が執り行われた。

 ホドがひとつの時代を終え、次の段階に進んだ瞬間だった。



読んで下さって本当にありがとうございます。

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