表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
995/1109

<ホド編 第2章> 76.レヴルストラの力

<本話のレヴルストラ以外の登場人物>

【ラファエル】:ホドの守護天使。黒いスーツに身を包んだ金髪の女性の姿をしている。瑜伽変容(ゆがへんよう)をロンギヌスの槍で阻止し裏切ったザドキエルを追い詰めたが、突如現れたディアボロスによって退けられた。

【剛力王バラム】:凄まじい怪力の持ち主で結界杭ではヘラクレスを幽閉していた。

【老魔フォラス】:アドラメレクの配下の幹部悪魔を統括うる役割を担っている。結界杭ではシルゼヴァを幽閉していた。小さな馬に跨った小柄な老人の容姿だが、上位悪魔の荘厳なオーラを放つ。

【智慧の悪魔ストラス】:結界杭でワサン、ソニック、シンザを幽閉していた。王冠を被っ梟の姿をしている。

【卑怯な魔剣士アロケル】:体は人型だが、頭がライオンの剣士で二刀流。結界杭ではフランシアを幽閉していた。騎士道を見せるのはフェイクで騙し討ち、不意打ちを好む卑怯な剣術を使う。

【堕天使ウァラク】:黒竜に跨っていたが、スノウと戦った際に黒竜を解放されたため、今は自身の足で行動している。結界杭ではルナリを閉じ込めていた。見た目は天使だが、実際には堕天使である。


 76.レヴルストラの力


 スノウはふたたびロン・ギボールが瑜伽変容(ゆがへんよう)によって変化した甲羅の心臓の中にある外壁部分に来ていた。

 ロンギヌスの槍が刺さった場所だ。

 神の使徒を殺せる槍の威力は大きく、傷跡は残っている。


 一方ヴィマナは結界杭のある場所を訪れていた。

 結界杭を破壊してロン・ギボールの精神体を解放するためだ。

 スノウの提案した作戦は、2班に分かれて行動するというものだった。

 1班はスノウ独りだけで、甲羅の心臓の中にある結界膜を破壊する。

 甲羅の心臓は二重構造になっており、甲羅の外殻の中に心臓部の外壁があり、そこから中へ入りロン・ギボールが閉じ込められている結界膜を破壊するのだが、心臓部には超高濃度の魔力が詰まっている。

 さらには入り組んだ内壁があるらしいため、長時間超高濃度の魔力に晒されることになる。

 スノウ自身カルパに耐えられる越界者ではあるが、ロン・ギボールに言わせればそれよりも過酷な環境であり、どうなるかわからないというのだ。

 同行すると駄々をこねたフランシアをスノウが説得し単独での対応となったのだが、彼女が駄々をこねる気持ちも皆理解していた。

 カルパは超高密度の魔力の川であり、それに触れた瞬間、肉体はその影響に耐えられず一瞬で蒸発してしまう。

 一方でそのカルパに耐えられる者が存在する。

 どのような原理なのかスノウ達には理解できていないのだが、耐えられる者は越界者と呼ばれる者たちで、スノウは勿論、フランシアやワサンも越界可能らしい。

 それ以外のメンバーは基本的にカルパには耐えられない。

 そして今回の甲羅の心臓内にある超高濃度の魔力は、カルパの川の流れのように常に活性化された魔力が流れている状態とは違い、超高濃度の魔力が煮詰まったような状態らしい。

 魔力が沈澱しているような場所ではさらに凝縮された魔力溜まりがあるらしいのだ。 越界者といえどもその魔力溜まりに耐えられるかどうかは予測出来ないため、ゆえにロン・ギボールが名指ししたスノウだけが結界膜破壊の任を負うことになったのだが、当然カルパを耐えられるフランシアは自分も同行し、何かあればスノウを助けたいと思ったのだ。

 他のメンバーも自分が越界者でカルパに耐え得る肉体を持っていたとしたら同じことを言ったに違いなく、フランシアの主張は痛いほど理解できたのだが、双方の命の危険を負うリスクがある上、場合によってはフランシアがスノウの足を引っ張りかねないことも想定された。

 それゆえにスノウの単独での対応を支持してフランシアを止めたのだった。

 一方残されたメンバーは結界杭破壊を任された。

 ロン・ギボールからの追加の情報では、5つの結界杭を全て破壊した後でなければ甲羅の心臓内の結界膜を破壊することが出来ないらしい。

 構造としてはロン・ギボールの精神体を結界膜内に幽閉するための結界杭は膨大な魔力が必要で、地脈を通じて心臓内の魔力を吸収して作動しているものらしい。

 結界杭が破壊されれば当然結界杭に流れていくはずの魔力が心臓ないに留まることになる。

 結界杭一つ破壊するたびに結界に流れていた魔力が甲羅の心臓内に留まり、5つの結界杭を破壊する頃には心臓内の魔力濃度はさらに数倍に達するらしい。

 それもあってスノウ単独での甲羅の心臓内の結界膜破壊となったのだが、流石のスノウも超高濃度魔力のさらに濃度が数倍跳ね上がる中で行動するリスクは計り知れないため、5つの結界杭を同時に停止させ、その直後に結界膜を破壊する必要があった。

 つまり、心臓内で行動する時間を極力短くするのだ。

 作戦は同時刻に結界杭を破壊し、その後にスノウが結界膜を破壊するというものだった。

 5つの結界杭をタイミングを合わせて破壊した後すぐに中心に位置する結界膜を破壊するには精度高い時計が必要なのだが、そのようなものはホドには存在しない。

 この時ほどスメラギが側にいてくれたらとスノウは思ったのだが、シルゼヴァ、ガースがリュクスと共にタイマーを作って入れた。

 簡易的な装置だが、タイミングを合わせるには十分だった。

 結界杭班の面々はそのタイマーを持ってそれぞれ分担して結界杭エリアに侵入し待機して、時間になったら破壊する。

 当然アドラメレクたちが邪魔をしてくる可能性があるが、それを跳ね除けて予定通り結界杭を破壊しなければならない。

 少しでも遅れれば結界杭破壊前に結界膜を破壊することになる。

 仮に5つの結界杭が全て破壊されなければ結界膜を破壊できない仕組みであったとしてもスノウの死のリスクが高まってしまう。

 全てはタイミングにかかっていた。  

 これがスノウ達の作戦だった。


 既に結界杭破壊班は5つの結界杭への配置が完了していた。

 戦力が均等になるようにフランシアとワサンチーム、シンザとルナリチーム、シルゼヴァチーム、ヘラクレスとロムロナチーム、ソニックとアリオクチームに分かれた。


 ブワァァァン‥‥


 『お出ましか』


 ほぼ同時にアドラメレクの配下、剛力王バラム、堕天使ウァラク、老魔フォラス、姑息な剣士アロケル、智慧のストラスが5つの結界杭それぞれに現れた。


 「やっぱりいたね。結界杭に魔力反応があったからアドラメレク様がアノマリー達がいるはずだと仰ったんだけど、その通りだったってことだね。一体何を企んでいるんだい?」


 シルゼヴァのいる結界杭の場所に現れた老魔フォラスが言った。


 「お前のような下っ端悪魔に話すと思うのか?普通の会話すら拒否だぞ」

 「随分と嫌われたものだね。でも喋らざるを得ないよ。僕らは上位悪魔だ。言霊(プネウマ)を使うことが出来るからね」


 そう言うと老魔フォラスは両腕を広げた。


 「さぁシルゼヴァ。ここへ来た目的を言え」

 「‥‥‥‥」


 シルゼヴァは腕を組んだ無言だった。


 「さぁ言うのだ!ここへ来た目的は何だ?」

 「‥‥‥‥」


 沈黙が続く。


 ドッゴォォォン!!


 「ぐっはぁ!!」


 凄まじい速さでシルゼヴァはフォラスに攻撃を繰り出した。

 あまりの衝撃でフォラスは後方へと吹き飛んでいく。


 「がはっ!ば、ばかな‥‥」

 「何だ。隙だらけだったから攻撃したんだが、何か罠があるのかと思ったら単に隙を作っていただけか。お前、どうやら馬鹿のようだな」

 「きえぇ!!」


 余程頭にきたのか、発狂したかのようにフォラスは奇声を発した。


 「俺は暇じゃ無いんだ。攻撃したいならとっとと攻撃してこい。来ないならすぐに去れ。面倒だから今なら見逃してやる」

 「ぬぅぅぅ!!舐めるんじゃ無いよ半端者の小童が!」


 ダシュン!‥‥ボッゴォォォン!!


 「うげぇ‥‥」


 ボゴォン!ボゴォン!ボゴォン!ボゴォン!ボゴォン!ボゴォン!


 凄まじい瞬発力を見せたフォラスをシルゼヴァは表情ひとつ変えずに顔面を殴りつけてそのまま地面にめり込ませた。

 そして何度も地面にめり込んだ頭部に拳撃を食らわせていく。

 ついにはフォラスの頭部は潰れきり粉砕された状態になった。


 ボッゴォン!!‥‥ブチブチ!!


 シルゼヴァは容赦無くフォラスの心臓に凄まじい拳撃を放ち、心臓部にめり込んだ拳はそのまま心臓を掴み引き抜いた。

 しばらく痙攣していたフォラスはやがて動かなくなった。


 「死んだか。念の為に体全部潰しておくか」


 ボゴォン!

 ヒュィッ!‥‥スタ‥


 頭部がほぼ無くなり心臓部分が大きく抉れた状態のフォラスがヨロヨロと不安定な状態で少し離れた場所に着地した。

 シルゼヴァの放った拳撃を素早く避けて後方に飛び退いたのだ。


 「へぇ面白いなお前。そんな状態で生きていられるとはな」


 ギュルル‥‥ガパァ‥‥


 フォラスの腹部に口が出てきた。


 「お前馬鹿かよ!いきなりボコるとかあり得ないよ!しかも何故言霊(プネウマ)が効かない?!」

 「知らないのか?言霊(プネウマ)は自分より弱い者にしか効かないのだぞ。俺はお前より遥かに強い。そんな俺に言霊(プネウマ)を放っても効くわけがないだろう?ささっとかかってこい。一瞬で殺してやる」

 「くっ‥‥」


 ブワァァン‥‥


 フォラスは背後に転移魔法陣を出現させた。


 「アドラメレク様の命令とはいえ、こんな馬鹿げたやつとやりあって冥府に還されるのは本意じゃないし、僕は今後の作戦に必要な存在だからね。一旦引かせてもら‥」


 ガシッ!


 突然背後からシルゼヴァが、頭部が潰れて殆ど形をなしていない首根っこを掴んできた。


 「危なくなったら逃げる。お前のパターンは見飽きた」


 バジュァァァ!!


 シルゼヴァは首根っこから凄まじい力で一気に地面に向けて押さえ込むようにして潰し始めた。


 ガジャジャジャジャジャジュウアァァァ!‥‥ドンッ!!


 シルゼヴァの手のひらが地面に到達した。

 引きちぎれ、潰れてしまったフォラスの残骸から声が聞こえる。


 「やってくれたね異系の半端者‥‥これで勝ったと思うなら足元掬わ‥」


 ブジョアァァ!!


 言葉を発していた最後の肉片をシルゼヴァに踏み潰されフォラスは沈黙した。


 「さて。破壊の時間まで少し余裕がある。一応調べておくとしようか」


 シルゼヴァは結界杭の構造を調べ始めた。


 他の結界杭でも同様にアドラメレクの配下の上位悪魔たちとの戦闘が行われていた。

 剛力王バラム、堕天使ウァラク、智慧の悪魔ストラスは追い詰められた瞬間、転移魔法陣で退散してしまっていた。

 言霊(プネウマ)によって窮地に立たされた者もいたが、ラファエルが現れ言霊(プネウマ)の影響を解除してくれたことで、真っ向勝負に持っていくことができ、相手を圧倒したのだった。

 唯一残っていたのは卑怯な魔剣士アロケルであった。

 彼と戦っていたフランシアもまたシルゼヴァ同様に容赦なく攻めきり、アロケルの体をバラバラにしていた。


 「フハハァ!我に勝ったと思っているなら貴様は負けるぞ!」


 バラバラになった体の口の部分だけでアロケルは話し始めた。


 ブワァッ!


 フランシアは右手の平の上に炎を出現させた。

 凝縮された炎魔法だった。


 「いいえ、完璧で揺るがない勝ちを手に入れるわ」


 右手を振り上げ炎魔法を放つ。

 だが、肉片に向かってではなく空間の隅を狙っていた。


 ドッゴォォォォォン!!


 爆裂魔法が凄まじい熱を発しながら弾けた。


 「ぎいやあぁぁぁぁ!!」


 誰もいない場所から叫び声が聞こえてきた。


 パチン!

 バシュゥゥン‥


 フランシアが指を鳴らすと爆裂魔法が消えた。

 爆裂痕から黒焦げになった小人が現れた。


 「か‥かぺぺ‥‥」

 「それがあなたの本体ねアロケル。いえ、本体のコア部分だけを残した体ってところかしら。そうやってコア部分だけ離れた場所に隠れていて、戦っている体が倒されても死なない。回復すれば元通り、ってことね。姑息な戦い方しか出来ないあなたらしいやり方だわ」

 「ま、待て!そ、そうだ我の下僕にしてやろう。我の下僕になればアドラメレク様に取り入ってそれなりの地位を約束してやる。ど、どうだ?悪い話ではな‥」


 ブジョアァァ!!


 フランシアは無表情でアロケルを踏み潰した。


 「生命反応も魔力反応もないわね。ネタバレしてみれば大したことのない悪魔だったわ。剣士を名乗っているからどうかと思えば剣技も大したことないし本当に上位悪魔だったのか怪しいけど、時間内に始末出来たのでマスターに迷惑をかけることもなく終われたわね」


 フランシアはスノウがいるであろう方向を見ていた。


 様々な戦いの中で成長してきたレヴルストラは上位悪魔を相手にしても負けない強さを身につけていた。



いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ