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<ティフェレト編>45.ロケット

45.ロケット



 「おう‥‥どこの誰かと思ったらぁ、ゴーザのボウズじゃぁねぇかよぉ。久しいなぁ‥‥」

 「うるせぇよ!そんな姿になって何が久しいなだ‥‥」

 「目が見えていないんじゃなかったのその巨人?‥ゴーザだって見えてるじゃない!」


 スノウに指示されるままに巨人に剣を押し当てたエスティが、そこまで必要なかったとばかりにスノウに文句を言っている。


 「いや、見えてねぇさ。感じ取ってんだよ、俺を」

 「な?!どういうこと?」

 「こんなジジイでも神は神だ。そういう能力もあるさ」

 「ジジイとは聞き捨てならねぇなぁ。さて、そこのお嬢さん。まずは礼を言わせておくれ。こんな見てくれの巨人なんかに慈悲の音を聞かせてくれてありがとう。おかげで心だけは取り戻せた」

 「ブ、ブロンテースさん‥‥でいいのかしら?お、お礼なんていいのよ。でもどうしてまたそんな姿に?!」

 「おっきいおじさんかわいそう‥‥」


 エスティもケリーも意識を取り戻してなお無惨な姿のままの製鉄神ブロンテースをみて心を痛めたようだ。


 「そこにおるのはハルピュイアか。緋羽のアエローは元気かぁ?」

 「お姉ちゃんのことしってるのー?!」

 「ああ、もちろんだ。あの子が生まれた時に髪飾りをプレゼントしてやったもんだぁ。そうか、お嬢ちゃんはアエローの妹かい‥‥ところで‥‥この俺の心ぉ取り戻してくれたのは嬉しいんだが、何か理由があるんだろう?ゴーザのボウズ‥‥」

 「ああ‥‥」


 ゴーザは完全に正気に戻っているブロンテースを見て嬉しさのあまり涙が止まらなかった。


 「何してるボウズ!早くお願いしてぇこと言えぇ。俺はもう長くねぇからなぁ!」

 「な?!何言ってんだよ!」

 「見てみろ‥‥こんな体になっちまったんだ。今も肉がずり落ちる痛みで意識が飛びそうなんだぁよ」

 「そ‥‥」


 言葉を失うゴーザ。


 「ど、どうしたら戻せる!?つうか、誰がそんな目に合わせたんだよ!ジジイ!!」

 「うるせぇなぁ‥‥キンキン騒ぐんじゃぁねぇ。この体ぁ戻すのは二の次だ。お前ぇのお願いってのは‥‥あれだろ?聖なるタクトじゃぁねぇのかぁ?」

 「な、なんでわかった?!」

 「相変わらず脳スカポンタンだなぁ。俺を正気に戻したのはアウロ・ソナスだ。あれは聖なるタクトの源楽器だぞぉ?それを持ってきたってぇことは理由はたった一つ。聖なるタクト、アウロスに鍛えてくれってことだろうが!」

 「そ!そうなんだ!頼む!これを鍛えられるのはジジイ!あんたしかいねぇ!あんたが鍛えている間に俺ぁあんたを治す方法を探してくる!ロロンガ・ルザ国だろうとラザレ王国だろうとどこだって行ってやるさ!だから頼む!」

 「駄目だぁ‥‥」

 「なんでだよ!あんたが鍛治を断るなんてなかったじゃねぇか!」


 巨人ブロンテースは小さい方の腕 (といってもゴーザを吹き飛ばすには十分過ぎる大きさだが) でゴーザを殴りつけた。


 ボ‥‥


 ゴーザは吹き飛ぶどころか頬に当たった瞬間、力なき音を聞いて悟った。


 「ジジイ‥‥」

 「ああ、そうだ。俺にぁもう鍛える力がねぇんだ。ハンマーを手に持った日にゃ腕ごとずり落ちちまうさ」


 そのやりとりを見ていたエスティは口を押さえて涙ぐんでいる。

 ソニアも同様の気持ちなのか辛そうな表情を浮かべて俯いている。


 「だがな!諦めるのはまだ早えぇぞ!」

 「どういうことだよ!治るのか?なんでも言ってくれ!俺にできることがあるならなんでもしてやるぜ!」

 「ああそうだ!お前ぇにしかできねぇ!」

 「わかった!それでなんだ?薬か?まじないか?何をすりゃぁいい?」

 「お前ぇが鍛えろ」


 雪山に一瞬沈黙が走る。


 『はぁぁぁぁ?!』


 全員が同じ反応だった。


 「な、何言ってんだよジジイ!」

 「何度も言わせるんじゃねぇ!脳スカポンタン!」

 「ポンタン!」


 ブロンテースのフレーズが気に入ったのか、ケリーが真似をしている。

 それを見て笑顔で頭を撫でながらゴーザは答えた。


 「俺に‥‥できるのかよ」

 「あったりめぇだろぅが!誰がお前を育てたと思ってんだよ。俺は神で命も限りなく永遠に近いほど生きられる。だが!今回みてぇなことが起きちまうと流石に神の俺だって死んじまうだろう。その時に守らなきゃならねぇのはなんだ?ゴーザのボウズ」


 ジジイの命だと言いかけてゴーザはやめた。

 それを言ったところで怒られるのがオチだ。


 「技術だよ‥‥」

 「そうだ!脳スカなお前ぇでも覚えていたようだな!俺ぁ嬉しいぜ‥‥」

 「ポンタンはー?」


 今度はスノウが空気を読めないケリーを抱き抱える。

 ケリーはとても嬉しそうにスノウに引っ付いた。

 それを見たエスティとソニアは不満そうな顔をしている。

 レンはなぜか居眠りしていた。


 「そして俺ぁその技術の全てをお前ぇに伝えてある」

 「そんな事あるかよ!俺ぁまだあんたの十分の一も得ちゃいねぇ」

 「いいや!お前にぁ全て叩き込んだ。お前ぇはわかってねぇようだが、間違いねぇ‥‥お前ぇの腕は既に俺と同等かそれ以上だ。お前ぇに足りねぇのは知識だけだ。いにしえより語り継がれる製鉄の知識。だがそれも問題ねぇ。これから全てお前ぇに叩き込んでやる。俺ぁおそらく長くねぇようだが、全て叩き込んでやるくれぇの時間はあるさ」

 「弱々しい事言うんじゃぁねぇよ!わかったよ!やってやるだがな、条件がある!」

 「なんだボウズ」

 「死ぬんじゃねぇ!俺がぜってぇ助けてやるからそれまで死ぬんじゃぁねぇ!わかったなジジイ!」

 「がはは、わかったぜ。頼んだぞ。俺の命ぁお前ぇが握ってるってぇ事だな。がっははは」


 そういうと、至るところから血が滴っている体を起こし、4本の手を組んで何やら呟き始めた。


 「お、ちょっとお兄さん方そこどいてくれ。危ねぇから」


 そう言うとブロンテースはまた何やら呟き初めた。

 しばらくすると、地面に直径30メートルくらいの魔法陣のようのなものが浮かび上がる。

 そしてその魔法陣から轟音を立てながら何かが浮かび上がってくる。


 「わぁ!すごーい!おうちが出たよ!おうちが出たー!」


 ケリーは大喜びだった。

 それもそのはず、魔法陣から小屋と釜のようなものが出てきたのだ。


 「なんだこれ!すごいな!まるで工房だ!」

 「そうだ、これぁ師匠が使っている鍛治工房だ。どういう魔法か知らねぇけど、ああやって何やら呪文を呟くと、どこにでも師匠の工房を目の前に出現させる事ができる。おそらくいにしえの魔法だろう。音魔法じゃねぇのは確かだな」

 「なるほど‥‥」


 スノウは自分も使えるかどうか興味を持った。

 もしこれがあれば例えばEVを別次元に隠し、徒歩で移動した後その移動した先でEVを取り出す事で効率的に隠したり、移動したりができるからだ。


 「ブロンテースさん、その魔法はなんて言う魔法なんだい?」

 「ブロンテースでいいぜ。ほう‥‥お前ぇさんのオーラ‥‥ふむ‥‥なるほどな。お前ぇは大変な運命を背負ってるようだな。俺みてぇな下っ端の巨人神じゃぁこれ以上は見えねぇが、それだけは見える。ってすまねぇ、質問に答えてなかったな。これは根源種魔法だ。一応大昔から生きてるからな。昔の神々は皆根源種だったから、ほとんどの神が使えたものだが、俺ぁこれしか使えねぇ。まぁ俺の仕事を考えりゃ、これ以上の魔法は必要ねぇ。本当に俺に合った魔法だってことだな、がっはっは。昔ぁ皆俺に他の魔法も覚えろぉーとか言ってたんだがよぉ、どうにも魔法ってのにあまり興味がなくてな。それよりも鉄をいじってた方が楽しかったもんだからよぉ。鉄ばっかりイジってたらいつのまにか誰も俺に魔法習得を勧めなくなったって寸法だぁ、がっはっは」

 「ははは‥‥」


 (なんだか1放り込んだら10返ってくるタイプの性格だな‥‥しかし死にかけていたみたいだが、いつの間にか元気になってる。まぁそれはよかったか。根源種魔法ってのは初めて聞いたが、おれにも使えるのだろうか。ちょっと改めて聞いてみよう。今は難しそうだし‥‥)


 その日からゴーザの聖なるタクト製作が始まった。

 ブロンテースは本当にハンマーを握れないのか、指示をするだけで一切手を加える事はなかった。


―――2日目の夜遅く―――


 「もうそろそろゴーザも戻ってくるだろう。早朝から夜中までほとんど食事を取る事なく鍛えているようだからヘトヘトだろうし、少しは食ってもらわないとな」


 スノウたち一行はゴーザを除き、久しぶりにする事がないという状態になっていた。

 正直ケリーとセリア以外は刻一刻と迫ってきているはずの隕石を考えると居ても立ってもいられず落ち着かない状態になっていた。

 スノウは、日中用もないのにスメラギのいる天文台に出向き隕石破壊装置製造の進捗を確認していたが、電力供給がうまく行った事もあり順調で特にすることはなかった。

 スメラギもスノウを相手にしている時間はなく、たまたまタイミングよく賞味期限が切れそうな食材が出たということで帰り際に渡されたのだが、それをソニックが調理して食卓に並べてゴーザを待っていたのだ。


 カタン‥‥


 「ふぅ‥‥ちょっとだけ休憩だぁ」

 『えーーーー!!!』


 ドアを開けて入ってきたゴーザを見て一同は驚いた。

 筋肉の塊のような筋骨隆々だった体が、スリムになっている。

 スノウと対して変わらないスリムさだった。


 「ん?どした?揃いも揃ってスットンキョーな声出して」

 「だって!その体!体!細っそ!細っそ!」


 レンは驚きのあまり言葉にならないようだ。

 他のメンバーはポカンとしている。

 髭面の顔だけゴーザで体が細いためポカンとしているというより、苦い顔をしていた。


 「ん?あぁ体な。まぁいつもこうだ。大丈夫だ飯食ったらすぐ戻るからよ。おお!うまそうじゃねぇか!べっぴんソニアが作ったのかい?!」

 「ええ!そうよ!ゴーザ、あなたのために作りました!」


 ソニックがツッコミを入れようとした瞬間にソニアに代わり自分が作ったとアピールをして全員でずっこけた。


 「流石べっぴんさんだ!とにかくあまり時間がねぇんだ!お前ぇらも食ってねぇなら一緒に食うか?!」


 色々と面倒なので突っ込むのはやめて全員で飯を食べている。

 ブロンテースは釜の火を見ているらしく、ゴーザに飯を食べてくるよう指示したようだ。

 レヴルストラ一行は久しぶりに笑いの絶えない晩餐を楽しんでいた。

 スノウは、少しだけアレックスたちのことを思い出していた。

 彼らとの食事も楽しかった。

 アレックスが全員にいじられながら笑いの絶えない食事。

 三足烏(サンズウー)に全滅させられているかもしれない仲間のことを考えると、早くホドに戻りたい気持ちが込み上げてくるが、それと同時にこのティフェレトで集まった仲間をアレックスたちのように危険に晒す状況には絶対にしないとスノウは誓っていた。


 「よし!じゃぁまたトンカン行ってくるぜぇ!じゃぁな!美味かったぜべっぴんソニア!ごちそうさまだよ!」


 ガタン!


 『えぇぇぇぇ!!』


 ゴーザが席を立った瞬間一斉に驚く一同。

 ゴーザの体はいつも通りに戻っていたのだ。


 「ありえない」

 「ありえないっすね」

 「ありえませんね」

 「ありえねーね!」


 この話は後にレヴルストラ七不思議の一つとなって語り継がれることになる。


―――明晩―――


 スノウは夜空を見上げていた。

 スメラギからスメラギスコープという名の望遠鏡をもらっていたので、それで隕石と思われる光を眺めてみる。

 日に日に光が大きくなっているのが分かるようになってきた。


 「あと何日で隕石が衝突するのかスメラギなら計算できているはずだ。明日聞きに行ってみよう」


 ここ3日間、珍しく平穏な日々が続いており、他のメンバーは次第に寛ぎ始めたが、スノウだけは1人焦っていた。

 現在2つの隕石対策が進んでいる。

 スメラギの科学での対応と、はるか昔の伝承による対応のふたつだ。

 どちらも一応順調に進んでいる。

 気がかりなのはユーダとレーノスの存在だ。

 自分たちの邪魔をしてくるのではないか、もしかすると仲間を攻撃しにくるのではないか、盗んだ国宝の楽器とは何に使うのか、疑問が頭の中でぐるぐると回ってただただ焦っていた。

 雪斗時代、自分のことだけを考えていれば良かったが、今や7人 (人ではない存在もいるが) を率いるリーダーとなっている。

 それも焦る原因だった。

 悩み続けろと言ったドワーフの王の言葉が常に頭の片隅で繰り返されている。

 スノウはフラガラッハで素振りを1000回行い気を紛らわせようとしたが、迷いと焦りは消えないため体を疲れさせて寝ることに切り替え、結局3000振りしたところでシャワーを浴びてベッドに入り眠りについた。

 翌朝、スノウは再度天文台を訪れていた。


 「また君か。暇なのかね?」

 「ええ、暇です」

 「呑気な男だ。だが、私もあと少しでゆっくり紅茶を飲む時間ができそうだ」

 「完成したんですか?!」

 「ほぼ‥‥だがな。あとはマクロニウムにありったけの破壊音を蓄える作業が必要だがこれが意外と地味に時間がかかりそうなのだよ」

 「何か手伝えることはありますか?」

 「そうだね。君は確か魔法が使えたね。それをマクロニウムに閉じ込めることができればありがたいのだがね」

 「手伝いましょう!」


 することのなかったスノウはやっと世界を救う手助け仕事を見つけたと嬉しくなった。

 スメラギの依頼に応え、ほぼ完成している巨大なマクロニウムネットの音伝導ボットに様々な魔法を吸収させた。

 ジオライゴウやジオエクスプロージョンなど破壊力のある魔法を放つたびに、まるで掃除機で吸い取るように魔法がマクロニウムの中に吸い込まれていく。

 音伝導ボットは数えきれないほど無数にあったが、まる1日かけてほぼ全てのボットに魔法を注ぎ込み終わった。

 夕刻帰り際、スメラギと話をした。


 「スノウ君。すっかり助けられてしまったね。君には話をしておこう。隕石はちょうど1ヶ月後にこの地に衝突する。ほぼ間違いない計算だ。そして実に奇妙なんだが、この隕石はもしかすると意図的にこのティフェレトに衝突するように仕向けられた可能性がある」

 「なんですって?!」

 「いや、軌道計算上あり得ない進路を辿っていたことからのただの推測なんだがね。従って、もし隕石を破壊できたとしてもそれで終わりではないということを心に留めておいてくれたまえ」

 「わかりました」


 (って言われても何をどうすりゃいいんだよ。いつも無茶振りだなこの人)


 「あぁ、それとマクロニウムを飛ばすロケットは明後日の正午と決まった」

 「え?!随分急ですねって言ってもあと1ヶ月だとすれば、急ってこともないですね」

 「そうだね。まぁ君のおかげもあって予定通りといったところだ。成功することを祈っていてくれたまえ」


 スノウは戻った後、仲間にスメラギから聞いた情報を共有した。


 「あと1ヶ月‥‥」

 「ロケットという鉄の箱を飛ばす明後日にティフェレトの存続可否がわかるということでしょうか」

 「でもあれっすね、明後日に失敗した場合、残りの1ヶ月は大混乱っすね、きっと」

 「そうだな、だからそうならないようにしなくてはならないんだがな‥‥」



・・・・・


・・・



―――ロケット発射当日―――


 スノウたちは発射台が見えるところまで来ていた。

 このファンタジー世界で本当に宇宙ロケットを製作し、巨大なマクロニウムネットも作ってしまうスメラギの頭脳と実行力に心底脱帽した。


 「いよいよだ」

 「本当にあれが空に飛ぶのか?!」

 「ですよねー。あんな鉄の塊じゃぁ1ミリも浮かないと断言するっす!」

 「よし!レン、もし外したらあの発射台の上からバンジーな」

 「ですよねー。あのような鉄の塊であればきっと飛ぶっすよ」


 カウントダウンが始まる。


 「8‥‥7‥‥6‥‥5‥‥」


 あたり一面に凄まじい量の煙が巻き上がっている。


 「4‥‥3‥‥2‥‥1!」


 ドッゴォォォォォォォォォォォ!!


 いよいよ宇宙に向けて巨大なロケットは発射された。




5/14修正

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