<ホド編 第2章> 66.ラファエル
<本話の登場人物>
【ラファエル】:ホドの守護天使。黒いスーツに身を包んだ金髪の女性の姿をしている。
66.ラファエル
「呼び出すなどと‥‥悪魔のように扱うのは良い行いではありませんね」
『!!』
突如スノウの背後に黒いスーツを着た金髪の女性が出現した。
ホドの守護天使ラファエルだった。
「約束を果たしに来ました」
ラファエルは周囲を見渡した。
「スノウ・ウルスラグナ。幾つかの世界を周り自ら成長したようですが、随分と粗陋な者たちを引き連れているようですね。穢らわしい異系の神の血を引いた半端者や挙げ句の果てには魔王など‥‥失望しましたよ」
ビギィィィン!!
突如スノウから凄まじい怒りのオーラが発せられ、ラファエルの美しい金色の髪が逆立った。
ラファエルは無表情だが、明らかにスノウのオーラに対して激しい防御の態勢をとっていた。
「ラファエル。ひとつ言っておくが、おれの仲間を侮辱するなら許さない」
ポン‥‥
「スノウ、大丈夫だ。お前の感情を揺らすまでもない」
アリオクがスノウの肩に手を置いた後、前に出て話始めた。
「ラファエルよ。既にハノキアは嘗ての様相を呈していない。それは既にお前も気づいているのだろう?様々な勢力が次の時代の覇権を握ろうと暗躍している。だが、次のフェーズは覇権を握るなどというレベルの変革ではない。旧態依然とした思想を捨てきれないのであれば、淘汰される。違うか?」
「騒ぐものではありません下郎。我が主の御名において今ここで滅してやっても良いのです。我が主の時代が終わるはずもありません。脅すならもう少し直接的に行ったらどうですか?」
サッ‥‥
今度はシルゼヴァが前に出来て話し始めた。
「ラファエルとか言ったな。アリオクの話に耳を傾けられない堅物とは驚いたぞ。いいだろう。世界が変革の時を迎えている事実をここで突きつけてやる。お前の言う直接的な脅しでな。お前の全力の打撃を放って来い。それを耐え切って天使の力など高が知れていることを見せてやる」
「失笑です。馬鹿げていますね。でも言霊として発した意図を無かったことには出来ません。いいでしょう。今ここで我が主のみが世界を救う存在だと改めて知らしてめてあげましょう」
ラファエルは直立のまま右肘を後ろに引きながら右手を腰に当てた。
「お前の全力の打撃を受けるのは俺じゃない。ハンデをくれてやらないとならないからな。ハーク、前で出て来い」
「はぁ?!」
ヘラクレスは驚きの表情を見せたが、やはりこうなるかと言わんばかりのため息をついた後、前に出て来た。
「ふんぬ!」
ヘラクレスは全身に力を込めた。
「さぁいつでもいいぜ。打って来いよ。天使の全力なんざ、シルズの八つ当たり膝蹴りに比べたら蚊が止まったようなもんだろ」
「穢らわしい半端者が随分と威勢がいいですね。その表情が苦痛に歪み死にゆくの見るのは心苦しいですが、仕方ありません」
ラファエルは先ほどの大勢のまま凄まじいオーラを放ち始めた。
ヒュン‥ボゴドォォォン!!
一瞬視界から消えたかと思うと、ラファエルの凄まじい拳撃がヘラクレスの胸に向かって放たれた。
激しい衝撃波が広がっていく。
あまりの衝撃で空気が剃刀のように鋭利な塊となって飛び散った。
ビシュァァァ!
周囲に血が飛び散る。
赤い血であることからヘラクレスの血であることが分かった。
「‥‥‥‥」
スタ‥スタスタ‥
ラファエルは踵を返して元の立ち位置へと戻った。
その表情は残念そうなものだった。
「無駄な殺生でした。致し方なかった状況とはいえ、天使が無下に命を奪うことはやはり主の教えに背くものです。しばらく懺悔の瞑想を行うこととしましょう」
ヘラクレスは白目になって立ったまま動かなくなっている。
ラファエルが拳撃を叩き込んだ胸部には拳大の深い凹みが出来ていた。
そこを中心に無数の細かい切り傷が放射状に広がっていた。
ヘラクレスの背後へ徐にシルゼヴァが近寄り、手のひらを振りかぶると、思い切りヘラクレスの背中を叩く。
バチィィィィン!!
ギュルン!!
「肉!」
ヘラクレスは意識を取り戻した。
「何だ夢か。肉をたらふく食っているいいところだったのによ」
ヘラクレスの胸は元通りになっている。
飛び散った血はラファエルの凄まじい拳撃によって生じたかまいたちでヘラクレスの胸が切られて生じたものだったが、打撃そのものは何事もなかったかのように傷跡を消していた。
「馬鹿な‥‥」
「そういうことだラファエル。所詮お前の力はお前の信じる神の力だ。お前自身の力‥‥単純な腕力でいえば俺たちには通用しないということだ」
シルゼヴァの後にアリオクが話始めた。
「シルゼヴァの言葉が全てを示している。かつての天使たちは天界に君臨し、その力を存分に発揮して異系の神や旧神たちを抑え込んできた。だがその力は既に失われている。半神すら殺せないほどにな。そして瑜伽変容。神の力がかわらず健在なのであれば、ロン・ギボールがあのような状態にはならないだろう?この事実から目を背けるのか?それこそ神の創った現実から目を背ける行為だと思うがな」
「半端者、そして魔王風情が我が主を語るのはやめて頂きましょう。ですが、お前の言う通り、この状況もまた我が主が創り賜うたもの。いいでしょう、受けて入れて差し上げます。ハノキアが変わりつつあることを。私たちも変革を想定していないわけではありません。さて、本題に戻りましょう。スノウ・ウルスラグナ、私に用があるのでしょう?」
ラファエルは表情を変えずにスノウに目を向けた。
「ああ。おれ達はアレックスを救いたい。あの状態のロン・ギボールからアレックを引き剥がす方法を教えてくれ。もしお前のような天使でなければアレックスを救えないのなら、お前に対応してもらう」
「いいでしょう」
パチン!
ラファエルは突然指を鳴らした。
その瞬間、スノウは眩暈を感じ目を瞑った。
「!」
目を開けるとそこは以前ラファエルによって連れてこられたカフェだった。
雪斗時代に通っていたミネルデバイス社のオフィス近くにあるカフェだ。
「また、ここか。ここは好きじゃないんだけどな」
「おや、貴方が一番心落ち着く場所という情報でしたのに、しばらくハノキアの世界を回り思考が変わったのですか?」
「カフェには逃げ込んでいただけだよ。おれの周囲にはおれを徒に攻撃するやつらしかいなかったからな」
「場所を変えましょうか?」
「いいよ。今となっては気にならない。それで何故おれだけを引っ張った?」
「いちいち複数の反応を見るのが面倒だったからです。それに契約を交わしたのは貴方とだけですから」
「ふん‥‥それでどうすればいいんだ?」
「餼伽変換を行うことです。簡単に言うと元の姿、ロン・ギボールとアレクサンドロス・ヴォヴルカシャを分離した状態にするということです」
「どうすればいい?おれ達は何をすればいいんだ?」
「貴方がたが餼伽変換に対して直接的に関わることは出来ません。私はこれから守護天使を集め判断を仰ぎます。承認されれば私と数名の守護天使の力で餼伽変換を発動することが出来ます」
「すぐに頼む」
「そう言うとと思いましたが、守護天使たちから承認を得るには条件があるのです」
「条件?」
「ええ。瑜伽変容を引き起こしたと思われるアドラメレクを消し去るか、身動きのとれない状態にすることです。瑜伽変容を引き起こした者です。つまりその手段を持っているということ。それは餼伽変換の妨げになるのです。アドラメレクを放置したまま餼伽変換を行う承認はおりません」
「おれ達がアドラメレクをぶちのめして邪魔できないようにすればいいんだな?」
「それが最低必要条件です。他にも細々とありますが、大したことではありません」
「分かった。アドラメレクの件は引き受ける。おれ達がアドラメレクを抑え込むことが出来たらという条件で餼伽変換が発動出来るようにしてくれ」
「守護天使の決議によりますので、確約は出来ませんが出来る限りのことは致しましょう」
「必ず承認をとってくれ」
ラファエルは無表情のまま頷くとふたたび指を鳴らした。
パチン!
次の瞬間、スノウの精神はヴィマナの会議室に戻って来た。
「さぁ、ラファエル。やるのかやらないのかここではっきり宣言してもらうぜ」
ヘラクレスがラファエルに詰め寄って来た。
どうやらラファエルに精神を引っ張られて会話した内容はヴィマナでは1秒も経過していなかったようだ。
「ヘラクレス、大丈夫だ。既にラファエルとは話がついた。ロン・ギボールを元に戻し、アレックスを救うためには餼伽変換というプロセス、つまりロン・ギボールを元に戻すプロセスが必要なんだが、守護天使たちの承認を取らなければならない。その条件としておれ達はアドラメレクを押さえ込まなきゃならないことになった」
「なるほど。アドラメレクは瑜伽変容をやってのけた者だ。餼伽変換を邪魔しかねないということか」
「俺がやつを誘き寄せる。レヴルストラ総力であればやつを抑え込むことは可能だ」
シルゼヴァの言葉にアリオクが答えた。
「それじゃぁこれからアドラメレクを抑え込む作戦を練ることにしよう。ラファエル、くどいようだが、あんたは守護天使たちから必ず承認をとって来てくれ」
「念を押しておきますが、確約は出来ません」
そう言うとラファエルは細かい光の粒子となって消えた。
スノウたちはアドラメレクを抑え込む方法を検討し始めた。
流石に魔王の中でも上位に位置するアドラメレクは一筋縄ではいかないのだが、アリオク、シルゼヴァ、ソニックのアイデアもあり作戦が出来上がった。
「よし、それじゃぁ明朝作戦開始だ」
『おう!』
一同は解散した。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




