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<ホド編 第2章> 59.異変 その2

<本話の登場人物>

【アリオク】:ケセドで仲間になった魔王。スノウたちがホドに越界して以降は行方知れずとなっていた。

【アドラメレク】:ホドを拠点としている魔王。何かの計画に沿って行動しており、アレックスを巨大亀ロン・ギボールに幽閉した。


59.異変 その2


 海面の盛り上がりは1000メートルを超えている。

 スノウ、フランシア、ロムロナはリゾーマタのエレメント系バリアを素市(もとし)ホドカンの前面に展開し始めた。

 何重にも重ねて土の壁のアースウォールが展開され、海面の盛り上がり部分はその壁によって見えなくなっている。

 フランシアとロムロナは地上から、スノウは土壁よりも上空から魔法を発動しており、スノウだけが海面の盛り上がりの状況を把握できていた。


 (海面上昇が止まったのか?!)


 1000メートル付近で海面の盛り上がりは止まったように見える。

 まるで海に出現した巨大な山だった。

 不思議と海面上昇に伴う巨大津波は起こらなかった。


 サササッ‥‥


 スノウはフランシアとロムロナに手で合図を送り、念の為巨大なアースウォールの外側にウォーターウォールを展開し、さらにアースウォール、そして外殻にはフレイムウォールといった多重構造のバリアを形成した。


 ササ‥


 スノウはフランシアとロムロナに再度合図すると海面上昇の巨大な山へと飛んでいった。

 二人はここで待機、自分は海面上昇部分を調べてくるといった内容だった。


 「ふぅ‥‥シアちゃんとスノウボウヤ、半端ないわねぇ。こんな巨大な壁を作ってしまうんだから。あたしの展開範囲なんて1000分の1もないわよ。一体どうなってるの?どこでそんな魔力量と魔力技量を身につけたのかしらねぇ」

 「その質問は無意味だわロムロナ。マスターは元々こんなものなど比にならない遥かに超える魔法技量と魔力量を持っているのよ。しかもそれは1分1秒と時が進むに連れて強化増大していっているの。私はその背中を見て常に鍛錬しているわ」

 「なるほどねぇ」

 (ってなるわけないわね。お話ぶっ飛んでて全く入ってこないけど、説明を求めることが無意味だと分かったわぁ)

 

 一方スノウはかなりのスピードで飛行し海面の上昇付近へと近づいていた。


 「!」

 (なんだあれは?!)


 近づいたことで海面上昇部分の畝りが見えてきたのだが、スノウは驚きのあまりその場に停止した。

 ポーチからスメラギスコープを取り出しより細部を確認する。


 (おかしなことが起こってるな。これは火山の噴火の類じゃない。いや自然現象ですらないぞ)


 普通に考えたらありえないようなことが起こっていたのだ。

 大きな山のような形状になっている海面上昇部の頂上に向かって海流が遡っているのだ。

 逆再生にさえ感じてしまうが、海水の畝りや流れが全て頂上に向かっている。


 「頂上を確認してみるか」


 スノウはふたたび飛行し始めた。

 念の為、1500メートル付近まで上昇して海面の山の頂上を見下ろす位置までやってきた。

 頂上は直径100メートルほどの空洞となっており、頂上に向かって流れている海流は頂上の空洞に向かって落下し、空洞の下の方へと流れていく巨大な円形の滝になっていた。

 スノウはその内部に目を向ける。


 「!!」


 頂上の空洞の先にある光景が目に入った瞬間、スノウは怒りにも似た表情で目を見開いた。

 拳は強く握られ血が滴っている。


 「巨大亀‥‥ロン・ギボール‥‥」


 海面の山の頂上の空洞の中に見えたのは巨大亀ロン・ギボールの甲羅だった。

 海面をひと掻きするだけで巨大な大波を発生させる化け物であり、この巨大な山のような海面上昇を引き起こしたことも頷ける怪物がその中にいたのだ。

 

 「?!」


 頂上の滝から甲羅までの空間に時折光る何かが視界に入ってきた。

 まるで火花のようにあちこちで光っている。


 「まさか‥‥アリオクか?!」


 火花だと思われたのは何かと何かが戦っており、凄まじいスピードと火力でぶつかり合っている瞬間の稲光のような衝撃波だった。

 そしてその中のひとりがアリオクだったのだ。


 (アリオクに間違いない。あの長い魔刀はありおくの獅子玄常(ししげんじょう)だ。相手は誰だ?)


 スノウが捉えた姿は色鮮やかな翼を羽ばたかせて剣を振るっており、前後に長く尖って伸びている特殊な兜を被った者だった。

 その姿から間違いなく人間や亞人ではなく、天使か悪魔であり、アリオクと互角に戦っている様子から、上位天使以上、または魔王級であることが窺えた。

 しかしスノウは加勢するか迷っていた。

 ふたりの戦いに隙がないため、敵と思われる相手に攻撃を加えるタイミングが掴めないことと、そもそもなぜここでアリオクが戦っているのか理由が分からなかったからだ。

 何か作戦があるなら自分の加勢で台無しにしかねない。

 

 (考えていても仕方がない。いずれにせよロン・ギボールがこのような異常な状態になっているんだ。中にいるはずのアレックスが心配だし、素市(もとし)への津波を阻止しなければならない。いや、この大きさなら素市(もとし)だけじゃない、緋市(あけし)蒼市(そうし)も飲み込まれる)


 スノウはふたりの戦いの領域から一定の距離を保ちながら慎重に頂上の空間から中へと入っていった。

 

 キィン!‥‥ガカキン!!ドッゴォォン!!キキン!


 凄まじい剣と魔法の応酬が繰り広げられている。


 「アリオクさん、このまま戦っていてもギボールの変態は止まりませんよ」

 「一体何を企んでいる?ロン・ギボールの変態を引き起こせるのはこの世界の守護天使だけのはず。それも素材が全て揃った状態で唯一神の許可が必要なはずだ。そのどれも成しえない貴様がどうしてこのようなことが出来るのだ?」

 「それを教えるとお思いですか?知りたければ私に拷問でもしてみたらどうですか?」

 「拷問で吐くならそうしよう」


 キィィィン!ガキキキン!ドッゴォォン!バココォォン!!


 凄まじい戦いを繰り広げながら呼吸を乱すことなくふたりは会話している。

 

 ガキィン!ギリリリリ!!


 剣と剣がぶつかり合い、押し合いの状態になった。


 「俺に勝てないことは分かっているだろう?しかもこの場に張った結界を抜け出すことはできない。観念したらどうだ?」

 「いつの話をしているのですか?世界は既に大きく変容し始めているのですよ。私があなたに勝てなかった世界は既に消え去っているのです。そして既に私はあなたの剣筋を見切っている。既にお気づきのはずでしょう?」

 「お前が強くなったのなら、俺もまた強くなっていると思わないのか?」

 「心が乱れていますよアリオクさん」


 ギリリリリ‥‥


 押し合いは徐々にアリオクが劣勢に回っている。


 ギュルルルル‥‥

 

 「さて、その首刎ねて差し上げましょう」


 突如相手の方からもう一本腕が生え始め、腰に下げている短剣を手に取り、アリオクに向かって振り翳した。

 両手で獅子玄常を持っているアリオクには避ける術がなかった。


 シュバッ‥キィィィン‥‥


 「!!」

 「スノウ!」

 

 スノウが背後から気配けしつつ詰め寄り敵の攻撃をフラガラッハで防いだ。

 アリオクは驚いた表情でスノウの名を叫んだ。

 スノウは防いだ状態から流れるように敵に向かってフラガラッハを振り抜く。


 スファン‥‥


 敵は上半身を異様な状態で反らせてスノウの攻撃を紙一重て避けた。


 キィン‥‥ギュゥゥン‥‥


 敵は剣を押し込んで後方へ飛び退いた。

 

 「その剣‥‥見覚えがあります。神剣フラガラッハですね。神剣には神話級の武具でしか押さえきれない。危うく素手で弾くところでした。そしてそれを持っているということはあなたはスノウ・ウルスラグナですね」


 ス‥


 スノウは無言でアリオクの前に出て剣を構えた。


 「スノウ、なぜここへ来た?」

 「ロン・ギボールが異様な状態になっているからだよ。こんなのがちょっとでも動き出したら大津波が発生してホドカンは壊滅するからな。そうなる前に防ぐ方法を探していたところだったんだ」

 「そうか」

 「それよりやつは何者だ?やつがロン・ギボールをこんな状態にしたのか?」

 「詳しい話は後だが簡単に言えば、やつは魔王アドラメレク。なぜここに来て何をしようとしているのかを俺は探っていたのだ。だが、ここまで大それたことをしでかしたことで、アドラメレクを殲滅する対象に切り替えたのだ」

 「魔王アドラメレク‥‥アレックスを巨大亀の中に引き摺り込んで捕らえた魔王だな」

 「アレックス?アレクサンドロス・ヴィヴルカシャのことか?残念だが彼は既にロン・ギボールによって吸収され始めている。。この異様な状態はその影響だ」

 「!!‥‥あの魔王をぶっ殺せばこれは止まるのか?」

 「それは分からない。だがアドラメレクを野放しにするのは危険だ。やつは何か大きな計画に沿って行動している。それを突き止めない限りこの異様な事態はおさまらないはずだ」

 「それじゃぁやつを生捕りにし、拷問して吐かせればいいんだな」

 「あ、ああ」


 スノウはフラガラッハを構えた。


 「お前がアドラメレクか。アレックスは返してもらう」

 「おや、なるほど、あの半身と知り合いでしたか。ですが残念ですねぇ。あなたがアレと会話することはもう2度とないでしょう」

 「!!」


 ギュン!スバァァン!!


 アドラメレクの言葉に怒りを感じたスノウはその怒りに任せて凄まじい速さで詰め寄りフラガラッハをアドラメレクに向けて振り下ろした。

 フラガラッハはアドラメレク右肩から臍部分まで深く斬り込まれて止まった。

 

 ドッバァァァ!!


 まるで噴水のように激しく出血するアドラメレクだが、その様子は落ち着いている。


 「なるほど、ディアボロスがイラついてたのも頷けますね。不意をつかれたとはいえ、私がこれほどの攻撃を受けてしまうのですからねぇ。まぁいいでしょう。これから起こる大イベントの余興程度で楽しむつもりでしたが、流石にあなた方ふたりを相手にするのは骨が折れますからね。この辺りで私は戻ることにしましょう。さて、あなた方はこれから起こる瑜伽変容を特等席から見ることができるのです。どうぞお楽しみください」


 そう言うとアドラメレクはその場から消えた。


 「待て!!アレックはどこにいる!!」


 スファン!


 フラガラッハはそのまま空を斬った。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥


 突如周囲から轟音が鳴り響いた。


 「スノウ、この場にいては危険だ。一旦離れる」

 

 ガッ!


 アリオクはスノウのベルトを掴むとそのまま上昇し海面の山の頂上から外側へと出た。


 「放せアリオク!アレックスを救うんだよ!」

 「今は無理だ。あれに巻き込まれてはお前も俺も死ぬ。機会を待て」

 「くっ!」


 アリオクの言う通り、海面上昇の中心部分から凄まじい異様なオーラが放たれているのを感じた。


 「アレックス‥‥」


 スノウとアリオクが上空から見守る中、ロン・ギボールが生み出した海面の山が大きく震え出した。




いつも読んで頂き本当にありがとうございます。

体調を崩しているので少しアップが遅くなりますがご容赦ください。

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