<ホド編 第2章> 58.異変 その1
<レヴルストラメンバー>
・スノウ:レヴルストラのリーダーで本編の主人公。ヴィマナの船長。
・フランシア:謎多き女性。スノウをマスターと慕っている。どこか人の心が欠けている。ヴィマナのチーフガーディアン。
・ソニック/ソニア:ひとつ体を双子の姉弟で共有している存在。音熱、音氷魔法を使う。フィマナの副船長兼料理長。
・ワサン:根源種で元々は狼の獣人だったが、とある老人に人間の姿へと変えられた。ヴィマナのソナー技師。
・シンザ:ゲブラーで仲間となった。潜入調査に長けている。ヴィマナの諜報員兼副料理長。
・ルナリ:ホムンクルスに負の情念のエネルギーが融合した存在。シンザに無償の愛を抱いている。ヴィマナのカウンセラー。
・ヘラクレス:ケテルで仲間になった怪力の半神。魔法は不得意。ヴィマナのガーディアン。
・シルゼヴァ:で仲間になった驚異的な強さを誇る半神。ヴィマナのチーフエンジニア。
・アリオク:ケセドで仲間になった魔王。現在は行方知れずとなっている。
・ロムロナ:ホドで最初に仲間となったイルカの亞人。拷問好き。ヴィマナの操舵手。
・ガース:ホドで最初に仲間になった人間。ヴィマナの機関士。ヴィマナのエンジニア。
58.異変 その1
――素市――
狭い範囲ではあるが、スノウ達の協力もあり徐々に街の復興が進んでいた。
まだ大半の民はダンジョンの51層から地上に戻ることは出来なかったが、このペースなら数ヶ月もかからず全員が地上に戻ることが出来る状態にあった。
裏を返せば、それだけ素市の民は三足烏の攻撃によって減ってしまったということだ。
本来ならその5倍以上の民がこの素市にはいたのだ。
そして、素市内で食料を自給することはほぼ不可能な状態であるため、緋市の最大キュリアであるガルガンチュアがかなりの食糧を供給してくれており、それによって地下の住民や地上で復興に励む者たちは生活出来ていた。
ガルガンチュアの総帥であるウルズィーの呼びかけに賛同した緋市の商人、一般民や冒険者達が食糧や物資を提供し運んできてくれているのだ。
荒っぽい対応ではあったが、スノウやフランシア、シルゼヴァ、ルナリの魔法や能力によって瓦礫が猛魅禍槌で消滅したエリアに吹き飛ばされ、未だに高熱状態となっているエリアの熱で瓦礫を焼いた。
灰と化した瓦礫はソニックの音氷魔法によって凍らされるが、すぐには冷めることのない地表の熱で溶ける。さらにソニックは音氷魔法を展開し灰を凍らせては高温地熱で溶かされる。
これを繰り返す内に地表が徐々に冷えていき、灰で地面も固められていく。
スノウとソニックはこれによってこの一帯を農場にしようとしていた。
一方ワサンとロムロナは一部の素市住民と漁に出ていた。
漁船が全て破壊されてしまったため、これも全てウルズィーが数隻贈与してくれたのだ。
漁師もほとんどが被害を受けて亡くなってしまったことからワサンとロムロナが中心となって漁に出て素市住民が自立できるように漁を教えていたのだった。
「簡易的だがだいぶ家が建ってきたじゃないか」
ヘラクレスが腰に手を当てて言った。
街の復興で最も活躍していたのはヘラクレスだった。
怪力ぶりを遺憾無く発揮して本体であれば数人が半日かけて組む家の骨組みもヘラクレスにかかればひとりで1時間もかからずに終えてしまう。
「だがこれでもざっと1000棟。住めても3000人程度だ。まだ完全復興は遠いぞ」
「それに家を建てる部材が底をつきそうだから、調達にも時間がかかるわ。猛魅禍槌で森もほとんどのエリアが燃やし尽くされたから素市で調達すことも出来ないの。しばらく復興は中断せざるをえないかもしれないわ」
スノウとフランシアが周囲を見渡しながら言った。
「おいおいマジかよ。ウルズィーのおっさんにどんどん運ばせなきゃならねぇじゃねの」
「それも難しい。緋市の船は物資を運ぶために殆ど占有されているからな。緋市自体も生活のためには船が必要だ。今貸与してくれているものが出来る限りの全てだ」
スノウの回答にやるせないヘラクレスは表情を見せた。
スタ‥‥
魔法で瓦礫を撤去していたシルゼヴァが飛行しながら戻ってきてスノウの横に降り立った。
「悩む必要はないだろう。ヴィマナには格納庫がいくつかあり。それもかなりの大きさだ。そこに建築資材を格納することが出来るはずだ。何度も緋市と往復しなければならないがな」
「おお!流石シルズ!それはグッドアイデアだ!」
「ありがとうシルゼヴァ。それじゃぁウルズィーに頼んでくるよ。シルゼヴァは何名か連れてヴィマナに戻って資材調達の対応をお願いできるか?」
「もちろんだ。シンザ、ルナリ、ハーク、資材調達に参加してくれ。それじゃぁ早速緋市に向かう。ここは頼んだぞスノウ」
「ああ」
シルゼヴァは指名した3名と共にヴィマナに転送した。
それから数日後、ヴィマナが高速でピストン輸送したことで、建築資材がかなり運ばれてきた。
ウルズィーの協力もあり、ガルガンチュアが緋市の森林協会や煉瓦職人協会に掛け合ってかなりの資材を回してもらうことになっており、ヴィマナはかなり効率的に建築資材を素市へと運ぶことができるようになった。
その翌日。
カンカンカンカン!!
夜中に突如危険を知らせる鐘が鳴り響いた。
崩壊状態であるために簡易的に設置した見張り台にある鐘であったが、鳴らないでほしいという祈りも虚しく、頭に響くような音が連続で鳴り続けている。
「状況が分かる者は報告してくれ」
鐘の音が聞こえ飛び起きたスノウは外に出て、既に部屋から出ていたフランシア、ソニック、ワサン、ロムロナに聞いた。
だが、誰も状況を把握していない。
見張り台で鐘を鳴らしている本人に聞くべくスノウは飛行して、その警備兵に質問した。
「敵襲か?」
「グ、グルトネイです!」
そう言いながら警備兵は海の方向を指差した。
スノウはスメラギスコープを取り出して警備兵が指差す方向を確認した。
「確かにグルトネイだ。小型の方だが火力は相当高い。至急地上にいる者たちを地下へ。ソニック、ワサン、すまないがウルズィーたち緋死から支援出来てくれている者たち含めて全員を地下へ誘導してくれるか?」
「スノウ、お前はどうするんだ?」
「おれとシア、ロムロナはあのグルトネイのスピードを落とさせる。できれば破壊したいところだがな」
「分かった。気をつけろよ。今はヴィマナもない。転送は出来ないんだからな」
「分かっている」
気遣ってくれているワサンに笑みを返した後、スノウはフランシアとロムロナに目線を送り頷くと空へ飛んでいった。
フランシアとロムロナも後を追う。
(今猛魅禍槌を撃たれたらせっかく復興しつつある家々が破壊されてしまう。復興が進んでいるからこそ復興に励んでくれている人や支援者たちもモチベーション高く動いてくれているし、ダンジョン51階層で必死に生活している人たちも希望を持って耐えてくれている。だが、建て替えが進み始めた状況が一変してふたたび瓦礫の山となったと知れば恐らく絶望して生きる気力を失ってしまうだろう。おれ達でなんとかしなければ‥‥)
スノウ、フランシア、ロムロナの3人はグルトネイの上空に辿り着いた。
「同じ構造なら扉の位置は分かるはずだ。今はアーリカで突っ込むことも出来ないからなんとか魔法と物理攻撃でしのぐ。おれとシアは攻撃に専念する。その間ロムロナは出入り口を探して見つけ次第知らせてくれ。ロムロナ自身が物理的に扉を破壊できるならそのまま実行してくれて構わない。難しい場合はおれとシアに合図してくれ」
「了解だわよぉ」
「シア、準備はいいか?」
「はい!」
スノウとフランシアはリゾーマタのクラス3魔法を連続で放った。
ふたりは既にリゾーマタの複数のエレメント魔法を同時に発動できる領域にまで達しており、炎と雷や水と風と土などの合わせ技魔法も発動できる。
通常はそのような複数種同時発動など出来る者は人間にはいないのだが、本人たちは自分たちが高い領域にいることに気づいていない。
ドゴゴゴゴゴゴゴォォォォン!!
凄まじい爆風がグルトネイ上部を覆い尽くす。
その上にはスノウの放ったダイヤモンドダストが展開され、見えない攻撃の軌跡を追うことが出来る。
「さて、来るぞ!」
「はい!」
スノウとフランシアは剣を構えた。
グルトネイの砲台の種類と位置から禍槌や猛魅禍槌を小規模で発動して誘導光線のように放つ攻撃が予想された。
これまで巨大戦艦、巨大船グルトネイと交戦してきたことで冷静な対処が出来るようになっていた。
シュンシュンシュンシュンシュンシュンシュン!
カカカカカカカン!!
スノウとフランシアは見えない攻撃を全て弾き飛ばした。
その間にグルトネイの中心にある砲台にエネルギーの光粒子が収束しているのが見えた。
スノウはフランシアに合図すると、右方向に移動しフランシアは左方向に移動し始めた。
ふたりが別の方向へ移動することによりグルトネイの猛魅禍槌の種類を見分けることが出来ると考えたのだ。
(砲台の位置が変わらなければ猛魅禍槌を小規模で発動するホーミング光線になり、砲台がおれかシアのどちらかに向けば猛魅禍槌の大規模発動の可能性が高い。その場合は素早く攻撃範囲から抜けるように移動し続ければ問題ない。常に砲台を見ていれば猛魅禍槌の小規模ホーミング光線は弾くことも可能だからな)
キュィィン‥‥ファシュゥゥゥン!!
スノウの予測通り、砲台は動かないまま猛魅禍槌が発動したが、その規模は小さく、途中から二手に分かれてスノウとフランシアに向かって飛んできた。
シャバァン!
ショバァン!
スノウとフランシアはなんとか光線を弾き飛ばすことに成功した。
一方ロムロナは扉を見つけたようでスノウとフランシアに向けてウォーターボールを飛ばしてきた。
「なんとかなりそうだな」
ビキィィィィィィィィィィン!!
『!!』
スノウ達は突如激しい耳鳴りとともに凄まじい頭痛に襲われた。
グルトネイも攻撃を止めている。
おそらく同様の現象が起こっているようだった。
「うぐ‥‥な‥‥なに‥が‥起こった‥‥」
目も開けられないほどの痛みの中、かろうじて開いた瞼の隙間からスノウは異様な光景を目の当たりにした。
「なんなんだよあれは‥‥」
海面が大きく盛り上がっているのだ。
位置は4つのホドカンの間の海域で既に300メートルほど海面が山のように上昇しており、まるで広範囲の海面が中心部分から何か引っ張られているように見えた。
グルトネイは攻撃の対象をスノウ達から盛り上がった海面に切り替えたのか、向きを変え砲台の位置も盛り上がった海面の方へ向け始めた。
「と‥にかく‥‥頭痛を‥‥おさえたい‥‥」
スノウは頭を強く握るようにして海面の盛り上がった部分を見ていた。
さらに海面は盛り上がり、500メートル以上にも達している。
「シア‥‥ロムロナ‥‥素市に戻るぞ‥‥」
スノウは小さなファイヤーボールをフランシアとロムロナに向けて放ち、ジェスチャーで素市へ戻るように指示した。
(ぐぅ‥‥吐き気までもよおしてきた。一体何なんだよこれは‥‥だが、あの規模の海面上昇はやばい。海底火山の噴火か別の何かか‥‥いずれにせよ素市に超巨大な津波が襲いかかる。この間のグルトネイの自爆の津波とは桁違いだ)
スノウ達は素市に戻ってきた。
住民たちや緋市の支援者たちの避難は完了しており、皆ダンジョン地下51階層へと向かっていたため、地上にはスノウ、フランシア、ロムロンしかいなかった。
(ソニックを呼び戻さなければ‥‥)
「我に任せておけ、主人よ」
スノウの体に透明化して巻き付いているマダラが言った。
スノウはあまりの頭痛で声を発した瞬間に吐いてしまいそうなため、軽く手をあげて返事をした。
マダラは凄まじい速さでダンジョンへと潜っていった。
(どうする‥‥)
既に海面の盛り上がりは1000メートルを超えていた。
スノウは頭痛と吐き気を堪えながら必死に思考を巡らせていた。
いつも読んでくださって本当にありがとうございます。
熱と花粉と様々な症状で体調を崩してしまっているので、アップが少し遅れるかも知れません。
ご容赦ください‥‥。




