<ホド編 第2章> 56.暗躍
<本話の登場人物>
【ニル・ゼント】:次期元老院最高議長と噂される人物で、謎多き存在。
【ザザナール】:ニル・ゼントの配下の剣士 昔は冒険者でレッドダイヤモンド級を超えるレベルだったが、その後殺戮への快楽に目覚め悪に堕ちた。その後ニル・ゼントに拾われ用心棒兼ゼントの護衛部隊の隊長を務めている。
【ガレム・アセドー】:元老院最高議長。三足烏サンズウーを従えホド全土の支配と永劫の地の獲得を目論んでいる。魔力量、魔法技量が高く、魔術師としてもかなり高レベルと言われている。
【ジライ】:三足烏サンズウー・烈の連隊長代理。かつてレヴルストラにライジという名でスパイとして潜り込んでいた。戦闘力が高く策士。
【ギョライ】:三足烏ギョライ隊隊長。リボルバーを武器として遠距離攻撃を得意とするが、接近戦も得意。筒状のレンズが付いた仮面をつけ派手な明細柄の服を着ている。
【キライ】:三足烏ギョライ隊副隊長。鼻が高くその先に黒いツノのようなものがついた顔でサングラスをかけている。腕の3本持つ特異体質。
56.暗躍
――蒼市内のとある施設の地下室――
薄暗い地下室に男がふたり。
一人は執務机に両肘をついて手を組んだ状態で座っている。
元老院次期最高議長と噂されているニル・ゼントだ。
もう一人は床に片膝をついて首を垂れて報告している。
彼は素市でスノウたちと剣を交えた男、ザザナールだった。
ニル・ゼントほどの男がなぜ地下室に執務室を持っているのか。
彼はいくつも執務室を持っており、機密情報をやりとりする際にこの部屋を使うのだ。
ここへ辿り着くまでには元老院大聖堂の中の隠し扉や隠し通路を通り、転移魔法陣トラップを使った転移をとあるパターンで繰り返さなければならない。
行き方を知っているのはニル・ゼント、ザザナールと信頼のおける数名の部下だけであり、元老院最高議長のガレム・アセドーすら知らない。
ザザナールは素市での出来事をニル・ゼントに報告していた。
「ゼント様、以上が素市でレヴルストラの一味とやりあった時の状況です」
「ありがとうザザナール。それでどうでしたか?彼らにどんな印象を持ちましたか?」
「そうですねぇ。ありゃぁニンゲンの域を超えてますね。実際に剣を交えたのはやつらの中のフランシアという女剣士ですが、俺の剣技が通用しなかったんですから」
「君の剣技が通用しないとは相当な手練ですね。でもまぁ君の本来の戦闘スタイルは拳闘ですから、相手に君の実力は知れていないと見て良いのでしょうか」
「それは分かりません。アノマリーのスノウ・ウルスラグナがいましたらからね。やつは危険ですよ。調べたところFOCsの冒険者ランクが最上位クラス域に達していまして、エレーメジェバイトになったそうです」
「エレーメジェバイトといえば七支天に名を連ねるレベルですね?」
「ええ。既にFOCsは八支天へと名を変えるか、七支天のまま誰かを落とすかを検討しているようですから、四下天の誰かと戦わせる可能性ありますね。私にしてみれば七でも八でもどうでもよくて、あくまで強い者が常に戦いに身を投じていればよいと思ってしまうのですがね」
「本来なら君が七支天に名を連ねていたはずですが」
「いえいえ、私など。あのような立場窮屈でたまりません。というかそれを仰るなら、貴方という七支天など茶番に思える存在がいることをハノキア全土に知らしめるべきかと私は思いますがね」
「私には夢がありますから。余計なことに労力を使っている余裕などないのです」
「そうでしたね。仰るとおりだ。私は貴方の夢を見届けたいと思ってお側にいさせてもらっていますから。でもどうしても貴方を世界に誇りたいという気持ちになってしまうもので。それだけ貴方の強さには憧れるというものです」
「嬉しいですね。君のような男にそこまで言ってもらえるとは。七支天も手を出せない存在の君に」
「臆病者集団ですからね。でもまぁゼネマーだけには今だに付け狙われているのでそろそろ殺して六支天あたりにしてやってもよいと思っていますよ」
「はっはっは。そうなればスノウ・ウルスラグナが加わって七支天継続ですね。スノウ・ウルスラグナが死ぬか、ゼネマーが死ぬか、または他の誰かか。いずれにせよ放っておいても何らかの争いが勝手に始まりそうですが、私の計画の邪魔になるのはよろしくないですね」
「なんなりとご命令を。レヴルストラは骨が折れますが、ハノキアに散らばった仲間を呼び寄せれば何とかいけるでしょう。そこに三足烏のジライ、ネンドウと分隊長を引き連れていけば殲滅も不可能ではありませんから」
「心強いことです。でもネンドウには気をつけてください。彼の放つオーラは異常です。人ならざる者の放つオーラですね。彼に関わるのはお勧めしません」
「了解です。貴方がそう仰るんなら、気をつけなければなりませんね。ゼント様は私が唯一全く勝てないどころか恐怖を感じたお方です。悪魔や魔王と一戦交えた時も感じることのなかった恐怖です。そんな貴方が仰るのだからそうなのでしょうね」
「買い被り過ぎですよ」
コンコン
突如ノック音が聞こえてきた。
招き入れられたのはニル・ゼントの部下だった。
部下はニル・ゼントに耳打ちした。
「分かりました。下がってよいですよ」
部下は深く一礼した後、部屋を出ていった。
「さて、最高議長がお呼びです。一仕事して来ます」
「そのようなくだらない老害対応も後少しですね」
「迂闊なことを言う者ではありませんよザザナールさん」
「そうでした。お気をつけて」
ザザナールは部屋を出ていった。
その数分後、ニル・ゼントも執務室を出て最高議長ガレム・アセドーのいる彼への謁見の間へ向かった。
・・・・・
「出ていけ!たわけ者が!」
元老院最高議長のガレム・アセドーの怒号が広い謁見の間に響いていた。
怒号を浴びせられていたのは、三足烏・烈連隊長代理のジライだった。
その最中にニル・ゼントは謁見の間へと入ってきた。
「素市攻略を半端に終えよってノコノコと逃げて来たというのか?!2機目のグルトネイを出しておきながらなんたる醜態!しかも相手はレヴルストラ!アレクサンドロス、エントワ・ヴェルドロワール不在の崩壊状態のトライブに何を臆しておるのだ!」
ガレム・アセドーは怒りに任せてジライに罵声を浴びせ続けている。
その言葉を片膝をつき首を垂れながらジライは感情を抑えながら聞いている。
「申し訳ございません。実はレヴルストラには新たなメンバーが加入しており、その内の一人はスノウ・ウルスラグナで冒険者ランクはエレーメジュバイトとのことです。長年塗り替えられることのない七支天の序列が入れ替わるほどの人物です。それ以外に確認できたのは3人。いずれも相当な手練。戦力を整えて臨まなければふたたびグルトネイを失うリスクが御座いました」
グググ‥‥ドゴォォ!バチバチバチ!!
「うぐぁぁぁ!」
ガレム・アセドーはリゾーマタ雷系クラス1魔法のライセンをジライに浴びせている。
だがその威力は通常のライセンの数十倍はあろうかという強力なものだった。
バリバリバリバリバリバリ!!
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!」
ドゴオォン!
ググ‥‥
「はぁはぁはぁ‥‥」
衣服や肌が焼けこげながらもジライは平伏のポーズを崩さない。
「も、申し訳‥ございません」
「役立たずめ!ホウゲキを呼び戻せ!貴様では話にならん!」
「誠に申し訳御座いませんが、ホウゲキは行方知れずとなっております」
「そのような言い訳聞きとうないわ!」
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!
「うぐぁぁぁ!」
ガレム・アセドーはふたたライセンをジライに向けて放った。
ジライの全身に雷が当たり続けている。
バリバリバリ‥‥ドゴォォン!
グググ‥‥
「がはぁぁ‥‥」
ジライは口から血と煙を吐いた。
「最高議長」
「何だゼント!貴様に発言を許した覚えはないぞ!」
「これは失礼致しました。それでは今から発言させて頂きます。彼をこれ以上痛めつけても事態は変わりません。三足烏に戦力増強をご指示なさるのは如何でしょうか?私の持つ部隊にもレヴルストラの殲滅及び素市の制圧に参加させます。如何でしょう?相手の戦力が知れただけでも良しとして次なる殲滅作戦に注力されては?」
「ゼント‥‥貴様‥‥我に意見するというのか?」
「意見ではございませんよ最高議長。ジライひとりを焼け焦がしたところで事態は1ミリも進展致しません。最高議長の号令を皆お待ちしているのです」
「貴様‥‥」
ニル・ゼントはガレム・アセドーの目を見て言った。
その目は透き通るような青だが、冷たく飲み込まれそうなほどの恐怖心を抱かせるものだった。
ガレム・アセドーはいい知れぬ恐怖を感じて目を逸らし身震いした。
「ちっ‥‥いいだろう。その作戦、貴様に一任しようではないか、ゼント。だがそこまで言い切ったのだ。必ず吉報を届けよ」
「かしこまりした」
「解散だ」
ガレム・アセドーは解散宣言をすると謁見の間から自室へと戻っていった。
ドサッ‥‥
ガコォォォォン!!
ガレム・アセドーはソファに深く座ったかと思うと、テーブルを思い切り蹴り上げた。
テーブルは大きな音を立てたが、少し動いた程度だった。
(ゼントめ、でしゃばりおって!次期最高議長と噂されているのか調子に乗っておるな!まだ何も決まっておらぬし、決して最高議長の座は譲らぬ!必ず永劫の地を見つけ出しホド全土を手中に治め、ニルヴァーナのジグに入ってみせる!その日まではこの座は絶対に譲らぬぞ!)
ガコォォォォォン!
ふたたびテーブルを蹴りあげたガレム・アセドーは爪を噛みながら怒りを必死に抑え込もうとしていた。
一方ところ変わって三足烏の連隊長執務室には魔法でガレム・アセドーのライセンで負った傷を癒しているジライがいた。
コンコン‥
「誰だ。今は治療中だ」
「連隊長代理。元老院議員のニル・ゼント様がお見えになられています」
「!!‥‥お、お通ししろ!」
「はっ」
ガチャ‥‥
魔法治療を受けていたジライは治療を中断して立ち上がったが、入ってきたニル・ゼントは手をあげて治療を続けるよう示唆した。
「お、恐れいります。それでゼント様ほどのお方がこのような場所へどのようなご用件で?」
「あまり警戒なされなくてもよいですよ。私は先ほど最高議長よりレヴルストラ殲滅及び素市制圧の任務を任された身です。作戦を立てに伺うのは当然のことですよ」
「恐れ入ります。あの時お助け頂かなければ最悪再起不能状態に陥っていたのではと思います。流石の最高議長様、魔力と魔法技量は異常に高いですからライセンといえどもあのまま受け続けていたらいつかは絶命していたに違いありません。ゼント様は命の恩人です」
「大袈裟ですね。でもその程度の傷で済んでよかった。一時の時間も惜しいですからね。治療をお続けのまま作戦の相談をしましょう」
「承知しました」
ニル・ゼントとジライはレヴルストラ攻略と素市制圧の作戦を練っていた。
その頃、別室ではギョライ、キライと他数名が何かの訓練のようなものを行っていた。
「しかしこの新しい戦闘設備は素晴らしいですね。実際に戦わずとも相手を攻撃することが出来る。この遠隔戦闘システムはまさにギョライ隊のためにあるようなものですね、ギョライ様」
「‥‥‥‥」
ギョライは無言だった。
ワサン、ヘラクレスとの戦いの映像を見入っていたのだ。
「さて、修正点も見つかったことだし、今度はダンジョンの魔物で戦闘訓練を行いましょう」
真っ白な空間で前方に小さなガラス窓がある閉鎖空間の中で、ギョライとキライは戦闘のポーズをとっていた。
ギョライとキライの頭部にヘッドギアのようなものが取り付けられている。
「さぁ始めて下さい」
キライの声と共にギョライとキライは歩き始めた。
奇妙だが普通に歩いているにも関わらず、その場から移動することがなかった。
ババッ!
突如ふたりは戦闘体勢にはいった。
「これは一体何をしているのですか?」
閉鎖空間の壁の反対側に位置するコントロールルームに突如ニル・ゼントとジライが入ってきた。
突如入室し質問してきたニル・ゼントを見たオペレーターはすぐさま立ち上がり敬礼した。
「訓練中なのではないですか?気にせず続けて下さい」
ニル・ゼントは小窓から閉鎖空間の中を見た。
「おお!すばらしい!」
まるで全てを理解したかのように小窓の先で起こっていることを見たニル・ゼントは目を見開いて驚いていた。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




