<ホド編 第2章> 55.謎の攻撃方法
<本話の登場人物>
【ギョライ】:三足烏ギョライ隊隊長。リボルバーを武器として遠距離攻撃を得意とするが、接近戦も得意。筒状のレンズが付いた仮面をつけ派手な明細柄の服を着ている。
【キライ】:三足烏ギョライ隊副隊長。鼻が高くその先に黒いツノのようなものがついた顔でサングラスをかけている。腕の3本持つ特異体質。
55.謎の攻撃方法
スノウとソニックが地上に戻るとそこではワサン、ヘラクレスと三足烏分隊長ギョライ、副分隊長キライが激闘を繰り広げていた。
シャシャシャシャシャ!!
キライによる投擲攻撃を躱すワサンだが、短刀の届く間合いまで近づくことが出来ない。
飛ばされているのは石などだが、投擲具の力なのかキライの腕力なのか、その破壊力は凄まじく、当たりどころが悪ければ一発で致命傷になるほどの攻撃だった。
しかも3本の腕を巧みに使い、近づく隙を与えない連続投擲で一定の距離を保ちながら攻撃を受けていた。
ワサンは魔法攻撃を繰り出すがキライは魔法防御の特性がある防具を装備しているようで、魔法が全く効かない。
(ちっ!たかがニンゲンだぞ!オレはもっとやべぇ奴らを相手に戦ってきたのになぜこんなにも手こずるんだよ!)
ワサンは徐々にイライラを募らせていた。
一方ヘラクレスはギョライの放つリボルバーからの銃撃を躱しきれず徐々に出血し始めていたが、銃弾をものともしないヘラクレスはギョライとの距離を詰めることに成功し、肉弾戦に持ち込むことが出来ていた。
しかし、ギョライは肉弾戦にも長けており、異常に柔らかい体と素早い動きで読むことが難しい攻撃を繰り出しヘラクレスを翻弄していた。
しかもヘラクレスの攻撃はまるで未来予知しているかのように悉く躱されている。
ヘラクレスもまたイライラを募らせていた。
過去二人が戦っていた相手は神や天使、悪魔であり、明らかに人間であるギョライやキライよりも格段に強い相手と互角以上に渡り合って来ており、有効打を与えられない状況など想像も出来なかった。
「スノウ、これは一体‥‥」
「何かがおかしいな」
スノウは周囲を見回した。
(おかしなところはない‥‥この周囲にいるのはワサン、ヘラクレスとあの三足烏のふたり、そしておれとソニックの6名だけだ‥‥だが、なぜか拭えない違和感がある‥‥ギョライとキライの異常な強さもあるが、あの戦闘にはなぜか違和感がある‥‥)
スノウのソナー魔法には、この場にいる6名以外の生命反応や魔力反応を感知出来ていない。
ドドドドン!カカカン!!
カキキキン!
一向に距離が縮まらない戦いの中、徐々に疲れが見え始めた4人だった。
だが、ギョライのリボルバー、キライの投擲具から撃たれる弾丸には制限がないのか、途絶えることがなかった。
「加勢しますか?」
「いや、何かがおかしい」
スノウは手のひらからリゾーマタの水魔法で形成した弓と矢を出現させた。
シュワァァァァァ‥‥
スノウは水の弓矢を引き、狙いを定めた。
水で作られた矢ではダメージを与えることは出来ないため、ソニックは不思議そうにスノウの行動を見ていた。
「スノウ、この攻撃は?」
「何か引っ掛かるんだ。だが、これでその理由が分かるはずだ」
シュヴァァァ!
スノウは矢を放った。
勢いよく矢はギョライとキライの方へと飛んでいく。
「!」
ギョライは一瞬リボルバーを構えたが何かに気づいたかのように体を不自然な体勢でくねらせて矢を避けた。
だが、キライは矢を投擲具で撃ち返すべく弾丸を放った。
バシャァァ!
「!」
弾丸で撃ち抜かれた水の矢は砕け散るように拡散し、勢いそのままにシャワーのようにキライに降り注いだ。
バシャシャァ‥‥
『!!』
ワサン、ヘラクレス、ソニックはその光景を見て驚いた。
なぜなら、砕かれ拡散した水はキライに降りかかるはずが、キライの体をすり抜けて地面に落ちていったからだ。
「なんだこりゃぁ!」
「一体どうなってる?!」
「スノウ!」
「ああ。見てみろ。やつらも驚いているぞ」
ギョライは距離をとるようにバク転を繰り返して後方へ下がっていったが、キライはその場に立ち尽くしていた。
そして矢を放ったスノウに目を向けた。
「おや、バレてしまったようです。しかもあなた、スノウ・ウルスラグナですね。戦いに夢中で気付きませんでしたよ。あなたとの戦いの決着はまだついていません。いつか必ずあなたの眉間に風穴を開けて差し上げましょう」
そう言うと、キライはホログラムが消えていくようにノイズ混じりに姿を消した。
続けてギョライも同じように姿を消した。
「スノウ、一体何が起こっているんだ?」
「あれはホログラムみたいなものだな」
「ホログラム?」
「ああ。立体的な映像だ。あそこまで精巧な作りのものは見たことがないけどな」
「いや、でもおかしいぜ?やつらの放っていた銃や石ころは確かに俺たちの体にあたってたんだ。見てみろ、この傷を」
ヘラクレスは体に撃ち込まれた弾痕を見せた。
「これはおれの推測だが、実際にギョライとキライはこの場にはいなかった。ホログラム映像のように戦っているように見せていたんだと思う。本人たちは別の場所で安全に立ち回っていたに違いない。だが、銃弾や石ころは実際に存在した。魔法か何かでな。物理的に物を遠隔で操作して攻撃するような類の魔法だ。しかもソナー魔法に存在がひっかかるように何らかの形で生命反応と魔力反応を生じさせていた。信じられないことばかりだ。だが、それ以外に考えられない。そしてそれをやってのけた人物はここにはいない。どこか離れた場所にいる。おそらくギョライ、キライと同じ場所だ」
「そんな魔法があるのか?」
「聞いたことがありませんね。確かにリゾーマタの土系魔法であれば石ころは生成できますが、それをあのように高速で飛ばすことは出来ないんじゃないでしょうか?もちろん生命反応や魔力反応も付与できませんし‥‥」
「魔法の種類は無限らしいぞソニック。魔法式を読み解ける者であればいくらでも書き換えることが出来る。その法則を読み解けたならばな。偉大な魔女がそう言っていたよ」
スノウはイリディアのことを思い出していた。
彼女に教えられソナー魔法を強化できた実績もある。
「となると脅威ですね。三足烏は正直僕らの敵ではないと思っていました。あくまで人間ですから。レヴルストラにはスノウやシアは言うまでもありませんが、ヘラクレスやシルゼヴァのように半神がいますし魔王のアリオクだっています。今やレヴルストラに勝てる勢力は人間の世界にはいないと思っていました」
「傲りは禁物だが、ソニックの言い分は理解出来る。だが、どうやらおれが越界する前の三足烏と今この世界にいる三足烏は大きく変わってしまったようだ。いや、以前のおれが気づいていなかっただけなのかもしれない。グルトネイのような生物機械を造る技術を持っているなんて知らなかったからな。いずれにせよ、おれやワサンが生きていること、そして他に仲間が増えていることは三足烏に知られてしまった。おそらくニル・ゼントにもな。となれば、攻撃圏内に来ている巨大船グルトネイがどう出るか‥‥」
「そうですね。路線変更で今ここにいる僕らをつぶしにかかる可能性は十分にあります。素市を捨ててホドカンごと僕らを殲滅する作戦です‥‥リュクス聞こえるかい?」
「お呼びですかソニック副船長」
「巨大船グルトネイの状況を教えてくれるかい?」
「承知しました。今のところ魔力上昇もなくゆっくりと素市に近づいております」
「分かった」
「報告です。巨大船グルトネイが引き返していきます」
「!‥‥本当かい?」
「かなりの速度で蒼市の方向へと進んでいます」
「スノウ、これは一体?!」
「分からん。素直に撤退したのか、それとも作戦を整えるために退避したのか、もしくは素市を諦めたか‥‥いずれにしてもしばらくは警戒が必要だ。いつ元老院や三足烏が攻撃してくるか分からない。その間街の復興が出来ないというのもまずい。おれ達はしばらく素市に滞在することになるな。リュクス、シルゼヴァ達にも伝えてくれ」
「承知しました」
・・・・・・
巨大船グルトネイの脅威は去ったものの、圧倒的な戦力を見せつけた元老院勢力を前に、素市はスノウ達レヴルストラを頼るしかなかった。
同様に緋市もグルトネイの猛魅禍槌に対抗する手段がなかったことから、レヴルストラ頼りとなってしまっていた。
いつ攻撃されるか分からない恐怖の中、街の復興はゆっくりとだが着実に進んでいた。
レヴルストラが滞在していることが威嚇になっているのか、三足烏からの攻撃はなかった。
人々はスノウ達に感謝しつつ街の復興に励んでいた。
だが、そんな平穏も長くは続かなかった。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




