<ホド編 第2章> 54.グルトネイふたたび
<本話の登場人物>
【ギョライ】:三足烏ギョライ隊隊長。リボルバーを武器として遠距離攻撃を得意とするが、接近戦も得意。筒状のレンズが付いた仮面をつけ派手な明細柄の服を着ている。
【キライ】:三足烏ギョライ隊副隊長。鼻が高くその先に黒いツノのようなものがついた顔でサングラスをかけている。腕の3本持つ特異体質。
【グレゴリ】:パンタグリュエルの団長。ダンカン・ズールーの息子で彼の死後若くして団長になったが、冷静な判断ができる切れ者。
54.グルトネイふたたび
キィィィィィィィィィィィィン‥‥
スノウ達はヴィマナに帰還した。
「スクリーン」
スノウの指示に従ってリュクスはスクリーンにグルトネイを映し出した。
「ありえない」
「破壊したはずなのに復活したの?」
「いや、あれは新手だ。周囲に戦闘船アーリカも並航している」
「一体何隻持ってんだよ。あんな不気味な船をよ」
「でもあのサイズは巨大戦艦サイズじゃないわねぇ」
「ああ。スピードも速い。リュクス、どれくらいで素市攻撃圏内に入るか計算できるか?」
「はい、スノウ船長。約1時間です」
「時間がないな。すぐに出撃する」
「待てスノウ」
シルゼヴァが止めた。
「やつらの目的を知る必要がある。ロムロナが拷問して得た情報を確認してからでも遅くはないだろう」
「なるほど、その通りだ。元老院も素市を支配したいのであって、消し去りたい訳じゃないとすれば、むやみやたらに攻撃はしてこないはずだろうしな。ロムロナ報告お願いできるか?」
「もちろんよぉ」
ロムロナが拷問によって聞き出した情報は3つだった。
・ザザナールが率いる部隊に所属しており、部隊はニル・ゼントの配下にある。
・目的は素市の被害状況の確認で、戦力が残っているようであれば、殲滅するミッションだった。
・別動隊で三足烏の小隊が上陸する予定。
「ありがとうロムロナ。ちなみに捕虜はどうなった?」
「生かしておいてもいずれ向こうに殺されちゃうと思うから、丁重に埋葬しておいたわよぉ。下手に生かして帰すと情報が漏れていると気づかれるしねぇ」
(流石ロムロナ‥‥痛めつけてトドメさしたんだな‥‥。相変わらず敵に回したくないやつだ)
「分かった。となれば、あのグルトネイは三足烏の指示で向かってきていて、素市の壊滅状況の確認に来ているとみていいだろう。シルゼヴァの助言のおかげで下手にグルトネイを攻撃するのは危険だと分かった。ヴィマナは潜航状態で、数名で素市へ行き、グレゴリ達を守る。残りのメンバーは万が一に備えてヴィマナで待機だ。グルトネイの攻略方法は既に分かっているから、グルトネイとの戦闘になる場合、早期に仕留めるのがミッションになる」
「逃げたザザナールってやつも気になるな」
「ニル・ゼントにおれ達のことが知られるのは時間の問題とみていいだろう。追うにもどこへ消えたか分からないしな」
「ザザナールがグルトネイの三足烏と接触したら厄介だぜ?」
「いつになく冴えているかに見せていつも通り浅い思考だなハーク。心配は不要だ。グルトネイの構造上実際に指揮しているのは蒼市あたりで精神をつなげている三足烏の者で仮想空間内にいる。そいつと連携するためにはザザナールも仮想空間に繋がれる必要があるはずだ。グルトネイの扉の場所は把握しているからリュクスに監視させ接触するようなら対処すればいい」
「くぅぅ‥‥」
ヘラクレスは拗ねた表情を見せた。
「なるほど、その時はグルトネイとの戦闘になる感じだな」
「そうだ」
「よし、作戦は整理されたから実行に移りたい。分担は、素市上陸組はおれ、ソニック、ワサン、ヘラクレスの4名にしよう。待機組はシルゼヴァ、シア、シンザ、ルナリ、ロムロナだ。グルトネイ対応に戦力を厚くしたいからな。ガースはもちろんリュクスと共にヴィマナを頼む。上陸組は5分後に転送とする。至急準備してくれ」
『おう!』
既に準備万端状態のヘラクレスがロムロナに近づいて話しかけた。
「しかしよくここまで聞き出せたな。だいぶ口の堅いやつだったんじゃないか?ニル・ゼントと言えばたしか次期最高議長候補と言われているやつだろ?そんなやつの部隊ですなんてサラッと言っちまうやつが入隊出来るとは思えないんだがなぁ」
「ウフフ、ハークボウヤも拷問受けてみる?自ら喋りたくなるわよぉ」
「うげ、やめておく。今のでなんとなく分かった気がするからよ。お前の心の闇が見えたぜ」
「あらぁ中々の見識眼ねぇ。流石はシルゼヴァボウヤやスノウボウヤを支えてきただけあるわぁ。あなた敢えてポンコツ役を演じているみたいだけど、レヴルストラのメンバーが連携しやすい雰囲気を作っているのねぇ」
「それくらいにしとけ。人の分析は過ぎると毒だ。信頼で成り立っていればそれでいい。俺は俺のやれることしかできないしな。まぁそういうお前も相当な修羅場潜って来ているみたいだがな。大方どっかの滅んでしまった王族の末裔とかな」
「‥‥お互い上手くやりましょ。とりあえずハークボウヤのことは信頼するわ」
「光栄だ」
ギュィン‥‥
スノウがブリッジに戻って来た。
「上陸組は揃っているか?」
ソニックとワサンが遅れてブリッジに入って来た。
「すみません、遅れました」
「待たせてすまない」
「大丈夫だ。よし、リュクス、転送してくれ」
「かしこまりましたスノウ船長」
キィィィィィィィィィィィィン‥‥
スノウ、ソニック、ワサン、ヘラクレスの4人が素市へと転送された。
直接グレゴリたちがいるダンジョンの入り口付近に転送してもらった。
「ワサン、ヘラクレス、ここで待機して様子をみていてくれ。何かあればリュクス経由で連絡を頼む。51階層は通信可能域外になるようだからまともな通信が出来ない可能性が高い。簡潔なメッセージを頼む」
「了解した。仮に三足烏が攻撃してきたら対処するがいいか?」
「もちろんだ。万が一ホウゲキやジライ、分隊長クラスが襲って来る場合は逃げることも必要になる。臨機応変に頼むよ」
「分かった」
「ホウゲキってやつは超怪力の戦闘バカだったな。やり合うのが楽しみだぜ」
「オレもお前とホウゲキの戦いは見てみたい。オレ達の元リーダーのアレックスも相当強いがホウゲキはその上をいっていたからなぁ。ジライはオレに任せてくれ。すばしっこいのはオレの得意分野だしな」
「分かったぜワサン。スノウ、ソニック。ここは任された。早くグレゴリのところへ行ってこい」
スノウは軽く手をあげて応えると、ソニックと共にダンジョンの中へと入っていった。
最短ルートで進んでおり、魔物はスノウとソニックに敵う者などいるはずもなく、止まることなく瞬殺されていった。
転移魔法陣トラップを上手く活用して30分も経たずに51階層へ到着したスノウとソニックはグレゴリに状況を伝えた。
「とにかく地上に戻る作戦は一旦キャンセルだ。食料が尽きるリスクはあるだろうが、もう少し待機していてくれ。三足烏の攻撃はおれ達が阻止する」
「食料については問題ありません。ヤガトさんが|緋市のガルガンチュアに繋いでくれていて、密かに食料を供給してくれる手筈になっています。ウルズィーさんも全面的に支援してくれることになっていますから大丈夫です」
「そうか分かった。それじゃぁおれ達は一旦地上に戻る。呉々も無茶はするなよ?」
「はい!スノウさん、ソニックさんも。ご武運を」
スノウとソニックは地上に戻っていった。
一方グルトネイは間も無く猛魅禍槌攻撃圏内に入るところまで来ていた。
――ヴィマナ内――
「リュクス、魔力上昇を検知し次第すぐに伝えろ」
「承知しましたシルゼヴァチーフ」
「お前ら出撃になったら作戦通りに行動だ」
『おう』
――素市ダンジョンの入り口――
ワサンとヘラクレスが腕を組んで入り口の両脇に仁王立ちしている。
「思ったより早かったな」
「ああ。ひとりかふたり生捕りにすりゃいいよな。それ以外はオレ達に喧嘩売ったことを後悔させながら死んでもらう」
「随分と恨みつらみが溜まってんな。まぁ、スノウに怒られる役は俺が買って出てやる。好きにすればいいぜワサン」
「ヘラクレス、お前やっぱりいいやつだ」
「はっはっは!それじゃぁ今度酒奢れ」
「了解だ」
スタスタスタスタスタ‥‥
周囲に突如人影が現れた。
合計5名でワサンには見覚えのある者もいた。
「お前、確か分隊長のギョライ。そして副分隊長のキライだったか」
「そういうあなたは誰ですか?私たちが有名人なのは認めますが、名乗るのが筋ですよ。まぁ名乗らなくてよいですが。どうせここであなた方‥‥死にますから」
黒いコートに身を包み、鼻が高くその先に黒いツノのようなものがついた顔でサングラスをかけている男が言った。
三足烏・烈ギョライ隊副分隊長のキライだった。
その横には筒状のレンズが付いた仮面をつけ派手な明細柄の服をきたひょろ長い姿の人物が奇妙な構えで立っている。
三足烏・烈ギョライ隊分隊長のギョライだった。
「オレはレヴルストラのひとり、ワサンだ。お前らと戦った時は狼の顔だったが、とあるきっかけでこんな姿になってる」
「俺はレヴルストラのひとり、ヘラクレスだ。お前らみてぇなヒョロヒョロのやつが相手とは拍子抜けだな。ホウゲキとかいう奴を連れてこい。俺の相手をしたいなら、ホウゲキくらい連れて来ないと話にならんぞ」
「という訳だ。積年の恨みをここで晴らさせてもらう。潔く死ね」
「なるほど。なるほど、なるほど。やはりレヴルストラでしたか。ワサン。随分と気色悪い顔になったものです。以前の方が私は好きでしたよ。犬畜生だった頃がね。そしてそこの肉団子。気安くホウゲキ様の名を呼ぶのではありません。貴様ごときがホウゲキ様と戦えるはずもないでしょう?なぜなら今ここで死ぬのですからね」
「やってみろ」
ヒュゥゥ‥‥
一瞬の静寂。
ワサンたちとギョライたちの間に風が吹き抜ける。
そして風が吹き抜け切った瞬間。
ガカカカカカン!!
タンタタタンタタタン!!
ギョライたちから凄まじい銃や投擲具の攻撃が始まった。
ワサンは短剣で、ヘラクレスは平手でそれらを弾いている。
ふたりは攻撃を避けることなくひたすら投擲攻撃を弾いている。
「やるじゃぁありませんか!これならばどうでしょう!」
投擲の量が倍になり、その投擲スピードも倍になった。
流石に弾ききれずにワサンとヘラクレスの体には傷が生じ始めた。
だが、ふたりの表情は全く変わらず動じる気配がない。
そしてそのままゆっくりと前進し、ギョライたちと距離を縮み始めた。
シュン‥ドッゴォォン!!
シュン‥ズバババン!!
ワサンとヘラクレスは凄まじい速さで跳躍し、ギョライ達との距離を詰め、ワサンは短剣で、ヘラクレスは拳で攻撃を繰り出し、ギョライ隊の部下3名を一瞬のうちに倒した。
ヒュゥゥン‥‥スタ‥‥
「おやおや随分と雑な攻撃ですね」
キライが後方へと飛び退き綺麗に着地すると余裕の表情で言った。
「仲間がやられ、お前とギョライだけになったが、随分と余裕じゃないか」
「当たり前です。あなた達の攻撃は遅くてあくびが出そうでしたから。言っておきますが、今倒した者達はギョライ隊の者たちではありません。いわゆる元冒険者の傭兵です。ガルガンチュア、パンタグリュエルから我ら三足烏に寝返った者たちということです」
「オレ達の実力を見定めるための駒として使ったとでも言いたげだな」
「まさか。それじゃまるであなた方を脅威と感じているみたいではありませんか」
パチン!
キライが突如指を鳴らした。
次の瞬間。
ドッゴォォォォォォン!!
倒した3人の死体が突如凄まじい爆発を引き起こした。
おそらくジオエクスプロージョンを凝縮した威力で、範囲は狭いが火力は通常の数倍だった。
「まさかこの程度で死ぬ者たちではないでしょうが、楽しい余興にはなりましたね、ギョライ様」
「‥‥‥‥」
ギョライは無言、無反応だった。
畝る黒煙が風に流された。
そこから現れたのは煙たそうにしているワサンとヘラクレスだった。
煤まみれのようになっているが、傷はない。
「ゴッホゴホ!全く人の命なんだと思ってんだよ」
「俺は息を止めていたから咳は出ないぞ。ワッハッハガガ!ゲッホゲホ!」
キライは余裕の表情を見せているワサンとヘラクレスを見て真剣な表情に変わった。
「どうやら本気を出さなければならなそうですね」
バサッ‥‥
キライはコートを脱いだ。
すると背中からもう一本の腕が出現した。
その手には特殊な投擲具を持っている。
「ほえぇ!手が3本!面白い生き物だな!お前なんの種族だ?」
「肉団子の分際で。言葉を慎むことです。私は歴とした人間です。いえ、人間を超えた人間。超人間とでもいいましょうか」
「まぁいいや。とにかくかかってこい」
ワサン、ヘラクレスとギョライ、キライの戦いが激化し始めた。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




