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<ホド編 第2章> 53.ありえない連絡

<本話の登場人物>

【ザザナール】:ニル・ゼントの配下の剣士 昔は冒険者でレッドダイヤモンド級を超えるレベルだったが、その後殺戮への快楽に目覚め悪に堕ちた。

【グレゴリ】:パンタグリュエルの団長。ダンカン・ズールーの息子で彼の死後若くして団長になったが、冷静な判断ができる切れ者。


53.ありえない連絡


 ガキィィィン!!


 突如スノウの背後から剣が振り下ろされたのだが、フランシアがそれを剣で受けた。

 スノウは微動だにせず話始めた。


 「こんなことだろうと思ったよ。お前ら‥‥素市(もとし)の者じゃないな?」

 「だったらなんだというのだ?どうせ貴様らはここで死ぬのだ。情報など不要だろう?」


 30人が一斉にスノウ達に襲いかかる。


 ガコォォォォォォォォォォォォン!!


 敵意を剥き出しにした30人は一斉にスノウ達に襲いかかったのだが、何かに阻まれたかのように吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされた者たちがスノウを見ると、スノウの前に剣先を前方に突き出しながら低い体勢で構えているフランシアががいた。

 30人の一斉攻撃に対し、フランシアは一瞬でカウンターを喰らわせたのだ。


 『ぐばぁ!』


 20名程度が口から血を吐いて倒れた。

 

 「なんて脆い者たちなの」


 フランシアのカウンターで30人中20人が戦闘不能状態となっていた。


 「おや、随分なじゃじゃ馬がいたもんだ」


 唯一カウンターを躱し吹き飛ばされず自ら後方へと飛び退いた人物が言った。


 「お前は余裕ぶっているが、大した強さじゃないように見えるな」


 スノウは微動だにせず腕を組みながら言葉を返した。

 フランシアの凄まじい速さを捉えギリギリで躱す余裕を見せつつ片足で大きく後方に飛び退いた身のこなしは明らかに他の者たちとは違うかなりの戦闘力の高さを持っていることが見てとれた。


 「言うじゃないか。戦う前から自分の方が強いと思い込むやつに限って自分の弱点に気づいていないことが多い。お前もそのクチか?」

 「やってみろ。おれの弱点をついて一太刀でも当てられたらお前の強さを認めてやるさ」


 スノウの挑発に男は不敵な笑みを見せながら剣を肩の上に乗せた。


 「くだらねぇなぁ。そんなゲームじみたことするわけねぇだろう?これは既に殺し合いなんだぜ。お前らがレヴルストラの一味である瞬間からな」


 シュン‥‥ガキン!!


 凄まじい速さで男がスノウとの距離を詰めて剣を振り下ろしてきたのだが、フランシアが軽々と受け切った。


 「お前ぇ‥‥女に守ってもらって恥ずかしくないのか?」

 「あら、あなたは女に負けるのだけど恥ずかしくないの?」

 「ははは!気に入ったぜ!じゃじゃ馬さんよ!」


 キィィン!キキキィン!ガキン!カキィン!!


 凄まじい剣の応酬が繰り広げられた。

 他の10名は既にシルゼヴァたちによって倒されている。

 フランシアと戦っている男だけが生き残っている状態だったが、男は全く臆することなくフランシアと剣を交えており、その姿はむしろ戦いを楽しんでいるようだった。


 「あら、あのボウヤ‥‥」

 「どうしたロムロナ。あの男、知り合いか?」

 「まさかぁ。知り合いじゃなくてあのボウヤ、有名人に似ているなぁって思ったのよぉ」

 「有名人?」

 「そうそう。でも有名といっても悪名だわねぇ‥‥あの太刀筋‥‥やっぱりそうだわぁ」

 「知っているやつ本人か?」

 「ええ、ほぼ間違いないわねぇ。名はザザナール。昔は冒険者でレッドダイヤモンド級以上の実力を持っていたわ。でもいつからかクエストを達成するよりも殺戮を楽しむようになってねぇ。よくいるのよね冒険者には。魔物を殺している内に殺戮に快楽を見出してしまう者がねぇ。あのボウヤもそのクチ。でも彼を止められるほどの者はいなくて、しばらくザザナールボウヤの殺戮が続いたわ。でもある時、ぱったりと止んだの。そして消息を絶った。そのボウヤがなぜこんなところにいるのか‥‥」

 「なるほどね。それでシアと戦ってあそこまで耐えられているってわけか」

 

 ガキン!カキキィン!」


 「じゃじゃ馬さんよ!中々いい剣捌きだ!だが、まだまだ経験が浅いな」


 ザザナールは剣を振り下ろした直後、体をくねらせてフランシアとの間合いを詰めると、そのままもう一方の手にいつの間にか握られている短刀で突いてきた。

 

 カァン!


 フランシアはそれを裏拳で弾いた。


 「ほほう!」


 ギュワァン‥‥ストォォォン‥‥タタン!


 ザザナールはフランシアの裏拳で弾かれた勢いを利用してそのまま体を捻りつつ後方へと飛び退いて距離をとった。


 「じゃじゃ馬さよ、あんた本当にニンゲンか?いや、何かとのハーフだな。そして後にいる色男。お前はそのじゃじゃ馬さんを用心棒として雇っているってわけじゃなさそうだな。同等以上の強さを持っていそうだ。俺の勘がそう言っている。この戦い、分が悪そうだ。ここで引かせてもらう。だが次はちゃんと面白い戦いにしてやるから楽しみにしていてくれよ」


 フッ‥‥


 ザザナールはその場から消えた。


 「一体何だったんだ?」


 呆れたようにスノウが言うと、そばにシルゼヴァがやってきた。


 「ひとり瀕死の状態で生かしてあるが、ロムロナ、お前は拷問が得意だったな。何者で目的は何かを吐かせる前提で好きなようにして構わん。聞きたいことが聞けたら殺してもいい」

 「あらぁ!シルゼヴァボウヤ!あなた中々の色男じゃないのぉ。惚れてしまいそうだわぁ。キスしてあげようからしらぁ!」


 スノウとワサンは背中に冷や汗が滴るのを感じた。

 シルゼヴァにそのような口の聞き方をして生きていられる者が存在するイメージが湧かなかったのだ。

 

 (ロムロナ、死んだな‥‥)

 (無事に成仏してくれ‥‥)


 だがシルゼヴァの反応はふたりの予想を裏切ったものだった。


 「ロムロナ。俺に触れたいのならもっと強くなることだ。俺は心も体も強い者が好きだ。種族は問わん。そもそも俺自身が半分忌々しい神の血を受けている半端者だからな。俺に見合う女になったら抱いてやろう」

 「うわぁぁん!シルゼヴァボウヤ!あなた本当にいい男ね!本気で惚れちゃったわよ」


 浮かれているロムロナの声が耳に入って来ないほど、スノウとワサンは驚いていた。


 「本当にシルゼヴァか?」

 「別人かもな‥‥」

 「おい、二人とも何を呆けている。ダンジョンに向かうのだろう?素市(もとし)の住人たちは一刻を争うダメージを受けている可能性があるはずだ」

 「そ、その通りだシルゼヴァ。ダンジョンへ急ぐぞ」


 スノウは気を取り直すように声をかけると移動し始めた。

 ルナリが負の情念の触手で縛り付けた状態で捕虜を運んでいる。

 10分ほど歩くと、素市(もとし)最大のダンジョンの入り口が見えてきた。


 「ワサン、シンザ、ルナリはここに残って新手の敵が来たら対処してくれ。ロムロナはここで捕虜から情報を聞き出してくれ。残りはダンジョンに潜ってグレゴリたちを探す。見つけたらまずは怪我人の回復に専念してくれ。よし、出発だ」

 『おう!』


 スノウ達はダンジョンに入っていった。

 それを見送りつつロムロナは捕虜に目を向けた。


 「さぁて、ボウヤ。痛いのが好き?苦しいのが好き?それとも怖いのが好き?」


 ロムロナの表情が徐々に拷問玄人(ゴウモニスト)の表情へと変わっていく。

 

 「ひぃぃぃ‥‥ぜ、全部、い、嫌‥」

 「あらぁ!捕虜の鏡ねぇあなた。全部欲しいだなんてぇ。ほしがり屋ボウヤだわねぇ。痛くて苦しくて恐怖に塗れた楽しい拷問を与えてあげるわねぇ」

 「ひっ!」


 ワサンとシンザは目を合わせて、敵である捕虜に同情するような表情を見せた。


・・・・・・


 ダンジョンに潜ったスノウ達は魔物を倒しながら50階層まで進んでいた。

 50階層まで来ると、グルトネイの破壊によって生じた津波の被害も全くなく、普段と変わらない状態だった。


 「この下の階層はかなり開けている場所のようだな。ソナー魔法に数多くの生命反応が感知された。おそらくこの下に逃げてきた人たちがいるはずだ」


 スノウの感知した通り、51階層に降りると、そこには大勢の人がいた。

 しかもかなり広いエリアで多くの建物が立ち並んでいる。


 「どうやらここはダンジョンの下層へチャレンジする冒険者たちの中継拠点として作られたエリアのようだな」

 「ここを利用するとはグレゴリも中々機転がききますね」

 「ああ。だが怪我人は大勢いるようだ。まずはグレゴリを探そう。探しつつ重傷の人がいたら魔法で回復する。手分けして探そう。ここは天井が高いから、見つけたら魔法で花火でもあげて合図してくれ」

 『おう』

 「その必要はありませんよ」

 『!』


 人混みの中からグレゴリが現れた。


 「グレゴリ!」

 「スノウさん!」


 スノウはグレゴリの両肩を掴んだ。

 グレゴリは嬉しそうな顔のまま目から涙を流している。


 「スノウのおかげで避難することができました。それでも助かったのは素市(もとし)全体の約5分の1ですが‥‥。でもスノウさんの助言がなければ、一人も生き残ることが出来なかったと思います。僕は最後までパンタグリュエルの本部の屋上から街全体の様子を見ていましたが、街の4分の1を消し去った白熱光線は逃げる暇もなく全てを破壊しました。残された部分も半分が白熱光線の熱で灼熱状態となり多くの人たちが焼け死にました。そしてその直後に襲ってきた津波‥‥予め避難が出来ていなければ、逃げきれないほどの力で街を破壊し尽くしました。スノウさん。あなた僕らの、そして素市(もとし)の恩人です」


 グレゴリの話を聞いていた者たちが皆立ち上がって頭を下げた。

 それを見た者たちも、恩人であるスノウがやってきたのだと悟り、疲れた体にも関わらず、立ち上がって頭を下げた。

 立ち上がれない者はその場で額を地面に擦り付けるようにして感謝の意を表した。

 冒険者ではない者がダンジョンの51階層に来るのは非常に困難だったに違いなかった。

 もちろんパンタグリュエルの冒険者たちが矢面に立ち、魔物と戦ったのだろうが、ざっと見積もっても数千人以上はいる。

 それだけの一般民を守れるほど冒険者の数は多くない上に、ダンジョンの魔物も甘くはない。

 おそらく一般民も必死に戦い、逃げ、隠れ、傷を負ったに違いなかった。


 「お、おい、やめてくれグレゴリ。この人たちを救ったのはお前だ。そしてここまで辿り着き生き残ったのはそれぞれの生きたいという頑張りだ。おれは恩人でもなんでもない。どうか皆頭を上げてくれ」

 「スノウさん。どうか気の済むまで感謝の意を表させてください。我々にできることはその程度しかない‥‥」

 「分かった。だが怪我人の手当てが先だ。魔法で回復したい。できれば効率的に回復したいのだが、把握しているか?」

 「この階層には冒険者用の簡易的な病院があるんです。パンタグリュエルが管理しているものなので病院といっても質素なベッドが並んでいて、傷薬や包帯、低効果の薬草が保管されている程度ですが。でもそこに重傷者が集められているはずです」

 「案内してくれ。みんないくぞ」


 グレゴリの案内で病院を訪れたスノウ達は重傷患者たちの回復を行った。

 かなりの人数がいるため回復には時間がかかったが、メンバーの魔力が尽きる前に重傷人の回復をやり切ることが出来、避難してきた者が亡くなることは避けられた。

 食料は数日暮らせるほどの量が備蓄されているため、餓死することもなかった。

 元気な者から地上へと戻り、街の復興を始めることになっており、パンタグリュエルの冒険者を中心に二日後には第一陣が地上に戻る計画だという。

 スノウ達は魔力の減りが激しいため、その日はゆっくり休むことにした。


 その夜。

 スノウは当てがわれた建物の屋上にいた。

 51階層全体を見渡せる高さであり、夜中であることもあって灯りは所々に灯されている程度だった。


 「眠れないのか?」

 「?」


 背後から話しかけてきたのはシルゼヴァだった。


 「ああ。本当は魔力を回復するために寝なきゃならないんだけどな」

 「考え事か?」

 「あ、いや、変な話だよ」

 「何だ、言ってみろ」

 「いやな、もしおれがホドから越界せずにそのまま残っていたら、ここにいる人たちを救うどころか、おれ自身も死んでいたんじゃないかって思うんだ。いくつかの異世界での経験でおれはそこそこ強くなったが、何よりお前たちが仲間になってくれて、このホドに戻り、シルゼヴァがヴィマナで起動されずに眠っていたリュクスを起こし転送機能を強化してくれて、仲間がアーリカを確保してくれて、全員で連携してグルトネイを倒せたからこそ今ここにおれは立っていることが出来ていて、この階層にいる人たちも生きていられるのだと思うんだ。そう考えると、何かの力でティフェレトに越界させられたおれは、そうすべくして越界したんじゃないかって思うんだ。偶然ではなく必然、もっというなら、未来のおれがそうさせたとかな‥‥ははは!自分で言っていて恥ずかしくなるくらい馬鹿げた話だな」

 「そうでもないと思うがな。お前が時の呪縛から解き放たれている状態だから、この先の未来から過去に干渉し敢えて自分を越界させることも不可能ではない。いやむしろその仮説が最も有力かもしれんぞ」

 「ははは、お前に言われると本当にそうなのだと思ってしまうよ。でもおれにそんな大それたことが出来るとは思えない。きっと偶然なんだと思うよ。ただひとつ言えることは、おれにとってレヴルストラの仲間は自分の命より大事な存在だってことだ。それはそれぞれの異世界に残した仲間も含むし、背中に背負っているバルカンもそうだ」

 「それは俺たちも同じだ。スノウ、お前は退屈だった俺の一生に最高の刺激を与えてくれている。絶対的信頼感の上にある死線を乗り越えるという刺激をな。メンバーそれぞれ想いは違うかもしれないが、全員、仲間を自分の命より大切な存在だと思っているはずだ」


 シルゼヴァは腕を組みながら一歩前に出て話を続けた。


 「それも全てお前というリーダーの存在あってのことだ。お前は自分に自信がないようだからいつも否定してくれるがな」

 「‥‥有り難い言葉だよ。長年人間不信だったおれにとっては今の環境やその言葉はまるで奇跡だ。”足を知る” とはこういうことなんだろうな」


 “ジジジ‥‥スノウ‥長”

 「!!リュクスか?!」


 突如リュクスからの通信が入った。

 通信可能距離を超えているためか、はっきりと聞こえない。


 “巨‥船‥ルトネ‥‥接近‥‥急‥‥戻り‥‥さい”

 「!!」


 はっきりとは聞こえなかったが、内容は理解できた。

 理解できたが、信じられない。


 「どうしたスノウ。リュクスからの通信か?何と言っている?」

 「はっきりとは聞き取れてないが、おそらく、巨大船グルトネイが素市(もとし)に接近している。至急戻ってくるようにと言っている‥‥」

 「すぐにメンバーに帰還の仕度をさせるぞ。転送可能域に辿り着き次第ヴィマナに帰還だ」

 「分かった」


 スノウとシルゼヴァはすぐさま行動を開始した。




いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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