<ホド編 第2章> 47.作戦会議
47.作戦会議
全員会議室に集合した。
会議室に入ると、スノウがテーブルの中央に立ち、全員の目を引いた。
「具体的な作戦に入る前に、各自がアーリカの機能と役割をしっかり把握しておく必要がある。シルゼヴァ、もう一度アーリカで何が出来るのか、説明を頼む」
「いいだろう。アーリカは既に俺たちの手の内にある。俺たちが完全にコントロール出来るということだ。そして乗員は5名。5名は個別の戦闘には参加出来ない。その代わり、アーリカを動かしアーリカで攻撃する役割を担う。リュクスが構成したバーチャル空間で操舵、砲撃の役割を担うこということだ。5人の中で誰が意思決定するかも決めておく必要がある。アーリカに乗り込んでいる者たちとそれ以外の者たちとの通信は全てヴィマナのリュクスを経由して行うことが可能だ」
「ということは全体的な指揮はスノウが行い、アーリカの指揮はその傘下で独自に行うということですね?」
「その通りだソニック。そして攻撃だが、大きくふたつ。ひとつは俺たちが最初に確認した攻撃、“見えない攻撃” だ。俺はこの攻撃を “禍槌” と名付けた。グルトネイの攻撃が猛魅禍槌だとすればアーリカの攻撃はその超小規模版だからな。原理は基本的に猛魅禍槌と同じと思われるが、その照射方法が違う。照射範囲が狭いことと、照射時間が短いことだ。例えば消化ホースから水を流し続けているのが猛魅禍槌だとすれば、水撒き用の小径のホースから一瞬だけ水を放出するイメージが禍槌だ。残念ながら禍槌はグルトネイには傷一つ付けることは出来ないだろう」
「ってことはシルズ、その禍槌ってのは今回使えねぇってことだな?」
ヘラクレスが質問した。
「馬鹿かハーク。禍槌はそれなりの威力がある。上手く使えば船を動かす推進力にもなるし、攻撃から身を守る防御にもなる。言うなればお前の一番苦手な発想力を使った対応が可能ということだ」
「くぅぅ!、手痛い言葉の一撃だ」
場を和ませようとしていたのか、ヘラクレスはおちゃらけて見せたが、返ってシラけてしまった。
そんなヘラクレスをお構いなしとばかりにシルゼヴァは説明を続けた。
「もう一つの攻撃手段は3本の角だ。しかもこの3本の角は配置を自由に変えることが出来ると分かった。これも乗り込む5人がバーチャルの操舵空間で動かすことが出来る。この角を使ってグルトネイに一撃を喰らわせる。それも致命的な一撃をな」
「そのためにはグルトネイの弱点を見極める必要があるな」
今度はスノウが割って入った。
そのまま話を続ける。
「貨物室でアーリカを触った時の感触というか音で、扉がある部分と扉のない部分で音の響きと外殻の材質が違う感じがしたんだ。つまり扉部分は外殻の強度としては弱いんじゃないかと思ったんだが、みんなどう思う?」
「それは俺も感じた。フレイムレイで開く扉だ。開くところを見た者は感じたかもしれないが、穴が広がっていくようにして空間が開いた。つまり、通常の外殻と違って、防御というより開閉の機能を優先している部分で、それだけ薄い壁の構造で強度は低いという推測が成り立つ」
「私もそれは感じたわ。そしてグルトネイとの戦闘時にアーリカを然程スピードのない状態でぶつけた時でもグルトネイの外殻には傷がついた。これは私たちがアーリカを操舵し、全速力でグルトネイに突進する場合、衝突の威力が数倍に跳ね上がるから、壁が薄い出入り口に角を突き刺すことによってより外殻を突き破れる可能性が高くなるということだと思うの」
「僕も同意見を持ちました」
フランシアに続きソニックも同様の意見を示した。
それに全員頷いている。
「全員同じ理解になったみたいだな。これで理解してもらえただろうが、非常に重要な役割はアーリカに乗り込む5人ということになる。この指揮はシルゼヴァに頼みたい。シルゼヴァが最もアーリカを理解しているし、臨機応変に判断して動かすことも可能だろう。おれはグルトネイの注意を惹きつける役割を担うつもりだが、アーリカとの連携がこの作戦の肝になる。そういう意味でシルゼヴァが指揮してくれていると非常に安心出来る。皆異論はないか?」
皆納得したように頷き賛同している。
「ありがとう。それじゃぁ残り4人の乗員を決めたい」
「ひとりはハークにしてくれ。魔力ゼロだが生命力だけは人一倍あるからな」
「オレもいこう」
魔力ゼロと言われたのが気に食わなかったのか、ヘラクレスは拗ねていたがそれを無視してワサンが言った。
「あたしもいくわ」
入れ替わったソニアが手をあげて言った。
「ソニックが来るのは心強い」
「はぁ?!ソニックじゃなくてあたしが行くんだし、参加はあたしの意思なんだけど」
ソニアの発言を軽くシルゼヴァは無視したので、ソニアはひとりでブツブツと怒っていた。
「あたしも乗るわぁ」
ロムロナが手をあげた。
「お前は水中での戦闘力が高い。アーリカじゃなく、スノウと共に戦うのがいいと思うが?」
「乗ってみたいのよぉ。小さい頃見たアーリカに乗れるなんて夢見たいじゃないのぉ。これって本来はヴォヴルカシャの王族か、聖騎士隊から選ばれた人しか乗ることを許されなかった船だからねぇ」
「そうなのか!ヌワッハッハ!やはり俺は選ばれし者ってことになるな!」
ロムロナの言葉にヘラクレスは途端に上機嫌になった。
「スノウ、アーリカに乗るのは俺、ハーク、ワサン、ソニック、ロムロナの5人だ。それでいいか?」
「ああ」
「ちょっとシルゼヴァ!ソニックじゃなくてあたしよソニア!ソ!ニ!ア!次間違えたら殺すからね!」
シルゼヴァは無視している。
「そ、それじゃぁ外側から戦うのはおれとシア、シンザ、ルナリの4人だ。ガースはヴィマナを頼む」
全員頷いた。
「よし、それじゃぁ具体的な作戦だ」
スノウは連携作戦をメンバーに伝えた。
「分かった。とにかく我らがグルトネイを撹乱させ、猛魅禍槌を放出させ続けるということだな」
ルナリがスノウの伝えた作戦を整理して繰り返した。
「そうだ。グルトネイには約1000人が乗っているということはそれだけの魔力と生命力が原動力になっているということだが、猛魅禍槌ほどの威力だ。そうそう何発も打てるものじゃないと思うんだ。猛魅禍槌さえ封じられればあとはそれほど難しくない。おれとシアでグルトネイを撹乱し続けている間に、シンザとルナリでグルトネイの出入り口を探してくれ。見つけられた後はアーリカでグルトネイを攻撃する。グルトネイに穴が開いたらシンザとルナリが内部へ侵入し破壊する。これが作戦だ」
皆頷いた。
「リュクス、グルトネイが素市の攻撃圏内に入るまでの時間を教えてくれ」
「あと3時間です。前回、猛魅禍槌を放った際の威力が落ち切るまでの距離を計測して攻撃圏内を算出しています。ですが、3時間後の時点では遠距離であるため照準精度が低く、素市に攻撃が当たる可能性は50%以下になります。4時間後には80%まで上昇、5時間後には100%の照準精度になります」
「分かった。よし、作戦開始は30分後とする。それまでに準備を終えてくれ。それじゃぁ解散だ」
全員、準備に取り掛かるため作戦会議室から出て行った。
・・・・・
「よし、みんな準備はいいか?」
『おう!』
「それじゃぁ作戦を開始する」
スノウ、フランシア、シンザ、ルナリが転送された。
「俺たちも出撃の準備に入る」
シルゼヴァ、ヘラクレス、ワサン、ソニア、ロムロナの5人は貨物室へと向かった。
貨物室に到着した5人はアーリカへと乗り込んでいく。
カプセルホテルのようなポッドに入り込み、仰向けになる。
「皆さん、これより仮想空間へと接続します。頭部に違和感がありますが気にしないでください」
リュクスの声が聞こえた。
ニュルル‥‥
まるでスライムが頭部にのしかかるような感覚になる何かが頭部を覆い尽くした。
そして耳からその何かの一部が入り込んでくる。
決して気持ちの良いものではないのだが、その直後一気に精神が飛ばされる感覚になり、次の瞬間、だだっ広い海に浮かぶクルーザーのような船の上に立っていることに気づいた。
「何ここ?!」
ソニアは戸惑いながらも、揺れる船から振り落とされないように壁に掴まった。
「ソニア砲撃手、ここは仮想空間の操舵室です」
「リュクス?リュクスなのね?」
「はい、そうです」
「操舵室ってこれ船よね?」
「はい、そうです」
「他のメンバーは?」
「既に中にいらっしゃいますよ」
「中?ああ、この扉の中ね」
「はい、そうです」
ソニアは扉を開けてクルーザーの室内へと入った。
「遅いじゃないかソニア」
奥にあるソファにだらしなく座っているヘラクレスが言った。
シルゼヴァは舵を握って操舵している。
ロムロナは窓から外を眺め、ワサンはレーダーを見ている。
「随分と緊張感ないわね、あんた達」
「当たり前だろ?まだ戦闘じゃないんだぜ?くつろげる内はくつろぐんだよ」
「ねぇ見て?イルカの群れがついてきているわよぉ?あたしも泳いでいいのかしら?」
「ロムロナ操舵手。ここは仮想空間です。泳ぐことは出来ません。イルカは実際には存在しません。この閉鎖空間で気が滅入らないようにと自然の環境も模した演出です」
「言っていることがよく分からないわねぇ。その仮想空間って何なの?あたしにも分かるように教えてくれる?」
「オレが教えてやる。仮想空間ってのは‥」
「いいえ、リュクスボウヤから教えてもらうからいいわ。あなたから説明されても多分あたし理解できしねぇウフフ」
「ちっ相変わらず意地の悪い性格してんなロムロナ」
ワサンは舌打ちをしながら読めもしないレーダーを見ている。
「リュクス。しばらく待機だ。スノウから合図があったらグルトネイの近くに転送してくれ」
「承知しました。シルゼヴァチーフ」
一方グルトネイの上空500メートル付近に転送されたスノウ、フランシア、シンザ、ルナリは浮遊しながら下方をゆっくりと進んでいるグルトネイを見た。
「さぁて、あの黒い島を海に沈めてやろう」
『おう!』
スノウたちは戦闘体勢に入った。
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