<ホド編 第2章> 46.アーリカ
46.アーリカ
スノウは機関室を訪れた。
「スノウ、待っていたぞ」
シルゼヴァが出迎えてくれた。
既に他のメンバーも揃っていた。
「何で機関室なんだ?押収したアーリカは地下の貨物室なんだろ?」
「あそこにはコンピュータがないからな。まずは説明するためにここに呼んだのだ」
そう言うとシルゼヴァはスクリーンに何かを映し出した。
映し出されたのは何かの図面だった。
簡易的とはいえ、立体図で自由に角度を変えることが出来る。
「これは?」
「アーリカの図面だ。ポンチ絵程度だがな」
「ポンチ絵程度って、結構細かく書かれているけど。しかも内部まで。分解したのか?」
「いや、ヴィマナの機能だ。スキャニングというらしいが、本来は船に異常がある場合に船体を隅々まで調べる機能として使われるのだが、それを応用してアーリカをヴァーチャルに輪切ったわけだ」
「すごいな‥‥」
(シルゼヴァは本当にすごいやつだ。とてつもなく強い上に頭もいいし、応用もできるし、実行力がある。性格に難があるだけで本来はシルゼヴァがレヴルストラのリーダーであるべきだよな‥‥)
「そんなことよりこれを見てくれ」
シルゼヴァが指し示したのはアーリカの中心にある歪な円形の部分だった。
直径50センチメートルほどの大きさだった。
「これが何だっていうんだ?」
「この歪な球体から無数の線が伸びているのが分かるか?」
シルゼヴァの言う通り確かに球体から不規則に伸びる線があり、まるで植物の根のように複雑かつ不規則にアーリカ全体に伸びていた。
「分かるが、もしかして潤滑油みたいなのを駆動部分に供給している管みたいなものか?」
「近しいが違う。俺の見立てではこの複雑に伸びている線は血管だ」
「血管?!」
「ああ。そしてこの球体は心臓。ポンプの役割を担っていて、何かしらのエネルギーをアーリカ全体に供給していると思われる。いや、こんな面倒な言い方をしても無意味だな。簡単に言えば、こいつは生き物だ。強固な外殻を有する生命体だな」
『!!』
全員驚きの表情でスクリーンを見ている。
「クティソスみたいなものか?」
「その通りだ。クティソスは元となっているのはニンゲンだが、このアーリカは何が元となっているのかは不明だ。このサイズからしてみれば、海獣か大きな魔物あたりだろう。そしてこの部分を見てくれ」
シルゼヴァが指し示したのは細長い空間だった。
その空間が5つほど並んでいる。
スノウはその空間に察しがついた。
「人が入る空間か。ここに入れられた人は脳に管が繋がれて、精神世界がこのアーリカを動かす空間に転移させられ、そこにいる船頭に操られ魔力や生命力を奪われる。その魔力や生命力はこの心臓部に供給され、心臓部がポンプの役割を果たし、エネルギーを全体に行き渡らせているということか‥‥」
「その通りだ」
そこにヘラクレスが割って入る。
「だとしてもよ。扉らしきものは無かったんだろ?こいつらどうやって出入りしてんだよシルズ」
「ハークにしてはいい質問だ。俺たちが一番時間をかけてしまったのは扉を開ける方法を見つけることだった。だが、流石はレヴルストラだ。一緒に来てもらったメンバーの知恵を絞って開ける方法を見つけたのだ」
スノウは珍しくシルゼヴァが他人を褒めていることに驚いた。
(シルゼヴァは少しずつ変わって来ている。いや、シルゼヴァだけじゃない。シアもソニックもソニアも、ワサン、シンザ、ルナリ、ヘラクレス。皆程度差はあれど変わって来ている。成長しているってことか。嬉しいことだが、残念なのはおれだな。おれは何一つ成長出来ていない。人間不信の裏返しで仲間しか信頼できないし、仲間を失うのが怖い。この間オボロに言われたことは腹立つが正しい‥‥)
「おいシルズ、勿体ぶってないで早く教えろよ」
「全くお前は品格ってものがないようだな。何でも知りたがるのはガキと神だけだぞ」
「分かってるからよ、早く教えてくれよ」
「はぁ」
シルゼヴァはため息をつきながらコントロールパネルを操作した。
「アーリカは生命体だが、意思の疎通を図ることはできない。調べたところリュクスのように人工知能のような存在もなかった。一方中に入っているのはただのニンゲンだ。アーリカには把手がない。把手のない扉をニンゲンが開けるためには特殊な呪文か、魔力を流し込むか、もしくは生体認証のような人物を特定するようなものか。いずれにせよ、ニンゲンの使えるレベルで扉の開け閉めができている必要があると俺たちは仮説を立てたのだ。ここからは現物で確認するのがいいだろう。貨物室に移動するぞ」
シルゼヴァの先導のもと、スノウ達は貨物室へと向かった。
『!!』
アーリカをスクリーンでしか見ていない者たちはその大きさと形に圧倒された。
全長20メートルほどで鋭利な角のようなものが3本有しており、とても船とは思えない形だった。
即席で作ったと思われる土台の上に乗っているため、少し見上げる位置にアーリカはあった。
後方部分に脚立がセットされている。
シルゼヴァはその脚立に乗り、アーリカの船体に手を当てた。
「ニンゲンの魔力は微量で、使える魔法ランクも最高で3だ。一般的なニンゲンは1か2しか使えない。そのレベルで誰でも使えそうな魔法。フレームレイだ」
シルゼヴァはアーリカの船体に触れている手のひらからリゾーマタ炎系クラス1魔法のフレームレイを放った。
アーリカの船体のシルゼヴァが触れている付近が徐々に赤く変色していく。
ボワァァァァァン‥‥
アーリカの船体がまるで生きているかのように動き出し、シルゼヴァが手を当てている場所から空間が広がっていった。
そして人ひとりが中へ入ることができる程度の空間が開いた。
「中を見てみろ」
スノウは脚立に上り中を見てみる。
内部は外殻と違い、人の肌のような材質だった。
狭い通路が続いており、小さな扉が5つ設置されている。
「図面の通りだな。5人の人間がこの5つの扉から中へ入り、魔力と生命力を吸われながらこのアーリカを動かしていたということなんだな?」
「そうだ。アーリカはグルトネイと違って中からニンゲンを引き出しても爆発することはなかった。全員死んではいたがな。そしてリュクスが中の構造をスキャンして改造を施した。つまり俺たちでもこのアーリカを動かすことが出来るようになったということだ」
「!!‥‥どうやったんだ?」
「簡単です」
リュクスが説明し始めた。
「起動そのものはアーリカ単体で行えます。動力が魔力と生命力ですからその供給さえできればよいのです。問題は精神世界が飛ばされる仮想空間内で行う操舵です。アーリカにもそれを指示する命令系統が存在しました。推測ですが、どこかに存在するセンターコントロール機能によって遠隔で操作しているものと思われます。ですが指示しているのはあくまでアーリカの乗員に対してで、実際にアーリカを操舵しているのは乗員だということが分かりました。従って、遠隔で繋がっているセンターコントロールとのインターフェースを遮断して完全な独立環境を作り出したのです。操舵するバーチャル世界さえ維持し続けられれば、アーリカに乗員した方たちの意思でアーリカを動かすことが出来るのです。そのため、アーリカの神経経路内に改めてバーチャル空間を構築しました。そして5つのポッドのシンクロ機能の神経経路と繋ぎました」
「つまり簡単に言うと、おれ達でこのアーリカを動かせるってことなんだな?」
「その通りですスノウ船長」
シルゼヴァが再び説明し始めた。
「ついでにこの角の材質も調べた。相当な硬度があるらしい。グルトネイがアーリカを攻撃した理由は、推測通りこの角を恐れたからだろう。つまりこいつがあればグルトネイに傷をつけることが出来るということだ」
一筋の光が見えたことで一同の表情は明るくなった。
素市でグレゴリを説得しきれなかったスノウは自分たちで何とかグルトネイを止めなければならないと思っていたため、アーリカを自分たちのものにできたことは非常に大きな打開策の切り札となったことを喜んだ。
「よし、作戦を立てよう。アーリカ単体で攻撃を仕掛けてもグルトネイのあの猛魅禍槌の威力が分散したような攻撃で沈められてしまう可能性がある。アーリカの力を最大限に活かせる作戦が必要だ。作戦会議室に5分後に集合とする」
『おう』
スノウたちは会議室へと移動した。
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