<ホド編 第2章> 44.生物機械構造
44.生物機械構造
キィィィィィィィィィィィン‥‥
スノウ、ルナリ、そしてグルトネイから引き抜かれるようにしてルナリに捕えられた男がヴィマナのブリッジに転送された。
すぐさまヘラクレスが抑え込む。
「ぐぶっ!」
ヘラクレスは男を背後から押さえ込み床に押し付けている。
「ヘラクレスよ。その者は只のニンゲンだ。あまり力を入れ過ぎると死ぬ」
「おぉ、そうか」
ルナリに言われ、ヘラクレスは力を弱めそのまま縄で縛りあげた。
男は何も着ていない全裸状態であったため、スノウが布を男に巻きつけた。
縛ってある手は見える状態にしてある。
「リュクス、潜航状態でグルトネイと一定間隔を確保しつつ進め」
「承知しました」
ソニックの指示に従ってリュクスはヴィマナを自動追尾モードに設定した。
「さて‥‥」
ソニックは足を組んで船長シートに座った。
その前に膝をつかされた状態の捕虜となった男がいる。
「俺の名は、カイマン。この船の船長だ。これから質問をする。質問をする以上は質問をする側から名乗るのが筋だからな。俺はお前に名を名乗った。だからお前にも質問に答えてもらう。素直に答えれば殺しはしない。言い換えると、答えなければ殺す、ということになるんだが、すぐには殺さない。ウチの拷問担当があれやこれや痛めつけ、死にそうになったらほんの少しだけ魔法で傷を癒して生かしまた拷問。これを何度も何度も繰り返す。俺の話が理解できたのなら頷け」
コクコク‥‥
捕虜の男は慌てたように頷いた。
この捕虜の男が何者であるか分からないため、ソニックを船長にし偽名のカイマンと名乗り警戒しつつ尋問するというセオリー通りの対応だった。
捕虜はその状況を疑う様子もなく、カイマン船長に命乞いをするような目で次の言葉を待っていた。
「よし、まずお前の名前を教えろ」
「ラ、ラルフです」
「ラルフ。良い名じゃないか。それじゃぁラルフ。あの船について教えてもらおうか。あの船の名は?」
「グ、グルトネイ改‥‥です」
「なるほど。それでラルフ、グルトネイ改でのお前の役割は何だ?」
「動力と操舵、攻撃、全てです」
ソニックはラルフの言っている意味が分からず、レヴルストラの仲間を見た。
そして最後にスノウの顔を見た。
ラルフに見えないようにスノウは目で合図をした。
「面白い答えだな。お前ひとりであの巨大な船を動かしていたっていうのか?俄には信じがたいのだが、拷問されたいということか?」
「ち、違う!本当だ!信じてくれ!私は嘘はついていない!」
カイマンと名乗ったソニックは両手を組んでラルフに顔を近づけつつ再度話しかけた。
「じゃぁ、どういうことか、教えてくれ」
ソニックは威圧的なオーラを発しながら優しく丁寧に言った。
「あ、あの、わ、私もよく知らないのですが、グルトネイ改は乗組員の魔力と精神力で操るんです」
「あれだけの大きな船を1人で動かすのか?」
「いえいえ!1人でなんで無理ですよ!私のような者が千人ほどいるのです」
「‥‥‥‥」
話が見えないため、ソニックはふたたび周囲を見渡すふりをして、スノウを見た。
そしてアイコンタクトで指示を受けると再度質問した。
「もう少し俺たちに分かるように言え」
「す、すみません!えっと、私もよく分かっていないのですが、私がいたのは狭い空間でして、まるで人間の皮膚みたいな肌触りの壁の狭い空間に仰向け状態で横たわって、頭の上の方に、何というか肉の触手みたいなのが生えていて、その先に細い管みたいなのがありまして、それが耳と鼻から奥に入っていくんです。すると、意識が別の空間に飛んで、とても大きな筏に乗っている場所辿り着くんです。たくさんの人がいました。そしてそこには光り輝く姿の船頭がいて、私たちに指示を出してくれるんです。筏を動かす指示を。その指示に従って筏を前に進めたり、旋回したり。筏の中央には砲台が乗っていて、敵が来たらその砲台を皆で動かすんです。そして発射する真似をする。すると光り輝く船頭が私たちを褒めてくれるんですよ」
ヘラクレスやワサン、ロムロナたちはラルフの意味不明な説明に不気味さを感じて苦い表情で黙って目を合わせるしか出来なかった。
「なるほど。つまり、こういうことか?お前は、精神を別の場所へ移されそこで光り輝く船頭の指示に従って筏‥‥つまりグルトネイを操舵したり、グルトネイの武器を使って攻撃したりしていたというのか?」
「そうなんです!さっきも空の方に悪いドラゴンが数体いたので砲台を操って撃ちました」
「ドラゴン?そのドラゴンはどうなった?」
「撃ち落としたと思います。船頭さんが褒めてくれましたので」
「筏の周りには小舟もあったのか?」
ソニックは戦闘戦アーリカについても情報を聞き出そうと、想像で話しかけた。
だが、ラルフの様子がおかしくなっていく。
眼球が離れて口から涎を垂らし始めた。
「お、おお、そうかもしれませんねぇ‥‥私はその中でも優秀でしてぇぇ、船頭さんにぃぃぃ、何度も褒めぇらぁれてぇぇぇぇぇぇぇぇぇがががぁぁぁぁぁ」
『!!』
どんどんラルフの頭部が膨らんでいく。
不気味な表情が膨らんで歪んでいく。
そして異常なほどの大きさになった瞬間。
バァァァン!!
ラルフの頭部は破裂した。
スノウがラルフを囲むバリアオブアースウォールを発動したため、被害はなかった。
「何だったんだ?!」
ヘラクレスが首のない死体となったラルフを見て言った。
「おそらく保険だな」
シルゼヴァがヘラクレスの肩に座って言った。
「保険?」
「そうだ。こいつの話を俺の推測も交えて要約するとこうだ。グルトネイ改とは単一、もしくは複数の光り輝く船頭と呼ばれる指示役と、1000人を超えるニンゲンどもの魔力と精神力、生命力を燃料にして動く生命体と機械が融合した巨大な戦艦だ。ラルフの耳と鼻には触手が入り込んでいたと言ったが、おそらくそれは触手を脳の神経系に作用する場所まで侵入させ意識の共有を行っていたのだろう。あやつはとても大きな筏と表現していたが、そこには何百人ものニンゲンが一堂に会していたはずだ。皆、ラルフと同様に魔力や生命力を搾取されながら、意識を筏の場所へ引き摺り出されていたに違いない。つまり、ニンゲンどもは船頭の指示に基づき、集合意識のひとつとして機能するいわば肉塊の電池というわけだ。ルナリが強引に引っ張り出したことで集合意識から切り離されたラルフは俺たちの捕虜となったが、質問に答えていた矢先、脳に仕込まれたグルトネイの細胞が活性化して、ラルフの頭部が破裂するはめになったということだろう」
「おえぇぇ‥‥なんか怖ぇな」
「余計なことを喋らせないような仕掛けが植え付けられていたということか」
「そうだ。だが、これで相手の戦力が分かった。グルトネイは生物機械戦艦とでも言えるかなり高度な科学力によって造られたものだ。これが元老院や三足烏の力というわけだ。そして俺たちヴィマナの装備ではあれを撃ち落とすことは不可能だ。そうだな?リュクス」
「はい、シルゼヴァチーフエンジニア。現在ヴィマナに搭載されている兵器は8つですが、その内起動可能なものはありません。タガヴィマの本格稼働によるエネルギー供給が可能となれば3つの兵器を使用可能となります」
「というわけだ。つでにもう一つ質問だリュクス。グルトネイの放った猛魅禍槌 にヴィマナは耐えられるか?」
「耐えきれません。直撃すれば約0.8秒で船体の63%が損傷し、航行および潜水不能となります。現在シールドを使うことが出来ないためです」
「おいおいシルズ。それじゃぁ指咥えて見てろってのか?これじゃぁあの黒い島は素市に辿り着いてタケミなんとかで破壊されちまうんだろ?」
「猛魅禍槌だ。幸いグルトネイの進行速度は遅い。その間に作戦を考える。まずは分析だ。俺が捕まえていた戦闘戦アーリカをヴィマナに転送してある」
『ええ?!』
シルゼヴァの言葉に皆驚いた。
「シルゼヴァ、あんなでかいものどうやって転送したんだ?」
「スノウ船長、それは私からお答えしましょう。転送質量が大きければ大きいほど転送エネルギーを多く消費します。エネルギー消費を最小限に抑えるために、シルゼヴァチーフのご指示に従って戦闘戦アーリカのすぐ下まで近寄り転送しました。それでも戦闘戦アーリカを転送するためには現在のヴィマナのエネルギーの57%を消費します。ですが、タガヴィマを入手した現在では、航行している推力や潜水による圧力をエネルギーに変換することが出来ますので、素市に到着するまでには80%ほどまで回復出来る予測です。戦闘戦アーリカはヴィマナ地下3階層にある格納庫に転送しています」
『‥‥‥‥』
思いもつかないことをやってのけたシルゼヴァとリュクスにスノウを始めたとした全員が呆然としていた。
「おそらくだが、戦闘戦アーリカもグルトネイと同様の生物機械構造だと思われる。これを分析すればグルトネイの弱点が見つかるかもしれん。ガース、フランシア、ソニック、ルナリ、ハークは俺と一緒に来てくれ。アーリカを調べる。スノウ達はグルトネイを監視していてくれ」
「分かった。頼んだよシルゼヴァ」
シルゼヴァは拳を軽く上げて応え、機関室へと向かった。
フランシアたちもブリッジから出て行った。
スノウはスクリーンに映し出されているグルトネイを見ながら思案を巡らせていた。
「ワサン、ロムロナ、しばらくブリッジを留守にするグルトネイの監視を任せて良いか?」
突如スノウはスクリーンを見ながら言った。
「もちろんよぉ」
「構わないがお前は何をするんだ?」
「おれは素市に行ってグレゴリにことのことを伝えてくる。避難できる場所があるとは思えないが、何か準備できることがあるはずだ。リュクス」
「はい、スノウ船長」
「おれをグルトネイからなるべく遠い空中に転送してくれ」
「承知しました」
「じゃぁ行ってくる」
キィィィィィィィィィィィン‥‥
スノウはブリッジから消えた。
地球の歴史に照らしてみれば、ホドは文明レベルとしては中世の時代と言える。
巨大戦艦グルトネイ、戦闘戦アーリカ共に木造船が多少強化された程度だとスノウは高を括っていた。
しかし、よくよく考えてみれば、海に浮かぶ巨大な都市ホドカンやホドカン間を結ぶ水上列車などの技術は、現代の地球にも存在しない高度な科学技術で構成されているのだ。
しかも古代文明の技術とはいえ、ホドの民は当たり前のように利用している。
その古代文明の技術力が兵器に使われていて残っていても不思議ではなかったのだ。
スノウは改めて自分の思い込みが危険を招くことがあると思い知った。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




