<ホド編 第2章> 43.タケミカヅチ
43.猛魅禍槌
「マスター!!」
キャァァァァァァァァァァァ!!
まるで何かの悲鳴のような巨大な攻撃範囲の白熱破壊光線の照射音にフランシアの声は虚しくかき消された。
キィィィィィィィィン‥‥
突如フランシアの横にスノウが出現した。
「え?!」
「安心しろシア。おれなら大丈夫だ」
「どうやってここへ?」
「あの白熱光線が放たれた瞬間、リュクスにヴィマナへ転送してもらったんだ。そしてヴィマナからここへ再転送してもらったというわけだ」
ググ‥‥
「どうしたシア?」
突然フランシアは浮遊したまま体を丸めてうずくまり震え出した。
「い、いえ、安堵感と自分に対する嫌悪感が処理しきれないだけです‥‥」
「どういう意味だ?」
「マスターが生きていたことに対してはとても大きな安堵感がある‥‥。でもそもそもマスターが死ぬわけはありません。それを一瞬でも疑い、あの光線によって死んでしまったのかと‥‥情けない限りです」
「ははは!安堵感はいいが、嫌悪感は不要だよシア。おれは万能でも全能でもない。死ぬ時は死ぬ。あれをまともに食らったら防ぎようはないから一瞬で蒸発して消え去ってしまうだろう。しかもあれは光の速度で発せられる光線だ。逃げる暇がない可能性は十分にあるんだ。だから気にしなくていい」
キャァァスゥゥゥゥゥ‥‥‥
「そろそろこの破壊光線が消えるその前に皆に作戦を伝えてくる」
スノウはフランシアにこの後の作戦を伝えた後、4箇所に散らばっている仲間のところへ行き同様の作戦を伝えるためグルトネイに気づかれないように低空移動しはじめた。
海面すれすれを飛んでシルゼヴァのとろこへ到着した。
シルゼヴァはスノウが生きていることを当然であるかのように驚きもせず作戦に合意した。
その後、シンザとルナリのところへ辿り着いたがふたりはスノウの生還に胸を撫で下ろしていた。
ふたりにも作戦を伝えるとシンザは笑顔で、ルナリは無表情で頷いた。
最後にロムロナのところへ行くと彼女はスノウのことを見るなり抱きついてきたが、スノウはそれを軽々と避けると作戦を伝え始めた。
「分かったわよぉ。でも生きててよかったわスノウボウヤ。さすがねぇ、見事に騙されたわよ」
「焦ったけどな。あの光線、照射する瞬間、光か雷のような雰囲気を感じたんだ。光の速度なんて捉えられないと思ってすぐリュクスに転送を指示したよ」
ロムロナは何かを考えているような仕草から突然、恐ろしいものを見るような表情を見せた。
「どうした?」
「思い出したわ‥‥巨大戦艦グルトネイの最強兵器‥‥猛魅禍槌‥‥以前見た海獣を一瞬のうちに倒した攻撃の名前‥‥その威力、今のスノウボウヤの表現で完全に思い出した」
ロムロナはアーリカの動きを封じつつ、空を見上げて言った。
"ロムロナ操舵手、こちらリュクスです。情報収集のため、タケミカヅチについてお持ちの情報の共有を希望します"
「まるで世界が真っ白になった気がしたのよねぇ。思わず目を瞑ったけど‥‥そして次に目を開けた瞬間、海獣はは体半分なくなってた。断面は黒焦げになっていて、血とか吹き出なかったのよねぇ‥‥やっぱりすごい超高熱の光線なんだわきっと‥‥」
”巨大戦艦グルトネイの兵器の火力情報がアップデートされました。計算ではホドカンを完全壊滅させるにはコノタケミカヅチの約20秒間の照射を3回で可能となります”
「あらら、すごいじゃないの」
”感心してよい話ではありませんよロムロナ操舵手”
「はいはい、リュクスボウヤは優秀だわ」
その会話を聞きながらスノウは思案を巡らせていた。
(タケミカヅチ‥‥日本神話に登場する雷神だ。何故その名がこのホドでも知られているんだ?可能性はふたつ。他の神話の神々がハノキアの世界に登場しているようにこのホドに日本神話の神々が存在した。そしてもうひとつはおれやスメラギさんと同じように日本からの越界者がいて、グルトネイの開発に携わった‥‥あり得るな。だが、グルトネイ自体はロムロナが子供の頃にも存在し、その頃から猛魅禍槌はあったわけだから、かなり昔に越界したことになる‥‥余裕ができたら探ってみよう)
ズシュゥゥゥ‥‥
猛魅禍槌が完全に止まった。
「次の攻撃がくるはずだ、作戦通り行くぞロムロナ」
「はぁい」
スノウは凄まじい速さで上空へと昇っていく。
ゴゴゴゴゴゴゴ‥‥
空気の焼けたような臭いが充満しているが風であっという間に流されていく。
「さて、おれが生きていることを知ったらどう反応するかな?」
ズバババババアァァン!
スノウは火、風、土リゾーマタのエレメント系クラス3の魔法を連続で放った。
ドッゴォォォォン!!
今度はグルトネイに着弾する数メートル上の空中で爆発した。
爆熱や爆風は何か透明な障壁でもあるかのようにグルトネイの外殻には届かない。
「魔法防御は万全か」
バッ!
スノウは手をあげた。
その合図を受けてシルゼヴァたちはアーリカを強引に動かしグルトネイに向かって突進させた。
「さて矛と盾どっちが勝つか」
抵抗するアーリカを強引にグルトネイに向かって押し込んでいくシルゼヴァたち。
グルトネイの船尾を押し込む体勢で背後に向かってジェットエンジンの噴射のように炎魔法で推進力を生み出し、アーリカをグルトネイに向けて押し込んでいる。
シルゼヴァ、シンザとルナリ、フランシアは押し込み始めているがロムロナはそこまでの力がなく、アーリカを抑え込むのに必死な状態だった。
キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン‥‥
グルトネイは上部にふたたび光の粒子を収束し始めた。
”スノウ船長、17秒後に2発目の猛魅禍槌が照射されます”
「分かってるよ!」
リュクスからの情報にスノウは焦りつつ、次の時間稼ぎにもならない魔法を放とうとしていた。
ガゴォォォォン!!
アーリカがグルトネイに衝突した。
衝突したのは3隻のみで、ロムロナが動かそうとしていたアーリカ1隻はまだ不安定な動きをしているだけだった。
「間に合ったか!」
スノウはグルトネイとアーリカの衝突部分を見る。
だが、グルトネイには殆ど傷がない。
シュゥゥゥン‥‥
突如グルトネイの上部で行われていた光の粒子の収束が止まった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥‥シィィィィン‥‥
一瞬、穏やかな静寂が流れた。
ファァァァァァァァァァァァァァァァァ!!
まるで女性の甲高い叫び声のような音と共にグルトネイの上部から白熱光線が発せられたのだが、今回は先ほどのものとは違い、細い白熱光線で、しかも上空に進んだあと、4方に散らばって弧を描いて海面の方へと反転していく。
「やばいぞ!」
ターゲットは4隻のアーリカだった。
スババババババン!!
凄まじい爆音と共に強烈な爆発が巻き起こり、その直後巨大な黒煙が舞い上がっていった。
「何を考えてんだグルトネイは。仲間の船を攻撃するなんてあり得ないだろ‥‥」
スノウはシルゼヴァたちを巻き込んで攻撃されたアーリカを見ながらスノウが言った。
「リュクス、全員転送完了か?」
“もちろんですスノウ船長”
グルトネイの攻撃を受ける寸前のところでリュクスはシルゼヴァたちをヴィマナに転送していた。
1人残されたスノウは上空から巨大な黒煙を纏ったグルトネイを見下ろしている。
海風に押されて黒煙の塊が徐々に流されて消えていくと再びグルトネイが姿を現した。
「流石に傷一つないか」
キィィィィィィィィィィィン‥‥
スノウの隣にルナリが転送されてきた。
「当たり前だ。あれは特殊な合金で出来ている」
「どうしたルナリ。なぜ戻ってきた?」
「今の我々ではあれを破壊することは難しいようだ。だが、あの戦艦の構造を表面的にでも知れる可能性がある」
「どうすればいい?」
「話は後だ。我があの戦艦に突入する。スノウ、お前は援護するのだ」
「分かった」
スノウは波動気を練り込んだリゾーマタの炎、風、土、雷のエレメント系クラス3魔法の連続発動でグルトネイを攻撃し始めた。
ヒュンヒュンヒュンヒュン‥‥ドッゴォォォォン!!
魔法防御の障壁があり、魔法は愚か物理的衝撃すらもグルトネイには届かない状態だったが、ルナリがグルトネイに近づく隙は作ることができた。
キュイィィィィィィン‥‥
グルトネイの上部に光の粒子が収束し始める。
ルナリは背中から黒い触手を伸ばしてグルトネイの側面の外殻にへばりついていた。
さらに5本の黒い触手を伸ばし、三つ編みを依って編むようにして太い触手を作り上げると、外殻の継ぎ目部分に触手を打つけた。
バシュワァァァァ‥‥
やはりグルトネイの外殻は強固なのか、ルナリの負の情念のエネルギーでも隙間から侵入することは難しようだった。
「なるほど、この組織構成であれば我の負のエネルギーであれば透過は可能」
ルナリの負の情念のエネルギーで形成された触手が徐々にグルトネイの外殻に溶け込んでいく。
一方上空にいるスノウはその位置を変えながらグルトネイの砲台の向きを確認していた。
「やはり完全におれ狙いか。ルナリ、何をするんだか知らないが、早くしてくれ‥‥おれの囮もそろそろ限界だぞ」
キュウィィィィィィィィン‥‥ピタ‥‥
グルトネイの光の粒子の収束が止まり、一瞬の静寂が周囲を包み込む。
「急げルナリ!」
バゴォォォォォン!!
スノウの声に反応したかのようにルナリが触手を染み込ませている外殻の一片が剥ぎ取られるようにして外れた。
そして中から全裸の人のような姿の者が力なく飛び出てきた。
ルナリはそれをキャッチしつつリュクスに転送を依頼した。
「今だ。我とこの捕虜、スノウを転送せよ」
“承知しました”
リュクスはスノウ、ルナリ、そしてひっぱり出された男をヴィマナに転送した。
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