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<ホド編 第2章> 32.公演

32.公演


 「さぁ広場にいらっしゃる皆さん!退屈な日常にほんのひとときだけド派手なワクワクをご提供しますよ!」


 ピエロの格好をしたヤガトが突如大声で言い放った。

 両隣には大道芸人の衣装を着てウカの狐面を被っているスノウと、目の部分だけを隠すマスクをしているフランシアが立っている。

 何の段取りも聞いていないスノウとフランシアはキョトンとした表情で立っているしかなかった。

 大道芸人のド派手な衣装に身を包んでいるが、ヤガトのピエロ姿が派手すぎて逆に中途半端に見えるほどであり、最早どうすればいいのか分からずなぜかスノウは恥ずかしささえ感じていた。


 「何だ?騒がしいなぁ」

 「何あの格好!」

 「ピエロさんだ!」

 「大道芸?」

 「サーカスじゃないの?」

 「3人でサーカスもないだろ?」

 「どうせ大した芸じゃないよきっと」


 スノウ達3人を見た者たちが方々で反応している。

 

 「さて!僕は8ッピーピエロ!何でも出来る妖精だよ!」


 ドテェ‥‥


 ピエロに扮したヤガトは威勢よく名乗った直後に勢いよく転んだ。


 『わははは!』


 子供達を中心に笑い声が聞こえた。


 クイッ!‥‥ボン!


 ヤガトピエロは起き上がるとキョロキョロと見回したのだが、突如赤い鼻が破裂した。

 びっくりした表情で慌てふためている姿を見て、子供たちがさらに笑い出す。

 ヤガトピエロは後ろの箱から小さな空気入れを取り出して、チューブを鼻の穴に突っ込むと、空気入れを動かし空気を注入し始めた。

 すると、割れたはずの赤い鼻がどんどん膨らんでいく。


 『わぁぁぁぁぁぁ!』


 さらに鼻が膨らんでいき、風船のように大きくなっていく。


 『わぁぁぁぁぁぁ!』

 「割れるー」

 「でっか!」

 「こわいー!」


 パァァァン!!ヒュゥン‥ドン!!


 鼻が破裂し、ヤガトピエロは驚いた勢いで後に倒れた。


 ヒュン!


 と思うと一瞬で立ち上がった。

 そしてよろけながら近くにいる子供の鼻を軽く摘んだ後、何かを掴むジェスチャーをした。

 そして掴んだ手を自分の鼻の位置に持ってくるとパッと手を開いた。

 すると元通りの赤く丸い鼻が復活していた。


 『あはははははは!』

 「すごおぉい!」

 「鼻が出てきた!」

 「ピエロさん面白い!」


 どうやらヤガトピエロの導入部分で子供たちのハートを鷲掴みにしたようだ。


 (おい、これ、おれとシア、いらないんじゃないのか?)


 スノウは少しだけつまらない感覚になった。


 「さて、スノウさん、シアさん、私の手の動きに合わせて風魔法で飛んでもらえますか?」

 「はぁ?!」

 「何を言っているのヤガト。殺すわよ」


 耳打ちするように小声でヤガトがスノウとフランシアに言ったのだが、突然の要求にふたりは戸惑った。

 だが、お構いなしといった様子でヤガトピエロは後ろにある箱から指揮棒を2本取り出して指揮者の真似事をし始めた。


 (ちっ!くそヤガトめ!)


 スノウはフランシアに目で合図した。

 ヤガトピエロが指揮棒をゆっくり上げていくのに合わせてスノウとフランシアは風魔法で浮遊し始める。


 『おおおおおおお!!』


 今度は子供だけでなく、見ている大人たちも驚きの声をあげた。

 いつのまにか大勢の人だかりが出来ていた。

 ヤガトピエロは指揮棒をゆっくりと降ろして、驚いたように指揮棒を見ている。

 そしてふたたび指揮棒を上げるとスノウとフランシアがゆっくりと浮上した。


 『おおおお!』


 ヤガトピエロは企んでいるかのような不適な笑みを浮かべるといきなり激しく指揮棒を振り始めた。


 ギュン!ギュゥゥン!ギュギュン!ギュゥゥゥゥン!ギュワァァァァァン!


 「たぁぁすけてぇぇぇぇ!」

 「めぇぇがまわぁぁぁるぅぅ!」


 ヤガトピエロの指揮棒の動きに合わせて方々飛び回っているスノウとフランシアは一応その場の雰囲気に合わせるために叫んでみた。


 『わぁぁぁぁ!!』

 『あははははははは!!』

 

 すると観客たちが大笑いし、さらに盛り上がっている。

 盛り上がっている様子をみてさらに人が集まってきた。

 一方スノウとフランシアはヤガトピエロの指揮棒の動きに合わせて縦横無尽に空を飛び回っている。


 スタスタ‥‥


 そして指揮棒が降ろされたのに合わせてふたりは地面に着地した。

 一応目が回ってよろけている演出をしてみる。


 『わはははははははは!』


 集まった大勢の観客の笑い声が次第に快感になってきたスノウはこの公演が始まる前ほど嫌ではなくなっていた。

 それをみたフランシアは必死にスノウに合わせようとしている。

 

 ガサガサ‥‥


 ヤガトピエロは後ろの箱から鋭い刃の剣を取り出してきた。


 「なになに‥‥切っても死なない剣?ほんとかなぁ。ねぇねぇ、君たちどう思う?」

 

 ヤガトピエロは観客の中の子供たちに問いかけた。


 「あぶないよ!」

 「切れ切れー!」

 「きっちゃぇー!」


 ヤガトピエロは少し考えた仕草を見せたあと、大きく頷いた。

 そしていきなりスノウの下腹部分を剣で切った。


 ズバァァン!!


 腰帯部分から上下真っ二つに切れてしまい、スノウの上半身と下半身はバラバラになって倒れた。

 不思議なことに血は全く出ていない。


 『きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 「マスター!おのれ貴様!」


 フランシアは怒りの表情で剣を取り出し、ヤガトピエロのスカーフが巻かれた首を一刀両断した。


 ズバァァァン!!


 ゴロゴロゴロ‥‥


 ヤガトピエロの首が転がる。


 『きやぁぁぁぁぁぁぁ!』


 観客から悲鳴が轟く。


 『!!』


 だが次の瞬間、観客たちは目を疑った。


 ヨロヨロ‥‥


 ヤガトピエロの胴体がヤガトピエロの首を探してフラフラとよろけながら歩いているのだ。

 

 「こっちこっち!そっちじゃないよ!おい!こっちだって!聞こえないのか?!って耳は僕の頭に付いているから聞こえるわけないか」


 『わはははははははは!!』


 ヤガトピエロが首が切断されている状態で話始めたのだが、その瞬間首が切られたのが大道芸のひとつなのだと分かった観客たちは一斉に笑い始めた。

 ヤガトピエロが倒れているスノウの下半身を持ち上げて立たせた。

 スノウの下半身はよろけながら歩き始めた。


 「おい、こっちだ!こっち!」


 今度は上半身のスノウが分離された自分の下半身に呼びかけている。

 スノウ自身もなぜ上下真っ二つになっているのに生きているのか分からなかったが、意外にも楽しんでいた。

 首のないヤガトピエロの胴体と下半身だけのスノウがよろよろと歩き回っているカオスな状態はシュールで観客たちの笑いを誘った。

 何よりフランシアが混乱しているのがさらに笑いを誘った。


 「おお、そうそう、早く拾うんだよ」


 ヤガトピエロの胴体は頭部を拾い上げると、バスケットボールのようにドリブルをし始めた。


 「痛い痛い痛い痛い痛い」


 地面に叩きつけられる度に叫ぶ。

 だが、これも大いに笑いを誘った。

 そしてヤガトピエロが自身の頭をスノウの下半身に取り付けようとした瞬間が一番笑いの渦を巻き起こしていた。



 「ふぅ‥‥」

 「くっついた!」


 ヤガトピエロとスノウは無事に元通りになり安堵の表情を見せた。


 (これ、特殊な布でして、切っても死なないマジックアイテムなんですよ)


 ヤガトはスノウに耳打ちした。

 その後もマジックは続いた。

 ヤガトピエロが後ろの箱から魔法の粉をスノウに振りかけるとスノウの体が鋼鉄のように固くなった。

 そしてスノウの指示でフランシアが巨大なハンマーでスノウを叩く。

 スノウは地面に埋まるが傷一つないのだが、ヤガトピエロが粉をかけると元通りになる。

 これは鋼鉄病と呼ばれる体が鋼鉄のように固くなりやがて死に至る病気を発症する毒を注射したのだが、すぐに解毒剤を打って元に戻るというマジックだった。

 さらに、観客の中にいた上級国民の男性から、ヤガトピエロは大切な階級章を転移魔法陣で奪い取ると、それをハンマーで叩き壊した。

 激昂する上流国民の男性だったが、ヤガトの指示でフランシアが布を被せた後、適当な呪文を唱えて布を取ると、壊れた階級章が元にもどっていた。

 ヤガトピエロはこのイリュージョンは上級国民の男性の勲章を大切にする思いが通じて元通りになったのだと言って喜ばせたが、実は数秒時を戻せるマジックアイテムを使ったマジックだった。

 その後も様々マジックショーが繰り広げられた。

 スノウとフランシアの驚きながらもノリノリの対応が逆に危なっかしさと臨場感を与えて公演は大いに盛り上がった。

 そして最後はスノウとシアのジオエクスプロージョンを応用した花火で幕を閉じた。

 観客たちは大満足で帰っていった。


 「今度はお友達を沢山連れてきてね!」


 スノウ達は撤収し、FOCs内にある支局長の執務室へとやって来た。


 「いやぁ大成功でしたね!」

 「確かに大成功ではあったが、事前に説明してくれても良かったんじゃないか?結構ギリギリのやつもあったぞ?例えば胴体真っ二つにするとか、鋼鉄病の毒を受けるとかさ」

 「お二人のぎこちない感じがいいんじゃないですか。ドタバタ感が出て、見ている方もハラハラドキドキしていたと思いますよ。それにその腰帯の布や鋼鉄病の解毒剤などは十分実証済みですからね。特に腰帯の布は超貴重なマジックアイテムなんですから」

 「この布がか?」

 「ええ。公演が終わったら差し上げますよ。斬られたフリして相手を油断させる、なぁんて小細工にでも使えると思いますしね」

 「ヤガト、マスターが許しているから私もあなたを生かしているけど、本来ならあなた、この場で細切れの無数の肉片になっていたのよ。それだけの侮辱をマスターと私に与えたの。自覚しているわね?」

 「フランシアさん。全てはこの街で結界杭のダンジョンを探し、ヘラクレスさんとアリオクさんを救い出すため。そのためには公演を大成功させて、より多くの人たちの情報を得る必要があるんです」

 「情報を得るといっても聞き込みすらできていないでしょう?いい加減なこと言わないほうが長生きできるわ」

 「ちゃんと聞き込みしていますよ。私の部下たちがね。大丈夫ですよ、しっかりと情報は集めておりますから」

 「くっ‥‥」


 珍しくフランシアが言いくるめられた。

 それが堪らなく嫌だったのか、イラついている表情を見せた。

 スノウはその姿を見て微笑むとフランシアの肩を叩いた。


 「ヤガトをボコボコにするタイミングは必ずくるからそれまで待とう、シア」

 「はい‥‥マスター」

 「ちょ、ちょっと何でボコボコされなきゃいけないんですかぁ」


 フランシアは不満げだったが、ヤガトをボコボコにする役目はスノウに譲ろうと思っていた。


 「さて、一応明日も午前と午後の1回ずつ今日とほぼ同じ公演を行いますが、明後日はオフにしますから、ダンジョン“()”の探索をしましょうか」

 「ああ」


 スノウ達はその夜は早めに就寝した。



いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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