<ホド編 第2章> 30.師との再会
30.師との再会
ヴィマナは蒼市へと進路をとっていた。
スノウとフランシアが蒼市に潜入し、結界杭域にいるであろうヘラクレスとアリオクを救うためだ。
だが蒼市には元老院の指示で張り巡らされた防御壁が展開されており、元老院の許可なく出入りが出来ない状態となっている。
FOCsの支局長であるヤガトには唯一出入り出来る手段があるのだと言うが、それを聞いて嫌な予感を持ったスノウは苛立ちと落ち込みで項垂れていた。
「おいヤガト‥‥マジでこれを着るのか?」
「そうです。今蒼市で唯一不足しているのは娯楽なのです。その提供のクエストが蒼市の政府からFOCsに出されておりますが、外部からの出入りで唯一許されているのがそのクエストを受けた者たち、つまり娯楽を提供出来る者たちなのです。ロン・ギボールのせいで、基本的にホドカン間を結ぶ列車のアレトガは運行していませんし、船での航行もほぼ不可能ですから、ある意味大歓迎なわけです、ハイ」
「その娯楽ってまさか‥‥」
「はい、大道芸人です」
「はぁ‥‥」
スノウとフランシアは派手を通り越した衣装を目の前に呆然と立ち尽くしている。
特にスノウは若干トラウマになっている出来事が脳裏に浮かんでいた。
大道芸とは若干違うが、スノウはサーカス団の一員として公演に参加した経験があるのだ。
(明か時サーカス団の公演はフアルシたちが上手く立ち回って乗せてくれたからいいものの、今回は演出や手慣れた芸人もいないんだぞ‥‥どうしてくれんだよ全く‥‥)
そんな不安げなスノウを余所に説明を続けた。
「蒼市の出入り口は一箇所ですが、そこに関所があります。基本的に如何なる者も通さない対応となっております。厳重なチェックがなされますが、娯楽を提供する者だけが通されるのですよ。演劇などでもOKです。全て事前に登録が必要ですが、既に登録済みですのでご安心を。しかも、袖の下を積めば娼婦でも中に入ることが許可されます。スノウさん、それらと曲芸師どちらを選びますかという話です」
「お前殺されたいのか?」
「フフフ、ですよね?ということです。諦めて下さい」
「いや、カヤクとニトロと接触して上手いこと潜入出来ないのか?」
「あの二人はお仲間ではない前提で作戦を組むと仰ったでしょう?潜入してあの二人が仲間だと判別出来たらその時はいくらでも連携なされて構いません」
「‥‥‥‥」
楽しんでいるとしか思えないヤガトの言い方にスノウは怒りのオーラを抑えるのに必死になっていた。
蒼市へのアクセスはアレトガと言われる水上を走る列車か船となるが、ロン・ギボールの凶暴化により全てが止まっている状態だった。
今このホドにおいては、高速航行、潜航が可能なヴィマナだけが自由に動き回れる唯一の移動手段であり、元老院が死ぬほど手に入れたい船なのだ。
故に今回はヴィマナで蒼市に近づくわけにはいかない。
故にパンタグリュエル団長のグレゴリが用意してくれた中型の船に乗って大道芸に必要な道具と共に蒼市に入ることにした。
ヴィマナに中型船を積み込んで蒼市から十数キロ離れた場所で潜航した状態で、中型船を海面に転送する。
「リュクス、転送準備はいいか」
「問題ありません。今回は海面への転送ですから地面に埋まって窒息死することはありません。そもそも窒息死する前に物体と融合してその時点で生命機能は停止してしましますが」
「‥‥そんな冗談はいいからしっかり頼むよ‥‥」
「今回は無機物転送比率が高いので、有機物との複合転送が難しい状態となります。ですが、乗船される方は一箇所に集まって頂ければ問題ありません」
「何だよ、リスクあるんじゃないか。転送が失敗する可能性はあるのか?」
「23%です」
「はぁ?!結構高いじゃないか!失敗したらどうなるんだよ」
「スノウ船長が転送プロセスで無機物である船の一部になって生命機能を停止または瀕死の状態になります」
「‥‥‥‥」
スノウはそれ以上質問するのをやめた。
スノウ、フランシア、ヤガトの3人は中型船に乗り込み、なるべく固まって転送に備えることにしたが、スノウもフランシアもヤガトが近寄るのを嫌がったので、ヤガトが真剣に怒り出したのを見てスノウは少しスカッとした。
「それでは転送開始します」
キュィィィィィィィン‥‥
バッサァァ!!
『!!』
スノウ達は突如床が大きく揺れ始めたのを感じた。
外を見ると一面海だった。
スノウはフランシアの無事を確認した。
「無事なようだな」
「はい」
「私も無事ですけどね!」
まだ怒っているヤガトを軽快に無視するとスノウは船を操縦し始めた。
中型船は問題なく起動し始めた。
「よし、問題ないな。それじゃぁ出発する」
通常は帆で風を受けて進むか乗組員がオールで漕いで進む船なのだが、今回はスノウが風魔法で推進力を生み出して進む。
(リュクスが起動して本当に助かっているな。こんなデカい船も転送できるなんて。手動操作じゃ到底無理だし、強行していたら今頃おれもシアも船と一体化していたかもしれない‥‥考えただけでもゾッとするよ。これもシルゼヴァのおかげか。あいつは本当に頼りになるな)
風を切りながら高速で船は蒼市へと進んでいく。
「方向は問題ないなヤガト」
「大丈夫ですよ。コンパスも正確な方向を示していますし、太陽の位置と角度からも正しい方向へ進んでいます。もちろん、航行ルート上にロン・ギボールは来ないはずです」
ヤガトは海図とコンパス、念のため陽の光で方角を確認できるコンパスでも方向を確認していた。
20分ほど進むと巨大なホドカンが見えてきた。
「蒼市か」
「そうです。順調でしたね」
蒼市はスノウが越界して初めて降り立った陸地だ。
エントワと共に訪れたFOCsで高レベルのマジックアイテムである冒険者レベルを図る金の台座を破壊している。
スノウの脳裏にその当時の情景が思い出されて懐かしくなった。
自分を問答無用で仲間として認めてくれたアレックは囚われの身であり、どこの馬の骨とも分からない自分を信頼し剣術や心得を教えてくれたエントワは既に亡くなっている。
(エントワの墓参りは必ず行こう‥‥まだまだ未熟なおれだけど、色々と報告はしたいからな‥‥)
「スノウさん、フランシアさん、そろそろ準備を。特にスノウさん顔とお面、よろしくお願いしますよ」
「分かってる」
スノウは自分の顔を炎魔法で焼いた。
すぐに魔法で痛みを消す。
魔法で完治出来るとはいえ、自分の顔を火傷まみれにしてしまうのは恐怖だ。
「ふぅ‥‥これでいいか」
スノウは鏡を見ながら自分の顔を確認した。
(全く我ながら酷い作戦立てたもんだよな‥‥)
そしてウカの狐面を被った。
中型船は蒼市の唯一の出入り口となっている港に到着した。
「止まれ!」
衛兵数名が船着場に到着する前に止まるよう指示してきた。
「全員甲板に出ろ!」
スノウ、フランシア、ヤガトは甲板に出て自分たちが大道芸の娯楽クエストを受けた者であることを説明し始めた。
「公演期間と場所を言え!」
「今回のプロモーターのヤガトと申します。10日間の公演でして、場所は主にFOCsの前にある広場でございます。もちろん、そこでの公演が盛況でしたら、色々とお呼ばれするかと思いますがね。そうなることを願ってます。クエスト報酬とは別で小銭稼ぎ出来ますからねぇ」
ヤガトが媚びへつらうような態度で説明した。
「許可証と荷物を見せろ!」
「はいはい、少々お待ちを‥‥っとあったあった。許可証はこちらでございます。荷物については停泊させて頂ければ船内をご自由にご確認頂いて構いませんので」
「よし、つけろ!」
衛兵の指示に従って船を停泊させた。
複数の衛兵たちが船に乗り込んで船内を確認し始めた。
その間、こっそり衛兵を取りまとめている者にヤガトは蒼市内で使える通貨のホドフィグを手渡した。
「よし、確認は完了だ。お前ら、蒼市内へ入っていいぞ。荷物は自分たちで運べ。船は奥に停泊エリアがあるからそっちに移動させろ」
「ありがとうございやす」
ヤガトは戻ってくるなりスノウにウインクしてみせた。
(まるでゴマスリ名人だな。日本で働いていた時のおれの上司の部長が確かこんな感じだったな。思い出すだけでもイラつくが‥‥)
スノウ達は無事に蒼市へ潜入することが出来た。
入ってすぐの場所に安宿があったため、そこに宿泊することにした。
FOCsに行けばもっとまともな部屋があるのだが、さすがに大道芸人がFOCsの建物内で10日間過ごす言い訳も成り立たないため宿を取ったのだが、なるべく元老院のいる大聖堂から遠い場所としてこの場所を選んだのもあった。
「一旦今日は自由行動にして、明日FOCsに出向いて手続きをしましょう。もちろん形式的なもので既に段取りは整っていますのでご安心を。ただし、その格好でうろつくのは目立ちますから、一応こちらに着替えて頂きます」
ヤガトは大道芸の道具箱から地味な服とフード付きのローブを取り出した。
「こんな普通で地味な服が落ち着くと思ったのは初めてだ」
スノウとフランシアはそれぞれの部屋へ入り早速着替えた。
コンコン‥‥
「わたしです」
「シアか。入っていいよ」
ガチャ‥‥
フランシアがスノウの部屋に入ってきた。
「マスター、この後はどうしますか?街を散策するにしても警戒は必要です。ですが、カヤクとニトロの2人と連絡を取る必要もありますね」
「そうだな。シアはふたりの顔を知らないからな。それは明日以降、接触を考えよう。この後はちょっと行きたいところがあるんだ。一緒に行くか?」
「もちろんです」
・・・・・
風もなく晴れて澄み渡った空が広がっている中、スノウが訪れたのはヴォヴルカシャ王家に仕えてきた貴族たちの墓所だった。
かつての貴族階層は、現在は全て廃止され元老院に加盟している者は上級国民という位置付けで生活レベルを維持しているらしい。
ヴォヴルカシャ王家に忠義を示した貴族は全て一般民へと位を落とされ、地位だけでなく家や職も全て失ったという話だった。
唯一貴族の名残として残っているのがこの墓所であり、元老院も流石に墓を暴く蛮行は品格を問われるため行わなかったのだ。
そしてスノウが訪れた場所はその中でも一際立派な墓の前だった。
その墓は名門ヴェルドロワール家のものだった。
ヴェルドロワール家はヴォヴルカシャ王家に仕えた貴族の中でも最上位に位置する名家であり、代々その当主はヴォヴルカシャ王家を守る盾として聖騎士隊の隊長を担ってきたのだが、その最後の当主がエントワだったのだ。
「エントワ‥‥」
スノウは片膝をついて頭を垂れてエントワに心の声で語りかけた。
今の自分があるのはエントワのおかげであり、仲間を信頼することの勇気と大切さを教えてもらったことで、信頼できる仲間に恵まれていることを感謝とともに報告した。
ヒュゥゥゥゥ‥‥
風のない日であったが、突如優しい風が吹いた。
(エントワ‥‥)
スノウはやっとホドに戻ってきたのだという感覚になった。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




