<ホド編 第2章> 27.元老院最高議長
27.元老院最高議長
「よく気付いたな。褒めてやろう」
「悪魔ってのはどこまでも姑息な真似しか出来ないんだな」
背後から剣撃を放ったのは消し炭なったはずのアロケルだった。
体は傷一つない状態だった。
「おいおい、何だあいつ‥‥不死身か?!」
「おかしいわねぇ、突然現れたわよ?超高位の回復魔法でも灰状態から体を復元するのには時間がかかるはずなのに‥‥」
ワサンとロムロナは目を見開きながら見守っていた。
「我の復活速度の速さに驚かないのか?いや、驚きを必死に隠しているといったところか」
「冗談言うなよ。お前が姿を透過させて気配を消していることくらい気づいていたさ。本体は高みの見物で分身体に戦わせていたんだから、おれが油断した瞬間に必ず攻撃してくると思っていたよ。だから敢えて分身体を細切れにして燃やし尽くして完全な勝利を演出したんだ。それに気づけないとはお前、下位悪魔だろ」
ギュルルン!!ギュワァァァァァン!!
凄まじい威圧と殺意のオーラが広がり、ワサンとロムロナは全身が斬り刻まれるような感覚を覚えた。
「我を下位悪魔と言ったことを後悔させてやろう。そこの女剣士ともども冥府へと送ってやる。地獄の業火に焼かれて苦しむ姿を見ながらニスロクの料理でも堪能するとしよう」
スノウはアロケルの言葉を無視するようにフランシアを抱き抱えて、少し離れた場所へ寝かせた。
「ワサン、シアを頼む」
「分かった」
ワサンは闘技場内に入り、フランシアを抱き抱えて闘技場を出た。
「さて、何だっけ?あぁ、下位悪魔だと馬鹿にされたのに腹を立てたところだったな。まぁお前がどんな悪魔だろうとどうでもいい。さっさとかかってこい。姑息な真似しか出来ないお前の低レベルな実力をおれが教えてやる」
「ほざくなニンゲン」
ジャキン!
アロケルは剣を構えた。
ボワアァァァン‥‥
突如アロケルの背後に煙と共に転移魔法陣が出現し、その中から何者かが現れた。
スノウはその姿に見覚えがあった。
「何しに来たフォラス」
アロケルはスノウから目を逸らさずに突如背後に出現した者に話しかけた。
現れたのは馬に乗った老人の姿をした悪魔のフォラスだった。
フォラスは最初の結界杭の打ち込まれた場所を守護していた悪魔だ。
スノウ達が現れたとたんに姿を消しているが、スノウの実力にすぐに気づいた勘の鋭い者でもあった。
「随分と苦戦しているじゃないかアロケル」
「貴様、冥府へ還されたいのか?でしゃばるな」
「全くこれだから脳筋は嫌いだよ。いいかい?あれはアノマリーだ。上からの話は聞いていたはずだよね?あれに手を出すのは危険だし、僕らにはまだ別の指示も残っているんだからね。無駄に消されては僕らの負担が増えるからやめてほしいんだけど」
「アノマリー‥‥なるほど。人ならざる人か。尚更ここで殺しておくべきだな。だが、上の命令は絶対‥‥アノマリーよ、勝負はお預けだ。次に会う時は必ず殺してやろう。その時までせいぜい生きながらえ‥
シュバン!ドッバァァ!
「がっばぁあ!!」
スノウは凄まじい速さで斬り込み、アロケルの体を縦に真っ二つに斬った。
「お前、おれの仲間を傷つけておいて、逃げるつもりじゃないだろうな」
シャバババババン!!ドッゴォォン!!
スノウはアロケルの体を一瞬で細切れにし、超高圧に凝縮したリゾーマタの爆裂系クラス4魔法のアトミックデトネーションを至近距離のアロケルに向けて打った。
アロケルの体は一瞬にして消え去った。
「あらら、全く油断するからこうなるんだよ。僕はまだやることがあるから帰るよ」
ボワァァァァン‥‥
フォラスは転移魔法陣の中へと消えた。
アロケルはスノウによって倒された。
同時に観客席の観衆たちは一瞬で人形になり、その場に崩れて壊れた。
トン‥‥スタ‥‥
「立てるかシア」
「はい、マスター‥‥」
フランシアは少しよろけながらも立ち上がった。
「お前ほどの者があんな小者の悪魔に遅れをとるということは力を吸い取られていたってことだな?」
「はい。剣を交えていくにつれて、力がどんどん失われていく感覚を覚えたんです」
「やっぱりオレたちと同様に結界杭を打ち込むのに魔力と生命力を奪われていたってことか」
「間違いない。とにかく一旦ヴィマナに戻るぞ。他の結界杭同様にこの地の結界を解くことは出来ないだろう。となれば長居は無用だからな」
スタスタ‥
ロムロナがフランシアの前にしゃがんで話しかけた。
「その前に、あたしはロムロナ。あなたはフランシアねぇ。スノウボウヤをずっと支えてきたのねぇ。ありがとう」
「あなた、ロムロナね。マスターに魔法と戦いを教えたと聞かされていたわ。マルクトから私と逸れてまだ力を十分に発揮できる状態になかったマスターをあなた達が鍛えてくれたのね。本来は私がマスターに戦い方を思い出してもらう役目を果たすはずだったのだけどね。こちらこそ礼を言うわ」
フランシアとロムロナは絶対に相容れないだろうと思っていたスノウとワサンは、意外にもふたりが認め合い普通に会話しているのを見て驚いた。
「と、とにかく転送可能域まで戻るぞ」
スノウ達4人はヴィマナへと帰還した。
・・・・・
――蒼市元老院謁見の間――
広く豪華で薄暗い大聖堂の30段以上はある階段の上の豪勢な椅子に悠然と座っている男。
蒼市に拠点を構え、ホド全域を手中に治めるべく三足烏を使って武力でガルガンチュアやパンタグリュエルなどを攻撃しているヴォヴルカシャ中央元老院の最高議長であるガレム・アセドーだ。
「最高議長様。三足烏・烈の連隊長代理が御目通りしたいと申しております。いかがなされますか?」
「通せ」
側近の報告にガレムが答えた。
ギィィィィィィ‥‥
大聖堂の扉がゆっくりと開けられる。
入ってきたのは小柄な男だった。
「最高議長様、御目通り御許可頂きありがとうございます」
「何事だジライよ。定期報告の時期でもあるまい」
小柄な男は三足烏・烈の連隊長代理のジライだった。
「はい、蒼市の外で不穏な動きがあったため、一応お耳にお入れしようと思った次第です」
「話せ」
「はい。2点ございます。1点目はロン・ギボールの動きです。ある一定のエリアしか移動しておらず、ここ蒼市に近づくことがなくなったように見えるのです」
そう言ってジライは持参した羊皮紙に記したホドにおけるロン・ギボールの軌跡のデータを元老院の配下の者に手渡してガレム・アセドーに見せるよう促した。
ガレムは羊皮紙に目を通した。
「ほう‥‥まるで閉じ込められているかのような動きだな。それでお前は蒼市のバリアを解きたいとでも言いに来たのか?」
ロン・ギボールの動きは4つのホドカンの中を狭い範囲で移動しているように見えた。
「いえ、その逆で御座います」
「逆とはどういう意味だ?」
「はい。そのロン・ギボールの移動の軌跡から見ると、蒼市だけでなく、素市、緋市の3ホドカン全てがロン・ギボールが近寄らない状態となっております。つまり、ロン・ギボールに遭遇することなく素市、緋市に辿り着くことが可能でございます」
「なるほど。この蒼市の鉄壁の防御を続けたまま、素市、緋市を我が手中に治めることが出来ると言いたいのだな?」
「その通りで御座います」
「ジライよ、お前の提案を承認しよう。あの忌々しいガルガンチュアとパンタグリュエルをいよいよ殲滅する時が来たということだな。アレクサンドロスが消えた今、レヴルストラは我の脅威にはなり得ん。あの潜水船はいつか手にいれるがな」
「ありがとう御座います。必ずや吉報を持ち帰るとお約束致します」
「急げよ。それでもうひとつは何だ?」
「はい。漆市のあたりで気になるエネルギー波を捉えたという報告があがってきております。おそらく高レベルの魔法かと」
「高レベルの魔法とはどれくらいのクラスだ?」
「クラス3ですが、相当魔法技量の高い者が放ったと思われます」
「魔法技量の高い者‥‥例えば誰だ?」
「レヴルストラのロムロナ・ジャヴァザンディかニンフィーが有力ですが、情報によればニンフィーは行方不明とのことですからロムロナの可能性が高いかと思われます」
「レヴルストラのイルカ女か。アレクサンドロスとエントワ・ヴェルドロワールがいない今、大したことも出来まい。海獣と出会して攻撃でもしたのであろう。捨ておくがよい」
「かしこまりました。それでは素市、緋市を最高議長様に献上すべく目障りな者どもを滅ぼして参ります」
「あまり待たせるな」
「御意」
ジライは大聖堂から退出した。
「ジライ様、滞りなくお話が出来たようですね」
ジライの部下と思われる男はジライが歩く少し後方を歩きながら話しかけた。
「ああ。これから素市、緋市に居座る目障りなキュリアを滅ぼしに出る。部隊を招集しろシュリュウ」
「承知しました。いよいよですね」
「巨大亀の動きが把握できるようになったおかげだ。これはスピードが勝負だ。最高議長様は捨ておけと仰ったが、レヴルストラの怪しい動きが気になる」
「お言葉ですが、あのトライブはほぼ機能していないはずです。イルカの獣人と老人のふたりだけで何ができましょうか。アレクサンドロスがアドラメレクに囚われている以上脅威にはなり得ません」
「分かっている。その上で何かがある気がするのだ。私はあのトライブに潜入し関わっていたのだ。あのトライブには底知れぬ何かがある気がするのだ。言うなればあれは強き者の繋がりの中心点のようなものだ。本当にロムロナとジョルジュガッシュだけとは思えないのだ」
「承知しました。私はジライ様のお考えに従うまでです」
「‥‥‥‥」
ジライは少し不満そうな表情で部下を見た。
「それと、逃げた腑抜けのふたりは何か吐いたか?」
「いえ、ショウイが拷問を加えておりますが、知らぬ存ぜぬで三足烏に戻りたいの一点張りです」
「あいつはホウゲキ様とゲキシンに勝つことだけを叩き込まれた完全に洗脳された犬だ。つまり三足烏・烈の血みどろの臭いの中で育った生え抜きだ。三足烏流の拷問を得意とするショウイの拷問で何も吐かないのであれば何も知らないのだろう。第2分隊は解体されている。第3分隊のギョライの下にでもつけておけ」
「承知しました」
・・・・・
ジライは三足烏・烈のアジトへと戻ってきた。
アジトといっても立派な建物であり、様々な隠し扉や仕掛けが施されている建物であり、仮に蒼市が攻め込まれたとしても、このアジトだけは落とせないと思わせるだけの難攻不落の要塞となっていた。
その地下の一室に閉じ込められている者がふたり。
カヤクとニトロだった。
椅子に括り付けられ、指が数本ちぎられ、歯が抜かれ、体にはいくつもナイフで肉を抉られた箇所があった。
三足烏・烈の第1分隊隊員のショウイによって拷問されたもので、三足烏・烈が使う特殊な拷問器具を使った凄惨なものであった。
「知らねぇって言ってんだろうがよぉ‥‥」
「お前が何かを知っているかどうかなんて俺には関係ねぇんだよ。俺にとって重要なのはお前が何かを吐くまで拷問し続けることなんだよ。分かるか?」
「分かるわけねぇだろうが、イカれ野郎が。動けねぇ相手に拷問することしか脳がねぇサイコ野郎のお前じゃぁ話にならねぇ。シュリュウかジライを呼んで来いよぉ」
「俺に指図するんじゃねぇ。俺に指図出来るのはジライとシュリュウだけだ。お前が分隊長に戻れたとしても俺はお前の指図は受けねぇ。だから今もお前の指図は受けねぇ。分かったか?」
「話にならねぇなぁ」
ガチャ‥
拷問部屋に男がひとり入ってきた。
ジライにシュリュウと呼ばれた男だ。
「ショウイ。拷問はそこまでだ。ジライ様の指示でこいつらは解放する。これだけ痛めつけて何も言わないということは、私たちを裏切るような行動はとっていなのだろう」
「やっと話の分かる男が現れてくれたかぁ」
「カヤク、調子に乗るなよ。これはジライ様の指示であって、俺はまだお前達に対する疑念は拭えてないんだ。少しでも怪しい動きがあれば、またこの拷問部屋行きだと覚えておけ」
「分かったよ」
カヤクとニトロは拷問から解放された。
回復魔法でちぎられた指や抜かれた歯、抉られた傷は完治したが、長時間の拷問がこたえたのか、簡易的なベッドが置かれた部屋に横たわって眠った。
カヤクとニトロは凄まじい拷問に対し、レヴルストラでのことは一切話さなかった。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




