<ホド編 第2章> 26.剣士の悪魔
26.剣士の悪魔
「シア!」
闘技場の中心で戦っているふたりのうち、ひとりはフランシアだった。
しかもかなり攻撃を受けているらしく、服や防具のところどころに血が付着している。
腕や足など剣で斬られた傷痕も見られた。
「止めるか?」
「待て、あまり時間は掛けないが状況を把握する。特にあのシアと戦っているやつ‥‥異様なオーラを発している」
「ああ。あれは間違いなく人間じゃねぇ。悪魔か何かだろうな」
ワサンが指摘した闘技場内で戦っているもう1人は異様な姿をしていた。
体は人型だが、頭がライオンの剣士で2本の剣を巧みに操る二刀流の者だった。
だが、異様なのは姿だけではなかった。
スノウの感じている通り、発せられているオーラは人のレベルを大きく超えており、単なるライオンの獣人の類ではないことは明白だった。
ガキィィン!ガキキン!
「うぐっ!」
『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
ライオン剣士がフランシアの隙をついて、脇腹を斬った。
同時に闘技場に凄まじい歓声が沸き起こった。
「何なんだよこれ‥‥許せねぇ!」
「スノウボウヤ!見て!」
ロムロナは観客の1人の髪の毛を掴んでスノウに見せてきた。
「何だこれは?!」
まるでマネキンのような人形だった。
生きているように見える観客達はスノウたちが触れた瞬間に人形になっていった。
「何者かの魔法で観客の役目を与えられた哀れな人形たちだねぇ。こやつらは放っておいて問題ない。この環境を作った者がいるかもしれないからねぇ、十分気をつけることだね。だがいずれにしても注力すべきはあの獅子頭の者だよ。早く止めなければ冷徹女は八つ裂きにされてしまうだろうさ」
オボロが切れ長の目を見開いて言った。
「分かった。ワサンとロムロナはこの場で待機して周囲を見張ってくれ。オボロが言う通り、この人形どもを操っているやつが別にいるかもしれない。見つけ次第、不意打ち攻撃だ。おれはシアを救いに行く」
闘技場内ではライオン剣士が剣を振り上げて構えている。
「さぁ、戦いはいよいよクライマックスだ。我が奥義にてこの戦いの幕を閉じる。観客たちよ、その目にとくと焼き付けるがいいぞ!」
『わぁぁぁぁぁぁ!!』
ライオン剣士は特殊な姿勢で構えると剣に凄まじい魔力を込め始めた。
「グレートエナジーバーストファインスクランブルアタック!」
ギュワン‥‥シュン!スガカカカン!!!
凄まじい回転と共にライオン剣士はフランシアに斬りかかった。
「何ぃ!?」
だが、それはスノウによって防がれた。
「マスター‥‥」
「シア、遅れてすまない」
ライオン剣士の攻撃をフラガラッハで防いだスノウは力なく倒れるフランシアをもう片方の腕で支えた。
フランシアは安心したのか、僅かに笑みを見せながら目に涙を溜めている。
ガキィィン!
スノウはライオン剣士を剣ごと弾き飛ばした。
「大丈夫か。少し休んでいるといい」
スノウはフランシアをその場に寝かせると、回復魔法をかけて傷を治し体力を回復させた。
「貴様何者だ。我が奥義を防ぐとは腕に自信があるようだな。いいだろう。貴様を新たな対戦相手として許可しよう。さぁ名を名乗れ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥
スノウから凄まじい怒りと殺気のオーラが広がっていく。
ブワァァン!!
闘技場の手前にいる観客たちがスノウのオーラによって人形に戻り、その場に崩れるように倒れていった。
「おれの仲間に何をしてくれたんだお前‥‥」
「ほう、仲間を傷つけられたことで力を発揮するタイプの剣士だな。そういう者は火事場の馬鹿力を発揮する。面白い、戦う相手としては十分だ。いいだろう、我を楽しませるレベルまで到達していることに敬意を表し名乗ってやる」
シャキン!!
ライオン剣士は剣を振り上げてポーズを取ると名乗り始めた。
「我が名は剣魔皇アロケル。冥府で剣技の頂点に立つ者だ。‥!!」
シュン‥‥シュヴァン!!
スノウは凄まじい速さで詰め寄り強烈な剣撃を放った。
アロケルはそれを辛うじて躱した。
「お前の名などどうでもいい。さぁ、かかってこい。細切れにしてやる」
「フハハ!いいだろう!」
ガキィン!!
凄まじい剣の応酬が始まった。
キィン!ガキキィン!キン!キキン!
ロムロナには既に剣の動きが追いきれないほどの剣の応酬になっていた。
ガキィィン!キン!キキン!スバッ!ドッバァ!
トォォン‥スタ‥‥
「スノウボウヤ!」
スノウは腿に大きな剣傷を負っていた。
大量に出血しているが、すぐに魔法で傷を修復した。
ガシ‥
スノウはフラガラッハを構えた。
「斬られていながら随分と冷静であるな。だが、先ほどの剣士も冷静であった。冷静さだけでは我の剣は防げんぞ」
ドン!ガキキィィン!キキン!カキィィン!カキキキン!
ふたたび凄まじい剣の応酬が始まった。
闘技場内を縦横無尽に動きながら剣と剣がぶつかり合っており、次第に闘技場内に竜巻のような砂埃の渦が生じていた。
ガキキキィィン!!シャヴァン!ドッパァァ!
スノウの胸が大きく割れた。
アロケルの剣がスノウの胸を下から大きく斬り裂いたのだ。
スノウはすぐさま魔法で傷を修復する。
「スノウボウヤ‥‥あれじゃぁいつか出血多量で負けるわよ‥‥得意の魔法も使って攻撃すれば勝機が見出せるのになぜ魔法を使わないの?」
ロムロナは不安そうな表情で言った。
「大丈夫だロムロナ。スノウを信じろ」
ワサンは落ち着いた表情で言った。
ジャキン!
スノウはふたたびフラガラッハを構えた。
「徐々に出血量が増えているようだな。ニンゲンとは脆弱な肉体だ。血液が一定量以下になると死ぬ。あと1回、我の攻撃を受ければ死ぬだろう。さぁ貴様の全力をぶつけてくるのだ!」
アロケルは目を見開いて言った。
ドン!ガキキィィン!キキン!カキィィン!カキキキン!ジャキキン!!‥‥ドォォン!
「!!」
スザザァ!!
スノウの凄まじい剣突を受けてアロケルは大きく後方へと飛ばされた。
「フハハ!まぐれか。これだからニンゲンは面白い!鍛冶場の馬鹿力を絶妙なタイミングで発揮する。神の気まぐれ、創造過程でのバグ。我はそれすら圧倒的な剣技で凌駕する!さぁ死を覚悟するがいい!」
ドン!ガキキィィン!キキン!カキィィン!カキキキン!‥‥ズドォォン!!
「!!」
アロケルは再びスノウの剣撃によって後方へと飛ばされた。
「これだからニンゲンとの勝負は面白い。奇跡を複数回発生させる。だが、3度の奇跡は起こらない。ハァ!!」
ドン!ガキキィィン!キキン!カキィィン!カキキキン!‥‥ドコォォォォン!!
「なにぃ!!」
ヒュウゥゥン‥‥ズザザッ!
再度アロケルは後方に飛ばされた。
「き、貴様!」
「随分と焦っているじゃないか」
「何をした?!」
「見切っただけだ。お前の剣技の秘密をな」
「馬鹿な!ニンゲンごときに見切れるなどありえん!」
「お前の剣技の秘密。それはお前の腕が4本あることだ」
「!!」
アロケルは驚きの表情を見せた。
「その腕。2本に見えるが、実際には細い4本の腕だ。そしてもう一つの秘密。それはその剣にある。2本に分割出来る特殊な剣だ。しかも相当な斬れ味だな。おそらく魔剣。つまりおれの見立てではお前は剣士じゃない。単なる曲芸師だ」
「くっ!図に乗るなニンゲン!」
「お前みたいな曲芸師が冥府での剣士の頂点なのだとしたら、冥府のレベルは高が知れている。さて、そろそろ観察は終わりだ。覚悟してもらうぞ」
スノウは波動気を練り、フラガラッハに込めた。
同時にジオライゴウをフラガラッハに付与した。
ドンッ!‥‥シュゥゥン‥‥ズザン!!ガキン!
「あがぁぁぁ!」
スノウの鋭い一撃を受けたアロケルは剣撃と共に放たれたジオライゴウで感電した。
ズバン!!
「がっばぁぁぁ!」
アロケルは胴体を真っ二つに斬られ倒れた。
ズババババン!!
さらにスノウは素早く強力な連斬撃を放ち、アロケルの体を細切れにした。
ブワァァン!!ドッゴォォォォン!!
さらに風魔法で細切れになったアロケルの体を巻き上げると、ジオエクスプロージョンで全て焼き尽くし消し炭にした。
バシュゥゥゥン‥‥
空からアロケルだったものが灰になって降ってきた。
「すごい‥‥というかえげつないわねスノウボウヤ‥‥」
「当たり前だ。スノウは仲間に手を出されるのを極端に嫌うからな。アロケルとかいう悪魔はシアに手を出した時点でああなる運命だったってことだ」
「そうかもねぇ」
(随分と変わったわねスノウボウヤ‥‥いや、変わっていないか‥‥誰も信じることができなかった卑屈な性格は信用できる仲間に対して異常なまでの信頼感として現れているってことなのね)
ロムロナは少し不安げにスノウを見ていた。
「大丈夫かシア」
スノウは寝かせているフランシアの頭部を片手で持ち上げながら言った。
「マスター‥‥ありがとうございます。ですが気をつけて‥‥」
「ああ、分かってる」
ズバン!ガキン!
突如スノウの背後から凄まじい剣撃が襲ってきたのだが、スノウはそれを振り向くことなくフラガラッハで防いだ。
「よく気付いたな。褒めてやろう」
「悪魔ってのはどこまでも姑息な真似しか出来ないんだな」
スノウを背後から襲ってきたのは消し炭にされたはずのアロケルだった。
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