<ホド編 第2章> 24.結界杭
24.結界杭
シルゼヴァも加わり作戦会議が始まった。
「まず、ソニック、ワサン、シンザが何故あの場所にいたのかを確認させてもらっていいか?」
スノウの問いかけにソニックがワサンとシンザの顔を見て確認し、説明し始めた。
「勿論です‥‥と言いたいところですが記憶がなくて分からないんです。気づいたらあの場所で木に埋まっていました。最初は意識もあってギリギリ会話も出来たのでワサン、シンザとは意思の疎通を図ることが出来たのですが、身体が徐々に木の一部になっていく感覚と共に意識が薄れていって、あの状態になっていました」
「ソニックの言う通りだ。細胞レベルで木に同化していくのが分かった。同化が進むにつれて力が奪われていき、同時に意識も薄れていったんだ」
ソニック、ワサンの話を聞いてロムロナが割り込んできた。
「二人の言っていることは本当だわよ。3人に回復魔法をかけたんだけどねぇ、かなりの魔力を消費したのね。それだけ生命力が奪われていたってことなのだと思うわぁ」
「我が感じ取った構造で言えば、異質で強力なエネルギーの柱が地脈に突き刺さっていた。だがあれほどのエネルギーの柱を地中深くの地脈に出すためには相当な魔力やエネルギーが必要だ。それだけのエネルギーをあのストラスとか言う悪魔が持っているとは思えん」
「つまり、あのストラスはソニックたち3人の生命力や魔力を使ってエネルギーの柱を地中に打ち込んだと言うのかルナリ」
「そうだ」
そこにシルゼヴァが割り込んできた。
「その推察は正しい。俺が囚われていた時、10分の1の力しか出せなかったのだが、あれは結界の影響だと思っていた。だが実際には生命力と魔力が失われていたと言うことだ」
「黒の瘴気が原因でもなかったと言うことか」
「そうだ。あれは単に物質を腐らせるゾス系魔法に近い効果で、単純な攻撃だったからな」
「そう言えば我も思うように力が出せずにいた。負の情念のエネルギーも大量に奪われていた。シルゼヴァの推察が我にも当てはまるな」
シルゼヴァに続いてルナリが頷きながら言った。
それをスノウが整理する。
「レヴルストラメンバーの高い生命力と魔力を使ってエネルギーの柱、つまり結界杭をこのホドの遥か下にある地脈に打ち込んだってことか。しかも皆カルパでの出来事の記憶はない。おれも同様だ。そしてストラスが言っていた。結界杭は全部で5つ。助けなければならない残りのメンバーはシア、ヘラクレス、アリオクだ。3人も生命力と魔力を吸われ囚われている可能性が高い。そして結界杭を打ったやつは、確実におれ達を知っている者だ」
「間違い無いだろうな。そして俺たちを使おうなんて考えるやつらは大体絞り込めるはずだな」
「ディアボロス、サンバダン、天使たちか。いずれにせよ、おれ達がやることは変わらない。シア、ヘラクレス、アリオクを救うだけだ」
「あと一つ。結界杭で閉じ込めている、もしくは守っているものが何なのかを突き止める。それを突き詰めていけば必然的に俺たちを狙ったやつらが誰なのか明らかになるだろう」
「ああ。ストラスが言っていた結界はあとふたつ。場所は分からないが、剣士アロケルとかいうやつが守護する結界杭と大怪力バラムとかいうやつが守護する結界杭だ。一度素市に戻って新たな情報が入手できていないか確認しに行く。ロムロナ、操舵をお願い出来るか?」
「分かったわよぉ」
「よし、他に意見がなければこれで会議は終わりだ」
「ちょっと待ってくれ」
ワサンが言葉を挟んできた。
「どうした?」
「いや、ロムロナから聞いたんだが、この船にカヤクが乗っているっていうのは本当か?」
スノウはロムロナの顔を見た。
ロムロナはスノウに説明するように促している。
「その通りだ。カヤクの部下だったニトロも一緒だ」
「正気かスノウ。あいつはエントワを殺したと言ってもいい敵だぞ」
ソニックやシンザ、ルナリは何の話をしているのか分からないといった表情で見ている。
「おれも完全には信用していない。擁護するつもりもないが、あの戦いの直後にエントワの亡骸を背負って運んだのはカヤクであり、そのお陰でエントワをきちんと埋葬できたと聞いている。あいつらは、力が全て、勝つことが命よりも重要視される三足烏・烈の中で、エントワから受け取った仲間を生かすために自分を犠牲に出来る信頼と自己犠牲の精神を知り、自分達の居場所をここに見出した。そして今、処刑される覚悟で三足烏・烈に戻り、蒼市に結界杭があるかどうかの情報収集をしている」
「甘いぞスノウ。ジライの例だってあるんだぞ?やつらは簡単に裏切る。スパイ行為はやつらの御家芸なんだからな」
「その通りだ。だからおれはやつらを完全には信用していないと言った。だが、信用するチャンスを与えないのも違うと思うんだ。エントワが何故カヤクを救ったのか。エントワは思慮深く未来に目を向けることの出来る男だった。カヤクの中に変わることの出来る何かを見出し、託したんじゃないかって思うんだ。だからおれはやつらがどう行動するのかを見るつもりだ。そしてもし、裏切るなら、その時は躊躇なく叩きのめす。その警戒心は絶対に解かない」
「‥‥‥‥オレはやつを認めない。だがスノウ、お前はオレ達のリーダーだ。お前の決定には従う。そしてオレもカヤクを見張る。少しでも裏切るような素振りを見せたらオレはあいつを生かしておかない。オレの判断でやつを殺す。それは許可してくれ」
ワサンはカヤクを全く許すことができなかった。
それはスノウも同じ気持ちであり、ワサンの心情は痛いほど理解できた。
だが、ワサンもまた、エントワが残した希望の種を尊重する姿勢を見せたのだった。
スノウは軽く頷いた。
「分かった。カヤクを最も知っているのはおれ達の中でお前だけだワサン。当然おれも目を光らせるが、お前の判断も信用するし尊重する」
「ありがとうスノウ」
そう言うとワサンはいつになく暗い雰囲気で会議室を出て行った。
スノウの言い分を受け入れきれない自分の感情の整理がつかないでいたのだ。
ワサンの後ろ姿を見て、スノウは苦しそうな表情を見せた。
ロムロナは優しい表情でスノウを見ていた。
(スノウボウヤ‥‥成長したのね。エントワボウヤが常に言っていた言葉‥‥争いに見を投じる者にとって最も難しいのが許すことだって。おそらくスノウボウヤもエントワボウヤが言った言葉の真意を理解しているはずよねぇ。不都合な結果に恨みで返せば争いは無くなるどころか激化していき結局自分や自分の大切な者達が不幸になる。感情に飲まれてはいけないって‥‥どんな過酷な経験をしてきたのか分からないけど、成長したみたいねぇ)
会議は終了し、解散した。
・・・・・
半日の航海でヴィマナは素市に到着した。
スノウ、ロムロナ、ソニックの3人はFOCsを訪れていた。
ヤガトが何か新たな情報を入手していないかを確認するためだ。
生命力や魔力を大幅に抜き取られていたソニック、ワサン、シンザには大事をとって休むようにスノウが指示したのだが、ソニックはそれを拒んで一緒に行動することをスノウに主張して一緒に上陸することになった。
ソニックとソニアはホドでのスノウの状況を知らない。
それが悔しいのか、自分達の知らない環境や状況を把握して少しでもスノウの役に立ちたいと思ったのだった。
「これはスノウさん達。良いタイミングでご帰還されましたね」
「新しい情報が入ったのか?」
「ええ、もちろんですよ」
バサッ‥
ヤガトはホドの海図を広げた。
海図には3つのホドカン、沈んだ漆市跡に加えて、漆市と素市の間から北に上がった場所にバツ印が付けられていた。
「この場所で最近船がよく沈められるという話があるんですよ」
「船が沈む?」
「はい。主に漁船なんですがね、このバツ印の海域に入ると急に空気が重苦しくなって靄がかかるそうなんです。そして突然大波に襲われたかのような衝撃と共に船が沈没するとかしないとか。既に10隻以上沈んでしまったようなのですが、怪しいと思いませんか?」
「もしかして例の巨大亀の仕業だったりしないのか?」
「ロン・ギボールですね?おそらく違います。ロン・ギボールなのであれば、その場で破壊されて沈没ですが、今回は沈没した船自体は然程不具合もなかったと聞いています。つまり、ロン・ギボールの仕業ではないということです」
「なるほど‥‥分かった。船なら沈没かもしれないが、ヴィマナなら問題ない。今は僅かな情報でも必要だ。一旦その沈没エリアに行ってみる」
「どうぞお気をつけください。私は引き続き情報収集に努めます」
スノウ達はヴィマナに戻ると、ヤガトが示した場所に向けて出航した。
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