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<ホド編 第2章> 22.遥か昔に滅んだ都市の跡

22.遥か昔に滅んだ都市の跡


 (見たことのないデザインのものばかりねぇ‥‥やっぱりここは遥か昔に滅んだ文明の名残なんだわ)


 ロムロナは海底に沈んだ都市と思われる場所の一角にいた。

 広い部屋で周囲に沢山のリクライニング出来る特殊な形状の椅子が並んでいる。

 周囲には美しいのだが現代にはない独特なデザインの装飾が施されている。

 ロムロナが転送後に着地した部屋の中心部分には何も置かれていないのだが床に転移魔法陣があったような掠れた線や文字が見えた。

 文字はロムロナには読むことは出来なかったが、それが転移魔法陣のような移動手段なのだと感じた。


 (さて。リュクス聞こえる?)


 ロムロナはリュクスに問いかけた。

 だが応答はない。


 (やっぱりダメねぇ。転送可能域であることを期待したんだけど、流石にこの水圧。相当距離離れてるっぽいものねぇ。仕方ないわねぇ、ここを調べながら上に向かって進むしかないわねぇ)


 取り敢えずこの部屋から出るために扉を探す。


 (あらら、何の冗談かしら。この部屋、扉ないの?)


 周囲の壁には扉や扉の把手が見当たらず、一面壁に見えた。

 ロムロナは外周の壁に沿って扉を探す。


 (まさか床や天井から出入りなんてないわよね、さすがに‥‥ん?)


 ロムロナは壁に何か文字が書かれているのを見つけた。

 その下に掠れてはいるが小さな円形のマークが描かれている。


 (もしかして‥‥)


 ロムロナは円形のマークに魔力を流してみる。


 シュワァァン‥‥


 「!」


 突然壁が消えて通路が出現した。


 (ちょっと驚かさないでよねぇ全く。海水が気管に入ったらどうするのよ‥‥ってそんなことより今、魔力に反応して壁が開いたわね。もしかするとこの掠れた円形のマークは扉を開けるスイッチか何かだったってこと?それならばあの中央にある掠れた大きな円形のマークも何かのスイッチの可能性あるわね)


 ロムロナは部屋の中央にある魔法陣のような大きな円形のマークに触れ、魔力を流し込んでみた。

 何も起こらない。


 (何となく感じた。これ、意図的に機能を使えないようにしてるわねぇ。掠れていることが問題というよりこの魔法陣の効果そのもの消し去るように破壊した感覚‥‥仕方ないわねぇ、あっちの通路から出るしかないわ)


 ロムロナは器用に泳いで部屋から出た。

 通路も独特のデザインの装飾があり、壁画のようなものもあった。

 腐食が進んでおり所々欠けているため、何となく人であること程度しか分からないものだった。


 (壁画と言うよりリアルな彫刻みたいだわねぇ。あら、ここにも円形マークがあるわね)


 ロムロナは円形マークに魔力を流し込んでみる。


 グリュリュリュルルル‥‥パシュゥゥン‥‥


 「!!」


 周囲から何かが起動するような音がしたかと思うと天井が光だし、壁画が突如動き出した。


 (ちょっと驚かさないででよ!)


 サイトオブダークネスで暗闇を見ていたため、突然光り出した天井の明るさに目が眩んでよろけて倒れそうになったが、水中なので上手くバランスを保った。

 ゆっくりと目を開けて少しずつ慣らしていく。


 (壁の絵‥いえ彫刻だわね‥‥ひとりでに動き出したわ‥‥しかもまるで生きているように形を変えているわね‥‥何なのよこれ‥‥)


 壁画はぎこちなく動いているのと、腐食で欠けてしまっているため、これが一体何なのかは分からない状態だったが、人が何か乗り物に乗っている様子だけは窺えた。


 (人が椅子に乗って空を飛んでいる?まさかねぇ。そんなことが出来たら人は歩かなくなってすぐ死んでしまうわね)


 ロムロナはさらに進んでいく。

 魔力スイッチで通路が明るくなったことで周囲を確認しやすくなったため、より細かい部分にも気づけるようになった。


 (所々に何かの紋章みたいなのがあるわねぇ‥‥)


 ロムロナはその紋章の一つをナイフで器用にくり抜いて外しポーチの中へとしまった。

 持ち帰って調べてもらおうと思ったのだ。

 さらに進んでいくと十字路に出くわした。


 (あら、海水温が違う流れがあるわねぇ。どうしようかしら。このまま調べ続けるか、出ることを優先するか。ソナー魔法に反応はないから、ここにはおそらくスノウボウヤの仲間はいないしねぇ‥‥‥出ることを優先しようかしら。結界杭を見つけてスノウボウヤの仲間を救わなければならない上に時間もないしねぇ。場所を記憶しておいて、後から調査でもいいしね)


 海水温の低い流れの方へと進む事にしたロムロナは器用に泳いで進んでいく。

 途中いくつか部屋があったが特に怪しいところもないため、取り敢えずスルーして出口を目指し進む事にした。

 5分程度進むとさらに海水温が低くなるのを感じた。


 (出口近いわね)


 通路は徐々に広くなっており、周囲には深海魚らしきものが出始めた。


 (あれ、扉っぽい)


 幅5メートルほどの半透明な壁が目に入ってきた。  


 (透けている‥‥凄い技術持っていたのに何故滅んだのかしらねぇ。って感傷に浸っている場合じゃないわね。あら‥‥)


 ボニュゥン‥‥


 一匹の深海魚が半透明な壁を透過するようにこちら側に入ってきた。

 壁は柔らかいシャボンのような動きをしていた。


 (この壁、通り抜け出来るの?面白そうねぇ)

 

 ロムロナは躊躇することなく、壁に向かって進み、そのまま外に出た。


 ボニュゥゥゥン‥‥


 (あは!凄いわぁ!面白い仕組みねぇ!って喜んでいる場合じゃないわねぇ)


 ロムロナはふたたびサイトオブダークネスを発動して周囲を確認する。

 

 (やはり海底ね。それも相当深いわ。どうしてなのか分からないけどあたしの体はこの水圧に順応しているみたいだわねぇ。でも念のためゆっくり上がることにしなければならないわ)


 ロムロナはゆっくりと浮上していく。

 徐々に光が入り始める。


 (凄い‥‥こんな風になっていたのね‥‥)


 光が入り始め視界が広がっていくにつれて、巨大な海溝が続いていることに気づいたロムロナは思わず止まって周囲を見回した。


 (まるで大地が切り刻まれたかのようだわ。ヴィマナはここまで潜れるのかしら。帰ったらそのあたりも相談だわねぇ)


 ふたたびロムロナは浮上していく。

 そして1時間ほどかけてやっと海面まで辿り着いた。


 「ふぅ!」


 バッサァ!!


 少し大きな波がロムロナを揺らす。

 周囲は見渡す限りの海だった。

 目印になるものが何もないため、ロムロナは思案を巡らせた。


(そう言えばスノウボウヤ、風魔法で空飛んでいたわねぇ。やってみようかしら)


 ロムロナは一旦海に潜り、勢いをつけてイルカのジャンプのように大きく空に向かって飛んだ。

 そして空中で風魔法を発動する。


 「んんっと!こうかな?」


 ロムロナは初めて飛んだのだが、バランスをとることが難しい風魔法での空中浮遊をいきなりやってみせた。

 飛行はある程度慣性の働きもあってバランスはとりやすいのだが、空中浮遊で静止状態を維持するのは難しいのだ。


 「あれ、薄らと影が見えるのは海に沈んだホドカンね。ってことはあれは漆市(しつし)だわねぇ。この場所、ここから見える沈んだホドカンの角度を覚えておかないとね。それで‥‥やっぱりヴィマナは見えないわね。潜航しているんだわきっと。さて‥‥それじゃぁ合図を送るとしましょうかねぇ」


 ロムロナはジオエクスプロージョンを発動した。


 ドッゴォォォォォォォン!!


 続けて海面に向かってジオデストロックを放つ。

 超巨大な岩が生成され、凄まじい勢いで海面に向かって落ちていく。


 ドバッシャァァァァン!!


 「これくらいで気づくわよね」


 それから数分も経たないうちにロムロナはいきなりヴィマナに転送された。


 スタ‥‥


 「あら、びっくりだわ。いきなりブリッジに転送されたわね」

 「無事だったんだなロムロナ」

 「当たり前でしょう?あたしを誰だとお思いなの?」

 「ははは、そうだな。それで何があったんだ?あの転移魔法陣の先には」


 ロムロナは見たものを全て伝えた。


 「遥か昔に滅んだと言われる古代文明の都市か。ティフェレトにもあったし、他の異世界にもあったはずだ。それぞれ違う文明だったのだろうが、一体この世界はどんな歴史を辿ったのか。行ってみる価値はあるが、結界杭を巡って仲間と合流しアレックスを救ってからだな」

 「そうね。ということで別のダンジョンを探索する必要があるわ」

 「あれから膝市(しつし)の周辺を回ったんだが、転送可能なダンジョンは3つあった。厳密にはスキャン機能ではないからどれほどのダンジョンかは分からないが、いきなり土の中に転送されるなんてことはないから安心してくれ。早速行きたいんだが、どうする?今回は休むか?」

 「あら、あたしの体の気を使ってくれるのねぇ。優しいじゃないスノウボウヤ」

 「離れろ」


 ロムロナが抱きついてきたので、凄まじい力でスノウはロムロナを引き剥がした。


 「いけずだわねぇ。まぁいいわ。チャンスはいくらでもあるもの。ということであたしは元気だから直ぐにでも出発出来るわよぉ」

 「ルナリも行けるな?」

 「もちろんだ」

 「よし、リュクス。おれとロムロナ、ルナリを確認したダンジョンBへ転送してくれ」

 「承知しました。転送します」


 キュィィィィィィィン‥‥


 3人は転送され、膝市(しつし)内のダンジョンBと名付けた場所へ転送された。


 「ここには見覚えがない。とりあえず世界蛇のいる場所に繋がるダンジョンではないということだな」

 「前回きた場所じゃないだけで、あれだけの大きさの世界蛇ボウヤだから別のダンジョンにも繋がっている可能性はあるわねぇ」

 「なるほど‥‥面倒だが、警戒することにしよう。それじゃぁ先に進むぞ」


 スノウ達はダンジョンを進んでいった。




いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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