<ホド編 第2章> 19.リュクス
19.リュクス
スノウはヴィマナの機関室を訪れていた。
オボロをシルゼヴァと再会させるためだ。
「改めて見るとこの船は恐ろしいものじゃなぁ」
「この船のことが分かるのか?」
「ごく一部だがねぇ。これを使いこなせれば、ディアボロスたちが起動し行方知れずとなっているオルダマトラを探せると思ってねぇ」
「その通りだ」
「シルゼヴァ!」
空圧制御のためにヴィマナの駆動部の奥にしばらく篭っていたシルゼヴァが機関室へと戻って来た。
「オボロか。力をだいぶ取り戻したようだな」
「お陰様でねぇ。お前さんは相変わらずのようじゃな」
「俺は今、この船に夢中だ。これほどのものと出会えるとはな。好奇心をどれだけ掻き立てても満足させられることがないほど様々な機能があり、何の目的でどのような構造で、どう機能するかも分からん。全く超古代文明なのか、神の力なのか、これを造った者はイカれているな」
「キョトトト!随分と楽しそうだねぇ。あたしの分かる範囲で言えば、これは単なる海を渡る船じゃない。ましてや潜水艦でもないねぇ。これは‥」
「宇宙船だよ」
「宇宙船だ」
オボロとシルゼヴァは口を揃えて言った。
「ほう、気づいていたのかい」
「当たり前だ」
2人の会話にスノウが割り込む。
「お、おいちょっと待て!ヴィマナが宇宙船だってのか?!」
「そうだ。機関室とブリッジにも繋がっているんだが、ヴィマナのメインシステムの中には人格型超高度演算機能があるのだ。膨大な情報量や複雑かつ多次元に展開される演算処理も高スピードで終えられるもので、過去の様々な事象、データや現在の状況、未来の予測を踏まえて最適な航行ルートや時間なども返してくれる。もちろん自己診断も行えるんだが、その機能を一部だけ復活させることに成功したのだ」
「‥‥難しくてついていけないんだが、つまり、喋る人型を模したAIみたいなのがヴィマナにいて、シルゼヴァに教えてくれたと?」
「AI‥‥人工知能か。その通りだ。まだほんの一部の機能しか繋がっていないし、このヴィマナのアーカイブにもアクセスすることは出来ないから、この船がいつどこでどのように建造されたのかまでは分からんがな」
「それでそのAIは何を教えてくれたんだ?」
「この船の基本構造だ。知っての通り海中深く潜航することは可能だ。それだけの水圧に耐えられる設計になっている。ここからは俺の推測になるが、その設計故に、宇宙でも全く問題なく航行が可能だ。オルダマトラのように越界も出来るはずだな。そして、最も興味深いのが宇宙で空間転移が出来ることだ。ワームホールだったか。武器もあるらしいのだが、内容まではアクセス出来ない」
「この船の動力源については分かったのかい?こいつは極めて特殊な船だからねぇ。海底、空、宇宙、カルパ、様々な場所を航行するのに必要なエネルギーは一種類とは限らないだろうからねぇ」
「その通りだオボロ。スノウがフェニックスから入手したタガヴィマはこのヴィマナの飛行の動力源になる。6000度の種火が必要なのはこの空航行エンジンを点火起動させるためだ。基本的な浮遊力はタガヴィマから得る。だが、宇宙へは行けない。どうやら別のエネルギー源が必要らしいのだ。そして越界、カルパ内航行も同様だ」
「ってことは、このホドで6000度の種火を入手してもオルダマトラを追って越界は出来ないってことか‥‥」
「案ずるなスノウ。俺がAIを直して情報を入手する」
「そうか。引き続き頼むよ」
「一応会話は出来るがお前も会話してみるか?」
「え?会話できるのか?」
「当たり前だ」
そう言うとシルゼヴァは機関室にあるメインシステムへアクセス出来る操作版を操作した。
スクリーンにリュクスという文字と球体が映し出された。
キュゥィィィィィィィィィン‥‥
一瞬耳鳴りのようなものがした後、今までとは様子の違う雰囲気になったのを感じた。
「コード:リュクス起動。防御シールド展開完了、ウィルス破壊システム多重化、展開完了、命令系統認識‥‥艦内スキャニング‥‥未確認生命体を検知。実行するには全員の登録が必要です‥‥現在のクルー全員の登録をしてください‥‥」
「なるほど、今この船に乗っている者の登録がなされない限り、ヴィマナのシステムとのリンクは行えないということか」
「その通りだ。今までは単純に動力と操舵だけを行なっていた。いわば、コンピュータは積んでいるが、使わずにオールで漕いで進んでいたようなものだ。だが、今コンピュータに繋ごうとしている中で、コンピュータが自身と船を守るために乗員の身元を確認しようとしているのだ。この船にとって害のある者がいる場合は、システムを完全に閉鎖環境にして影響を受けないようにするのだろう」
「なるほど。セキュリティシステム対応だな」
「俺は既にこの船のチーフエンジニアとして登録してある。ガースはエンジニアだ。他の者を登録するが、俺が勝手に割り振って構わないな?」
「い、いや、勝手にって‥‥」
「リュクス。新たなクルーの登録だ。ひとりめはスノウ・ウルスラグナ。船長だ」
「え?!」
「次、ロムロナ・ジャヴァザンディ。操舵手だ。次、カヤク。砲撃手。次、ニトロ、防衛係および転送係。最後はルナリ、カウンセラーだ」
「5名登録完了。残り2体の生命反応を検知。現在のクルー全員の登録および役割を登録ください‥‥」
「あ、オボロとマダラか」
「なるほど。残り2名、1人はオボロ、軍師だ。もう1人はマダラ、保安隊員だ」
「全員登録完了。セキュリティウォール設定完了。現在使用可能な機能は海中および海上の高速航行、クルーの転送、思念波の遠隔連携、ソナーです。コマンドをどうぞ」
「リュクス。船長がお前に話があるそうだ。スノウ喋ってみろ」
「お、おお。リュクス‥‥でいいんだな?」
「はいスノウ船長」
「船長って、まぁアレックスが戻ってくるまでの暫定ってことで頼むよ」
「アレックスとは?」
「あ、あぁ。今はいない。いずれ戻ってくるからその時に登録させてもらう」
「分かりました」
「リュクス。質問だが、この船は越界も出来るんだよな?」
「越界‥‥アクセス出来ないデータベース領域にあると思われる情報のため、お答えできません」
「こういうことだ」
シルゼヴァが機関室のスクリーンに映し出されたリュクスのマークを指しさして言った。
やはり現時点では越界や宇宙航行などの情報は得ることが出来ないらしい。
「なるほど。とにかく今後は解放されている機能については手動操作だけでなく、リュクスとの会話で操作が可能ということだな」
「スノウ船長。その通りです。私に命令頂ければ自動で航行も可能となります」
「すごいな」
「それほどでも」
「は?」
「ははは。こういうユニークな反応が出来るのもAIの面白さというやつだな」
「はは‥‥何だか慣れないな‥‥そう言えばガースはどうした?あいつにもオロバを会わせたかったんだが」
「ジョルジュガッシュ、通称ガースエンジニアは現在、核動力炉で調査中です。心拍数高めで呼吸も荒いため、長時間の作業は控えた方が良さそうです」
「ガースは新たな機能解放で興奮しているから当分出てこないぞ」
「そうか。まぁ機会はいくらでもあるだろうからな」
リュクスはガースの体調を心配するようなコメントを言ったが、シルゼヴァ、スノウ共に言っても無駄であることと知っているため放っておくことにした。
流石に腹が減れば戻ってくるはずだ。
スノウはシルゼヴァに次の作戦会議の時間を伝えてその場を去った。
・・・・・
会議室。
「よし全員集まったな」
会議室にはスノウ、シルゼヴァ、ルナリ、ロムロナ、カヤク、ニトロ、そしてスノウの髪に憑依しているオボロ、そしてゲストクルーとして、グレゴリ、ヤガトも呼んでいただ。
リュクスには2名の一時的な乗船許可を与えている。
ガースは整備に夢中でこの場には出てこなかった。
マダラもいるが、登場するとややこしくなるため、透明化して沈黙している。
「さて、結界杭の場所としては二箇所を解放した。いくつ結界杭があるのか分からないが、次を探さなければならない。グレゴリ、ヤガト、何か他に有力な情報はないか?」
「冒険者たちの錯乱は結局スノウさんたちが遭遇したウァラクと黒竜ヴァールの発していた黒の瘴気が原因だったんですよね。ルナリさんのお力のおかげで錯乱した冒険者たちは正気に戻りましたので、結局繋がっていたってことになります。新たな情報にはなりませんでした」
「そうだな。ヤガト、お前は何か新しい情報はないのか?」
「そうですねぇ。結界杭の環境を考えれば、ホドカン、またはホドカンを支える海底の地面の中、ということになると思いますから、漆市のダンジョンと蒼市のダンジョンは可能性が高いですね」
「二箇所か」
「俺とルナリが結界杭の中にいたのは、偶然ではないだろう。となれば結界杭の数は、後6つになる」
「シア、ワサン、ソニアック、シンザ、ヘラクレス、アリオクか。そのうち二箇所は漆市と蒼市にあるとしたら、残り4つはどこにあるんだ?可能性としては素市と緋市にもあるんじゃないか?」
「各ホドカンに二箇所ずつだと数は合いますねぇ。それではこうするのはどうでしょう?先に漆市のダンジョンに向かって頂き、その間に素市と緋市の調査を行なっておきます」
「いいだろう」
「そ、蒼市はどうするんだ?」
カヤクが質問した。
「元老院が張った障壁があるんだろ?それを破る手段がない限り入れないということだな」
「俺とニトロに任せてくれないか?三足烏を抜けたと言っても、あの戦いのダンジョン崩壊のどさくさに紛れて逃げて来たようなもんだからな。上手く潜入出来るかもしれねぇ。逆スパイってやつだよ」
「是非やらせて下さい!お願いします!」
カヤクとニトロは頭を下げた。
「好きにさせればいい。こいつらが仮に三足烏に寝返っても大した脅威にはならん」
「シ、シルゼヴァの旦那‥あんまりな言い方だが、反論出来ねぇのが情けない‥‥」
カヤクは項垂れた。
「いいだろう。だが、その前に三足烏についてお前らの知っていることを教えておいてくれ」
「もちろんだ」
カヤクとニトロは三足烏について説明を始めた。
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