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<ホド編 第2章> 18.復活の九尾の狐

18.復活の九尾の狐


 「お望み通り気絶させたけどこれでいいのか?」


 スノウはフラガラッハで喉を串刺した状態の九尾の狐を示して言った。

 電撃魔法によって脳震盪を起こし九尾の狐は気絶している。


 「小童にしては上出来だ」

 「喰われそうになった時は流石に焦ったけど、戦ってみたら随分と呆気なかったんだが、これは一体何なんだ?」

 「キョトト!こやつを前に呆気ないとは中々言うじゃないか。まぁ偽物が使ってたんだから仕方ないかねぇ。こいつはあたしのエネルギーの塊を乗っ取った偽物。おおかたこの場所に迷い込んで運良く高密度で強力なあたしのエネルギーを吸い込んじまった魔物の馬鹿者だろう。扱い方を知らん馬鹿者がいくら高級な自動車に乗ったところで乗りこなすことは出来ないということさね」

 「なるほどって、何でここにこんなエネルギーが溜まってたんだ?」

 「小童の髪の毛に憑依してティフェレトへ越界した際、大きく魔力を使っちまったのは覚えているだろう?その後、休眠して魔力を溜め込んでいたんだがねぇ。どうも効率が悪いことに気づいたんだよ。だが、原因は分からない。何度か目は覚ましたが、すぐにエネルギーが切れかかっちまう状態になっていてねぇ。そしてネツァクでマルクトに行き、殺生石が割れ、あたしの体が黄泉比良坂の岩戸に張り付けられていたことがあっただろう?あの時、あたしエネルギーが半分常闇に持っていかれちまったんだが、これまで休眠して溜め込んだエネルギーの流れも見えたのさ。どうやらなまぐさ坊主の禁呪によってあたしのエネルギーは自動的にあたしではなく別場所に溜まるようになっていたってことさ。それがここホドの深淵窟だったってわけだ。今回無事にホドに着地できたからねぇ。この場所に回収しにきたということさね」

 「なるほど。ところで何度か登場するそのなまぐさ坊主ってのは一体誰なんだ?」

 「源翁という名の坊主だ」

 「ああ!確か、殺生石になってた玉藻前を成仏させたっていう和尚だな」

 「くだらんねぇ。あのなまぐさ坊主め、嘘をかたりおってからに‥‥」

 「嘘?」

 「そうだ。やつはあたしがニンゲンどもに討たれたと思わせて殺生石に化けて折りを見てまた暴れてやろうと画策していたのを見破りやがってねぇ。あたしの体を本当に石に縛り付け、意識だけを異世界のこの深淵窟の稲荷に閉じ込めやがったのさ。あやつめ、命を使ってあたしを封印したから面倒なことをしてくれたと思っていたら、まさか黄泉比良坂の岩戸に体を縛り付ける禁呪まで付けてやがった。しかもあたしの力を吸い取りつつ、命を削るっていう荒技までやってのけてねぇ。結果70年以上も生きおった。全く腹の立つニンゲンだったよ」

 「凄い坊さんがいたもんだな。相当な霊験を受けた徳の高い人物だったんだろうな」

 「確かにねぇ。どこかの菩薩の分霊か何かだろうさ。さて‥」


 そう言うとオボロはスノウを稲荷本殿の前に立たせた。


 「小童。これからあたしの溜め込んだ魔力をこやつから吸収するが、お前にも多少影響がある。しっかりと立っておれよ。あたしが集中できるように決して動くんじゃないからねぇ」

 「分かった。どれくらいかかるんだ?」

 「数秒だよ。それじゃぁいくよ」


 カッ!


 スノウの髪に顕現しているオボロは両目を大きく見開いた。


 キィィィィィィィィィィィン‥‥


 荘厳なオーラが周囲に広がっていく。


 ズン!!


 突如スノウは押し潰されるようなとてつもない重力感を感じた。


 (くっ!)


 目の前の九尾の狐が徐々に実態を失い始める。

 重力感は通常の20倍ほどにもなっており、スノウは肉体強化の魔法を付与し耐えている。

 60kg強の体重であるスノウには、20倍の重力である約12000N以上の力がのしかかっている計算になる。

 通常ならば地面に押しつぶされるようにへばりつき、微塵も身動きが取れないどころか、血液の循環が滞り血が回らなくなることで四肢から壊死していくが、その前に脳に血液が巡らずに意識を失い絶命する。

 

 (や、やべぇ‥‥足や手に血が回らない‥‥いや、全身に‥‥は、波動気で流すんだ‥‥)


 スノウは激しい重力で流せなくなっている血流を、波動気を使って補った。

 

 「おい、まだかよ‥‥」


 オボロは答えない。

 

 (ちっ!こうなったら意地でも耐え切ってやる‥‥どうせ、へばったら一生馬鹿にされるんだし!)


 キュワァァァァァァァン!!


 数秒で魔力を吸収し切ると言っていたが、実際には4〜5分かかっていた。


 キュワァァァァン‥‥


 急に体が軽くなった。

 

 シュンッ!


 高重力に耐えていた状態のまま、重力波から解放されたため、スノウは思い切り天井に向かって飛んでいく。


 スタ!ヒュン‥‥スタ‥‥

 

 咄嗟の判断で体を反転させて天井に着地した後、落下の中で体勢を整えて地面に綺麗に着地した。


 「?!」


 スノウは自身の体に力が漲っていることに気づいた。


 「どういうことだ?」

 「小童の魔力の器を借りたのさ」

 「?」

 「あたしの魔力は膨大だからねぇ。だが、今はまだ体を取り戻すまでの力はないんだよ。やはり常闇に持っていかれたものを取り返す必要があるようだねぇ。今あたしは小童の髪に憑依しているが、魔力を溜め込んでおくには少々手狭でね。あんたの持て余している魔力の器にあたしの魔力を溜め込ませてもらったのさ」

 「ふざけんなよ‥‥勝手に使ってんなよな」

 「何を言ってるんだい。魔力の器のデカさしか取り柄がないんだから偉そうに言うんじゃないよ。あたしが助けてやらなきゃお前は3回は死んでいたんだからねぇ」

 「そんなことあるかいクソババァ。死ぬほどのピンチを救ってもらった記憶なんてないぞ」

 「あああ!いっそのことここで喰っちまおうかねぇ減らず口だけは一丁前だ」

 「やれるもんならやってみろよ、どうせおれは宿主なんだから喰えないだろ?」

 「お前丸ごと乗っ取ってやってもいいんだよ」

 「出来もしないこと言うなよなクソババァ」

 「ちっ‥‥生意気になったねぇ。だが話は後だ。ここに長くいると、ここに縛り付けられちまう。さっさと船に戻るよ」

 「はぁ?!お前がふっかけて来た喧嘩だろうによ‥‥クソババァ」

 (まぁでも何はともあれオボロが復活したようで良かった)


 スノウはイラつきながらも元気を取り戻したオボロの存在に嬉しくなり、笑みを浮かべながら最深部を後しにした。


・・・・・


 スノウはヴィマナに帰還した。

 既にロムロナたちは冒険者たちを地上に先導し、FOCへと引き渡して帰還していた。


 「オボロねえさん?!」

 「妖女(あやかしおんな)かい。元気そうじゃないか」

 「元気よ元気ぃ!オボロねえさんも元気になったのねぇ!」

 「あたしはいつでも元気だよ。溜めておいた力も手に入れたしねぇ。これからは好きに表に出ることもできそうだ。ところどころ寝ていたからねぇ。そういえばあのデカい坊主はどこへ行ったんだい?」

 「アレックスボウヤのことかしら」

 

 スノウはオボロにホドの状況を説明した。


 「なるほどねぇ。しかしあたしらが越界してから数年かけて戻って来たってのに、ここではまだ2ヶ月程度しか経過していないとは、何やらきな臭いねぇ」

 「そうなんだよ。何者かが何らかの意図でおれ達を利用しているとしか思えないんだよな」

 「まぁそいつの事もゆくゆくは探し当てるとして、デカい坊主を救い出すのが先だねぇ。アドラメレクかい‥‥全く厄介な者に絡まれたもんだねぇ」

 「オボロ知ってるのか?アドラメレクを」

 「ああ。少しだがねぇ。元々は太陽を司る神だったが、唯一神によって座天使に貶められたらしいんだが、その時ラファエルに散々こき使われたのを根に持っていて悪魔に堕とされた後も、ラファエルを執拗に攻撃しているとか。元々賢い神だったからねぇ、悪魔になって以降は狡猾で抜け目のない存在として一目置かれていたよ」

 「何で詳しいんだ?」

 「馬鹿かいお前は。あたしは千年以上生きている神だよ。神のねっとわーくってのがあるのさ。ところでそこで眼球飛び出そうになっている阿保面のふたりは誰だい?」

 

 切れ長の目をギロリと向けた先にいたのはカヤクとニトロだった。


 「ああ、この2人は三足烏(サンズウー)の生き残りであたしたちのサイドに寝返ったのよぉ。いつ裏切るか分からないけど、一瞬でも裏切る素振り見せたら殺すことになっているの。オボロねえさんも、もしこのボウヤたちが裏切りそうに見えたら食べちゃっていいわよぉ」

 「ふん。不味そうなニンゲンたちだね。でもまぁ腹の足しにはなりそうだ」


 カヤクとニトロは完全に怯えている。


 「どうしたのふたりとも」

 「い、い、いや‥‥髪の毛に目が目があって、ババァのこ、声で喋っているという不気味現象で‥‥」

 「い、一体何が起こっているのか分からず混乱しておりますよ‥‥」

 「キョトトト、あたしを畏怖するとは良い心がけだねぇ。喰うのはもう少し待ってやる。カヤクとニトロとか言ったねぇ。何か芸でもやって見せな。あたしの退屈を紛らわせることが出来たら、その分だけ喰うのを先送りにしてやる」

 『は、はぃぃ!』


 カヤクとニトロはオボロの恐ろしさに完全に屈してその後、1時間以上もつまらない漫才やギャグを続けた。

 意外にもオボロとロムロナは笑っていたが、スノウは終始不機嫌だった。

 1時間の地獄の笑わせ大会を必死に乗り切ったカヤクとニトロはオボロから “面白いペット” の称号を与えられた。



いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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