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<ホド編 第2章> 17.偽物

17.偽物


 「ロムロナとはあの者か?」

 「ああ、頼む」


 スノウによって天井から吊るされているロムロナを見てルナリが言った。


 「スノウ、この女何者なんだ?」

 「おれの仲間のルナリだ。詳しくはロムロナを正気に戻してからだ」


 カヤクの質問にスノウが答えると、すぐにルナリにロムロナを正気に戻すよう促した。

 ルナリの体から黒い触手が一本だけロムロナに向かって伸びていく。


 シュルル‥‥ギュルルン!


 「はっ!‥‥いやぁん、なぁにこれぇぇスゥノウボゥヤァぁぁぁぁぁん!」

 「おい、ロムロナ治ってないぞ」

 「スノウさん、大丈夫ですよ。治ってます」

 「何故分かるんだ?ニトロ」

 「見てくださいよ、あの(あね)さんの顔。俺たちを馬鹿にして楽しんでいる顔がところどころで出てるじゃないですか」

 「‥‥‥確かに。しばらく吊るしておくか」

 「それがいいですよ」

 「そうだな、少しは反省してもらいてぇ。あの後(あね)さん守っている間、例のスケルトン祭りで大変だったんだからよ」

 

 スノウ達はロムロナを天井に吊るしたまま帰ろうとした。

 

 「ちょ!ちょ!ちょっと待ちなさぁぁい!」

 『‥‥‥‥』

 「カヤクボウヤ。いいのかしら?こんな仕打ちをあたしにしても‥‥」

 「!!」


 カヤクはすぐさま振り返りジャンプするとロムロナを縛っているロープを円月輪で切り、空中でロムロナを抱き抱えそのまま地面に着地した。


 「大変失礼致したぜ、(あね)さん」

 「ふむ。それじゃぁこのまま地上まで頼むわぁ」

 「かしこまりだ」


 それをスノウとニトロは冷ややかな目で見ていた。


 「ロムロナの(あね)さん、もうカヤクさんの弱み握ってんだな‥‥さすがだ」

 「感心している場合じゃない。あの女に弱み握られたら一生食い物にされるんだぞってカヤクならいいか」


 そう言うとスノウはスタスタと歩き始めた。

 するとロムロナを抱き抱えたカヤクが大きくジャンプして来てスノウの目の前に着地した。


 ズン!


 「なんだよ」

 「スノウボウヤ、つれないじゃなぁい。まぁいいわ。それよりそこの子、紹介してよ」

 「あぁ、面倒だからすっ飛ばすところだった。彼女はルナリ。ホムンクルスだが、負の情念の塊であった存在を吸収してとてつもない力を手に入れた。以上だ」

 「よろし‥ちょっと待ちなさぁい!あたしたちを紹介しなさいよ!」

 「えぇぇ‥‥面倒くせぇよぉ」

 

 ロムロナを揶揄うチャンスとばかりにスノウは面倒そうな表情を見せながら言った。


 「フフフ、中々言うようになったじゃないのぉスノウボウヤ。でもねぇ、慢心は身を滅ぼすわよぉ」


 確かにロムロナの言う通りであり、これ以上ロムロナを怒らせるのは危険と判断したスノウはルナリにロムロナたちを紹介した。


 「よろしくねぇルナリ」

 「カヤクだ。よろしくたのむ」

 「ニトロです、よろしくです」

 「ロムロナ、カヤク、ニトロか。貴様らの顔と名前は記憶した。見るからに弱そうなニンゲンだ。助け出してもらった礼はする。何かあったら一度だけ助けてやろう。だが、そのタイミングは我が決めるがな」

 「スノウ、何でこの子は必要以上に偉そうなんだ?」

 

 スノウはスルーした。


 「さぁて、このダンジョンにはもう用はないわね。強制転送まで後、4〜5時間あるけどどうする?」

 「お前達はルナリと共に転送可能域の階層へ向かって進んでいてくれ」

 「スノウボウヤはどうするの?」

 「ちょっと行きたいところがあるんだ」

 「分かったわ。それじゃぁ行きましょ」


 ロムロナ、ルナリ、カヤク、ニトロはロムロナの指示に従って上層階を目指して進み始めた。

 それを見届けたスノウは別ルートで上層階を目指して走り出した。


 (さて、あまり時間がない。急ごう)


 スノウはとある場所へ向かっていた。

 それはオボロがいた場所だった。


 それから1時間。

 ほぼ全速力で進み、途中で何度か魔物が襲って来たが走るスピードを損なうことなく蹴散らして進むとオボロと出会った場所に到着した。


 「ここだ。何だか懐かしいな」

 「主人よ」

 「なんだ、マダラか。どうした?」

 「一体何なのだここは?オボロの気を強く感じるぞ」

 「ここは‥‥オボロと出会った場所だ」


 ダンジョンの最下層でありながらかなり広い空間が広がっており、奇妙なのは太陽光は全く届かないにも関わらず一面草原が広がっている点だ。

 そしてさらに奇妙なのはその中心に赤い鳥居があり、その奥には少し大きめな稲荷が立っているところだった。

 稲荷があること自体、緊張感ある厳かな雰囲気の場所なのだが、それ以上に重苦しい空気が漂っている。

 まるで次元の違う場所、神々の住まう次元へと迷い込んできてしまったかのような感覚になる。


 (こんなに重苦しい場所だったか?以前訪れた際の記憶が若干薄れているからはっきりとは思い出せないが、オボロが現れる前までは何も感じなかった気がする)


 スノウは鳥居の前で一礼するとゆっくりと中へ入った。


 ズゥゥン‥‥


 「!?」


 スノウは重力が数倍になっている感覚に襲われた。

 

 (どうなってる?!)


 スノウは重い足を一歩ずつ前へと進ませる。

 そして少しずつ稲荷本殿へと近づいていく。


 「重いぞ‥‥何らかの力が‥働いている‥‥」

 「主人よ‥‥ここからはオボロ以外の力は感じられぬ。間違いなくオボロの雰囲気を感じるのだ」

 「ああ、おれもだ。だが、このパワー‥‥以前感じたものとは桁違いに強い‥‥」

 

 “3、3、1だ”


 「!」


 スノウの心に何者かの声が微かに聞こえた。

 稲荷本殿の前に辿り着くと、スノウは参拝を始めた。

 三礼三拍手一礼を終えたあと、ゆっくりと起き直ると頭上に強烈な視線を感じた。


 「グトトトト。何も言わずともこの場所へ戻って来るとはねぇ‥‥」

 

 本殿の屋根の部分に九つの尾を持つ巨大な銀色の狐が見下ろしていた。

 ほぼ縦に配置されていて切れ長の目、耳の下まで裂けているのではと思うほど大きな口をゆっくりと開き不気味な笑みを見せている。


 「オボロ!」

 「ここへ戻って来られるほど貴様も成長したということだねぇ」

 「起きて大丈夫なのか?!しかもその姿!」

 「何を言っているんだい、全く。我は精力満タンだよ」

 「そうなのか?」

 「さぁて、もっと祈りを捧げておくれ。目を瞑るんだよ」

 「何でだ?もうお前は顕現しているじゃないか。どうして祈りを捧げなきゃらないんだよ」

 「つべこべ言うんじゃないよ。言う通りにすれば悪いようにゃしないんだから」

 「‥‥‥‥」


 スノウはゆっくりと目を瞑り始めた。

 その時。


 “決して油断するんじゃないよ”

 (!!)

 

 突如先ほど数字を告げて来た声が話しかけてきた。

 スノウは目を閉じた。

 数秒の沈黙があった次の瞬間。


 バクンッ!!


 何かがぶつかり合う凄まじい音がした。

 巨大な銀色の九尾の狐が裂けそうな口を思い切り閉じているところだった。

 しかもその位置はスノウが立っていた場所だ。

 明らかにスノウを喰らうために思い切り口を閉じたのだった。


 「一体何なんだよ‥‥」


 スノウは少し離れた場所に立っていた。

 九尾の狐が口を閉じスノウを喰らおうとした直前、凄まじい速さで飛び退いて躱したのだった。

 額から汗が滴っている。


 「もう隠れている必要もなさそうだねぇ」


 突如スノウの髪の毛から声が聞こえて来た。


 「やっぱりオボロか!」

 「気を抜くんじゃないよ」

 「おれに語りかけてきたのはお前なんだな」

 「話は後だよ。まずはあの偽物を何とかするんだ。あたしと小童でね」

 「??‥‥」


 スノウはオボロの言葉の意味がよく分からなかったが、何となく自分の髪にいるのが本物のオボロで、本殿の屋根からゆっくりと降りてこちらに歩いて来る大きな銀色の九尾の狐が偽物なのだと思った。


 「何だよ。後少しだったのによ。とんだ邪魔が入ったな。生意気にも気配消しやがって」


 九尾の狐は裂けた口で先ほどとは違う口調で話し始めた。


 「偽物の分際で偉そうにイラついてんじゃぁないよ。さっさとあたしの体を返しな」

 「おいおい冗談だろ。この体ぁもうお前のもんじゃねぇよ。そのニンゲン諸共喰い尽くしてやるぜ」


 九尾の狐は力を溜め出した。

 そこから目を離さずスノウはオボロに話しかけた。


 「いいんだな?思い切り行くぞ」

 「遠慮はいらないよ。小童の全力でもあたしの体は壊れやしないからねぇ。それより何とかあれを気絶させるんだ。気絶させられればあたしがあの中へ入って偽物を消し去ることができるからねぇ」

 「分かった。全力でいいんだな」

 「くどいわ」

 「はは‥」


 ダシュン!!ドッゴォォォン!!


 「ゴトァ!!」


 スノウは凄まじい速さで突進し、九尾の狐の懐に入ると波動気を練った全力の螺旋の打撃を叩き込んだ。

 ぶっ飛ばされた九尾の狐との距離を詰め、今度は螺旋の蹴りを浴びせた。

 

 ドッゴォォォォォン!!


 「まだだ」


 さらにスノウは九尾の狐との距離を詰めて今度はリゾーマタの火、雷、土、氷のクラス3魔法を同時に発動して螺旋を付与しつつ九尾の狐に繰り出した。


 ドゴゴゴボッゴォォォォン!!


 黒煙が巻き起こる。


 シャッ!!ガキィィン!!


 黒煙の中から鋭い爪の攻撃がスノウに放たれた。

 それをフラガラッハで受ける。

 

 ガシ!


 スノウは爪を掴んだ。


 「おりゃ!」


 スノウは九尾の狐の巨体を振り回し始めた。


 ブワン!ブワン!ブワン!

 バシュゥゥン!‥‥ドォォォン!!


 投げ回してそのまま壁に向かって投げつけた。


 「中々頑丈じゃないか」


 スタ‥スタ‥トォォン!


 スノウは大きく跳躍し、フラガラッハを抜いて九尾の狐に切り掛かった。


 ガキン!ガキン!ガキキン!ガキン!ガキン!ガキキン!


 スノウの激しい剣の連撃に九尾の狐は両前足の爪と牙で受けているが、防戦一方だった。


 「き、貴様一体何者だ?!ニンゲンではないな?!」

 「人間だよ」


 ガキン!ガキン!ガキキン!ガキン!ガキン!ガキキン!


 「バカな!?ニンゲンが我にここまでの攻撃が出来るわけがない!くっ!お、抑えきれん!!」


 ガキガキガキキン!ガキガキガキン!ガガキキン!ガキガキキン!


 「!」


 グザァッ!!


 「ガバァ!!」


 スノウは九尾の狐の喉にフラガラッハを突き刺した。

 そのまま稲荷の本殿に貫通した剣先を刺した。

 九尾の狐は力なく項垂れている。


 スッ‥


 スノウは左手を九尾の狐の額に当てると、リゾーマタの雷系クラス3魔法のジオライゴウを放った。


 ドッゴォォォォォォン!!ビビリリリリビリビリビリ‥‥


 九尾の狐は気絶した。




いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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