<ホド編 第2章> 15.黒の瘴気と黒の檻
15.黒の瘴気と黒の檻
「ぐるあぁぁぁ!」
ドスン‥ドスン‥ドスン‥
黒竜は一歩一歩重量感ある足取りでスノウに近づきつつ唸り威圧している。
「アノマリー。貴様の輪廻と因果はないようだから、自分の不運を恨むんだな。ぐるるあぁぁ‥‥」
「随分と威勢がいいな。話せる竜は何体か会ったことがあるが、根源種だったか?おそらく希少種なんだろうが、こんなところでその血筋途絶えさせていいのか?」
「ぐるぁぁぁ‥‥まるで俺がお前に殺されるような言い方だな」
「まぁすぐに分かる」
「いいだろう‥‥ヴァールだ」
「?」
「俺の名だ。俺は黒竜ヴァール。冥土の土産に持っていくがいい」
「自己紹介‥‥律儀じゃないか。嫌いじゃないぞそういうのは!」
シャキン!
「ぐばはぁぁぁぁぁ!!」
黒竜ヴァールは凄まじい咆哮を放った。
それと同時に鋭い爪の攻撃をスノウに放った。
スノウはそれを軽々と避ける。
黒竜ヴァールはそれを読んでいたかのように下から抉るようにしてもう片方の爪攻撃を放つ。
同時に黒竜ヴァールの喉が大きく膨らむ。
「グッパァァァ!!」
黒竜ヴァールは黒い瘴気を吐き出した。
バジョアァァァァ!
スノウは軽々と避けたが、吐き出された瘴気が床に散らばると床が腐り始めた。
「主人、あの瘴気が原因のようだ」
「ああ。あの瘴気が人々を狂わせている。しかもブレスに直接触れたら腐るとは厄介だ」
「闇の力だ。我も出るか?」
「いや、いい。おれ1人で十分だ」
スタ‥‥
「独り言か?余裕じゃないか!グッパァァァァ!!」
ふたたび瘴気ブレスが放たれた。
しかも連続で複数放たれたのだが、直後に双爪の攻撃が繰り出された。
バシャシャシャシャシャ!!
スノウは自身の周囲に水の壁を展開した。
ガキィン!!
そしてフラガラッハで軽々と双爪の攻撃を弾き返した。
「ぬぅ!やるじゃないか!」
「ヴァール。まさか貴方、お負けになるのではないでしょうね?」
腕を組んで空中浮遊しているウァラクは不敵な笑みを浮かべながら言った。
「黙っていろ!お前が急かすと勝機を逃すであろうが!グッパァァ!うおがぁぁ!」
ヴァールは瘴気ブレスを吐き散らしながらスノウに噛みついてきた。
シュン‥‥
「急いでいるんだ。悪いな」
上方に飛び瘴気ブレスと噛みつき攻撃を軽々と避けたスノウはそのままフラガラッハを凄まじい勢いで振り下ろした。
“殺してはダメだ”
「!!」
ボッゴォォォォン!!
(何だ今のは?!)
突如スノウの脳裏に何者かの声が聞こえてきたため、瞬時にフラガラッハの攻撃から殴打攻撃に切り替えて凄まじい力で殴り落とした。
黒竜ヴァールはスノウの殴打攻撃に加え、頭部を地面に叩きつけられた衝撃で気絶した。
「おや、全く‥‥。良いのは威勢だけでしたね。失礼致しました。フフフ‥‥貴方は私直々に冥土へお送りして差し上げましょう」
シュゥゥゥゥゥン‥‥ヒュン!
天使の姿をしたウァラクはゆっくりと下降し地面に降り立つと、左手に美しい槍を出現させた。
「主人、あの槍は危険だ」
「ああ、分かってる。おそらく神話級武具だ」
「少しでも切られるとそこから肉が腐りだす。腐って死んだ者たちの怨念に囲まれている」
「何だよマダラ、変なもんが視えるんだな」
「主人よ、空視で視れば良いぞ」
「あ、あぁ」
(珍しく冴えているじゃないかマダラのやつ)
スノウは空視でウァラクを視た。
ドス黒い煙が充満しており、悲痛の叫びが聞こえてくる。
中には素市の冒険者らしき怨念も見受けられた。
素市のキュリアやクランのタトゥーが見られたからだ。
「お前‥素市の冒険者たちをどうした?」
「あぁ。中々鋭い眼力をお持ちのようです。確かにこの槍で突いたりはしたかもしれませんねぇ」
「一体何人殺した?」
「おやおや、貴方は無意識に踏み潰している虫の数をいちいち数えているのですか?それにこの槍は定期的に血を吸わせていないと暴走するのですよ。私のせいではないのです」
「よく言うぜ。その槍の本来の力は違う。お前が強引に魔槍に変えているんだろう?」
「いちいち面倒ですね。質問は嫌いですよ。それではそろそろこの神槍の糧となりなさい」
ダシュン!ガキキキキン!!
ウァラクは一気に距離を詰めると凄まじい速さで槍の攻撃を繰り出した。
スノウはそれをフラガラッハで防ぎ切る。
「主人よ、距離を取れ」
「ああ!分かっているよ!こいつの槍!受けてるだけでもやべぇ!」
ダシュン‥スタ!トォン!
スノウは大きく後方に飛び退いて距離を取る。
ビュン!
ウァラクはふたたびスノウとの距離を詰める。
「ウエストナイル!」
「主人避けろ!」
ダシュン!
スノウは飛び退いた。
「!!」
スノウの左手が痺れている。
(何だこれは‥‥)
「おや、よく躱しましたねぇ。いや、左手は躱しきれませんでしたか、フフフ。言っておきますが、それは毒ではありませんから解毒はできません。ご自身の肉体で抑え込む以外に治す方法はありませんよ」
「ゾス系の魔法か?」
「ご名答。私はねぇ戦闘に派手さは不要だと思っているのですよ。周囲には花火のような魔法を多様する者が多いのですが、一瞬で相手を消し去ってしまうとせっかくの楽しみが得られないではありませんか?そう思いますよね?一方ゾス魔法は相手をじっくりとじわりじわりと死に至らしめることが出来るのです。丁寧に、丁寧に殺して差し上げられるのです」
「クソやろうだな。もう喋るな」
ガキン!!
スノウはフラガラッハで強力な一撃をウァラクに放つ。
「自ら攻撃ですか。素晴らしい!」
(フハハ!予定通り自暴自棄になりましたねぇ。こうなったらこっちのもの!後は槍の錯乱の力とウエストナイルの神経麻痺魔法で動きが止まるのを待つだけです。しかし、戦いとは退屈です。挑発すれば自ら罠に嵌まりにくる。お決まりのパターンです。はあぁぁぁ‥‥動けなくなった者をなぶり殺すのは本当に悦ですねぇ)
ガキン!ガキン!ガキン!
スノウは重く強烈な剣撃を繰り返し放つ。
それをウァラクは神槍で防ぐ。
「ウエストナイル!」
(そろそろですね)
ガキン!ガキン!ガキン!
スノウの後列な剣撃が続く。
「?」
(おかしいですねぇ。動きが止まりません)
ガキン!ガキン!ガキン!
ガキン!ガキン!ガキン!
「くっ!ウエストナイル!ウエストナイル!」
スノウの目から血が滴っている。
(こやつ!)
ガキン!ガキン!ガキン!
ガキン!ガキン!ガキン!
(神経麻痺効果を力で強引に抑え込んでいる?!)
ガキン!ガキン!ガキン!
「くっ!」
(しかも次第に一撃一撃が重くなっている!!)
ガキン!ガキン!ガキン!
「がっばぁぁ!」
スノウは血を吐いた。
「フハハ!どうやら時間切れの様ですねぇ!ウエストナイルゥゥ!悦の時間です!」
ガキン!ガキン!ガキン!
ガキン!ガキン!ガキン!
「な!」
ガキン!ガキン!
ガカァァァン!
スノウのフラガラッハの一撃がウァラクの神槍を弾き飛ばした。
グザザン!!
「あが?」
ウァラクの鳩尾部分にスノウのフラガラッハが突き刺さった。
「なぁぁにぃぃぃ!!」
ガシ!ズッバァァ!
ヒュワァァン‥‥
ウァラクは急いでフラガラッハを引き抜き、回復魔法を唱えた。
「ちっ!その剣、神の剣ですね‥‥治癒が遅れる‥‥」
「‥‥‥‥」
スノウは真っ赤な目を見開いて、さらにフラガラッハでウァラクに斬り込んでいく。
「ひっ!」
思わず悲鳴をあげたウァラクは浮遊した。
「い、いいでしょう!流石はアノマリーということにしておきます。何だか興醒めです。お暇するとしましょうか」
「逃がさない‥‥」
スノウは風魔法で浮遊しフラガラッハを振り上げた。
「ひっ!ならばこれなら如何でしょう?!」
ウァラクは部屋の奥の扉を遠隔操作で開けると、何かの魔法で操っているのか、中から何かを呼び出した。
現れたのは素市の冒険者5名だった。
ススススス‥‥
5名の冒険者を浮遊させ、自分の前に盾のように並べた。
「さぁこれで貴方は私を攻撃出来ない!ニンゲンとは面倒な生物です。複雑化した感情によって行動が制限されるのですからねぇ。天使や悪魔にはそれはありません。生存本能の上に、自らの目的を果たすことだけに行動しますからねぇ。さぁ私を攻撃したいのでしょう?その剣を振り下ろせば良い。まぁ目の前のニンゲンは死にますがねぇフフフ」
ズバン!!
「あが?」
スノウはフラガラッハを振り下ろし冒険者ごとウァラクを斬った。
「何故?!‥‥なぁにぃぃ!」
スノウは斬りながら冒険者には回復魔法をかけてほぼダメージがない状態にしていたのだ。
「くっ!‥‥時間を無駄にしました。さらば!」
ヒュゥゥゥゥン‥‥
ウァラクは転移魔法陣を出現させ、消えた。
スタ‥‥
「がっはっ!」
スノウは着地と同時に血反吐を吐いた。
「主人、大丈夫か?」
「あぁ‥‥問題ない‥‥全身かなり痺れてはいるが、おそらくやつの魔法技術がそれほど高くなかったんだろう‥‥それか、ゾス系魔法が扱い辛いか‥‥いずれにしても追い払えたな‥‥」
「ゾス系の神経麻痺は時間があれば魔法効果が切れるはずだ。それまで耐えるしかあるまい」
「分かってるよ‥‥だが、おれはあの扉の向こうに行かなければならない」
スノウは体を震わせながらゆっくりと扉の方へと歩いていく。
そして扉の中へ入る。
「!」
そこは広い空間になっており、黒い煙のような鉄柱の檻があり、その中に多くの冒険者が閉じ込められていた。
皆水や食料が底をついて項垂れているが錯乱はしていない。
「錯乱を誘う瘴気が充満しているが、檻の中の冒険者は錯乱していない。あの中には瘴気がないということか。そしてこの檻‥‥」
スノウは黒い煙のような鉄柱の檻に近づいていく。
「おお!もしかしてあんた救助隊か?!」
「助けてくれ!」
「救助が来たぞ!」
『おお!』
冒険者たちは立ち上がることもままならないのか、顔をあげて喜んだり、力なく手をあげて歓喜に沸いたり、スノウに向かって這ってきたりとまともに動けない状態だった。
ス‥‥
スノウは檻の中へと入っていく。
黒い煙の鉄柱はスノウの体をすり抜けている。
「やはりな」
スノウは奥に横たわっている者を見た。
その者の体から無数の黒い煙の鉄柱が壁傳に伸び、檻を形成していた。
「ルナリ」
「スノウか‥‥遅かったではないか」
「ははは。威勢がいいってことは無事なようだな」
負の情念の力を使い、瘴気を遮る檻を形成して冒険者たちを守っていたのはルナリだった。
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