<ホド編 第2章> 13.グレゴリとの再会
13.グレゴリとの再会
「立派な本部だな」
「そうねぇ。数で勝るガルガンチュアは数多くのクエストをこなすことで大きな収入をえているけど、戦力で勝るパンタグリュエルは報酬の高いクエストを達成することで大きな収入を得てきたってことねぇ。だからここも立派な本部になっているってことだわぁ。でも嘗ての高い戦力はないみたいねぇ」
ロムロナの説明にスノウは納得した。
立派な本部ではあるが、所々に綻びや壊れている箇所が見受けられたのだ。
建物の修繕費を賄えていない可能性が窺えた。
「ロムロナさん!それにスノウさん!」
突然中から聞き馴染みのある声がした。
正面の扉を開けて出てきたのはパンタグリュエルの団長であるグレゴリ・ズールーだった。
「グレゴリボウヤ!久しぶりねぇ」
「そうでもないでしょう?あの戦いぶりだから2ヶ月ちょっとですよ。それはそうと、スノウさんご無事でよかったです!」
「グレゴリも無事でよかった」
「?‥‥スノウさん‥‥何か雰囲気変わりましたね?どこか大人びたというか、貫禄がついたというか‥‥」
「ははは‥‥ま、まぁ色々とあってね」
(グレゴリと最後に会ってから数年経過しているからそりゃぁ見た目も少しは変わるしな‥‥後でこれまでのおれの経緯は説明するとして、これからも会う人会う人全員に同じ説明すると思うと気が滅入るな‥‥)
スノウは苦笑いを浮かべながらグレゴリと再会の握手をした。
「でも何で出迎えてくれたんだ?まるでおれ達がここへ来ることを知っていたかのようだが」
「あぁ、ウルズィーさんから手紙が届いていましてこちらに来られることを知っていたんですよ」
「ははは‥‥そっか」
(抜かりないなぁあのおっさん‥‥)
スノウは何故かウルズィーとゴーザを比べてしまっていることに気づいた。
ゴーザは明るいが多くを語らない職人肌でありつつも大雑把な性格という何ともつかみどころのない男で、おっちょこちょいなところもある憎めない人物であるのに対し、ウルズィーは気配りができ、豪胆な判断ができ、動きも早い。巨大なキュリアのガルガンチュアを1代で築き上げたのも頷ける人望ある男だった。
(ゴーザとウルズィー‥‥よく親友でいられたものだなぁ。ウルズィーがかなりの気を遣っていたんじゃないかと思うよ‥‥)
「どうかされましたか?スノウさん」
「あ、いや何でもないよ」
「ならよかったです。こんなところで立ち話も何ですから、さぁ、中へ」
ズザン!
『!』
「君たちはここで待っていてくれ」
スノウとロムロナの後についてカヤクとニトロが建物の中へ入ろうとした瞬間、グレゴリは剣の柄を握った状態で足を挟み込むようにして割り込んだ。
「ウルズィーさんから君たちのことは聞いている。三足烏・烈によって、僕の父や12ダイヤモンズ、そしてエントワさんまで失ったんだ。いくら改心したのが本心であったとしても過去の行いが変わるわけじゃない。ましてやライ‥ジライのようにスパイとして入り込んで騙そうとしている可能性だってある。僕が君たちを許すことは決して‥‥絶対にないと思っていてくれ」
「す、すまない‥‥あんたの言う通りだ。俺たちの罪は消えねぇし、そう簡単に信じてもらえるとは思っていない。あんたの指示に従わせてもらう」
「嫌な気持ちにさせてしまい申し訳ありません」
カヤクとニトロは頭を下げた。
グレゴリはそれに反応することなく、スノウとロムロナを連れて建物の中へと入っていった。
グレゴリの執務室に入るとスノウとロムロナは驚きの表情を見せた。
壁一面にホドのマップが貼り付けられており、そこに様々な情報が書き込まれていたのだ。
「これは?!」
「僕が団員達にお願いして得た情報を纏めているものです。アレックスさんやニンフィーさん、スノウさんやワサンさん、エスティーさん、加えて三足烏の所在をずっと追っていたんです。もです。でも三足烏以外の有益な情報は得られていません。僕の力不足です」
「いや、流石だよグレゴリ。三足烏の情報は得ることが出来ているんだろ?別途教えてくれ」
「はい!」
その後、スノウは自分のこれまでの越界してきた経緯をグレゴリに説明した。
「それじゃぁワサンさんとエスティーさんはご無事なんですね。良かった‥‥」
グレゴリは涙ぐんで喜んでいる。
熱く優しい心の持ち主なのだとスノウは思った。
「ワサンは今このホドのどこかにいるはずなんだ。他にもおれの仲間がいるんだが、彼らを探したい。それと‥‥」
スノウはマップの情報の中にニンフィーの情報が殆どないことに気づいた。
「ニンフィーの所在も突き止めたい」
「ニンフィーさんの情報はスノウさん、ワサンさん、エスティーさんと同様にほぼないんですよ‥‥。先ほどのスノウさんのお話から考えれば、ニンフィーさんも越界しているんじゃないでしょうか?」
「可能性はあるが‥‥」
スノウはニンフィーがカルパの魔力の渦に耐えられるはずはないと思っていたため、越界の可能性はほぼないとおもっていた。
スノウと一緒に越界したエスティはオボロによって守られていたことで蒸発せずに済んだのだ。
(待てよ?ワサンはどうやって越界したんだ?!あいつが生きていられたってことはニンフィーも‥‥)
「もしかしてスノウさんの魔法に端を発したあのダンジョンの大破壊で亡くなったと思われてますか?」
「い、いや‥‥」
(随分ストレートに聞くな‥‥ちょっと違うんだが‥‥)
「それなら大丈夫ですよ。あの状況で亡くなったのは殆どいない認識です。何故かと言うとあの時、天井に大きな穴が空いたんです。皆そこを目指してすぐに行動を起こしました。僕は逃げていく三足烏の残党たちを攻撃していたので、比較的最後まであの場に留まっていたので分かるんです。カヤクがエントワさんの亡骸を背負って出ていくのも見ました。それらを見届けてから僕も退避したんです。つまりそれだけ逃げる余裕があったんです」
「ニンフィーは見なかったのか?」
「残念ながら見なかったです。ただあの時、ニンフィーさんは特に深傷を負っていることはなかった記憶です。だとすれば無事に逃げたか、スノウさんと同様に越界したのではないかと思うんです」
「スノウボウヤには話したんだけど、あの時、あの子、あたしに念を送ってきたのよねぇ。必ず戻るから気にしないでってね」
「となるとニンフィーさんの所在として考えられるのは二つですね。ひとつは越界しているか。そしてもうひとつは蒼市にいるか‥‥です」
「なるほど。蒼市にいるとなれば情報収集は出来ないからな。ロムロナに送ってきた念の内容は気になるとこだが、その可能性も頭に入れておくよ」
「僕も継続して調査します。何か新しい情報が入り次第皆さんに鳥を飛ばしてお伝えします」
「ありがとうグレゴリ」
「それと、ウルズィーさんからの手紙にも書いてあったんですが、結界をお探しなんですよね?」
「あ、あぁ」
(あのおっさん、おれに自分で伝えろって言いながらしっかりおっさん自身が既に伝えてくれてんじゃないか‥‥)
スノウの苦笑いを見ながらロムロナは笑いを堪えていた。
「どうしたんですか?」
「あ、いや、何でもない。そうなんだ。おれの仲間のシルゼヴァが閉じ込められていた場所が結界が張られている一箇所だったようなんだ。これは彼の推測なんだが、彼がそう言うなら間違いないと思う。そしてシルゼヴァが閉じ込められていたような場所が他にもあるというのも間違いないと思うんだ。何か怪しい動きがここ2ヶ月間でなかったか、調べて欲しいんだが」
「もちろんですよ。既に素市内の怪しい情報については収集しています。この後、素市のFOCsに行って整理したものをお見せします。既にFOCs支局長とも連携していますので」
「あ、あぁ」
「それと、僕からお願いがあるのですがよろしいですか?」
「もちろんだ。何でも言ってくれ」
「三足烏の残党を見つけたら捕らえてもらえませんか?」
「分かった。それはカヤクとニトロにもやらせるがいいか?」
「ええ。むしろそれを踏み絵にしてあの2人が本心から僕らの側につきたいと思っているのかを確認して欲しいんです。ロムロナさんは既に2人を信用しているみたいなんですが、僕にはどうしても信用することが出来ない‥‥」
「あら、いつあたしが2人を信用していると言ったかしら?あたしは2人を利用しているだけよぉ」
「え?そうなんですか?」
「当たり前じゃない?ああいうのを野放しにして警戒しなきゃいけない状況を作るより手元に置いていつでも締め殺せるようにするのが定石だわねぇ。とことん拷問してねぇウフフ。常に見ておけば騙そうとしても必ずボロを出すわけだしねぇ」
「なるほど、流石はロムロナさんです。ですが、僕には警戒心を解くことはできません。それだけは覚えておいてください」
「もちろんだわよ」
グレゴリは父の最期を思い出したのか辛そうな表情を浮かべていた。
スノウはロムロナの表情を見ていた。
先ほどの言葉の真意を表情から読み取るためだった。
(中々本意が読み取れないやつだからな‥‥理に適っていることを言っているようだが、どうも本心じゃない気がする。以前は分からなかったがあのドSキャラも本心を隠すために態とそう振る舞っているように見える。以前見た拷問は目を覆いたくなるほどだったから、その気はなくはないのかもしれないが‥‥)
「それではFOCsへ向かいましょう」
スノウたちはカヤク、ニトロと共に素市のFOCsに訪れた。
FOCsの建物は緋市のそれとほぼ同じ造りだった。
建物の中に入ると緋市のFOCs同様に多くの冒険者たちで賑わっていたが、グレゴリはスノウたちを連れてすぐに建物を出ると、裏側へと回った。
「既に話は通してありますから直接支局長の部屋へ行きましょう。中を通っていくと色々と面倒ですからね」
グレゴリは裏口の扉の前で魔法を唱えた。
解錠の魔法らしく、すぐに鍵消え扉が開いた。
そして支局長室に辿り着き中へと入っていく。
コンコン
「どうぞ」
「‥‥はぁ‥‥」
スノウはため息をついた。
中へ入るとそこにいたのはヤガトだった。
「あれぇ?!あなた緋市のFOCsの支局長ではなかったのぉ?!」
ロムロナが当然の反応をした。
「おや、ロムロナさん。失礼しました。FOCsも人手不足でしてね。私、この素市のFOCsの支局長も兼務しているのです」
「なるほどねぇ、スノウボウヤが言っていたのはこのことねぇ」
「はぁ‥‥全く、ここに来る意味がなかったんじゃないか?」
「そんなことありませんよ。ウルズィーさんはスノウさんをグレゴリさんに会わせたいと思っていたんですからね」
「‥‥ものは言いようだな。まぁいい。それで?」
「それでとは?」
「情報あるんだろ?お前が支局長であるメリットは余計な説明を省けることしかないんだから早く本題に入ってくれ」
「はいはい、全くせっかちですね。素市で怪しい情報は二つです。これを見てください」
パサ‥‥
ヤガトは2枚の羊皮紙を広げた。
「ひとつはダンジョンで多くの冒険者が行方不明になっているという件です。緋市の結界と同じなのでかなり怪しいですね」
「確かにな」
「クエストに出していたんですが、受ける冒険者たちはもれなく帰ってこないので、一旦取り下げた状態です」
「それでいい。これ以上冒険者を犠牲に出来ない」
「ええ。そしてもうひとつは、最近錯乱する冒険者が増えているということです」
「錯乱?」
冒険者が錯乱することは珍しくない。
あまりの恐怖を感じて気がおかしくなってしまうこともあれば、仲間が魔物に襲われるところを見てその凄惨な状況が記憶に残り、重度のPTSDのような症状になることもある。
FOCsではそう言った者たちのケアや治療も行っており、FOCs一箇所あたりの錯乱した人数を把握しているため、そのような者が増えた際に最も早く気づくことができるのだ。
「これはクエストを出しようがないので、対応しあぐねていたのですがね」
「この件は僕に任せてください。錯乱した者の中にはパンタグリュエルの団員もいるんです。これは僕が原因を突き止めなければならない話です」
「ありがとうグレゴリ。頼んだよ。おれとしてはこの二つの件は関連があるような気がするんだが、先ずはそれぞれでやれることをやろう」
「はい」
「ダンジョンに潜るメンバーはどうする?スノウボウヤ」
「俺たちを連れていってくれスノウ!」
カヤクとニトロは土下座して頼み込んできた。
「俺たちがあんたらの役に立てることと言ったら戦いで矢面に立つくらいだ!俺たちを囮に使って貰っても構わない!だから連れていってくれ!」
「お願いします!」
スノウはふたりを見ることなく、返答した。
「いいだろう。ただし逃げ出したり、裏切りようなことがあれば即殺す。そういう素振りを見せただけで殺す。お前らにはその覚悟がある、ということでいいんだよな?」
スノウから凄まじい威圧のオーラが発せられた。
「うぐっ‥‥もちろんだ!」
「覚悟あります!」
「分かった」
『ありがとうございます!』
ロムロナはスノウの顔を微笑ましく見ていた。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




