<ホド編 第2章> 12.素市へ
12.素市へ
ヤガトの指示で新たな簡易クエストが出された。
ウルズィー率いるガルガンチュアが冒険者たちを救助する間、新たなクエストではそれを円滑に行えるように魔物たちを抑え込むというものだった。
クエストを受けている冒険者たちは報酬目当てというよりは、多くの冒険者たちを救いたいという思いで参加してくれており、中には現在進行中のクエストを中断してまで冒険者救助に参加する者までいた。
・・・・・
翌日。
ヴィマナに戻ったスノウたちは、会議室に集まっていた。
ロムロナたちにシルゼヴァを紹介するためだ。
シルゼヴァは既に全回復しており、いつもの太々しい態度が戻ってきており、スノウは安心していた。
「彼はおれがリーダーを務めているレヴルストラ6th、つまりこの世界に来る前の世界ケセドで仲間だったシルゼヴァだ。彼とはケテルという世界で会った。彼は半神、いわゆる神とのハーフだ。戦闘力はレヴルストラ随一、知識、判断力もピカイチの男だ。ただ、性格‥」
スノウの説明の途中でカヤクがシルゼヴァに話しかけた。
どうやら自分の立ち位置を確認したいらしく、シルゼヴァを自分の後輩であると位置付けたいようだった。
「俺はカヤクだ。よろしくなぁ」
「‥‥‥‥」
シルゼヴァは興味なさそうにカヤクを見ることなく無視した。
その態度にムッとしたカヤクはさらに話しかけた。
「あんた、そんなに強いのかい?信用していないわけじゃないが、そんなチンチクリンな見た目で強いとは普通思えないんだがなぁ」
スノウは手を額に当てて呆れたようにため息をついた。
「試してみるか?」
「手合わせ願えるとは有り難い。スノウの認めた男だ、胸を借りるつもりでいかせてもらうぜぇ」
「手合わせ?お前は馬鹿か?俺がお前如きと戦うわけないだろう?」
「馬鹿?!じゃぁ試すっていうのはどういう意味‥‥」
徐に立ち上がったシルゼヴァは手をカヤクの額に翳した。
「これに耐えられたら手合わせしてやろう」
ギュワン‥‥
「ぎやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突如カヤクは白目を剥き泡を吹いて倒れた。
シルゼヴァは威圧のオーラを手のひらから凝縮して放出したのだ。
「ちょっと!」
ロムロナが慌てて止める。
ギュワン‥‥
ロムロナへもシルゼヴァの凝縮された威圧のオーラが放たれる。
「ぐっ!」
ロムロナは険しい表情になったが、何とか耐えている。
「ほう。お前は耐えたな。それじゃぁお前とは手合わせしてやろう」
「い、いらないわよぉ‥‥もう十分だわ‥‥」
「がぁはっ!」
カヤクは息を吹き返したかのように起き上がった。
「一体何なんだよこいつ‥‥」
カヤクは大量の汗を滴らせ、絶望の表情を浮かべている。
やりすぎだと言わんばかりの表情でロムロナはスノウの顔を見た。
苦い笑みで返しながらスノウは話を続けた。
「分かってくれたと思うが、あまり怒らせないでくれ。それでシルゼヴァ。どうしてあんな場所にいたんだ?」
「俺にも分からない。ケセドから越界した際の記憶が飛んでいる。気づいたらあの場所にいたと言うことだ」
「他の仲間も同様にあんな場所に閉じ込められている可能性はあると思うか?」
「おそらくはな。直接話すことはなかったが、フォラスという上位悪魔の存在は感じていた。思考が鈍らされていたことと、力が10分の1も発揮できなかったことから、あの場所は結界的な役割を果たしていたのだと思う」
「結界?もしかしてお前を閉じ込めるための結界か?」
「いや、おそらく違う。俺が岩盤を叩いていたのは知っての通りだが、分厚く固い岩盤の下には水脈があると感じられたのだ。水は結界の効果を変容させる力がある。これは俺の推測だが、あの場所に何かを閉じ込めるための結界ではなく、あのような場所が複数設置され、囲われた場所に何かを閉じ込める結界、もしくは囲われた場所を守るための結界だと思うのだ」
「するとあの結界とレヴルストラの仲間が行方知れずになっている因果関係は薄いか‥‥」
「それは何とも言えん。記憶が飛んでいるから分からんが、俺たちを散り散りにした存在があの結界の場所に落としたとしたら、そこには何らかの意図があると思わないか?」
「何らかの意図‥‥あの結界を壊せとかか?」
「さぁな。だが、次のミッションは決まったようなものだな」
「ああ。同じような結界が打たれている場所を探す。そこに他の仲間がいる可能性があるからだ」
ドォン‥‥
「それならばわしらも協力しよう」
ドアを開けて入ってきたのはウルズィーとヤガトだった。
「ウルズィーさん!‥‥ヤガトお前まで‥‥」
ヤガトの顔を見たスノウはあからさまに嫌そうな顔を見せた。
「まぁそう不機嫌にならないのスノウボウヤ。こういう話は情報が命でしょう?情報を持っているボウヤ達に協力を仰ぐのが鉄則だわねぇ」
「ほう、ロムロナと言ったか。お前、中々優秀だな。この会話当初から外に人がいるのは気づいていたが、情報収集が必要になると見越して呼んでいたか」
「ウフフ‥‥シルゼヴァボウヤ、流石ねぇ、分かっているじゃない」
割り込むようにウルズィーが話し始めた。
「それでだ。わしんところの構成員にここ2ヶ月くらいで変わったことはないかを調べさせる。ヤガト支局長にはクエストを総浚いしてもらってここ2ヶ月あたりで発行されたクエストの中で怪しいものをピックしてもらう。ヤガト、それでいいな?」
「ええ、もちろんですよ。特別に蒼市のFOCsのクエストもお調べ致します」
「ありがとう。それじゃぁもう少しここに滞在することになりそうだな」
スノウは一応ヤガトにも礼を言った。
「いや、お前さんたちの次の目的地は素市だ。そこへ行って、グレゴリのボウズに会ってやってくれ。それで同様の協力依頼をしてくれ。ガルガンチュアの構成員、ヤガトのFOCsに加えてパンタグリュエルの構成員の協力が得られればこれ以上ないほどの情報網が形成される。移動の手間は増えるが、その間に緋市内の怪しい話は集めておくからよ。それに素市にもその結界とやらがあるかもしれねぇしな」
「ウルズィーさんありがとう。みんなそれでいいか?」
スノウの言葉にシルゼヴァ、ロムロナ、カヤク、ニトロ、ガースは頷いた。
「ガース、ヴィマナはいけるか?」
「あたりまえでガースよ」
「よし、それじゃぁ今日の午後にも出発しよう」
その日の午後、必要な物資の積み込みが完了したヴィマナは素市に向けて出向した。
・・・・・
「この船は一体何なのだ?」
シルゼヴァは思いの外ヴィマナに興味を持ったのか、様々な場所を見て回っていた。
そして一番興味を持ったのはガースの聖域でもある機関室だった。
「なるほど。確かにこのタガヴィマが力を発揮すればヴィマナは飛ぶようだな」
「なんと!この構造が分かるでガースか?!」
「ああ。反重力の力場を作り出す仕組みがこのヴィマナの設計図を見れば分かる。だが、お前の言う通り、6000度以上の点火熱が必要なようだ。点火されタガヴィマが機能し始めると核融合が行われ莫大なエネルギーを捻出できる。そのエネルギーを使ってタガヴィマが反重力の力場を形成して、ヴィマナから重力を消し去る」
「お前さんすごいでガースな!」
「だが、まだ整備が必要なようだ。俺も手伝おう」
「おお!助かるでガスよ!こっちでガス!繊細な作業が必要な部分がどうしても進まんでガス」
「任せろ」
意外にもシルゼヴァは誰もが嫌う機関室の整備に没頭した。
古代の超高度テクノロジーで作られたと思われるヴィマナに思いの外興味を持ったようだ。
素市に到着するまでの航路で強力な海獣が何度か出現したが、ロムロナの活躍で難なく退けることが出来たため、航海は順調だった。
(ロムロナは海の中では無敵だな。あそこまで素早く動き、水中で効果のある魔法の使い方が出来るとあれに太刀打ち出来る存在は海獣や魔物にはいないだろうな‥‥)
ロムロナの出生は謎だった。
謎というより、スノウが知らないだけなのかもしれないが、イルカと人間のハーフの亞人であるロムロナは拷問好きなドS女でありそれに隠れて見えないのだが、どこか高貴な雰囲気をスノウは感じていた。
それから5時間ほど進んだ。
「そろそろ素市に到着するわねぇ。誰が素市に行く?」
レヴルストラ1stではアレックスがリーダーなのだが、既に雰囲気はスノウがリーダーである形になっていた。
「おれ、ロムロナ、カヤク、ニトロの4人だ。シルゼヴァは機関室にご執心だからな」
「了解よぉ」
「じゃぁ俺、転送室で準備してきます」
ニトロは転送係となっていた。
キュウィィィィィィィィィィィィン‥‥
スノウ達4人は素市に転送された。
「ここが素市か‥‥」
スノウは素市に上陸するのは初めてだった。
正確には上陸しているのだが、素市の地下に広がっているダンジョンに上陸したのみで、ホドカンの地表には上陸していなかった。
素市は中世ヨーロッパのような街並みであった。
「街の中心にパンタグリュエルの本部があるわ」
「まずは本部でグレゴリに会おう。その後はFOCsだ。どうせヤガトが出迎えるんだろうけどな」
「まさかぁ、ヤガトボウヤは緋市にいるじゃないのぉ」
「まぁそのうち分かるよ」
スノウ達は街の中心にあるパンタグリュエルの本部へと向かった。
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