<ホド編 第2章> 11.閉じ込められていた者
11.閉じ込められていた者
「この場所へ来ることが出来たということはフォルネウスが倒されたということだね。そしてその相手が君なら仕方がないことだね。でも驕ってはいけないよ?フォルネウスはこの地に降り立った悪魔としては小者だからね」
「小者!?元老院の軍隊が壊滅させられたのにか?!」
「あれ、確か魔王だよな?」
「フォルネウスが魔王?アドラメレク様が聞いたら激怒してこの世界は塵と化してしまうよ。言葉には気をつけてくれよ?いいかい?フォルネウスは中級悪魔だからね」
「中級悪魔‥‥」
ズザ‥‥
スノウが一歩前に出た。
「それで?フォラスとか言ったか。お前はここで何をしている?」
「先ほども言ったけど、この地を守っているんだ。理解出来ないかな?」
「理解出来ないな。お前なんぞに守ってもらう必要がないんだよ、ここは」
「プクク‥‥守るの意味を勘違いしているね。上級悪魔である私がどうして君たちを守るんだい?私が守っているのはこの場所ん張られた結界だよ」
「何のための結界だ?」
「それは言えないよ」
「そうかい。ならば力づくで言わせてやろう」
バッ!
フォラスは手を前に出して言葉を制するようなポーズをとった。
「暴力は嫌いだ。力づくなんて野蛮なことは不要だよ。既にここは用済みだし、この先に進みたいのなら好きにすればいい」
「何を言っている?」
「君は理解力が乏しいようだね。私はこの場を去るという意味だよ。この場所でやるべきことは既に終えているんだ。そんな状況で君とやりあって怪我でもしたら損をするのは私じゃないか。おまけにそちらの亞人ときたら拷問好きの相が出ているよね。どうして君たちを喜ばせなきゃならないんだい?っていう話だよ。それではサヨウナラ」
ギュファァァン‥‥
フォラスは煙になって消えた。
シュヴァァァァァン‥‥
周囲に充満していた重苦しい空気が一気に晴れた。
「ぶはぁ!」
ズズン‥‥
カヤクとニトロは膝をついて項垂れた。
かなりのプレッシャーに晒されていたのだが、一気に解放されどっと疲れが出たのだ。
「何者だよあれは‥‥」
「上位悪魔だって言ってましたよ」
「関係ない。おれの前に立ちはだかり仲間を傷つけようとする者は容赦しない。それに悪魔の言うことなど当てにはならない。上位だろうと下位だろうと倒す必要があれば倒す。それだけだ」
カヤクとニトロは苦い笑みを浮かべた。
「どうするスノウボウヤ。このまま進む?」
「ああ。ソナー魔法がギリギリ届いた範囲に生命反応がある。消息不明の冒険者たちかもしれないからな」
「分かったわよ、さぁあなたたち、さっさと立ちなさい。でなければ拷問よ。ここに簡易拷問ツールがあるからねぇ、ウフフ〜」
ジャキン!
「よし、冒険者を救いに行くぞ!」
「行くぞ!」
カヤクとニトロは疲れなどなかったかのように立ち上がり前に進んで行った。
スノウはロムロナの顔を見て困った笑みを見せて後を追った。
・・・・・
ドン‥‥ドン‥‥
「何か聞こえないか?僅かだが振動があるぜ?」
「ああ」
フォラスがいた階層からさらに数階層降りていくと微かに周囲を揺らすような振動が定期的に発せられていた。
ドン‥‥ドン‥‥
「とにかく進もう」
ドン‥‥ドン‥‥
進んでいくにつれて音と振動が大きくなっていく。
「この先にも悪魔がいるかもしれねぇなぁ」
「警戒態勢はとかないようにねぇ」
スノウ達は慎重に足を進めた。
ドン‥‥ドン‥‥
しばらく進むと大きな扉が現れた。
「こんなダンジョンに扉?!」
「一体誰が作ったんですかね。振動音はこの中から聞こえているみたいですよ?」
「開けてみようぜ」
ドン‥‥ドン‥‥ドン‥‥
カヤクはスノウの了解をえようと彼を見たが、スノウは軽く頷いたのを確認し、扉を開けていく。
相当重たい扉らしく、カヤクのしなやかな細身の体に筋肉が盛り上がっていく。
「ふん!」
ギィ‥バヒュゥゥゥゥゥ‥‥
まるで密閉されていたかのように扉が開き始めると部屋の中へ風が吹き込んでいく。
「!」
スノウのソナー魔法に突如多くの生命反応が部屋の中で感知された。
結界が機能していたせいか、これまで感知できなかった微弱な生命反応が現れたと思われるが、それはつまりかなり弱っている者がいることを示していた。
「何か誰かいるぞ!」
扉を開けているカヤクをサポートするようにニトロが武器を構えて立った。
ギィィィィィィィ‥‥
ドン‥‥ドン‥‥・
人がふたり通ることのできる程度扉が開けられた。
暗闇に包まれているが、サイトオブダークネスで中を見たスノウは大きな部屋の周囲にランプが設置されているのを見て、炎魔法を複数飛ばして灯りをつけた。
『!!』
部屋の中には多くの冒険者と思われる者たちが倒れ込んでいた。
「ロムロナ!」
「ええ!」
スノウとロムロナは冒険者たちに回復魔法をかけ始めた。
「おい!大丈夫か?!」
「しっかりしろ!」
4人は冒険者たちを揺り動かす。
「う‥うぅ‥」
「がはっ!」
「あぁ‥‥」
方々で倒れ込んでいた冒険者たちが目を覚まし始めた。
「おい、何があった?!」
「息が‥‥」
「空気が‥‥吸える‥‥助かっ‥‥た‥‥」
皆震えながら思い切り息を吸い込むようにして呼吸している。
「どうなんてんだよ、これ‥‥」
「お‥奥に‥‥あの人‥‥助け‥‥」
スノウが抱き抱えている冒険者はそういうと気を失った。
(奥に誰かがいるのか?)
スノウは慎重に奥へと進んでいく。
「!」
突如スノウは走り出した。
「!!」
部屋の奥には地面が大きく抉れた場所があり、その抉れた部分に拳を当てたままの状態の者がいた。
スノウは急いでウルソーの回復系クラス2魔法を重ねがけした。
「シルゼヴァ!!」
そこにいたのはシルゼヴァだった。
「やはり‥‥来たか‥‥」
シルゼヴァは朦朧としつつもスノウを見て笑みを見せた。
バサッ‥‥
スノウに倒れ込むシルゼヴァを抱き抱えて部屋の外へで寝かせる。
その間もスノウは回復魔法をかけ続けていた。
「スノウボウヤ、そのボウヤに回復魔法は十分付与されている。それに安心して?ちゃんと呼吸しているから。今は気を失っているだけだわ」
ロムロナの言葉に我に返ったスノウは自分が取り乱していたことに気づいた。
(おれとしたことが‥‥冷静さを失っていたのか‥‥。でもシルゼヴァがこんな状態になるなんて初めてだぞ?!一体何があったんだ?!)
「スノウ」
「!!」
シルゼヴァは目を覚ました。
「やはりお前が来ると思っていた」
「大丈夫なのか?」
「ふん。誰にものを言っている」
「ふぅ‥」
スノウは安心して息を深く吐いた。
「一体何があったんだ?お前ほどの男がこんな状態になるなんて」
「結界だ。記憶が飛んでいるようだから原因は分からないが、気づいたらあの部屋の中にいた。あの部屋には超強力な結界障壁が張られていてな。そして一方通行の転移魔法陣が出現してはニンゲンどもが放り込まれてきた」
「あの冒険者たちか?」
「そうだ。そして気づいた。この部屋は完全密閉状態だと。ニンゲンが増えるたびに空気残量が急激に減っていく。俺はニンゲンどもに横になってしゃべらずにゆっくりと呼吸しろと指示をし、微弱だが結界の解れがあった場所の破壊を試みたのだ」
「あの抉れた地面か!」
「ああ。固い岩盤があったからな。だが、その岩盤さえ破壊すればその下の地盤は緩く、空洞や水脈もあるに違いないと思ったのだ」
「お前ひとりでその分厚い岩盤を叩き破ろうとしていたのか‥‥」
「この結界内では力も抑えられるようでな。普段の力の10分の1も出せなかったのだ。いずれにせよお前が来る予感はしていたが、俺だけなら何とか生きながらえることは出来ても他のニンゲンどもは死ぬ。故に通気孔を開ける必要があったのだ。酸素が途絶えニンゲンどもが窒息死するか、俺の岩盤破りが先か。期待を裏切ってお前が先に辿り着いてくれたがな。フフフ」
「シルゼヴァ‥‥」
スノウはシルゼヴァの無事を確認し安心した一方で他のメンバーも同様に苦しんでいるのではと想像し、怒りが湧き上がってきた。
ブワッ‥‥
スノウの銀髪は逆立ち周囲に怒りのオーラが充満した。
「スノウボウヤ!」
ロムロナの声で我に返る。
「瀕死の冒険者達にあなたのそのオーラは危険だわねぇ。少しは精神を安定し続ける訓練をしなさい」
「す、すまない」
「でも、あなたが怒りを覚えるのも頷けるわ。あなたの他のお仲間も同様の状況にある可能性もあるからね。あなたはそのボウヤを連れて一足先にヴィマナに帰還して?その間に私たちがあっちのボウヤたちを非難させるから。ヴィマナ帰還前にヤガトボウヤとウルズィーボウヤに一言応援を頼んでもらえると有難いわねぇ」
「分かった。お前たちも気をつけてくれよ?」
「ええ」
スノウはシルゼヴァを背負って凄まじい速さで地上へと戻っていった。
「お前たちね‥‥」
ロムロナは冒険者たちを救助しているカヤクとニトロを見た。
スノウからカヤクとニトロも気遣う言葉が出てきたことが嬉しかったのかロムロナは優しい笑みで二人を見ていた。
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