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<ティフェレト編>39.審判

39.審判



 「まさか‥‥」


 「そのまさかだな!」


 スノウとゴーザは顔を見合わせて同じ情景を思い出していた。


 「なんだ!はっきり言え!」


 「王よ、私たちはブロンテースとロアース山で会っている!というより司祭の表現の通りの状態のブロンテースを氷漬けにして仮死状態にしているのです」


 「なんと!」


 ゴーザの説明にエンキ王は面食らったような表情で驚く。


 「でもまさか実は殺しちゃっているんじゃないでしょうね?そんなに都合よく仮死状態とやらにできるんですかぁ?!甚だ疑問です、疑問!いい加減な事を言って罪を免れようとしているとしたら重罪ですよ〜ゴーザノル王子!」


 司祭は意地悪そうな表情を浮かべて疑いの眼差しをゴーザに向けた。

 この司祭は本当にゴーザの事を嫌っているように見えた。


 「私もその場にいて1人のリュラーによって一瞬にして凍らせ仮死状態としたのを見ています。私の故郷にも同様に仮死状態にした事例がありますのでまず問題ないと断言します」


 スノウがフォローした事にあからさまに嫌な表情を浮かべる司祭。


 「仮死状態という事は息を吹き返させる事も可能という事だな?スノウとやら」


 「ええ、可能と思われます。私の故郷では仮死状態から蘇生した事例が多数ありますから」


 スノウは凍らせたソニックに対し、炎の音魔法を操るソニアの力なら解凍もできるはずだと考えていた。

 加えて自分でリゾーマタの雷魔法によって電気ショックの要領で再び心臓を動かせると踏んでいた。


 「だが、問題が2つある」


 「2つ?」


 王の発言にスノウが反応する。


 「一つは仮死状態から息を吹き返してもかの神は既に言葉も失った化け物と化している。それをどうやって正気を取り戻させるかだ」


 「確かに‥‥」


 「いや大丈夫だ。俺には我が師ブロンテースの心は完全に死んだわけじゃねぇって感じるんだ。からなず何とかできる。俺はそう確信している」


 スノウは根拠のないゴーザの発言に疑念を感じざるを得なかったが、ゴーザは自分の大切な仲間であり自分が信じなくて誰が信じるかとも思い、疑念を振り払う事にした。


 「2つめとは?」


 「それは、我らドワーフの掟。ゴーザノルは審判を受けねばならないという事だ」


 「!!」


 エスティとレンは驚きの表情を隠せない。


 「エンキ王、事態は急を要します!隕石の衝突を防いだ後に審判を受けるという事とさせていただけませんか?」


 「ダメです!!心外ですねぇ!ドワーフでもないあなたが我々の掟に意見するなど有り得ません!ゴーザノル王子にはぁ、か・な・ら・ず・審判を受けていただきます!必ずです!ですです!」


 スノウはあまりの意地の悪い司祭の話方に思わず怒りの表情を浮かべるが、ゴーザはその表情が司祭に見えないように立ち塞がりながら言葉を返す。


 「もちろんです。俺‥‥私は罪を償わなければならない。これはドワーフの掟だ。この国を追放同然で飛び出した私でもドワーフの誇りと掟を失ったわけではない!みんな、申し訳ないが俺に少しだけ時間をくれ。一緒に旅できなくなるかもしれねぇがこれは避けて通れない事なんだ。ケジメつけさせてくれ」


 「そんなこと言ったって‥‥」


 ゴーザの発言に思わず反論しようとするエスティを制してスノウが言葉を発する。


 「ゴーザ。もちろんだ。おれ達はお前を信じている。大切な仲間だ。待っているからしっかりケジメつけてこい!」


 「はは!すまねぇなスノウ!それと嬢ちゃん。ありがとうな」


 (本当にすまねぇスノウ。ここでお前達までドワーフの法で裁かれることになっては元も子もないからな)


 スノウはゴーザの思いを汲み取っていた。

 だが、最初からこの掟によって裁かれることが分かっていたならノコノコと何の策をこうじることなく来ることもなかったろうにとまたもや自分の判断ミスと自分自身に怒りの感情を抱いていた。



・・・・・


・・・



 謁見の間を出た後、ゴーザはすぐに連行されてしまった。

 逃げ出さないように牢に閉じ込められるとのことだった。

 エスティたちはゴーザが逃げるわけないだろう?と主張したが、聞き入られることなく一行は城を後にした。

 スノウたちは王政管理下の中で指定の宿屋に宿泊することになった。


 「どうするんすか!アニキ!」


 「スノウ!こうなったら夜に忍び込んでゴーザを救いに行こうよ!」


 「そうですよ!オイラの音変化魔法なら監守に化けることだってできるっすから簡単に牢の鍵だって入手できるっすよ!」


 「そうね、それで救い出して夜のうちに出ればラザレ王宮都に向けて明日中には戻れるはずよね!」


 「よし!そうと決まれば出発っすね!」


 「待て!」


 「何?なんでよ!」


 「お前達、ゴーザの気持ちも考えてみろよ!あいつに2度も故郷や種族を裏切らせる気か?あいつのケジメをつけたいっていう決意をおれたち仲間が踏み躙ってどうするんだよ!おれたちは見守るしかできない!ゴーザを信じて見届けるしかないんだよ‥‥これは‥‥これは完全におれのミスだ。おれの判断ミスによる失態だ。おれの責任なんだよ!」


 「スノウ‥‥」


 「アニキ‥‥でもオイラ放って置けないっすよ‥‥‥うぅぅ」


 レンは泣きながらスノウの言う通り見守ることしかできないことを悟り悔しがっていた。


 「すまない‥‥エスティ、レン‥‥」


 エスティもレンもその日はそれ以降ずっと無言になっていた。




―――ロアース山山頂付近―――


 「よーし!そのまま下げろー!」


 ドーーン


 天文台から少し離れた位置に多くの機材が運び込まれている。

 スメラギ設計による大型ドローンによってごく短期間にノーンザーレから大中小様々な機材が運び込まれていた。

 そして、別の方角からは同じくドローンによって輝く物体が運び込まれている。

 輝く物体は、既に建設済みの建物の中に運び込まれた。


 「慎重に扱え。この物体の付近では絶対に音魔法は唱えるな。動かす時も極力音は出さないこと。全てこの音を吸収するスポンジシートを使え」

 

 運び込まれていたのはマクロニウムだった。

 そこに一台のヘリコプターのような乗り物が到着する。

 プロペラが止まり、ドアが開く。

 降り立ったのはスメラギだった。


 「領主様に敬礼!」


 「そういうのは不要だと言っていますね。それと音を無駄に立ててはいけませんよ」


 そういうとスメラギは建物の中に入っていく。

 コントロール室にきたスメラギは目の前に映し出されているホログラムを見ていた。

 これまでの軌道と今後の予測軌道および衝突日時を示したホログラムを見ていてスメラギは頭を悩ませる。

 なぜなら本来他の星の引力によって隕石の軌道は少しずつ変わっていくのだが、何の影響もなく一直線にこのティフェレトを目指して進んでいたからだ。

 天文台ができてから観測を続けていたが、まだ星々の分析は不十分であり隕石の予測精度の低さに衝突が回避される期待もあったが、明らかに恒星や他の天体の影響を受ける位置にあるにも関わらず、まるで線路でも敷かれているように隕石は一直線にティフェレトに向かっていた。


 (一体なんだと言うのだ。これではまるで意思を持った生命体か宇宙船ではないか・・・)


「まさか・・・な・・・」



・・・・・


・・・


―――2日後―――


 スノウたちは、ゴーザと面会を許されておらず会うことができないどころか、城に赴いて直訴しても取り合ってさえくれなかった。

 仕方なく宿屋へ戻るのだが、スノウの提案で今後の戦闘を考慮してしっかりと武具を揃えるべく武具屋へ向かった。

 流石はドワーフ作の武具でノーンザーレで売られている武具に比べ質は数段上だった。

 しかも普段見ていたゴーザの容姿からは想像できない繊細な模様が彫り込まれている武具もあり、ドワーフの技術の高さに感心した。

 だが、既に様々な武具を入手していることから改めて購入するものもほとんどなく、結局空振りのまま宿屋に戻った。

 その日の夕刻ゴーザの審判の日が明日と決まった。



・・・・・


・・・



―――翌日―――


 スノウ達は言葉を発しない事を条件に傍聴席に入ることを許された。

 スノウ、エスティ、レンの3名は審判の間に入ると思わず天井を見上げてしまった。

 至る所に繊細な模様が芸術的に散りばめられていたが、特に天井には透明に透けており外の光が差し込んでいたのだ。


 「どういう構造になってんすかね・・・透明の天井って」


 真ん中に二つの椅子があった。

 矛の彫刻が彫られている豪華な椅子と盾を表す彫刻が施されてい荘厳な椅子だ。

 そして中央には審判を受ける者が座ると思われる椅子がひとつ。


 周囲は幾層もある傍聴席があり、既に400〜500人はいるであろうか、相当な人数が傍聴席に座っていた。


 「すごいっすね‥‥なんかオイラ‥‥心臓のあたりが重苦しいっす・・・」


 「あたしもよ。ホドの元老院謁見の間も重苦しいけど、あそこは静かで刺さるような重苦しさだった。でもここは無数の視線に押しつぶすされるような重苦しさがあるわ‥‥ゴーザ‥‥お願い‥‥」


 エスティは思わず祈るような仕草をする。

 スノウは無言だった。

 数人が入ってくる。

 一斉に周囲がどよめく。

 その後方から両手を縄で繋がれたゴーザが引かれるように連れてこられた。


 「ゴーザ!」


 「し!騒いじゃだめでしょ。退席させられちゃうじゃない」


 思わず叫んだレンにエスティが指摘する。

レンは不安そうな表情を浮かべて口をつぐんだ。

 ゴーザは指示されるままに椅子に座る。

 その姿は胸を張って堂々としたものだった。

 どよめきが収まらない。

 それもそのはず、大罪を犯しそのまま逃亡、長い間音沙汰なく死んだとも思われていた王子が突然戻ってきたのだ。

 スノウは周りを注意深く見ていると、みな不安そうな表情を浮かべているように見えた。

 まるでゴーザの極刑を望んでいないような表情だと、スノウにはそう見えた。


 ドン!


 奥の扉が勢いよく開く。


 「審官がおいでです!」


 ドアを開けたものがそう告げると、2人の影が登場する。

 1人はこのドワーフ国の王でありゴーザの父親でもあるエンキ王。

その表情は数日前に見た通りの険しい表情のままだった。

 そしてその後に続いて司祭が入ってきた。

 数日前にゴーザを罵った時に見せた、いかにもこれから楽しいショーが始まるといったような表情を見せながら。

 2人はそれぞれの椅子の前に立ち座る。

 王は矛の椅子、司祭は盾の椅子だ。


 「あの矛と盾の椅子の意味はなんなんすかね」


 レンが小声でスノウとエスティに話しかける。


 「あなた達は人間ね。人間がこの部屋に入れるなんて驚きだわね」


 隣に座っている女性がレンの言葉に反応するように会話に割って入ってきた。


 「あの矛は罪を追求し認めさせる側を示すもの、盾は被告人を擁護し潔白を証明する側を示すものよ」


 「え?!それじゃお父さんにあたる人に罪を追求され、あの司祭に庇ってもらうってことになるの?」


 「あら、王子と王の関係をご存知とはね。その通りよ」


 「それってすごく辛くないっすか?」


 「そうね‥‥ドワーフ国始まって以来の辛い審判になるわね」


 「‥‥‥‥」


  スノウは無言だった。


 「それでは審判を始める!」


 司祭が口火を切った。

 その声に呼応するように王が口を開く。


 「被告、ゴーザノル・ロロンガイア。本人で間違いないか?」


 「はい」


 王の言葉に呼応し、重苦しく返事をするゴーザ。


 「それでは罪状を述べる。ゴーザノル・ロロンガイア。被告は王国規律の2章ー3節に記載されている王家が管理する古代遺物の中でも最重要遺物である越界装置を無断で使用した罪でここにいるわけだが、被告ゴーザノル。無断で使用した事は事実か?」


 スピード裁判かとスノウは思った。

 検察が罪状認否を行なったあとすぐに裁判官がその真意を問うという感じだ。

 まさかこれでイエスと答えたらすぐ判決じゃないだろうな、と不安げに見守っていた。

 しばらくの沈黙の後、ゴーザは口を開いた。


 「事実です」


 傍聴席が一斉にどよめく。


 「静粛に!」


 王の一言で静かになるものの傍聴席にいる聴衆達は不安な表情を隠せないでいる。


 「では重大な規律違反である事も理解しているか?」


 「はい」


 「以上だ」


 王は相変わらず険しい表情で質疑を終了した。


 「では続いて状況確認ですねぇ、ブホホ!」


 司祭が質問する立場になり、面倒くさいとばかりの表情を浮かべながら質疑を始める。


 「被告ゴーザノル。いかに王子とはいえあなた被告人ですからねぇ。ゴーザノルと呼ばせて頂きますよブホホホ」


 相変わらず感じの悪い男だとスノウは思った。

 傍聴人たちはさらに不安な表情を浮かべている。

 やはり王族が何らかの刑に処されるのが心苦しいのか、ゴーザが慕われているのか、今となってはわからない事だが、少なくとも極刑は望まれていないのだろう。

 だが、この司祭は極めて個人的な感情で1人の人生を左右する決定を行うように見えるし、その権限があった。


 「あなたはなぜ禁じられている古代遺物の越界装置を使おうと思ったのですか?」


 「それは‥‥忘れました‥‥」


 傍聴席がどよめく。


 「忘れた?!あり得ませんねぇ。あなたは王族だ。小さい頃から使ってはならないものだと厳しく教育を受けてきたでしょう?王家が最も王国の規律を守るべき立場であり、それはこの国の中で最も厳しく教育されている事から十分に理解しているはずですがねぇ?そんな王族の1人であるあなたが、事もあろうに忘れたなどと、あり得ません」


 「いや・・・本当に忘れちまったんだ・・・」


 「じゃぁこれでどうでしょうか?」


 審判の間の前方に映像が映し出される。

 おそらく音魔法で記憶されているものの波動を映像化したものだろう。

 ドワーフの技術力にスノウは感心したが、すぐに表情が変わった。

 若き日のゴーザと共にもう1人のドワーフが走っている映像が流れたからだ。

 もう1人のドワーフの胸元には紫色の髪をした赤子が写っていた。


 「あーなたは!この映像の状況を知っていますね?覚えてますね?んんーーどうなんですかぁ?」


 「し!知らねぇ!こんなのおお覚えてねぇ!」


 「おやおやぁ?動揺していますねぇ。まさか映像が残っているなんて思いもしませんでしたかぁ?単に越界装置をいじっただけではなく、あなた!あれを使って誰かを越界させましたね?」


 「し!知らねぇ!知らねぇって言ってんだろうが!」


 「じゃぁこれはどうでしょうかねぇ!!」


 司祭はそういうと、目で合図し映し出されている映像を切り替えさせた。

 そこにはゴーザが操作し、もう1人のドワーフが赤子を抱いて越界する光景が映し出されていた。


 「これでも覚えてないというつもりですか!ブホホ!あなた我々の手では修理のしようのないほどの高度の古代の遺物を勝手に!勝手に勝手に勝手に!自身のわがままを通すために使ったんですよぉぉぉー!事もあろうに王族以外にこの装置を使ったのですぅぅぅ!!ブホホ」


 じわじわと獲物の首を絞めていくような愉悦に浸っている表情を浮かべる司祭。

 傍聴席が一斉にざわめく。

 もはや盾としての役割など果たされておらず、ひたすら罪の重さを主張する司祭だった。

 ゴーザは首を垂れた。

 腿の上に置かれている拳は強く握られ、そこに数粒の涙が溢れていた。








2/19修正

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なかなか時間がなく・・・。次は木曜日アップの予定です(がんばりますが)

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