<ホド編 第2章> 10.キリア
10.キリア
「た、助けて‥‥」
「!!」
スノウはこめかみから汗を滴らせながら思案を巡らせていた。
(罠か?‥‥それとも‥‥日本からの越界者か?!‥‥明らかにおれを動揺させる服装だ。この世界の住人は高校の制服など知らないからな‥‥だとすれば、おれを待ち伏せているということ。だが、越界者であれば助けてあげなければならない。女子高生が魔物だらけのダンジョンで生きて帰れる可能性はほぼゼロだ)
スノウは思案を巡らせている。
1分の経たない間に次の行動の判断をしなければ命取りになる可能性があった。
(越界者がこんなダンジョンに放り出されることなんてあるのか?‥‥やはり、何者かがおれがここに来ることを知っていて罠を張った‥‥ヤガトが予知したかのような行動をとっているくらいだ。何者かがおれの来訪を予知していてもおかしくはないか‥‥どうする‥‥)
フラァ‥‥
女子高生と思しき女性はふらついて倒れそうになった。
それをスノウが支えようと前に出る。
ザン!
「!!」
スノウの目の前にロムロナの槍が刺さった。
「スノウボウヤぁ、ダメじゃない。そんな色仕掛けに惑わされちゃぁ」
「え?!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥
女性は不自然な状態でのけ反っていた。
普通なら倒れてしまう角度でのけ反っているにも関わらず、倒れない。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥
「あら‥随分と勘の鋭い者がいたのね‥‥」
「!!」
まるで別人のような口調で話し始めた女性は後方に倒れ込んでいる上半身を起こした。
ブワン‥
「さて。私の演技に引っ掛からなかったのは褒めてあげるけど、死んでもらうわ」
ダシュン!‥‥ガキィィン!!
女性は蹴りを放ってきたためスノウはそれを手で受けようとしたが、踵から刃が飛び出てきたためフラガラッハで受けた。
「あら、おかしいわね。私の蹴りを受けられるニンゲンがいたなんて」
ギュワン!!
スノウはフラガラッハを大きく振り押し女性を後方へ突き飛ばした。
ズザザァ‥‥
「なるほどね。あなた、スノウ・ウルスラグナね。結界の影響を受けていないわけだわ」
「お前は誰だ?」
「私はキリア。見ての通り女子高生よ」
「こんなところに女子高生がいること自体怪しさ満点なんだがな」
「あらそう?久しぶりの目の保養になったんじゃない?あ、そっか、人間不信だったからどちらかと言えば女子高生は怖ぁい存在だったのなか?」
「お前‥一体何者だ?」
「あはは、聞こえなかったの?記憶力悪いんじゃないの?私はキリア、女子高生って言ったでしょ?」
ザッ‥
ロムロナがスノウの前に出てきた。
「気持ち悪いわねあなた。見た目はニンゲンだけどドス黒いオーラがダダ漏れているわよ?くだらない演技はいいから戦うのか逃げるのかはっきりしなさいよ」
「はぁ‥‥偉そうな女。だから女は嫌い。まぁいいわ。どうせこの先に進んでも何もできないだろうし。それじゃぁ私は帰るわ」
「そうはいかないわよ!」
バヒュン!!
ロムロナは槍を凄まじい勢いでキリアに投げつけた。
ガシッ!‥キュルルン!ダシュン!
「!!」
キリアは軽々と槍を掴むと器用に振り回して勢いをつけそのままロムロナに投げ返した。
ガシッ!
スノウが前に出て槍を軽々と掴んだ。
「流石はスノウ。あ、そうそうあなたの仲間のフランシア。彼女には気をつけることね」
「どういう意味だ?」
「じきに分かるわ。あなたに従順な態度に見えていると思うけど、なぜそんな態度なのか、考えたことないでしょ?何かの計画があって、そのためにそういう態度をとっていたら‥って考えたことないの?なぁんてね。ヒントはここまで。それじゃね!」
ギュワン‥‥
キリアはかき消えるようにその場から去った。
「何なのあの女」
「大丈夫ですかスノウさん!」
スノウは軽く手を上げて応えた。
(フランシア‥‥)
気になる言葉を残して立ち去ったキリアという名の女に、今後スノウは心をかき乱されることになるのだが、その時は知る由もなかった。
・・・・・
それから1時間が経過した。
スノウ達は既に69階層まで進んでいた。
「どうやらあのキリアとかいう女が冒険者たちに何かしていたようだなぁ」
「殺されたんでしょうか?」
「その可能性は低いんじゃないか?殺しているなら血痕や死体が転がっていてもおかしくないだろ?あの女の性格からして、殺した後態々死体片付けて血痕消したりするような几帳面な感じには見えねぇじゃねぇか」
「カヤクさん、あんな数分会っただけで、性格まで見抜いたっていうんですか?」
「ま、まぁな」
「馬鹿言ってるんじゃないわよ。思い込みで結論づけるのは危険だと知りなさいねぇ」
「す、すまん姉さん‥‥」
「まぁでも冒険者たちが生きている可能性はあるわね。それも含めて原因究明ね」
「そうだな!ニトロ、お前も探せよ?」
「うわ、調子いいなぁカヤクさん。そういうの嫌われますよ?」
「ごちゃごちゃ言ってる暇があったら斥候役でも買って出て捜索して来い」
「はぁ?!なんて言うとばっちり‥‥。全くどんだけ性格悪いのか‥‥」
「いや、単独行動は危険だわぁ。今は固まって警戒しながら前進だわね」
「そうだぞニトロ。単独行動は俺が許さねぇ」
「はぁ‥マジでど突きたい‥」
3人は警戒しつつも場が和むような会話をしていたが、スノウは終始黙っていた。
そして到達最下層の70階層に到達した。
途端に周囲に重苦しい空気が漂い始めた。
「やべぇなここ」
「昔ここまで来たことあったけど、こんな場所じゃなかったわねぇ」
「どうしますか?ここまでぶっ続けで進んできてますが、一旦69階層まで戻って休みますか?」
「いや、必要ない。一気に片付ける」
これまで黙っていたスノウがやっと話し出した。
3人ともスノウに従うしかなく、そのまま進み始めた。
意外にも魔物は出現して来ず、そのまま75階層まで降りてきていた。
これまでダイヤモンド級冒険者も到達することのできなかった階層の記録を大きく超えてしまっていたのだが、その理由は魔物がいなかったためだ。
「魔物がいないってのは逆にやばいな‥‥」
「確かにねぇ。この先に何が待っているのか。警戒態勢は解けないわねぇ」
それからさらに1時間。
スノウ達は80階層まで来ていた。
「どこまで続くんですかね、このダンジョン」
ニトロがぼやいた直後、スノウが立ち止まった。
「どうやら目的の場所に到着したらしいぞ」
目の前には何も見えなかったが、スノウのソナー系魔法に何かが引っかかったのだ。
ゆっくりとスノウ達の方へ向かってくる反応があった。
「すぐに戦闘に入れるように態勢を整えてくれ」
「いつでもOKだ」
「わたしも大丈夫よぉ」
「俺もです」
パカ‥パカ‥パカ‥パカ‥
馬の蹄の音が聞こえてきた。
「こんなところに馬?!」
カヤクが小声で言った。
徐々にその姿が顕になってきた。
「?!」
小さなロバのような馬に跨った小柄な老人だった。
白髪の長い髪と腹まで伸びた白髭を蓄えた老人だが、見た目とは裏腹に凄まじい威圧感だった。
その重圧にロムロナ、カヤク、ニトロの3人は武器に手をかけて立っているのがやっとの状態になっていた。
「これは驚きましたね。ここまで来られる者がいるとは。君たちな何者だい?」
『!!』
見た目からは想像できない若々しい口調と声で話しかけてきた。
「おれはスノウ。お前は何者だ?」
「スノウ。なるほど。君がアノマリーのスノウ・ウルスラグナなのか。流石の強さだ。私の名はフォラス。この地を守っている者だよ」
「!!」
凄まじい威圧のオーラを展開しているにも関わらず気さくに質問に答えてきたため、スノウ達は警戒態勢を強めた。
「こいつ強いぞ」
「ええ」
フォルネウスを1撃で倒したスノウの言葉にロムロナたち3人は死を覚悟した。
明けましておめでとう御座います。
今後も皆様に楽しんで頂ける様に頑張りますのでどうぞよろしくお願い致します。




