<ホド編 第2章> 9.FOCsの支局長
9.FOCsの支局長
「ヤガト‥‥」
「お、あんたら知り合いだったのか?」
「いや、知り合いというか知り合いとして認めたくないというか」
「随分とつれないことを言われますねぇ。今まで散々お世話してきたというのに」
緋市のFOCs支局長は何と、ヤガトだった。
ヤガト。
ハノキアでスノウが巡った先々世界にあるFOCsに現れた支局長の男。
最初に出会ったのはゲブラーのFOCsだ。
その後他の世界でも出没してきた間違いなく越界者であり、まるで全てを見通しているかのようにスノウに協力してくれる人物だが、その越界方法も行く先々でスノウを待ち構えサポートしてくれる目的も謎だった。
その男が今度はホドに現れた。
「何でお前がここの支局長なんだよ‥‥」
「FOCsも人使いが荒くて。私も雇われの身ですから、フフフ」
「何でスノウボウヤはヤガト支局長とお友達なわけ?」
「友達じゃない」「腐れ縁でして」
ロムロナの質問を否定したスノウに対し、ヤガトは嬉しそうに肯定した。
「ブハハ!仲がいいじゃねぇか!」
「それでウルズィー殿。今日はどんな御用で?もしかして例の件、サポート頂けるとか?」
「ああ、そうだ」
「おお、ありがとうございます」
「あ、いやぁ、俺たちじゃねぇ。スノウたちだ」
「おや、何とも‥‥これは心強い」
「わざとらしいな。どうせおれが来ることも、おれが例の件に興味を持ってくることも知ってたんだろ?」
「まさか。私はFOCsの支局長ですよ?そんな予知能力みたいな力、あるわけないじゃないですか」
「ち‥まぁいい。それで内容を詳しく教えてくれ」
「いいでしょう」
ヤガトは胸ポケットから羊皮紙を取り出した。
「これが本日貼り出すクエストです」
「‥‥‥‥」
先を読んでいたかのように手際よく情報を示すヤガトにスノウは露骨な嫌悪感を示しつつ羊皮紙に書かれている内容に目を通した。
・・・・・
◾️ クエスト名:冒険者失踪原因究明
◾️ 詳細:緋市のダンジョン柄の
最下層付近で冒険者が行方知れず
となっている。
幾人もの冒険者たちが捜索に向かった
が何も帰還できていない。
その原因を究明してほしい。
◾️ 報酬:10,000ホドネイ
・・・・・
「ホドネイ?この報酬は何だ?」
「おや、スノウさんはご存知ないのですか?蒼市以外で使える貨幣ですよ。今やホドは2極化されておりましてね。ホドネイは元々存在していたのですが、元老院の支配がホド全土にわたっていた時は闇通貨的に使われていたんです。ホドフィグは元老院が支配する蒼市内でしかチャージ出来ないのですが、現在彼らによって封鎖されチャージ出来なくなっておりますからね。ホドフィグでの売り買いが滞ってきたことで蒼市以外ではホドネイが正式な通貨となったんです」
「ホドフィグで大金持っていたやつは泣き寝入りか」
「いえいえ。ホドネイとホドフィグはウチで換金可能です。FOCsは中立の組織ですからね、蒼市にも支局がありますからホドフィグに変換することが出来るんですよ」
「手数料とかえげつなく取られそうだな‥‥それで、10000ホドネイ‥‥これはどれくらいの価値になるんだ?」
「そうですねぇ。貴方の持つ神剣フラガラッハを売るなら10億ホドネイといったところでしょうか」
「おい、答える気ないだろ。もっと分かりやすく言ってくれ」
「フフフ、相変わらずせっかちですね。10000ホドネイなら、宿屋に100泊はできますよ」
「つまり、宿屋が1泊100ホドネイか。それなりの高額報酬だが危険手当込みって感じか」
「危険かどうかはクエストを受けられる方の技量によりますね」
「いちいち面倒くさいやつだな。まぁいい、とにかくおれ達がそのクエストを受ける。他の冒険者たちには受けさせるな。これ以上貴重な冒険者たちを消息不明にしたくはないだろ?」
「ありがとうございます。それでは早速行ってらっしゃいませ」
「はぁ?!」
「ブハハ!何だかいいコンビじゃねぇか!食料や装備なんかはガルガンチュアでサポートさせてもらうから遠慮なく言ってくれスノウ!」
バシッ!
ウルズィーはスノウの肩を叩いた。
スノウは苦い笑顔で頷いた。
・・・・・
その日の午後。
スノウは風魔法で飛行してヴィマナに戻り、ニトロが設定した帰還転送タイミングを1日延ばした。
さすがに1日で攻略できるとは思わなかったため、さらに1日延ばしたのだ。
緋市に戻ってきたスノウは、すでに出発の準備を整えてくれているロムロナ、カヤク、ニトロとダンジョンに向かって出発した。
緋市には無数のダンジョンがあるが、大きなダンジョンは3つあり、それぞれ特徴があった。
ダンジョン甲は、最初に発見されたダンジョンであり、魔物は然程強くなく、ダンジョン構造がシンプルであったため元々は冒険者の訓練場となっていたところだ。
階層数は30階で早々に最下層まで到達できたのだが、1ヶ月ほど前から魔物の強さが格段に上がったため、最下層に行ける者はいなくなっている。
ダンジョン乙は、2番目に発見された場所で、洞窟タイプで古代の遺物が発見されることが多いため、採掘者や研究者も潜ることが多いことから掘り進められダンジョンは未だに広がっている。
だがダンジョン甲同様に1ヶ月まえから魔物が急激に強くなったことから、最近では潜るのは冒険者のみで、遺物採集のクエストが増えているのだという。
そして今回スノウ達が潜るのがダンジョン柄だ。
ここは3つのダンジョンの中でも最も複雑かつ深く、未だに誰一人最下層まで到達できていない。
最下層と称しているのは到達最下層であり、現在確認されているのは70階層までである。
今回数多くの冒険者達が消息を絶ったのは63階層らしい。
キュィィィン‥‥
「うっ‥‥」
スノウはダンジョンに足を踏み入れた瞬間、激しい耳鳴りに襲われた。
その直後、激しい頭痛に見舞われた。
「スノウボウヤ?どうしたの大丈夫?」
「だ、大丈夫だ‥」
スノウは片膝をついて痛みに耐えている。
「主人よ」
マダラがスノウに話しかけてきた。
「何だ‥‥」
「何やら邪悪な空気が蔓延している。対魔のオーラを展開することをお勧めする」
「対魔のオーラ?」
「魔を振り払うイメージを頭に浮かべて放つオーラだ。主人ならば出来るはずだ」
「‥‥‥‥」
スノウはマダラの言う通りのイメージを頭の中に浮かべオーラを放った。
ッパァァァァァ‥‥
「?!」
スノウの耳鳴りと頭痛が一気に消え去った。
「何だ‥‥一体何だったんだ?」
「分からないが、冒険者たちが行方知れずとなっている事件に関係しているのだろう。禍々しい気が充満している。下層に行けば行くほど濃くなるようだ。オーラは徐々に強めていくのがいいだろう」
「分かった」
マダラの忠告通り、下層に行けば行くほど禍々しい気が強くなっているのをスノウは感じていた。
だが、他の者たちは何も感じていないようだった。
(凄まじい憎悪が渦巻いているような空気だな‥‥でもどこかで感じたことのある気がする‥‥ディアボロスともザドキエルとも違う‥‥何だろう‥‥思い出せない‥‥)
スノウ達はさらに下層に進んでいく。
50階層以下にもなると、魔物の強さはかなり上がっていた。
おそらくダイヤモンド級でも単体では苦戦するレベルになってきていると思われた。
ロムロナ、カヤク、ニトロはやはり戦闘力は高く、かなりの強さの魔物が立て続けに襲ってきているにも関わらず、息を切らすこともなく倒している。
(流石だな。ロムロナは魔法技術が高い上に身のこなしも素早く強力だ。特にリーチの長い槍を使った魔法と槍の攻撃はこの辺りの魔物では相手にすらならない感じだな。カヤクとニトロもかなり強い。元三足烏だけのことはある。特にカヤクの素早い動きから繰り出される円月輪と炎系魔法のコンビネーションは秀逸だ。ニトロも侮れない。あれで一般隊員だったというのは驚きだ。短剣と爆裂魔法の併用はかなりの脅威だ)
スノウは3人の戦い方をしっかり分析していた。
確かにロムロナの言う通り、カヤクとニトロの仲間入りは既に2人しかいなくなっているレヴルストラ1stにとっては大きなメリットであることは間違いない。
だが、もし裏切られるようなことがあれば間違いなくロムロナとガースは命を落とす。
スノウは警戒心を振り払うことができなかった。
「いよいよ63階層だ。これまでは単なる魔物討伐のようになっていた。確かに魔物の強さはかなりのものだったが、エメラルド級でもチーム連携があればここまで到達することは十分可能だ。つまり、ここで何らかの変化が起こるってことだな。慎重に行こう」
「あら、スノウボウヤ。意外にも冷静じゃないのぉ。でも正解だわね。この階になって急に空気中の水分が変化したわねぇ。何かこう湿度が上がってジメジメし始めたわ」
「姉さん、本当か?俺には何も感じないが‥‥」
「あなたのような低脳にこれを理解してもらえるなんて全く考えていないから安心して頂戴ねぇ。さて、どうする?このまま進む?」
ザン‥‥
カヤクは両手両膝をついてガックリと項垂れている。
それを無視してスノウは話し始めた。
「このまま行こう。既に潜ってから7時間ほどしか経過していないからな。明日の夜には強制的にヴィマナに転送される。もう少し進んでから野営にしよう」
「そうね、了解だわ。さぁ進みま‥‥何か来るわねぇ」
ズザンッ!
スノウ達は戦闘態勢をとった。
サイトオブダークネスとライフソナーで周囲を確認するスノウの視界に1人の人影が入ってきた。
「人か?!」
「警戒態勢だ‥‥」
スノウはフラガラッハを構えて警戒した。
ロムロナ、カヤク、ニトロも腰を低く落とし戦闘態勢をとっている。
スタ‥スタ‥スタ‥
前方から人影が徐々に近づいてくる。
スノウのソナー魔法にも反応している。
徐々にその姿が見え始めた。
「な!‥‥女の子か?!」
スノウの目に映ったのは高校の制服らしきものを着た17歳くらいの女性だった。
歩き方は辿々しく、どこか怪我しているようにも感じられた。
「あれは人間か?!」
「怪我しているように見えますね」
「警戒態勢は解くな。おれが確かめてくる」
スノウは3人に待機するように言い、ひとりで前方から現れた女性にゆっくりと近づき確認することにした。
この世界に高校の制服を着た若い女性がいることは明らかに不自然だったからだ。
(もしかしたら越界者かもしれない。日本から飛ばされてきた越界者だったら救ってやる必要がある)
スノウはフラガラッハを鞘にしまい、ゆっくりと慎重に前へ進んでいく。
当然警戒態勢は解かず、体に波動気を練って纏わせている。
「そこの君‥‥そこで止まれ」
「だ、誰か‥‥い、いるんですか?」
「!!」
明らかに女性の声で反応した。
「なぜこんなところにいる?君は一体何者だ?
ズザザ‥‥
制服の女性はその場に崩れるように跪いた。
「た、助けて‥‥」
「!!」
スノウはこめかみから汗を滴らせながら次の動きを模索していた。
今年もTREE of FREEDOMを読んで頂きありがとうございました。
まだまだ続きます。
スノウという人物を通して世界に存在する9つの世界や並行世界、超古代文明、何度も破壊と再生を繰り返している文明、宇宙から飛来する存在、神や魔王、それら入り混じった果てにあるこの世の真実など、皆さんに楽しんでいただけるように頑張ります。




